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五章
協力
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少しして、スズエさん達の部屋に行くとマイカさんとエレンさんが出迎えてくれた。
「あの……スズ、姉は……?」
シルヤ君が恐る恐る尋ねると「大丈夫だよ、ただ寝てるだけだから」とマイカさんが答えた。
「シルヤ、あなたは大丈夫ですか?」
エレンさんの質問に彼は小さく頷く。怯えた様子でその場にたたずんでいると、「そんなに緊張しなくていいんですよ」とエレンさんが笑う。
「ほら、おいで」
そして、シルヤ君の手を優しく握り椅子に座らせた。ボクも、スズエさんの傍に来る。
彼女は顔色が悪かったけど、呼吸は整っていた。
「……スズ姉……」
シルヤ君が涙を浮かべながらスズエさんの手を握る。
「……起きてくれよぉ……頼れるの、姉さんしかいないんだよぉ……」
そう懇願する彼に、胸が締め付けられる。
――二人は、お互いしか信じあえなかった。
だからこそ、お互いを失うことを怖がっていた。ケイさんの言葉の意味も、今はまだ分からないかもしれない。
(本当は、ボク達が守らないといけないのに……)
拳をギュッと握る。そんなボクに気付いたのか、エレンさんが肩に手を置いた。
今は二人きりにさせようと、ボク達は部屋を出る。ラン君はレイさんと一緒に過ごすようだ。
「一緒に探索しましょうか」
「そうですね、行きましょうか」
そう言って、エレンさんと二人で探索を始めた。
ロッカー室に行くと、「ここ、嫌な雰囲気がします……」とエレンさんが呟いた。嫌な雰囲気……?と思って上を見ると赤い何かがついていた。
「えっ……?」
思わず声が漏れると、エレンさんも気付いたようだ。青くなりながら「血、ですよね……?」と尋ねていた。
「……そうでしょうね……」
一体、誰の血なのだろうか?分からないけど、とにかくここで誰かが死んだことは確実だろう。
少し室内を確認して、何もなさそうだと去っていく。いろんな場所を調べているけど、めぼしいものはなさそうだった。
疲れてロビーにいると、いつの間にかシルヤ君とスズエさん以外が集まっていた。
「何かあったか?」
タカシさんの質問に、全員首を横に振った。
「……その、スズエさん、本当に大丈夫でしょうか……?」
キナちゃんの言葉にうつむいてしまう。信じたいという心と、また裏切られるかもしれないという不安……それが複雑に入り混じって嫌になってしまう。
「大丈夫だと思うよー。ねぇ、スズちゃん」
ケイさんが廊下の方に声をかけると、間を置いてシルヤ君に支えられたスズエさんが顔を出した。
「……なんで気付いたんですか?」
「俺、もともとおまわりさんだからねー。ある程度の気配なら分かるよー」
ニコニコと、ケイさんは彼女に話しかける。……二人は、ボク達に近付こうとしない。
「ねぇ、スズちゃん。なんでこっちに来ないの?」
マイカさんの質問に「……別に。一緒にいない方がいいでしょう」と小さくため息をついて答えた。
「そんなことないよ!ほらほら!」
マイカさんが二人の腕に絡まる。二人が目を丸くしているとケイさんが「多分、君達はまだ俺達を信用しきれていないんだよねー?」と近付いた。
「だったらさ、こうしよう。君達は隠し事一つせずに話してほしい。その代わり、俺達は二人を守る。どう?」
「…………」
その案に、スズエさんが疑うような瞳で見る。警戒心を隠すこともしない。
「そんな警戒しないで。……騙されたと思って受け入れるのもいいと思うよ?」
「……どうする?シルヤ」
ギュッと抱きしめながら、スズエさんがシルヤ君に聞く。彼は目を伏せ、
「……オレは信じて、みたい……」
そう、答えた。それを聞いてスズエさんはケイさんをジッと見て、
「……分かりました」
小さく告げた。ケイさんは満足げに笑う。
「今日はもう、解散しようか。あ、でもこれだけ聞かせて」
「なんですか?」
「なんで、スズちゃんは大人を信用しないの?」
その質問にキョトンとする彼女は、小さくため息をついて、
「……どうせ、大人は裏切りますから。もう何回裏切られたと思っているんですか?頼りになるハズの担任にも化け物って言われて、保護者の人達にはいらない子だったんじゃないかってあざけられて……味方でいてくれるハズの両親にまで裏切られたんです。信じようと思う方が馬鹿だと思いますけど?」
諦めたような表情をしながら答えた。シルヤ君も、そのことは知らなかったのか驚いた様子で姉を見た。
「それなら、私が弟を守らないといけないでしょう?自分を傷つけてでも……自分を犠牲にしてでも」
「そっかー……」
「それだけですか?……本当は、こんなことシルヤの前で言いたくなかったのですけど」
そこまで言って、彼女はエレンさんの方を見る。
「……その、にい、さん。シルヤと部屋に戻っていてくれませんか?ここからはシルヤに聞かせられないことなので……」
しかし、その指示に反論したのはシルヤ君だった。
「スズ姉、お前の話を聞く権利ぐらいオレにもあるだろ。……姉さんがずっと守ってくれていたってのは知ってたけど、だからこそどんだけ苦しんだのか知る権利はある」
それにうつむいたスズエさんだったけど、
