能天気男子の受難

いとみ

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「そちらの姫が、止めてと申し出たのだ。これで、終わりにしましょう。」
テオルドはそう言って、グレース王子と握手を交わした。

お互い無表情で、喜んでいるのか怒っているのか、さっぱり解らない。だが、テオルドもグレース王子も大きな怪我が無くて良かった。

2人は握手を交わした後、それぞれ競技場を出て行く。
ん?リビアンを置いて、グレース王子は出て行ってしまった。
それでも、リビアンはいつも通りに、甘えるように
「グレース様ーぁ。」
と追いかけて行った。


「お疲れ。」
俺は、決闘が終わり汗をかいているテオルドに話しかける。

「本当、疲れた!」
テオルドはそう言って、俺の肩に頭を乗せる。
体力的というより、精神的に疲れているようだ。


………この決闘は、結局何だったんだろうか?
リビアンのお陰(?)で、引き分けに終わり結局の所、テオルドは不敬罪にならなくて済んだし、テオルドへの嫌がらせは少しは落ち着くだろう。
なんたって、聖女様が『愛はたくさんあるから。』と言っていたのだ。そう、『テオルドの事も好き。』と言っていた事になるのだ。

争い事を好まない聖女様が決闘を止めさせたと、取り巻き達はますます好きになったようだが…。

それにしてもグレース王子の『悪いようにはならない』という言葉通りになった事に、少し疑問に思う。
まるで、あの決闘は…最初から決められたモノ、だったみたいで…。
俺の、この数日間の心配は無駄だったのかな…。

そんな事をぐるぐる考えていると、テオルドは俺の腰を抱いてさらに密着してきていた。
テオルドがこんな風に甘えてくるなんて珍しくて、それに何だか可愛いくて、俺は思わずテオルドの頭を撫でていた。
テオルドの髪は、ツヤがあり猫っ毛で柔らかくて、凄く触り心地が良い上に、良い匂いまでする。気持ち良くて癒される。
そんなテオルドを堪能していると急に、密着していた身体を引き剥がされた。

「おい、ジオード、離せ。」
癒されている所を、急に離され寂しく思い見ると、テオルドはジオードに、後ろから羽交い締めされていた。

どうやら、嫉妬したジオードが居ても立ってもいられなかったようだ。
「ダメです。もう良いでしょ。」
「まだだ。まだ癒しが欲しい!」

テオルドはジオードに抱き締められながら、じたばたと暴れている。
こんなテオルドも、見るのは初めてかもしれない。
本当に兄弟仲が良いんだな。

「テオルド、今日はもうゆっくり休めよ。じゃあな。」
俺は、兄弟の邪魔をしてはダメだと思い、この場を去った。
…本当の所は、ジオードの目が怖かった…。ちょっとだけだけど…。
「ルシオーン!」
テオルドの声を遠くで聞いていた。
ごめんテオルド。俺、まだ死にたくない…。



そして俺は、寮の自分の部屋に行く途中、人気のない階段の踊場で声をかけられた。
「ルシオン、俺に労いはないのか?」

「ひっ!」
階段を踏み外さないように、足元ばかりに気をつけて見ていたのと、こんな所で話しかけられるとは思ってもいなかった為、凄くびっくりして変な声が出てしまった。

そこにいたのはグレース王子だった。壁に背をもたれ掛け、モデルのように佇んでいた。

「え…と、先程は、お疲れさまでした。」
疲れているようには見えないが、何だか怒っているように見えて、俺は当たり障りのない言葉を選ぶ。
「テオルドはもちろんですが、グレース王子も凄かったですね。」
「それだけか?」

え?他に何て言えば正解なの?ちょっと怖いんだけど。
誰が通るか解らない、こんな場所で下手な事は言えない。
俺がそれ以上なにも言えないでいると、グレース王子は俺の手を引いて歩き出す。
「え?あのー…。」

グレース王子は、黙ったまま早歩きなので、怒っているようで気まずい。そして、捕まれた手が熱い。

寮の一室のドアを開け入ると、グレース王子は俺を抱き締めてきた。
何がどうなっているんだ?さっきまで、怒っていたんじゃなかったのか?しかも、グレース王子の力が強すぎて…背中が痛い。

「ぐ…ぐるじい、です。」

「あ、あぁ、すまない。」
抱き締める力は緩めてくれたが、離してはくれないらしい。というか、ここは誰の部屋なんだろうか…俺が入っていても良いのか?

「さっき…。」
「え?」
グレース王子は、まだ怒っているのか難しい顔をしている。
「さっき…テオルドと抱き締め会って…いた。」

ん?テオルドと…って競技場での事かな?
グレース王子は先に競技場を出たと思ってたけど、あれを見てたのか。
抱き締め会っていたというか…。俺にとってあれは、可愛い子を撫でて、癒されていただけの事だったんだけど。

グレース王子は、俺の腰を抱いていた手を、だんだんと下に持っていきお尻を撫でてくる。
その手が肉を揉んだかと思えば、割れ目をなぞってきて、俺はぞわぞわとしたくすぐったさに耐えられなくなる。
「や、止めて下さい。」
何とかグレース王子の腕の中から、逃れようともがくが、暴れれば暴れるだけ腕の力は強くなり、俺はたたらを踏んで後ろに転がってしまった。

倒れる!背中に衝撃が走るものだと硬直していたが、予想を裏切られスプリングの利いた柔らかさに驚き、目を開けるとベッドに倒れていた。



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