能天気男子の受難

いとみ

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グレース王子が事の顛末を聞いたのは、ルシオンが地下牢に入ってすぐだった。
ルシオンの様子が心配になり、地下牢へ駆けつけた。

暗い地下牢でルシオンは、泣く訳でもなく呆然としている訳でもなく、ただ祈り続けていた。
両手を合わせ、目を閉じて祈っている姿は、地下牢という場所には不釣り合いで、妙に美しかった。

ルシオンは、グレース王子が来たことにも気付いていない。

「………ルシオン。」

グレース王子は、それ以上は言葉が出なかった。



◆◆◆


「エルーシ殿下、ルシオンを地下牢から出してください。」

マクビルは生徒会室に乗り込むと、エルーシ殿下に詰め寄った。
そこにはセレスもいて、何かを話しているようだった。

「マクビル、落ち着け。ルシオンはすぐに出すが、まだ準備が整っていない。」

エルーシ殿下は、マクビルが来る事を予測していた。だから今、この生徒会室はエルーシ殿下とセレスしか居なかった。

「準備とは、何ですか?」

エルーシ殿下とセレスは視線を合わせ、発言をセレスに譲る。

「犯人の動機と目的が解らない。だが、ルシオンが犯人と言うにはまだ確証がない。地下牢から移動させるが、魔法を発動させない魔石を、部屋に置いているところだ。誰にも解らないようにな。もちろん、ルシオンにも知らせない。ここにいる3人だけだ。
……そして、次に狙われるのは多分俺だろう。」

今まで、黒い人影を目撃していない被害者はルシオンとセレス、グレース王子とエルーシ殿下だけになった。
グレース王子やエルーシ殿下は王族なので、魔法干渉防御装置が完璧な部屋にいるため安全だ。
だが、セレスやルシオンの部屋にはそんなものはない。
今、1番危険なのはセレスなのだ。

「ルシオンが地下牢から移動するときは、俺が付き添います。」
「ああ、それは任せるとしよう。」

マクビルの申し出に、エルーシ殿下は仕方ないといったふうに頷いた。


◆◆◆


朝に地下牢へと入れられ、数日間はここで過ごすものだと思っていたルシオンは驚いていた。
その日の夕方には、寮の空き部屋に移動させられていたからだ。
部屋には、魔法省から監視のために2人来ていた。
ルシオンは、監視されているとしても地下の寒くて冷たい牢屋にいた時よりも、暖かくて明るい部屋に来れて、少し気持ちも楽になり、落ち着きを戻していた。

そして、自分が持っている闇属性の事を、今回の事件の事も考えられるようになっていた。
闇魔法で黒い人影を作るのは簡単だし、物にも触れられる。それは、遠くにある物を取りたい時に、ものぐさな自分がよく使って役立っていたからだ。
だが、それ以外に使い道が解らず、放置していたままだった。
『もっとちゃんと、学んでおけば良かったな。』
そしてその黒い人影が、触れた人間を眠らせる事が出来るとは、強い魔力が必要なのでは?
もしかしたら、黒い人影を操りながら睡眠魔法を使う事は、別物なのか?睡眠魔法にかかる切っ掛けがあるとすれば……。

ルシオンはそこまで考えたが、全部憶測で自分には何も出来ないと諦めた。

考える事にも疲れテーブルに突っ伏した時、突然部屋のドアをドンドン!と強く叩かれ、ルシオンは跳ね起きた。

「な、何?」

部屋の中で、ルシオンを監視している魔法省の人も驚いていた。

「ルシオン、早急に知らせたい事がある!」

その声は、グレース王子だった。
魔法省の2人も顔を見合わせ、ドアを開けることにしたようだ。

「いきなり、どうしたんですか?」

グレース王子を確認したとたん、腕を捕まれ部屋から出され、そのままどこかへ連れていこうとする。
魔法省の2人も困惑していた。ルシオンが、この部屋にいる事で彼を守る為にもなるのだ。

「グレース王子!困ります。」
「勝手な行動は慎み下さい。」

魔法省の2人は、勝手にルシオンを連れ去ろうとしているグレース王子の前に立ちふさがる。
だが、グレース王子は早くとばかりに
「急ぎの用事だ。どけ。」
と言っただけで、ルシオンを連れ去ってしまった。
これ以上、王族を拒む事が出来ない2人は道を開けるしかなかった。

グレース王子は早足で、ルシオンの腕を引っ張りながら、寮を出て王宮へ向かう。
何故、王宮なのか不思議に思ったルシオンはグレース王子に聞いてみた。

「グレース王子、何かあったんですか?」
「ヒューリが目を覚ました。」
「ヒューリが!?大丈夫なんですか?」

ルシオンはヒューリが目を覚ました事に嬉しくなった。と同時にヒューリの体調が心配だった。
眠り続けていたせいで、体力的にも気力的にも弱っていて、まだどうなるか解らない。
だが、グレース王子は何も答えてくれないまま、王宮の廊下を歩いていく。

「あ、あの…グレース王子?」

しばらく歩き人も少なくなってきて、ルシオンはだんだん不安になってくる。
そして王宮の数多ある部屋の中で一部屋のドアを開けて、入れられた。
その部屋はゲストルームらしく、品良く落ち着いた雰囲気だった。

「ここは……何が?」

何も変わった所がない普通の部屋を見回した後、不思議に思い振り返れば、冷たい眼差しをしたグレース王子がいた。



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