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第百二十七話 城へ向かって

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 その日はとてもよく晴れた日だった。
 昨日の夜は家族で最後に過ごす日だった。
 努めて明るく過ごし、最後はエルの手作りご飯で締めくくった。
 夜は初めてかもしれないが、家族で並んで眠った。
 ファニーはとても幸せそうに眠りについた。

「おはよう。これから、あちらの家に訪問する予定だ。忘れ物ないようにね」

 サイリールの言葉に全員が頷いた。
 ファニーだけはやはり少し沈んでいる。

 ファニーと過ごした期間はたったの3年と少しだ。
 それでも心の底から愛していたし、濃密な期間だったと思う。
 ファニーを悲しませたり、怒らせてしまったりもしたが、最後には仲直りも出来たし絆は強くなったと思う。

 今でも、本当は連れて帰りたい。
 セイ達のおかげで人間としての幸せを掴ませる事は可能になる。
 だけど、ファニーの母に頼まれた。
 ファニーの血を分けた本当の父親だっている。
 それに平民ではなく貴族の子女として生活が出来るだろう。

 でも言葉にすればする程、なんだか何か言い訳をしているように思えてしまう。
 これ以上は考えるのをやめよう。
 ファニーを連れ帰りたくなってしまう。
 彼女の選択の幅を狭めたくはないのだ。

 だけども、彼女が苦痛を味わうのならば、父親が彼女を愛さないのならば、エルが連れ出す事に決まっている。
 その後は僕の命を賭けて必ず彼女を守り通そう。

 そんな決意をして、家族と共に、サイドス辺境伯家へと向かった。
 ファニーが貴族の家で困らないように、貴族教育だってちゃんとしている。
 今後もエルがその教育を継続していく予定だ。

 領主の屋敷まではもうすぐだ。
 しかし道中の検問でやや時間を取られる。
 さすがに領主の屋敷までの道のりだけあってしっかりと作られている。

 街の一番北にそびえる、立派な城。
 煌びやかな城というわけではなく、堅牢な印象を受ける。
 城の周辺はそこそこ広く場所が取られているようで、立派な壁も作られている。
 城の壁の外には辺境伯に仕える貴族などが住み、その貴族街を囲うように第一の壁がある。
 その壁の外には、裕福な者が住む家があり、そこで第二の壁がある。
 さらに、その外側に平民達が住んでいるのだ。
 第一、第二程ではないが、きちとんと平民達が住む所も壁で囲われている。

 今は裕福な家の第二の壁の部分の検問を待っている。
 前には立派な馬車が止まっている。
 その馬車の検問がすめば、こちらの番になるだろう。
 一応サイドス辺境伯家からは通行書を受け取ってはいるので問題はないと思うが。

 前の馬車の検問が終わり、こちらの番となった。
 ここに来るような馬車ではないせいか、兵士の態度も硬い気がする。
 何用で来たのかと問われたので、サイドス辺境伯家の息女をお連れしていると答え、通行書を見せた。
 すでに通達は来ていたのか、通行書をあらためた兵士はそのまま通してくれた。

 サイリールは軽く礼をするとそのまま馬車を進めた。
 次は第一の壁の場所であろう。貴族街に入る場所だ。

 貴族街の門につくと、貴族用の門とその他の門に分かれている。
 その他の門へと進み、順番を待つ。
 物資の納品だろうか、何か樽や袋を乗せた荷馬車が多い。

 そんな荷車の検問をじっと待った。
 1時間程経っただろうか、やっと順番が回ってきた。
 やはりこちらでも同じような質問をされ、同じように答え、通行書を見せた。
 通達はあったようだが、こちらでは更にしっかりと調べられた。
 それでも最終的には通ってよしと言われたので馬車を進めていく。

 そしてやっと目的地である、サイドス辺境伯家の城へと辿り着いた。
 立派な大きな門の横に小さい普通の門がある。
 そこに、立派な鎧を着た騎士だろうか?
 周りの兵士も畏まっているように見えるし、鎧も格段に立派である。
 そんな騎士らしき者がこちらを見て立っていた。

 迎えの者だろうか?と予測を立てつつゆっくりとそちらへ馬車を進めていった。
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