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六章
それは逆転の兆し……?
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朝、ボクは部屋で一人パソコンを触っていると誰かが入ってきた。エレンさんかタカシさんだろうかと思って顔をあげると、そこにはボクと同じ顔があった。
「……シンヤ……?」
身構えるけど、彼はボクに近付いたかと思ったら抱きしめてきた。
「……え?」
「すまない、ユウヤ……」
突然謝罪され、混乱してしまう。兄は操られていたハズなのに、なんで……、
「……スズエが、わざわざ助け出してくれたんだよ。ボクなんて、見捨ててしまえばいいのに……」
「スズエさんが?」
「……アイトに頼み込んだんだろうな。あいつの両親の目をかいくぐってボクに接してきたんだ」
あの子らしい、と思ってしまった。スズエさんは助けられるなら、どんな人でも救い出すような優しすぎる子だ。
兄さんはキョロキョロと周囲を見て、「少しいいか?」と聞かれた。頷くと、彼は椅子に座る。
「……なぁ、覚えているか?小さい時の約束……」
「もちろんだよ。……スズエさんを絶対に守る、でしょ?」
まだ兄さんが殺される前、父親に連れられてスズエさん達と会ったことがある。スズエさんを初めてみた時……この子を、絶対に守り切ろうと幼いながらに兄とともに誓った。
「お前は、その誓いをずっと守っていたのにな……」
「仕方ないよ。スズエさんだって、兄さんを許してくれたんだろ?」
「……あぁ、あの時の純粋で優しい笑顔でな」
目の前の兄は自嘲する。……兄さんも、スズエさんのことが大好きなのは知っている。だからこそ彼女の言葉は響いたのだろう。
それに、彼女には傍にいてくれるだけで人々の心を癒す力がある。アイトも、その力のおかげで荒んでいた心を救われたほどに。
「なぁ、ユウヤ」
「どうしたの?」
「……本当にすまなかった。何回謝っても許されることじゃないが……」
「だったら、スズエさんに謝ってよ。あの子は本当に巻き込まれただけなんだからさ」
「何回も謝った。……あいつは優しすぎる」
もっと怒ってくれた方が気がすむのに……と兄さんは目を伏せてしまった。兄の気持ちも分かる、操られていたとはいえ危害を加えてしまったのだから。ボクだって同じように怒ってほしいって思う。
「……でも、ボクも許すかな」
「ユウヤ?」
「だって、兄さんは何も悪くないじゃん。……事情を知っているのに怒るほど、ボクだって鬼じゃない」
「あのなぁ……世の中にはやっていいことと悪いことがあるだろ?いくら幼い頃に殺されて、利用されていたからって言っても」
「だからだよ。利用されていたって分かったからスズエさんもこれ以上怒らなかったんだよ。……そうだよね?スズエさん」
ボクが部屋の外に向かって声をかけると、控えめに扉が開いて茶髪の少女が入ってきた。
「……なんで気付いたんですか?」
「気配を感じ取ったからね、すぐに気付いたよ。……ありがとう、兄さんを助けてくれて」
スズエさんの頭を撫でると、彼女は頬を染めながら微笑んだ。兄さんも不器用ながらも優しく頭を撫でていた。
「でも、なんでボク、正気に戻ったんだ?人形なのに……」
「……シンヤ、脈を確認してごらん?」
スズエさんのその言葉に兄さんが目を丸くして手首を確認する。そして、
「……え、脈が、ある……?まさか……?」
戸惑ったような声を出す兄に、スズエさんはただ小さく笑うだけだった。
――あぁ、人間として蘇らせてくれたんだ……。
すぐに悟る。祈療姫には、死者さえ蘇らせるほどの力があるのだ。その生まれ変わりである彼女にだって、力があってもおかしくない。
「スズエ、お前……」
シンヤも何か言おうとしていたけど、そのままスズエさんは部屋から出てしまった。
私がユウヤさん達の部屋から出ると「スズエ」とエレン兄さんが声をかけてきた。
「……兄さん……」
「スズエ、よかったのですか?」
きっと、シンヤのことだろう。私は「うん。ユウヤさんにはお世話になってるしシンヤも利用されてただけだし、ね」と答える。
「本当にスズエは優しいですね」
