DEATHGAME~裏切りと信念の姫~

ひいらぎななみ

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五章

裏切りの理由

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 スズエさんを部屋まで連れていって、ベッドに寝かせたところを見てエレンさんとマイカさんを部屋に残しボク達はロビーに集まった。シルヤ君は少し離れた場所で佇んでいる。
「……スズちゃん、大丈夫かなー?」
 ケイさんが呟くと、全員がうつむいてしまった。
「……なんで、姉ちゃんはぼく達を裏切ったニャ……?」
 フウ君がネコのぬいぐるみをギュッと抱きしめながら聞いてきた。その表情は青く、恐怖心を抱いていることが分かる。
 ふと、ボクはタカシさんからCDを受け取っていたことを思い出した。
「あの、これ、見てみますか……?」
 ボクが聞くと、全員が頷いた。
 パソコンに読み込ませると、ドンドンと壁を強く叩く音が聞こえてきた。
『開けて……っ!ここを開けてよ……!』
 よく知っている声が必死に懇願している。
 画面に映りこんでいるのは、真っ青な顔をしたスズエさんだった。
『お願い、ナナミ……!私に気付いて……っ!』
 ナナミ、という名前にキナちゃんがビクッと震えた。……ナナミさんって、キナちゃんのお姉さんだったよね?確かにスズエさんとナナミさんは先輩後輩だって聞いてるけど……。
『私なら解ける……っ!ナナミもキナちゃんも助けられるから……!お願いだから、私に気付いてよ……!』
 悲痛なその叫びは、届くことなんてなかった。
『や、やめてっ!ナナミを殺さないで!』
 ――一瞬だけ映った画面には、座り込んでしまったキナちゃんと赤に染まった、折りたたまれたベッドだった。こんなことが、あったのか。
 スズエさんの手は赤くなっていた。壁を叩きすぎて、血がにじんでしまったのだろう。でもそんなことも気にせず、彼女は涙を流しながら呆然としていた。
 足音が聞こえ、スズエさんは振り返る。そこにいたのはシルヤ君だった。
『す、スズ姉?なんで、泣いて……』
『シルヤ、どうしよう……』
 シルヤ君が駆け寄ろうとすると、スズエさんが彼にしがみついた。
『ナナミが……ナナミがぁ……』
『落ち着け。ナナミって、剣道の後輩だったよな?どうしたんだよ?』
『ナナミが……死んじゃったぁ……』
 それを聞いて、シルヤ君は目を見開く。
『え、マジなのか?』
 そしてスズエさんが叩いた壁を見ると、顔をひきつらせた。
『……スズ姉、とにかくここから離れよう』
 何とかスズエさんを立たせて、シルヤ君は広い部屋に連れてくる。少しして、スズエさんは落ち着きを取り戻したようだ。
『……なんで、ここに連れてこられたんだろ……?ここ、なんか放送室みたいだし……』
 キョロキョロと部屋を見渡し、呟く。確かに、モニターとかマイクのようなものもあるようだ。
『分からない……心当たりがあるわけじゃないし……』
 二人の間に気まずい空気が流れる。
『やぁ、二人とも』
 そんな中、男性の声が聞こえ二人は震える。いつの間にいたのか、黒髪の男性が立っていた。
『……お父さん……』
 スズエさんがシルヤ君を庇うように立つ。その様子を見て、彼は『そう睨むなよ、お前達の父さんだぞ?』と思ってもいない声色で笑う。
『うるさい。私達に何させようって言うの?』
 スズエさんがいら立ちを隠さず聞くと、『デスゲームだよ、お前を「殺す」ためのゲームさ』とためらいなく答えた。
『……は?どういうことだよ?』
 シルヤ君が睨むと、『そのままの意味さ』と罪悪感なく告げた。そして指を鳴らすと、モニターに何かが映った。
『……っ!?これは……!?』
『もうすぐで最初の試練が行われる。まぁ、こいつらは確実に殺すがな』
 映っていたのは、気を失っている人形達。
 それを見た瞬間、スズエさんが動き出す。少し遅れてシルヤ君も動き出したけど、
『「束縛」』
 女性の声が聞こえたと思うと、二人は何かの力で壁に追いやられ、動けなくなった。そんな双子の前に、スズエさんに似た顔の女性が歩いてきた。
『お母さん、離して。こんなことしていいって思ってるの?』
 力を込めているのか、腕を震わせながらスズエさんが尋ねる。
『えぇ、いいと思っているわよ』
 しかし、女性は即答した。
『だって、世界を滅ぼそうとしているんだもの』
『滅ぼして、何?神にでもなろうっての?』
 あざけるように笑うスズエさんの表情には余裕がない。ただ、強がっているだけなのだろう。
『そうね、それも楽しそうだわ。……あら、そろそろ最初の試練が始まるわね』
 しかしそんな嫌味にも動じず、彼女は画面を見る。それにつられるようにしてスズエさんとシルヤ君も顔をあげた。
 最初の試練が、始まる。
『……「解除」』
 それを見たスズエさんが呟く。そのまま、力を込めるとパリンと何かが割れる音がしたと同時にスズエさんがモニターに走り出した。
『させるか』
 しかし、父親がスズエさんを殴って阻止する。『スズ姉!』とシルヤ君が叫ぶけど、彼女は気にせず立ち上がる。
 そこからは、両親と双子との攻防だった。拘束から解かれた双子がモニターに近付くけど、それを妨害するように暴力の嵐が襲ってくる。
 二人とも、ボロボロでかなり酷い状態だった。でも、報われることはなかった。
 画面の先には、惨劇が広がっていた。二人は呆然としてその画面を見るしか出来ていなかった。
『なんでそんなに泣くんだ。こいつらは死んでもいいんだよ』
 その言葉に、スズエさんが父親の胸倉を掴む。
『そんなわけないでしょ!?こんな理不尽に死んでいい人なんていない!お前達の勝手なエゴで決めつけるな!』
 涙を流しながら叫ぶ。そんな彼女に襲ったのは暴力だった。地面に伏せた彼女を鼻で笑い、
『お前は裏切り者だ』
 そう言って、短剣を投げた。スズエさんは絶望した表情を浮かべる。
『いいか?お前が生き残るにはたった一つ。ほかの奴らを殺すことだけだ。あぁ、救済処置としてその弟は殺さなくてもいいぞ』
『てめっ……!』
 シルヤ君が何か言おうとしたけど、『下手なことはしない方がいい。こいつは何するか分からないぞ』とスズエさんが諦めた様子で止めた。
『それは……そうだけど……』
『ハハッ、察しがよくて助かるよ』
 シルヤ君がうつむくと、父親はケラケラと声をあげた。
『ここまでおぜん立てしてやったんだ。楽しませてくれよ?』
『…………』
『いやぁ、お前が裏切る姿……滑稽なんだろうなぁ?』
 そう言われるたびに、シルヤ君がスズエさんの手を握っていた。
『……大丈夫だよ』
 安心させるようにスズエさんも微笑む。そして、
『これが私の「最初の試練」ってやつ?』
 そう、聞いた。それに『あぁ、そうだ』頷いた。
『そしてお前はその「共犯者」というところだ』
 共犯者、という言葉に二人は顔をしかめる。それを見て、両親は去っていった。
『スズ姉……』
『大丈夫だよ、シルヤ。あなただけは絶対に守ってみせるからね』
 不安げなシルヤ君を優しく抱きしめて、スズエさんは優しく微笑んだ。
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