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六章
彼女の中にある記憶
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それにしても、と思う。
スズエさんは、本当にただ巻き込まれてしまっただけだということは分かったけれど……。
「え、俺達……どこかで会ったこと、あった……?」
レイさんが呟く。
彼女は目を伏せ、「……覚えていないなら、それでいいですよ」と答えた。
「よ、よくはないでしょう。せめてどこで会ったのかとか、それだけでも……」
カナクニ先生の言葉にスズエさんは小さくため息をつき、
「……ハナさんとカナクニ先生は、美術館で出会いましたね。白野画伯の絵を見ていました。それが去年の夏ごろ……実際に、行っていますよね?」
「……えぇ、確かに私達は他の教え子達を一緒に行きましたが……」
「あの時、私は確か「白野画伯には黒い噂がある」と話した気がします」
そんなところまで覚えているの?と思うけど作り話ってわけでもなさそうだ。事実、カナクニ先生達も実際に行ったらしいし。
「はぁ……もし全員と会うことがあいつらの目論見通りだとしたら完全に手のひらの上で踊らされていたってことだね……」
頭を抱えながら、スズエさんは呟く。
「……みんなを傷つけるぐらいなら、会わなければよかった……」
小さく紡いだ言葉は、後悔。それを聞いて、胸を締めつけられてしまった。
決して、彼女が悪いわけではない。でも……彼女は自分を責めていた。
「ごめんなさい、私が会わなかったらきっと……」
「そんなことないです!」
彼女の言葉を否定したのはキナちゃんだった。
「スズエさんはずっと私達姉妹を守ろうとしてくれていたんでしょ?……思い出したの、お姉ちゃんから、何回もスズエさんのこと……」
「…………」
「お姉ちゃん、スズエさんがどれだけすごい先輩かいつも語ってくれたんですよ。……そんな人になりたいって思ったんです」
「……ナナミが、そんなことを……」
スズエさんは腕で目元を隠した。何かを耐えるように。そんな彼女の背中をキナちゃんはさする。
「……だから、もう謝らないでください。むしろ、謝らないといけないのはわたしです。スズエさんはずっとわたしを守ろうとしてくれていたのに振り払って……」
「そ、そうニャ。ぼくもごめんなさいニャ……」
フウ君もスズエさんに近付いてその袖を掴んだ。本当に、スズエさんは小さい子達に好かれている。
彼女は優しく二人の頭を撫でていた。その瞳はいつくしみ深く、優しいものだった。
ここに集められた時……私は絶望した。
私は彼らを知っているのに、みんなは私のことを覚えている様子がない。エレン兄さんとユウヤさんは知っているようだったけど、それはきょうだいや守護者という関係だったからだ。
(……それなら、何も言わない方がいい……)
その方がきっと、傷つかないだろうから。
皆には私を疑ってもらわないといけない。……私を殺したいと思うほどの憎悪を抱いてもらわないといけない。でも、彼らは優しい。私の記憶があったら彼らはためらってしまう。そうなるぐらいならその方がずっといい。
弟の心配そうな顔を見て胸を締め付けられる。
(この子だけは……絶対に守ってみせる)
瞳に映る未来を見て、絶望はするけれど。この子のためならば強くなれる。そのことを誰にも知られないように、唇を噛みながら心に誓った。
スズエさんは、本当にただ巻き込まれてしまっただけだということは分かったけれど……。
「え、俺達……どこかで会ったこと、あった……?」
レイさんが呟く。
彼女は目を伏せ、「……覚えていないなら、それでいいですよ」と答えた。
「よ、よくはないでしょう。せめてどこで会ったのかとか、それだけでも……」
カナクニ先生の言葉にスズエさんは小さくため息をつき、
「……ハナさんとカナクニ先生は、美術館で出会いましたね。白野画伯の絵を見ていました。それが去年の夏ごろ……実際に、行っていますよね?」
「……えぇ、確かに私達は他の教え子達を一緒に行きましたが……」
「あの時、私は確か「白野画伯には黒い噂がある」と話した気がします」
そんなところまで覚えているの?と思うけど作り話ってわけでもなさそうだ。事実、カナクニ先生達も実際に行ったらしいし。
「はぁ……もし全員と会うことがあいつらの目論見通りだとしたら完全に手のひらの上で踊らされていたってことだね……」
頭を抱えながら、スズエさんは呟く。
「……みんなを傷つけるぐらいなら、会わなければよかった……」
小さく紡いだ言葉は、後悔。それを聞いて、胸を締めつけられてしまった。
決して、彼女が悪いわけではない。でも……彼女は自分を責めていた。
「ごめんなさい、私が会わなかったらきっと……」
「そんなことないです!」
彼女の言葉を否定したのはキナちゃんだった。
「スズエさんはずっと私達姉妹を守ろうとしてくれていたんでしょ?……思い出したの、お姉ちゃんから、何回もスズエさんのこと……」
「…………」
「お姉ちゃん、スズエさんがどれだけすごい先輩かいつも語ってくれたんですよ。……そんな人になりたいって思ったんです」
「……ナナミが、そんなことを……」
スズエさんは腕で目元を隠した。何かを耐えるように。そんな彼女の背中をキナちゃんはさする。
「……だから、もう謝らないでください。むしろ、謝らないといけないのはわたしです。スズエさんはずっとわたしを守ろうとしてくれていたのに振り払って……」
「そ、そうニャ。ぼくもごめんなさいニャ……」
フウ君もスズエさんに近付いてその袖を掴んだ。本当に、スズエさんは小さい子達に好かれている。
彼女は優しく二人の頭を撫でていた。その瞳はいつくしみ深く、優しいものだった。
ここに集められた時……私は絶望した。
私は彼らを知っているのに、みんなは私のことを覚えている様子がない。エレン兄さんとユウヤさんは知っているようだったけど、それはきょうだいや守護者という関係だったからだ。
(……それなら、何も言わない方がいい……)
その方がきっと、傷つかないだろうから。
皆には私を疑ってもらわないといけない。……私を殺したいと思うほどの憎悪を抱いてもらわないといけない。でも、彼らは優しい。私の記憶があったら彼らはためらってしまう。そうなるぐらいならその方がずっといい。
弟の心配そうな顔を見て胸を締め付けられる。
(この子だけは……絶対に守ってみせる)
瞳に映る未来を見て、絶望はするけれど。この子のためならば強くなれる。そのことを誰にも知られないように、唇を噛みながら心に誓った。
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