25 / 31
追放少女と限界
しおりを挟む
斬って、斬って、斬って、斬った。
足元には、無数の魔物の骸。
歩くたびに、粘つく血液が靴裏にまとわりつく。
落下してから何時間経過したか、把握はできていないが。
疲労は、澱のように蓄積していた。
それでも。
(まだ……進まなきゃ)
その意思だけを頼りに、凪咲は刀を振るい続けた。
途中、わずかに生き延びた精鋭冒険者たちと遭遇することもあった。
情報交換をした後、彼らは彼女の疲弊した様子を案じたが、凪咲は首を振りすぐに別れた。
1人で戦う必要があった。
多分それだけが自分の存在意義だから。
多分それだけが誰も傷つけない方法だから。
巨大蝙蝠を切り伏せ、硬い甲殻を持つ蟹型のモンスターを両断した瞬間。
「パキン」
鋭い音とともに、愛用の刀がへし折れた。
(……師匠に怒られるな)
そんな場違いな思考が、ぼんやりと頭を過ぎる。
無意識のまま動きすぐに近くで倒れていた冒険者の剣を拾う。
だが、手に馴染まない。
東方で鍛えられた「刀」と、王国の「剣」は全く異なる。
刀身の反り、重心の位置、刃の感覚――すべてが違った。
それでも、凪咲は作業のように剣を振った。
振らなければ、いけない。
斬らなければいけない。
それだけが。
「おねえちゃん!」
ミナの声で、ようやく自分が植物型の魔物が自分に噛みつかれようとしていたことに気づき、倒れるようにして回避。
身を伏せた状態のまま、一瞬でそれを斬り倒す。
(まずい)
思考が鈍い。
手足が重い。
視界がぐにゃりと歪む。
軽い傷ならポーションで塞げる。
だが、失った血液は、戻らない。
何度も戦い、何度も裂かれ、流した血が、確実に彼女を蝕んでいた。
「……まだ」
自らの頬を叩き、気合を入れる。
だが、その意志も空しく、一歩踏み出すと同時に凪咲は崩れるように地面に倒れた。
ぼんやりとした意識の中で。
「おねえちゃん、だいじょうぶ、だいじょうぶだからね!」
ミナが、ぐにゃりとした体で必死に凪咲を引きずっているのが見えた。
細い腕で、懸命に。
自分よりずっと小さな存在が、必死に助けようとしている。
(……ミナ……)
後ろから、魔物たちの足音が迫る。
このままでは追いつかれ、ふたりとも喰い尽くされるだろう。
凪咲は、力を振り絞り、かすれた声で告げた。
「……ミナ……いいから……逃げて……」
「やだっ」
ミナは泣きながら、凪咲を引きずり続けた。
(せめて、この子だけでも)
そんな願いを最後に、凪咲の意識は、闇に沈んでいった。
最後にこんな声が聞こえた。
「大丈夫だから、おねえちゃん」
その声は不思議と安らかだった。
足元には、無数の魔物の骸。
歩くたびに、粘つく血液が靴裏にまとわりつく。
落下してから何時間経過したか、把握はできていないが。
疲労は、澱のように蓄積していた。
それでも。
(まだ……進まなきゃ)
その意思だけを頼りに、凪咲は刀を振るい続けた。
途中、わずかに生き延びた精鋭冒険者たちと遭遇することもあった。
情報交換をした後、彼らは彼女の疲弊した様子を案じたが、凪咲は首を振りすぐに別れた。
1人で戦う必要があった。
多分それだけが自分の存在意義だから。
多分それだけが誰も傷つけない方法だから。
巨大蝙蝠を切り伏せ、硬い甲殻を持つ蟹型のモンスターを両断した瞬間。
「パキン」
鋭い音とともに、愛用の刀がへし折れた。
(……師匠に怒られるな)
そんな場違いな思考が、ぼんやりと頭を過ぎる。
無意識のまま動きすぐに近くで倒れていた冒険者の剣を拾う。
だが、手に馴染まない。
東方で鍛えられた「刀」と、王国の「剣」は全く異なる。
刀身の反り、重心の位置、刃の感覚――すべてが違った。
それでも、凪咲は作業のように剣を振った。
振らなければ、いけない。
斬らなければいけない。
それだけが。
「おねえちゃん!」
ミナの声で、ようやく自分が植物型の魔物が自分に噛みつかれようとしていたことに気づき、倒れるようにして回避。
身を伏せた状態のまま、一瞬でそれを斬り倒す。
(まずい)
思考が鈍い。
手足が重い。
視界がぐにゃりと歪む。
軽い傷ならポーションで塞げる。
だが、失った血液は、戻らない。
何度も戦い、何度も裂かれ、流した血が、確実に彼女を蝕んでいた。
「……まだ」
自らの頬を叩き、気合を入れる。
だが、その意志も空しく、一歩踏み出すと同時に凪咲は崩れるように地面に倒れた。
ぼんやりとした意識の中で。
「おねえちゃん、だいじょうぶ、だいじょうぶだからね!」
ミナが、ぐにゃりとした体で必死に凪咲を引きずっているのが見えた。
細い腕で、懸命に。
自分よりずっと小さな存在が、必死に助けようとしている。
(……ミナ……)
後ろから、魔物たちの足音が迫る。
このままでは追いつかれ、ふたりとも喰い尽くされるだろう。
凪咲は、力を振り絞り、かすれた声で告げた。
「……ミナ……いいから……逃げて……」
「やだっ」
ミナは泣きながら、凪咲を引きずり続けた。
(せめて、この子だけでも)
そんな願いを最後に、凪咲の意識は、闇に沈んでいった。
最後にこんな声が聞こえた。
「大丈夫だから、おねえちゃん」
その声は不思議と安らかだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに
にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】
台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う!
この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。
空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。
台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、
誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。
ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、
先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。
ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、
ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……?
史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。
ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。
空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる