44 / 61
五章
裏切りの理由
しおりを挟む
スズエさんを部屋まで連れていって、ベッドに寝かせたところを見てエレンさんとマイカさんを部屋に残しボク達はロビーに集まった。シルヤ君は少し離れた場所で佇んでいる。
「……スズちゃん、大丈夫かなー?」
ケイさんが呟くと、全員がうつむいてしまった。
「……なんで、姉ちゃんはぼく達を裏切ったニャ……?」
フウ君がネコのぬいぐるみをギュッと抱きしめながら聞いてきた。その表情は青く、恐怖心を抱いていることが分かる。
ふと、ボクはタカシさんからCDを受け取っていたことを思い出した。
「あの、これ、見てみますか……?」
ボクが聞くと、全員が頷いた。
パソコンに読み込ませると、ドンドンと壁を強く叩く音が聞こえてきた。
『開けて……っ!ここを開けてよ……!』
よく知っている声が必死に懇願している。
画面に映りこんでいるのは、真っ青な顔をしたスズエさんだった。
『お願い、ナナミ……!私に気付いて……っ!』
ナナミ、という名前にキナちゃんがビクッと震えた。……ナナミさんって、キナちゃんのお姉さんだったよね?確かにスズエさんとナナミさんは先輩後輩だって聞いてるけど……。
『私なら解ける……っ!ナナミもキナちゃんも助けられるから……!お願いだから、私に気付いてよ……!』
悲痛なその叫びは、届くことなんてなかった。
『や、やめてっ!ナナミを殺さないで!』
――一瞬だけ映った画面には、座り込んでしまったキナちゃんと赤に染まった、折りたたまれたベッドだった。こんなことが、あったのか。
スズエさんの手は赤くなっていた。壁を叩きすぎて、血がにじんでしまったのだろう。でもそんなことも気にせず、彼女は涙を流しながら呆然としていた。
足音が聞こえ、スズエさんは振り返る。そこにいたのはシルヤ君だった。
『す、スズ姉?なんで、泣いて……』
『シルヤ、どうしよう……』
シルヤ君が駆け寄ろうとすると、スズエさんが彼にしがみついた。
『ナナミが……ナナミがぁ……』
『落ち着け。ナナミって、剣道の後輩だったよな?どうしたんだよ?』
『ナナミが……死んじゃったぁ……』
それを聞いて、シルヤ君は目を見開く。
『え、マジなのか?』
そしてスズエさんが叩いた壁を見ると、顔をひきつらせた。
『……スズ姉、とにかくここから離れよう』
何とかスズエさんを立たせて、シルヤ君は広い部屋に連れてくる。少しして、スズエさんは落ち着きを取り戻したようだ。
『……なんで、ここに連れてこられたんだろ……?ここ、なんか放送室みたいだし……』
キョロキョロと部屋を見渡し、呟く。確かに、モニターとかマイクのようなものもあるようだ。
『分からない……心当たりがあるわけじゃないし……』
二人の間に気まずい空気が流れる。
『やぁ、二人とも』
そんな中、男性の声が聞こえ二人は震える。いつの間にいたのか、黒髪の男性が立っていた。
『……お父さん……』
スズエさんがシルヤ君を庇うように立つ。その様子を見て、彼は『そう睨むなよ、お前達の父さんだぞ?』と思ってもいない声色で笑う。
『うるさい。私達に何させようって言うの?』
スズエさんがいら立ちを隠さず聞くと、『デスゲームだよ、お前を「殺す」ためのゲームさ』とためらいなく答えた。
『……は?どういうことだよ?』
シルヤ君が睨むと、『そのままの意味さ』と罪悪感なく告げた。そして指を鳴らすと、モニターに何かが映った。
『……っ!?これは……!?』
『もうすぐで最初の試練が行われる。まぁ、こいつらは確実に殺すがな』
映っていたのは、気を失っている人形達。
それを見た瞬間、スズエさんが動き出す。少し遅れてシルヤ君も動き出したけど、
『「束縛」』
女性の声が聞こえたと思うと、二人は何かの力で壁に追いやられ、動けなくなった。そんな双子の前に、スズエさんに似た顔の女性が歩いてきた。
『お母さん、離して。こんなことしていいって思ってるの?』
力を込めているのか、腕を震わせながらスズエさんが尋ねる。
『えぇ、いいと思っているわよ』
しかし、女性は即答した。
『だって、世界を滅ぼそうとしているんだもの』
『滅ぼして、何?神にでもなろうっての?』
あざけるように笑うスズエさんの表情には余裕がない。ただ、強がっているだけなのだろう。
『そうね、それも楽しそうだわ。……あら、そろそろ最初の試練が始まるわね』
しかしそんな嫌味にも動じず、彼女は画面を見る。それにつられるようにしてスズエさんとシルヤ君も顔をあげた。
最初の試練が、始まる。
『……「解除」』
それを見たスズエさんが呟く。そのまま、力を込めるとパリンと何かが割れる音がしたと同時にスズエさんがモニターに走り出した。
『させるか』
しかし、父親がスズエさんを殴って阻止する。『スズ姉!』とシルヤ君が叫ぶけど、彼女は気にせず立ち上がる。
そこからは、両親と双子との攻防だった。拘束から解かれた双子がモニターに近付くけど、それを妨害するように暴力の嵐が襲ってくる。
二人とも、ボロボロでかなり酷い状態だった。でも、報われることはなかった。
画面の先には、惨劇が広がっていた。二人は呆然としてその画面を見るしか出来ていなかった。
『なんでそんなに泣くんだ。こいつらは死んでもいいんだよ』
その言葉に、スズエさんが父親の胸倉を掴む。
『そんなわけないでしょ!?こんな理不尽に死んでいい人なんていない!お前達の勝手なエゴで決めつけるな!』
涙を流しながら叫ぶ。そんな彼女に襲ったのは暴力だった。地面に伏せた彼女を鼻で笑い、
『お前は裏切り者だ』
そう言って、短剣を投げた。スズエさんは絶望した表情を浮かべる。
『いいか?お前が生き残るにはたった一つ。ほかの奴らを殺すことだけだ。あぁ、救済処置としてその弟は殺さなくてもいいぞ』
『てめっ……!』
シルヤ君が何か言おうとしたけど、『下手なことはしない方がいい。こいつは何するか分からないぞ』とスズエさんが諦めた様子で止めた。
『それは……そうだけど……』
『ハハッ、察しがよくて助かるよ』
シルヤ君がうつむくと、父親はケラケラと声をあげた。
『ここまでおぜん立てしてやったんだ。楽しませてくれよ?』
『…………』
『いやぁ、お前が裏切る姿……滑稽なんだろうなぁ?』
そう言われるたびに、シルヤ君がスズエさんの手を握っていた。
『……大丈夫だよ』
安心させるようにスズエさんも微笑む。そして、
『これが私の「最初の試練」ってやつ?』
そう、聞いた。それに『あぁ、そうだ』頷いた。
『そしてお前はその「共犯者」というところだ』
共犯者、という言葉に二人は顔をしかめる。それを見て、両親は去っていった。
『スズ姉……』
『大丈夫だよ、シルヤ。あなただけは絶対に守ってみせるからね』
不安げなシルヤ君を優しく抱きしめて、スズエさんは優しく微笑んだ。
「……スズちゃん、大丈夫かなー?」
ケイさんが呟くと、全員がうつむいてしまった。
「……なんで、姉ちゃんはぼく達を裏切ったニャ……?」
フウ君がネコのぬいぐるみをギュッと抱きしめながら聞いてきた。その表情は青く、恐怖心を抱いていることが分かる。
ふと、ボクはタカシさんからCDを受け取っていたことを思い出した。
「あの、これ、見てみますか……?」
ボクが聞くと、全員が頷いた。
パソコンに読み込ませると、ドンドンと壁を強く叩く音が聞こえてきた。
『開けて……っ!ここを開けてよ……!』
よく知っている声が必死に懇願している。
画面に映りこんでいるのは、真っ青な顔をしたスズエさんだった。
『お願い、ナナミ……!私に気付いて……っ!』
ナナミ、という名前にキナちゃんがビクッと震えた。……ナナミさんって、キナちゃんのお姉さんだったよね?確かにスズエさんとナナミさんは先輩後輩だって聞いてるけど……。
『私なら解ける……っ!ナナミもキナちゃんも助けられるから……!お願いだから、私に気付いてよ……!』
悲痛なその叫びは、届くことなんてなかった。
『や、やめてっ!ナナミを殺さないで!』
――一瞬だけ映った画面には、座り込んでしまったキナちゃんと赤に染まった、折りたたまれたベッドだった。こんなことが、あったのか。
スズエさんの手は赤くなっていた。壁を叩きすぎて、血がにじんでしまったのだろう。でもそんなことも気にせず、彼女は涙を流しながら呆然としていた。
足音が聞こえ、スズエさんは振り返る。そこにいたのはシルヤ君だった。
『す、スズ姉?なんで、泣いて……』
『シルヤ、どうしよう……』
シルヤ君が駆け寄ろうとすると、スズエさんが彼にしがみついた。
『ナナミが……ナナミがぁ……』
『落ち着け。ナナミって、剣道の後輩だったよな?どうしたんだよ?』
『ナナミが……死んじゃったぁ……』
それを聞いて、シルヤ君は目を見開く。
『え、マジなのか?』
そしてスズエさんが叩いた壁を見ると、顔をひきつらせた。
『……スズ姉、とにかくここから離れよう』
何とかスズエさんを立たせて、シルヤ君は広い部屋に連れてくる。少しして、スズエさんは落ち着きを取り戻したようだ。