「別に、優しくないよ。出来ることをしただけだしね」
「フフッ。そういうところが優しいんですよ」
兄に頭を撫でられ、私は静かに目を閉じた。
「……シンヤ……?」
身構えるけど、彼はボクに近付いたかと思ったら抱きしめてきた。
「……え?」
「すまない、ユウヤ……」
突然謝罪され、混乱してしまう。兄は操られていたハズなのに、なんで……、
「……スズエが、わざわざ助け出してくれたんだよ。ボクなんて、見捨ててしまえばいいのに……」
「スズエさんが?」
「……アイトに頼み込んだんだろうな。あいつの両親の目をかいくぐってボクに接してきたんだ」
あの子らしい、と思ってしまった。スズエさんは助けられるなら、どんな人でも救い出すような優しすぎる子だ。
兄さんはキョロキョロと周囲を見て、「少しいいか?」と聞かれた。頷くと、彼は椅子に座る。
「……なぁ、覚えているか?小さい時の約束……」
「もちろんだよ。……スズエさんを絶対に守る、でしょ?」
まだ兄さんが殺される前、父親に連れられてスズエさん達と会ったことがある。スズエさんを初めてみた時……この子を、絶対に守り切ろうと幼いながらに兄とともに誓った。
「お前は、その誓いをずっと守っていたのにな……」
「仕方ないよ。スズエさんだって、兄さんを許してくれたんだろ?」
「……あぁ、あの時の純粋で優しい笑顔でな」
目の前の兄は自嘲する。……兄さんも、スズエさんのことが大好きなのは知っている。だからこそ彼女の言葉は響いたのだろう。
それに、彼女には傍にいてくれるだけで人々の心を癒す力がある。アイトも、その力のおかげで荒んでいた心を救われたほどに。
「なぁ、ユウヤ」
「どうしたの?」
「……本当にすまなかった。何回謝っても許されることじゃないが……」
「だったら、スズエさんに謝ってよ。あの子は本当に巻き込まれただけなんだからさ」
「何回も謝った。……あいつは優しすぎる」
もっと怒ってくれた方が気がすむのに……と兄さんは目を伏せてしまった。兄の気持ちも分かる、操られていたとはいえ危害を加えてしまったのだから。ボクだって同じように怒ってほしいって思う。
「……でも、ボクも許すかな」
「ユウヤ?」
「だって、兄さんは何も悪くないじゃん。……事情を知っているのに怒るほど、ボクだって鬼じゃない」
「あのなぁ……世の中にはやっていいことと悪いことがあるだろ?いくら幼い頃に殺されて、利用されていたからって言っても」
「だからだよ。利用されていたって分かったからスズエさんもこれ以上怒らなかったんだよ。……そうだよね?スズエさん」
ボクが部屋の外に向かって声をかけると、控えめに扉が開いて茶髪の少女が入ってきた。
「……なんで気付いたんですか?」
「気配を感じ取ったからね、すぐに気付いたよ。……ありがとう、兄さんを助けてくれて」
スズエさんの頭を撫でると、彼女は頬を染めながら微笑んだ。兄さんも不器用ながらも優しく頭を撫でていた。
「でも、なんでボク、正気に戻ったんだ?人形なのに……」
「……シンヤ、脈を確認してごらん?」
スズエさんのその言葉に兄さんが目を丸くして手首を確認する。そして、
「……え、脈が、ある……?まさか……?」
戸惑ったような声を出す兄に、スズエさんはただ小さく笑うだけだった。
――あぁ、人間として蘇らせてくれたんだ……。
すぐに悟る。祈療姫には、死者さえ蘇らせるほどの力があるのだ。その生まれ変わりである彼女にだって、力があってもおかしくない。
「スズエ、お前……」
シンヤも何か言おうとしていたけど、そのままスズエさんは部屋から出てしまった。
私がユウヤさん達の部屋から出ると「スズエ」とエレン兄さんが声をかけてきた。
「……兄さん……」
「スズエ、よかったのですか?」
きっと、シンヤのことだろう。私は「うん。ユウヤさんにはお世話になってるしシンヤも利用されてただけだし、ね」と答える。
「本当にスズエは優しいですね」
「別に、優しくないよ。出来ることをしただけだしね」
「フフッ。そういうところが優しいんですよ」
兄に頭を撫でられ、私は静かに目を閉じた。
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