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五章
傷ついた心
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これは、まだ祖父母が生きていた時の話。アイトも、きっと兄さんもまだいた時のことだ。
転んで泣いている子がいたの。だから私、自分の血でその子の怪我を治したんだ。痛かったけど、この子の怪我が治るならって我慢したの。
……でも、その子は私を見てこう言ったの。「化け物」って。
血を垂らしただけで傷が治るわけない。だから人間じゃないって。そう言われて、私は本当に悲しくなった。その子のためにしたのになんでそんなことを言われないといけないのだろうって泣いてしまった。
自分でも気づいていたよ、普通の人間じゃないなんてことは。でも私にとっては、それが「当たり前」だったから普通が分からなかった。
そんな中、祖父母とおじが亡くなった。暗所恐怖症や、言っていなかったけれど無痛病やら失感情症になったのも、この時だった。引きこもりになってしまった私を、ユキナさんって言うカウンセリングの先生がシルヤやアイトと一緒に寄り添ってくれた。憶知家のおばさん以外では、唯一信頼出来る大人だよ。
この時からだったかな?他人と関わり合いになろうと思わなくなったのは。もう周りの人が敵に見えてしまって、嫌になったんだ。
小学生に入学した時、最初はよかったけれど私はギフテッドで基本的に何でも出来たから、影で先生から「化け物」だとか「子供っぽくない」とか、いろいろ言われた。それを知った時、あぁこの人達も信じちゃいけない人達だって分かった。
だから、私はシルヤを守らないといけない。……シルヤは私とは違って化け物じゃないから。双子だって知られたら、きっとシルヤだって傷つけられるから。
大人は頼れない。ユキナさんや憶知家のおばさんだって、すぐには動けないから、私が強くならなきゃいけない。
大丈夫、私は一人でも戦える。誰かを守るためなら、何でも捨ててやる。
だって、私にはもう失うものすらないのだから。
それを聞いて、ボクはようやく思い知った。あぁ、彼女は常に孤独で、たった一人で戦うしかなかったと。
「ユウヤさんとエレン兄さんはアイトから聞いたこともあって、信用出来ますけど……正直、ほかの人達はいまだに信じることは出来ません」
はっきり言い切る彼女にケイさんは「それでいいよー」と微笑んだ。
「つらかったね。それじゃあ、確かに大人を信用することは難しいや」
「……怒らないんですか?」
「そんなわけないじゃないか。俺だって、そんなことされたら信用出来ないと思うなー」
「…………」
スズエさんはうつむく。
「……あの、一つだけ質問していいですか?」
静かに尋ねる彼女にボク達は頷いた。
「なんで、私を助けたんですか?」
「え?」
「あのまま、見捨てたら死んでいたでしょう?あなた達にとってもその方がよかったのに」
冷たく、何も映っていないその瞳はどこか探っているようだった。
「逆に、君はなんで死のうと思ったのー?」
その質問に、ケイさんは逆に問い返した。
「……別に、その方がいいと思っただけですけど」
「君は自分の命を何だと思ってるの?ずっと見てきたけど、まったく大事にしてるようには見えない」
「…………」
スズエさんは黙り込んでしまう。……答えるつもりはないようだ。
「……まぁ、君が何を考えていてもいいけどさ」
それを見ていたケイさんは小さくため息をつく。
「せめて、君を信じている人の手は握ってもいいと思うよ。君が大人を信用出来ないのはよく分かる。でも……たまには、信じてみてもいいんじゃないかなー」
チラッとボクとエレンさんを見ながら、彼は言った。少しして、彼女がようやく口を開く。
「……私、信じて希望を持って裏切られた時に絶望するぐらいなら、最初から希望を持たない方が裏切られた時に傷つかないって思っていました」
「うん」
「……きっと、そうするしか自分の心を守る術がなかったんだと思います。でも……」
彼女はギュッと、拳を握る。
「……本当は、信じたい。子供っぽく甘えたいし、頼りたかった……」
小さく呟くその言葉は、怯えた小さな子供のものだった。
「それだったら、頼ったらいいよ。少なくとも俺やユウヤは絶対助けるし、エレンだって君を大事にしてくれているんだからさ」
その小さい肩に手を置きながらそう言われた彼女は泣きそうになっていた。
転んで泣いている子がいたの。だから私、自分の血でその子の怪我を治したんだ。痛かったけど、この子の怪我が治るならって我慢したの。
……でも、その子は私を見てこう言ったの。「化け物」って。
血を垂らしただけで傷が治るわけない。だから人間じゃないって。そう言われて、私は本当に悲しくなった。その子のためにしたのになんでそんなことを言われないといけないのだろうって泣いてしまった。
自分でも気づいていたよ、普通の人間じゃないなんてことは。でも私にとっては、それが「当たり前」だったから普通が分からなかった。
そんな中、祖父母とおじが亡くなった。暗所恐怖症や、言っていなかったけれど無痛病やら失感情症になったのも、この時だった。引きこもりになってしまった私を、ユキナさんって言うカウンセリングの先生がシルヤやアイトと一緒に寄り添ってくれた。憶知家のおばさん以外では、唯一信頼出来る大人だよ。
この時からだったかな?他人と関わり合いになろうと思わなくなったのは。もう周りの人が敵に見えてしまって、嫌になったんだ。
小学生に入学した時、最初はよかったけれど私はギフテッドで基本的に何でも出来たから、影で先生から「化け物」だとか「子供っぽくない」とか、いろいろ言われた。それを知った時、あぁこの人達も信じちゃいけない人達だって分かった。
だから、私はシルヤを守らないといけない。……シルヤは私とは違って化け物じゃないから。双子だって知られたら、きっとシルヤだって傷つけられるから。
大人は頼れない。ユキナさんや憶知家のおばさんだって、すぐには動けないから、私が強くならなきゃいけない。
大丈夫、私は一人でも戦える。誰かを守るためなら、何でも捨ててやる。
だって、私にはもう失うものすらないのだから。
それを聞いて、ボクはようやく思い知った。あぁ、彼女は常に孤独で、たった一人で戦うしかなかったと。
「ユウヤさんとエレン兄さんはアイトから聞いたこともあって、信用出来ますけど……正直、ほかの人達はいまだに信じることは出来ません」
はっきり言い切る彼女にケイさんは「それでいいよー」と微笑んだ。
「つらかったね。それじゃあ、確かに大人を信用することは難しいや」
「……怒らないんですか?」
「そんなわけないじゃないか。俺だって、そんなことされたら信用出来ないと思うなー」
「…………」
スズエさんはうつむく。
「……あの、一つだけ質問していいですか?」
静かに尋ねる彼女にボク達は頷いた。
「なんで、私を助けたんですか?」
「え?」
「あのまま、見捨てたら死んでいたでしょう?あなた達にとってもその方がよかったのに」
冷たく、何も映っていないその瞳はどこか探っているようだった。
「逆に、君はなんで死のうと思ったのー?」
その質問に、ケイさんは逆に問い返した。
「……別に、その方がいいと思っただけですけど」
「君は自分の命を何だと思ってるの?ずっと見てきたけど、まったく大事にしてるようには見えない」
「…………」
スズエさんは黙り込んでしまう。……答えるつもりはないようだ。
「……まぁ、君が何を考えていてもいいけどさ」
それを見ていたケイさんは小さくため息をつく。
「せめて、君を信じている人の手は握ってもいいと思うよ。君が大人を信用出来ないのはよく分かる。でも……たまには、信じてみてもいいんじゃないかなー」
チラッとボクとエレンさんを見ながら、彼は言った。少しして、彼女がようやく口を開く。
「……私、信じて希望を持って裏切られた時に絶望するぐらいなら、最初から希望を持たない方が裏切られた時に傷つかないって思っていました」
「うん」
「……きっと、そうするしか自分の心を守る術がなかったんだと思います。でも……」
彼女はギュッと、拳を握る。
「……本当は、信じたい。子供っぽく甘えたいし、頼りたかった……」
小さく呟くその言葉は、怯えた小さな子供のものだった。
「それだったら、頼ったらいいよ。少なくとも俺やユウヤは絶対助けるし、エレンだって君を大事にしてくれているんだからさ」
その小さい肩に手を置きながらそう言われた彼女は泣きそうになっていた。
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