能天気男子の受難

いとみ

文字の大きさ
64 / 73

61

しおりを挟む
グレース王子が事の顛末を聞いたのは、ルシオンが地下牢に入ってすぐだった。
ルシオンの様子が心配になり、地下牢へ駆けつけた。

暗い地下牢でルシオンは、泣く訳でもなく呆然としている訳でもなく、ただ祈り続けていた。
両手を合わせ、目を閉じて祈っている姿は、地下牢という場所には不釣り合いで、妙に美しかった。

ルシオンは、グレース王子が来たことにも気付いていない。

「………ルシオン。」

グレース王子は、それ以上は言葉が出なかった。



◆◆◆


「エルーシ殿下、ルシオンを地下牢から出してください。」

マクビルは生徒会室に乗り込むと、エルーシ殿下に詰め寄った。
そこにはセレスもいて、何かを話しているようだった。

「マクビル、落ち着け。ルシオンはすぐに出すが、まだ準備が整っていない。」

エルーシ殿下は、マクビルが来る事を予測していた。だから今、この生徒会室はエルーシ殿下とセレスしか居なかった。

「準備とは、何ですか?」

エルーシ殿下とセレスは視線を合わせ、発言をセレスに譲る。

「犯人の動機と目的が解らない。だが、ルシオンが犯人と言うにはまだ確証がない。地下牢から移動させるが、魔法を発動させない魔石を、部屋に置いているところだ。誰にも解らないようにな。もちろん、ルシオンにも知らせない。ここにいる3人だけだ。
……そして、次に狙われるのは多分俺だろう。」

今まで、黒い人影を目撃していない被害者はルシオンとセレス、グレース王子とエルーシ殿下だけになった。
グレース王子やエルーシ殿下は王族なので、魔法干渉防御装置が完璧な部屋にいるため安全だ。
だが、セレスやルシオンの部屋にはそんなものはない。
今、1番危険なのはセレスなのだ。

「ルシオンが地下牢から移動するときは、俺が付き添います。」
「ああ、それは任せるとしよう。」

マクビルの申し出に、エルーシ殿下は仕方ないといったふうに頷いた。


◆◆◆


朝に地下牢へと入れられ、数日間はここで過ごすものだと思っていたルシオンは驚いていた。
その日の夕方には、寮の空き部屋に移動させられていたからだ。
部屋には、魔法省から監視のために2人来ていた。
ルシオンは、監視されているとしても地下の寒くて冷たい牢屋にいた時よりも、暖かくて明るい部屋に来れて、少し気持ちも楽になり、落ち着きを戻していた。

そして、自分が持っている闇属性の事を、今回の事件の事も考えられるようになっていた。
闇魔法で黒い人影を作るのは簡単だし、物にも触れられる。それは、遠くにある物を取りたい時に、ものぐさな自分がよく使って役立っていたからだ。
だが、それ以外に使い道が解らず、放置していたままだった。
『もっとちゃんと、学んでおけば良かったな。』
そしてその黒い人影が、触れた人間を眠らせる事が出来るとは、強い魔力が必要なのでは?
もしかしたら、黒い人影を操りながら睡眠魔法を使う事は、別物なのか?睡眠魔法にかかる切っ掛けがあるとすれば……。

ルシオンはそこまで考えたが、全部憶測で自分には何も出来ないと諦めた。

考える事にも疲れテーブルに突っ伏した時、突然部屋のドアをドンドン!と強く叩かれ、ルシオンは跳ね起きた。

「な、何?」

部屋の中で、ルシオンを監視している魔法省の人も驚いていた。

「ルシオン、早急に知らせたい事がある!」

その声は、グレース王子だった。
魔法省の2人も顔を見合わせ、ドアを開けることにしたようだ。

「いきなり、どうしたんですか?」

グレース王子を確認したとたん、腕を捕まれ部屋から出され、そのままどこかへ連れていこうとする。
魔法省の2人も困惑していた。ルシオンが、この部屋にいる事で彼を守る為にもなるのだ。

「グレース王子!困ります。」
「勝手な行動は慎み下さい。」

魔法省の2人は、勝手にルシオンを連れ去ろうとしているグレース王子の前に立ちふさがる。
だが、グレース王子は早くとばかりに
「急ぎの用事だ。どけ。」
と言っただけで、ルシオンを連れ去ってしまった。
これ以上、王族を拒む事が出来ない2人は道を開けるしかなかった。

グレース王子は早足で、ルシオンの腕を引っ張りながら、寮を出て王宮へ向かう。
何故、王宮なのか不思議に思ったルシオンはグレース王子に聞いてみた。

「グレース王子、何かあったんですか?」
「ヒューリが目を覚ました。」
「ヒューリが!?大丈夫なんですか?」

ルシオンはヒューリが目を覚ました事に嬉しくなった。と同時にヒューリの体調が心配だった。
眠り続けていたせいで、体力的にも気力的にも弱っていて、まだどうなるか解らない。
だが、グレース王子は何も答えてくれないまま、王宮の廊下を歩いていく。

「あ、あの…グレース王子?」

しばらく歩き人も少なくなってきて、ルシオンはだんだん不安になってくる。
そして王宮の数多ある部屋の中で一部屋のドアを開けて、入れられた。
その部屋はゲストルームらしく、品良く落ち着いた雰囲気だった。

「ここは……何が?」

何も変わった所がない普通の部屋を見回した後、不思議に思い振り返れば、冷たい眼差しをしたグレース王子がいた。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...