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ここでグレース王子に逃げられては、俺が恥ずかしい思いをしたのが水の泡になってしまう。
そう思い、グレース王子のジャケットの裾を掴んでいた。
その時、がやがやとトイレに人が入ってくる。
2人きりで話がしたいが、ここではやっぱり無理らしい。俺は、裾を掴んでいた手を離し、また改めて話し合いをしたいとグレース王子の顔を見上げたとたん、ドンと押され、個室に入れられた。
バタンッ、ガチャ!
え?何がどうなってんの?個室トイレは広くはないが、男2人が入れば、それなりに狭くなるものだ。
しかも、グレース王子に後ろから抱き締められる、という体勢だ。
「はぁ…愛しい。」
個室の外にいる人達には、聞こえない小さな声で囁かれる。
は?愛しいって…何?リビアンの事を思って言っているのなら、どうしてこんな事になっているのだろうか…?
とりあえず、この体勢は緊張する。
「あの…グレース王子…。うんんっ。」
離してもらおうと、外に聞こえないように小声で言いながら、後ろを振り向くと、いきなりキスされた。
しかも、舌を入れてきて絡め取られる。
何とか止めてもらおうと、服を引っ張るが無駄だった。
舌の裏側を刺激され、吸われ、息が上がってきた所で、唇を解放された。
「グレース王子!いきなり、やめてください。」
小声だから迫力はないが、抗議する。
「いきなりじゃなく、前もって迫ったら許したか?」
グレース王子は、なおも俺の首筋に唇を寄せ、ネクタイを緩めボタンを外してくる。
これ以上、こんな所で迫られても困るので、離れようと力を込める。
「それは……。」
「ふっ、そんな所も好感がもてるんだが。今回の件は、悪いようにはならない。」
そう言って、グレース王子は出て行った。
俺は1人、個室に残されたまま呆然としていた。
いつの間にか、トイレには誰も居なくなっていたが、それに気付いたのは、しばらくたった後だった。
グレース王子には、何か考えがあって、リビアンと一緒にいると言うのだろうか。
『悪いようにはならない。』
真剣な表情で、そんな事を言っていたグレース王子を、信頼しても良いのか…。
うーん。俺があれこれ考えていても無駄だと思い、後はテオルドを応援する事にした。
そして、いよいよ決闘の日が来た。
テオルドとグレース王子の決闘は、競技場を借りてする事になった。
リビアンは競技場に入ってくる時から、グレース王子の腕に自分の腕を絡めて、べったり張り付いていて、凄く嬉しそうだ。
リビアンの嬉しそうな顔が、さらに俺を不安にさせる。
「テオルド…。」
俺は、テオルドに何て声をかけて良いのか解らずに、顔を見つめる。
「大丈夫だ。」
そんな不安な感情が伝わったのか、そう言ってテオルドは、俺の頭に手を乗せひと撫でしてから、行ってしまう。
俺よりも少し背が低いくせに、テオルドは甘やかしてくる。それが案外、心地良くてむず痒い。
「テオルドは大丈夫だ。」
いつの間にかマクビルが側に来ていた。
その言葉に元気付けられる。
「そうだよな。」
俺は応援するって決めたんだ。最後まで見守ろう。
ビー!という合図のもと、決闘は始まった。
テオルドとグレース王子は間合いを積めながら、様子を伺い、隙を狙っているようだった。
最初に仕掛けたのは、テオルドだった。だが、グレース王子は剣で阻み、避ける。そして、グレース王子がテオルドに剣を振りかざして、テオルドは避ける。
しばらく、その攻防を見ていたが、どうやら真剣勝負と言うより、模擬訓練のようだった。
グレース王子の剣術はどうなのか知らないが、テオルドの剣術を知っていれば、それは容易く解る事だった。
あの速い剣さばきが、全然出てこないのだ。本人達は、真剣な顔でやっているので、素人には『本気』だと見えるだろう。
30分以上もやり合っていると、2人とも汗をかいて辛そうになってくる。スタミナが切れた方が、負けるのかと思われた瞬間、それを大声で遮る者がいた。
「やめて!」
リビアンだ。
観客の席からわざわざ、戦っている2人の所に行き、大声で皆に聞かせるように話す。
「私の為に、戦わないで!」
その時、競技場にいた皆は静まり返り、次の瞬間ドッと沸いた。
「さすが、聖女様。」「聖女様に見せるには、辛かったのだ。」「優しい聖女様だ。」
口々に、リビアンを褒め称える取り巻き達は、熱狂していた。
それとは対照的に、今まで真剣とまではいかないが、決闘をしていた2人は、静かに佇んでいた。
「ごめんなさい。お2人のどちらか1人を選ぶ事なんて、私には出来ないわ。…でも、私の愛はたくさんあるから悲しまないで。」
リビアンは、舞台で演技をしているかのように、大げさな身振り手振りを交えて、悲劇のヒロインのようだった。
取り巻き達は、感動して見ている。
それを冷静に見ていたのが、マクビルだった。
「あの女、テオルドまで自分の物にしようというのか。」
そうなのだ。彼女のさっきの発言は、『グレース王子もテオルドも好きだから選べない。』と言っているのと同じなのだ。
どうやらリビアンは、逆ハーレムを作りたいらしい。
悲しい事に、それに気付いているのが俺達と女子生徒達だけだったらしい。
そう思い、グレース王子のジャケットの裾を掴んでいた。
その時、がやがやとトイレに人が入ってくる。
2人きりで話がしたいが、ここではやっぱり無理らしい。俺は、裾を掴んでいた手を離し、また改めて話し合いをしたいとグレース王子の顔を見上げたとたん、ドンと押され、個室に入れられた。
バタンッ、ガチャ!
え?何がどうなってんの?個室トイレは広くはないが、男2人が入れば、それなりに狭くなるものだ。
しかも、グレース王子に後ろから抱き締められる、という体勢だ。
「はぁ…愛しい。」
個室の外にいる人達には、聞こえない小さな声で囁かれる。
は?愛しいって…何?リビアンの事を思って言っているのなら、どうしてこんな事になっているのだろうか…?
とりあえず、この体勢は緊張する。
「あの…グレース王子…。うんんっ。」
離してもらおうと、外に聞こえないように小声で言いながら、後ろを振り向くと、いきなりキスされた。
しかも、舌を入れてきて絡め取られる。
何とか止めてもらおうと、服を引っ張るが無駄だった。
舌の裏側を刺激され、吸われ、息が上がってきた所で、唇を解放された。
「グレース王子!いきなり、やめてください。」
小声だから迫力はないが、抗議する。
「いきなりじゃなく、前もって迫ったら許したか?」
グレース王子は、なおも俺の首筋に唇を寄せ、ネクタイを緩めボタンを外してくる。
これ以上、こんな所で迫られても困るので、離れようと力を込める。
「それは……。」
「ふっ、そんな所も好感がもてるんだが。今回の件は、悪いようにはならない。」
そう言って、グレース王子は出て行った。
俺は1人、個室に残されたまま呆然としていた。
いつの間にか、トイレには誰も居なくなっていたが、それに気付いたのは、しばらくたった後だった。
グレース王子には、何か考えがあって、リビアンと一緒にいると言うのだろうか。
『悪いようにはならない。』
真剣な表情で、そんな事を言っていたグレース王子を、信頼しても良いのか…。
うーん。俺があれこれ考えていても無駄だと思い、後はテオルドを応援する事にした。
そして、いよいよ決闘の日が来た。
テオルドとグレース王子の決闘は、競技場を借りてする事になった。
リビアンは競技場に入ってくる時から、グレース王子の腕に自分の腕を絡めて、べったり張り付いていて、凄く嬉しそうだ。
リビアンの嬉しそうな顔が、さらに俺を不安にさせる。
「テオルド…。」
俺は、テオルドに何て声をかけて良いのか解らずに、顔を見つめる。
「大丈夫だ。」
そんな不安な感情が伝わったのか、そう言ってテオルドは、俺の頭に手を乗せひと撫でしてから、行ってしまう。
俺よりも少し背が低いくせに、テオルドは甘やかしてくる。それが案外、心地良くてむず痒い。
「テオルドは大丈夫だ。」
いつの間にかマクビルが側に来ていた。
その言葉に元気付けられる。
「そうだよな。」
俺は応援するって決めたんだ。最後まで見守ろう。
ビー!という合図のもと、決闘は始まった。
テオルドとグレース王子は間合いを積めながら、様子を伺い、隙を狙っているようだった。
最初に仕掛けたのは、テオルドだった。だが、グレース王子は剣で阻み、避ける。そして、グレース王子がテオルドに剣を振りかざして、テオルドは避ける。
しばらく、その攻防を見ていたが、どうやら真剣勝負と言うより、模擬訓練のようだった。
グレース王子の剣術はどうなのか知らないが、テオルドの剣術を知っていれば、それは容易く解る事だった。
あの速い剣さばきが、全然出てこないのだ。本人達は、真剣な顔でやっているので、素人には『本気』だと見えるだろう。
30分以上もやり合っていると、2人とも汗をかいて辛そうになってくる。スタミナが切れた方が、負けるのかと思われた瞬間、それを大声で遮る者がいた。
「やめて!」
リビアンだ。
観客の席からわざわざ、戦っている2人の所に行き、大声で皆に聞かせるように話す。
「私の為に、戦わないで!」
その時、競技場にいた皆は静まり返り、次の瞬間ドッと沸いた。
「さすが、聖女様。」「聖女様に見せるには、辛かったのだ。」「優しい聖女様だ。」
口々に、リビアンを褒め称える取り巻き達は、熱狂していた。
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「ごめんなさい。お2人のどちらか1人を選ぶ事なんて、私には出来ないわ。…でも、私の愛はたくさんあるから悲しまないで。」
リビアンは、舞台で演技をしているかのように、大げさな身振り手振りを交えて、悲劇のヒロインのようだった。
取り巻き達は、感動して見ている。
それを冷静に見ていたのが、マクビルだった。
「あの女、テオルドまで自分の物にしようというのか。」
そうなのだ。彼女のさっきの発言は、『グレース王子もテオルドも好きだから選べない。』と言っているのと同じなのだ。
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