「……分かった。まぁ、シルヤももう子供じゃないもんね」
もう一度ため息をつき、スズエさんは重い口を開いた。
「あの……スズ、姉は……?」
シルヤ君が恐る恐る尋ねると「大丈夫だよ、ただ寝てるだけだから」とマイカさんが答えた。
「シルヤ、あなたは大丈夫ですか?」
エレンさんの質問に彼は小さく頷く。怯えた様子でその場にたたずんでいると、「そんなに緊張しなくていいんですよ」とエレンさんが笑う。
「ほら、おいで」
そして、シルヤ君の手を優しく握り椅子に座らせた。ボクも、スズエさんの傍に来る。
彼女は顔色が悪かったけど、呼吸は整っていた。
「……スズ姉……」
シルヤ君が涙を浮かべながらスズエさんの手を握る。
「……起きてくれよぉ……頼れるの、姉さんしかいないんだよぉ……」
そう懇願する彼に、胸が締め付けられる。
――二人は、お互いしか信じあえなかった。
だからこそ、お互いを失うことを怖がっていた。ケイさんの言葉の意味も、今はまだ分からないかもしれない。
(本当は、ボク達が守らないといけないのに……)
拳をギュッと握る。そんなボクに気付いたのか、エレンさんが肩に手を置いた。
今は二人きりにさせようと、ボク達は部屋を出る。ラン君はレイさんと一緒に過ごすようだ。
「一緒に探索しましょうか」
「そうですね、行きましょうか」
そう言って、エレンさんと二人で探索を始めた。
ロッカー室に行くと、「ここ、嫌な雰囲気がします……」とエレンさんが呟いた。嫌な雰囲気……?と思って上を見ると赤い何かがついていた。
「えっ……?」
思わず声が漏れると、エレンさんも気付いたようだ。青くなりながら「血、ですよね……?」と尋ねていた。
「……そうでしょうね……」
一体、誰の血なのだろうか?分からないけど、とにかくここで誰かが死んだことは確実だろう。
少し室内を確認して、何もなさそうだと去っていく。いろんな場所を調べているけど、めぼしいものはなさそうだった。
疲れてロビーにいると、いつの間にかシルヤ君とスズエさん以外が集まっていた。
「何かあったか?」
タカシさんの質問に、全員首を横に振った。
「……その、スズエさん、本当に大丈夫でしょうか……?」
キナちゃんの言葉にうつむいてしまう。信じたいという心と、また裏切られるかもしれないという不安……それが複雑に入り混じって嫌になってしまう。
「大丈夫だと思うよー。ねぇ、スズちゃん」
ケイさんが廊下の方に声をかけると、間を置いてシルヤ君に支えられたスズエさんが顔を出した。
「……なんで気付いたんですか?」
「俺、もともとおまわりさんだからねー。ある程度の気配なら分かるよー」
ニコニコと、ケイさんは彼女に話しかける。……二人は、ボク達に近付こうとしない。
「ねぇ、スズちゃん。なんでこっちに来ないの?」
マイカさんの質問に「……別に。一緒にいない方がいいでしょう」と小さくため息をついて答えた。
「そんなことないよ!ほらほら!」
マイカさんが二人の腕に絡まる。二人が目を丸くしているとケイさんが「多分、君達はまだ俺達を信用しきれていないんだよねー?」と近付いた。
「だったらさ、こうしよう。君達は隠し事一つせずに話してほしい。その代わり、俺達は二人を守る。どう?」
「…………」
その案に、スズエさんが疑うような瞳で見る。警戒心を隠すこともしない。
「そんな警戒しないで。……騙されたと思って受け入れるのもいいと思うよ?」
「……どうする?シルヤ」
ギュッと抱きしめながら、スズエさんがシルヤ君に聞く。彼は目を伏せ、
「……オレは信じて、みたい……」
そう、答えた。それを聞いてスズエさんはケイさんをジッと見て、
「……分かりました」
小さく告げた。ケイさんは満足げに笑う。
「今日はもう、解散しようか。あ、でもこれだけ聞かせて」
「なんですか?」
「なんで、スズちゃんは大人を信用しないの?」
その質問にキョトンとする彼女は、小さくため息をついて、
「……どうせ、大人は裏切りますから。もう何回裏切られたと思っているんですか?頼りになるハズの担任にも化け物って言われて、保護者の人達にはいらない子だったんじゃないかってあざけられて……味方でいてくれるハズの両親にまで裏切られたんです。信じようと思う方が馬鹿だと思いますけど?」
諦めたような表情をしながら答えた。シルヤ君も、そのことは知らなかったのか驚いた様子で姉を見た。
「それなら、私が弟を守らないといけないでしょう?自分を傷つけてでも……自分を犠牲にしてでも」
「そっかー……」
「それだけですか?……本当は、こんなことシルヤの前で言いたくなかったのですけど」
そこまで言って、彼女はエレンさんの方を見る。
「……その、にい、さん。シルヤと部屋に戻っていてくれませんか?ここからはシルヤに聞かせられないことなので……」
しかし、その指示に反論したのはシルヤ君だった。
「スズ姉、お前の話を聞く権利ぐらいオレにもあるだろ。……姉さんがずっと守ってくれていたってのは知ってたけど、だからこそどんだけ苦しんだのか知る権利はある」
それにうつむいたスズエさんだったけど、
「……分かった。まぁ、シルヤももう子供じゃないもんね」
もう一度ため息をつき、スズエさんは重い口を開いた。
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