『……なんで、ここに連れてこられたんだろ……?ここ、なんか放送室みたいだし……』
キョロキョロと部屋を見渡し、呟く。確かに、モニターとかマイクのようなものもあるようだ。
『分からない……心当たりがあるわけじゃないし……』
二人の間に気まずい空気が流れる。
『やぁ、二人とも』
そんな中、男性の声が聞こえ二人は震える。いつの間にいたのか、黒髪の男性が立っていた。
『……お父さん……』
スズエさんがシルヤ君を庇うように立つ。その様子を見て、彼は『そう睨むなよ、お前達の父さんだぞ?』と思ってもいない声色で笑う。
『うるさい。私達に何させようって言うの?』
スズエさんがいら立ちを隠さず聞くと、『デスゲームだよ、お前を「殺す」ためのゲームさ』とためらいなく答えた。
『……は?どういうことだよ?』
シルヤ君が睨むと、『そのままの意味さ』と罪悪感なく告げた。そして指を鳴らすと、モニターに何かが映った。
『……っ!?これは……!?』
『もうすぐで最初の試練が行われる。まぁ、こいつらは確実に殺すがな』
映っていたのは、気を失っている人形達。
それを見た瞬間、スズエさんが動き出す。少し遅れてシルヤ君も動き出したけど、
『「束縛」』
女性の声が聞こえたと思うと、二人は何かの力で壁に追いやられ、動けなくなった。そんな双子の前に、スズエさんに似た顔の女性が歩いてきた。
『お母さん、離して。こんなことしていいって思ってるの?』
力を込めているのか、腕を震わせながらスズエさんが尋ねる。
『えぇ、いいと思っているわよ』
しかし、女性は即答した。
『だって、世界を滅ぼそうとしているんだもの』
『滅ぼして、何?神にでもなろうっての?』
あざけるように笑うスズエさんの表情には余裕がない。ただ、強がっているだけなのだろう。
『そうね、それも楽しそうだわ。……あら、そろそろ最初の試練が始まるわね』
しかしそんな嫌味にも動じず、彼女は画面を見る。それにつられるようにしてスズエさんとシルヤ君も顔をあげた。
最初の試練が、始まる。
『……「解除」』
それを見たスズエさんが呟く。そのまま、力を込めるとパリンと何かが割れる音がしたと同時にスズエさんがモニターに走り出した。
『させるか』
しかし、父親がスズエさんを殴って阻止する。『スズ姉!』とシルヤ君が叫ぶけど、彼女は気にせず立ち上がる。
そこからは、両親と双子との攻防だった。拘束から解かれた双子がモニターに近付くけど、それを妨害するように暴力の嵐が襲ってくる。
二人とも、ボロボロでかなり酷い状態だった。でも、報われることはなかった。
画面の先には、惨劇が広がっていた。二人は呆然としてその画面を見るしか出来ていなかった。
『なんでそんなに泣くんだ。こいつらは死んでもいいんだよ』
その言葉に、スズエさんが父親の胸倉を掴む。
『そんなわけないでしょ!?こんな理不尽に死んでいい人なんていない!お前達の勝手なエゴで決めつけるな!』
涙を流しながら叫ぶ。そんな彼女に襲ったのは暴力だった。地面に伏せた彼女を鼻で笑い、
『お前は裏切り者だ』
そう言って、短剣を投げた。スズエさんは絶望した表情を浮かべる。
『いいか?お前が生き残るにはたった一つ。ほかの奴らを殺すことだけだ。あぁ、救済処置としてその弟は殺さなくてもいいぞ』
『てめっ……!』
シルヤ君が何か言おうとしたけど、『下手なことはしない方がいい。こいつは何するか分からないぞ』とスズエさんが諦めた様子で止めた。
『それは……そうだけど……』
『ハハッ、察しがよくて助かるよ』
シルヤ君がうつむくと、父親はケラケラと声をあげた。
『ここまでおぜん立てしてやったんだ。楽しませてくれよ?』
『…………』
『いやぁ、お前が裏切る姿……滑稽なんだろうなぁ?』
そう言われるたびに、シルヤ君がスズエさんの手を握っていた。
『……大丈夫だよ』
安心させるようにスズエさんも微笑む。そして、
『これが私の「最初の試練」ってやつ?』
そう、聞いた。それに『あぁ、そうだ』頷いた。
『そしてお前はその「共犯者」というところだ』
共犯者、という言葉に二人は顔をしかめる。それを見て、両親は去っていった。
『スズ姉……』
『大丈夫だよ、シルヤ。あなただけは絶対に守ってみせるからね』
不安げなシルヤ君を優しく抱きしめて、スズエさんは優しく微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる