能天気男子の受難

いとみ

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俺は、グレース王子に押し倒される形で、ベッドに横たわった。
グレース王子の整った美しい顔が近づいてくる。何このシチュエーション……顔が近い、近すぎる。俺は恥ずかしくて、顔を背けた。
「ちょ、ちょっと待って下さい。」

「何だ?テオルドは良くて、俺はダメなのか?」

何を言っているんだこの人は。あの時、テオルドとキスはしてないし、抱き締めて、頭をなでなでしただけだ。

……………もしかして、頭をなでなでして欲しいのかな。
キスされると、思ってしまった自分が恥ずかしい。

「俺も褒美が欲しい。」

………何これ。犬みたい…だと思ってしまった。
……よし。俺は覚悟を決めて、グレース王子の頭に手を置く。王族の頭を触るなんて、不敬罪になりそうなんだけど…。俺は手が震えそうになりながらも、グレース王子の頭を撫でる。
グレース王子の髪は長い為、後ろで1つに結んでいるので、流れにそって頭を撫でる。
艶々で滑らかな触り心地を堪能し、グレース王子の顔を見てドキリと心臓が跳ねた。
顔を赤くして優しく微笑んでいる、グレース王子がいたからだ。グレース王子は俺と目が合うと、俺の首筋に顔を埋めてしまう。

頭を撫でるだけでこんなに赤面され、さらに恥ずかしがって顔を隠すなんて…この人って、こんなに可愛いかったか?この間のトイレでは、大胆にキスしてきたくせに。俺は可笑しくて、密かににやついていた。

その後、頭を撫でていると腕が辛くなってきて、背中を撫でたりポンポンと優しく叩いたり、また頭を撫でたりして、このまったりした感じの雰囲気に俺は、つい眠くなりウトウトしてしまった。

はっ!しまった。と覚醒すると、どうやらグレース王子も隣で眠ってしまったようだった。本当に疲れていたのかもしれない。起こさないように、俺は体を横にずれてベッドから抜け出し、静かに部屋を出た。



◆◆◆


「はぁ、退屈。」

リビアンは侍女達に、髪の手入れや手のマッサージをさせながら、愚痴をこぼした。
聖女様と持てはやされ何もかも手に入る、この状況に退屈していた。ゲームの攻略対象者達には、全然ちやほやされないくせに、他の男共は面白いくらい何でも言うことを聞いてくれる。
部屋にあるドレスも、宝石も、ここにいる侍女達もリビアンが
「羨ましいわ。」「いいなぁ。」
と口にすれば、その日のうちに届けられた。

「美しいって、案外つまらないものね。」

リビアンは、欲しいものは何でも手に入る事に慣れてきていて、退屈していた。

前世は、美人でも無かったがブスでも無かった。どこにでもいるような女子中学生だった。1人っ子だった為に甘やかされ、その結果、皆に注目されたくて目立ちたくて、言いたい放題に振る舞っていたら、いつのまにかいじめられていた。
『私は悪くないのに、どうして?』
そればかり考えていた。
死因は交通事故だったが、転生して可愛く美しく生まれ変わり、いじめていた奴らを見返したかった。
『私は何も悪くないのよ。何もかも許されてきたんだから、従わない皆が変なのよ!』

この世界が乙女ゲームで、自分はヒロインだと解った時嬉しかった。皆が自分をちやほやして、王子様と結婚するのだと…。
『やっぱり私は、何でも…何をしても許されるのよね。
それなのに、大好きなグレース王子もマクビルもセレスも、私を口説きに来ない。恥ずかしがっているのかしら。』

そんな時、グレース王子とテオルドの決闘はわくわくした。その決闘の最中に、割り込んで戦いを止めさせるという見せ場もやりきった。皆に注目され、リビアンは楽しくて興奮した。
『途中で止めさせたら良い、と言ってきた男子がいたけど、誰だったかしら。まぁ、いっか。』

その時の興奮が、リビアンを更に助長させた。
もっと注目されたい。もっと、もっと褒めてちやほやされたい。そんな欲望が湧いてきていた。

『グレース王子って顔だけは良いけど、つまんない男なのよね。それにしても、ゲームには名前しか出ていなかったエルーシ王子って、凄くイケメンなのよね。彼と結婚したら、私は女王になるのかしら。それって最高だわ。』
色々と言い訳を作り、自分の側にいるように仕向けたグレース王子だったが、何事に対しても真面目すぎてつまらなく思えてきていた。

『どうせ、グレース王子もマクビルもセレスも、ゲームで攻略してるからもういいわ。今度はエルーシ王子を落としちゃお。』

「ふふふっ。いたっ!もっと丁寧に触りなさいよ!」

楽しい想像をしていたリビアンは、髪を櫛ですいていた侍女の、ちょっとした失敗に罵声を浴びせ、気分が悪くなる。

「あなたはクビよ。もう、侍女じゃなくて、全員男の侍従にして欲しかったわ。」

この部屋にいる侍女達は、お金の支払いが良かったからと言う理由で仕方なくいる為、全員がリビアンを嫌っていたが、それでも我慢していた。

「もう気分が悪いわ。ワインを頂戴。」

休みの日に昼間から、お酒を飲んで侍女をこき使っている女が聖女だとは、取り巻きの男達は知るよしもなかった。



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