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仮面を被った人外
知り合いの彼女が宇宙人かもしれないので、皆で突ってみた。
しおりを挟む麦茶を飲んでいた蓮くんがむせる。楓のことが頭に浮かぶ。
「その好きな人の写真持ってたりする?」
一裕はのろけ顔でスマホをいじくっている。
「この子」
一裕のスマホに映っていたのは、ごく普通の女子高生だった。
「いつ出会ったんだ。」
蓮くんがむせて咳をしながら尋ねる。
「先週。俺の一目ぼれ。」
真っ赤な顔をした一裕を前に圭吾くんたちは戸惑いを隠せないでいる。
「楓くん、もう生まれてくるの?」
「それはまだだよ」
何かが動き出している。
「なんていう名前の人?」
「へへっ、翠ちゃん」
一裕が次から次へと翠さんとのツーショットを自慢げに私たちに見せる。
「これ良かったら」
「あ、恐れ入ります」
峻兄ちゃんが麦茶を一裕の前に置いた。
二人で同じパフェを頼んで食べている写真。二人の陰でハートを作っている写真。夕焼けを背景に翠さんの後ろ姿を撮った写真もある。一裕は心の底から幸せそうな顔をしている。
「私、翠さんに会いたい」
峻兄ちゃんが圭吾くんとりこちゃんを自分の部屋に連れて行った。圭吾くんは最後まで私たちの方を気にしながら、階段を上っていった。
「俺も会ってみたい」
蓮くんも写真の中の翠さんを見ている。
「な?可愛いだろ…取るなよ」
「取らねーよ」
翠さん。あなたはいったい誰。
「今度の土曜日か日曜日空いてる?ダブルデートしようよ」
一裕は嬉しさが隠し切れず、ニヤニヤしながらスマホで予定を確認している。その日は塾があるけど。休むって連絡しよう。
「お?」
一裕が麦茶のコップを片手に私たちの後ろを見ている。振り返ると、圭吾くんが階段の陰に隠れて私たちの様子を伺っていた。
「圭吾くん…」
私が呼びかけると、圭吾くんは逃げるように峻兄ちゃんの部屋に戻っていった。
のろけ話は1時間くらい続いて、満足したのか一裕は麦茶を綺麗に飲み干して帰っていった。家の中が急に静かになる。私は一裕が飲み干したコップをシンクに持っていって洗う。
「出てきてえーぞ、圭吾」
階段の方を見ると、圭吾くんはまた同じように私たちの様子を見ていた。圭吾くんは蓮くんに呼びかけられると、体をビクッとさせて、もじもじしながら階段の陰から出てきた。峻兄ちゃんの低い声とりこちゃんのはしゃぐ声が二階から聞こえる。
「気になるか、あいつが」
「うん…」
「翠さんって人に会ってみるか」
「…うん…」
圭吾くんの眼が泳いでいた。何が起きているのかが整理できていないみたいだ。私はふとカレンダーを見る。圭吾くんたちを家に連れてきてから一日。あと二日で両親が帰ってくる。
「蓮くん、この子達、どうしよう」
蓮くんは壁の時計を見る。
「…俺もそろそろ帰らんと、母さんに怒られそうやな。圭吾」
圭吾くんが顔を上げる。
「お前、ここから帰りたいか」
「…いやだ、みんなと一緒にいたい…」
二階から聞こえるりこちゃんの楽しそうな笑い声がリビングに響いている。
蓮くんが自転車で帰っていった。
「座りな」
「うん…」
元気のない圭吾くんを台所の椅子に座らせて、とりあえず麦茶を前に置く。圭吾くんは、それを一口だけ飲んで黙りこくってしまった。
ピロン
蓮くんからメール。
『朗報。俺の両親も明日から長期出張で2週間いません。あとしばらくはうちで預かれます』
「あれ、蓮お兄ちゃんは」
りこちゃんが二階から峻兄ちゃんの手を引いて降りてきた。
「圭吾くん、りこちゃん。今度は蓮お兄さんの家に行くよ」
翌日の夜、二人を蓮くんの家に届けた。その翌日、両親が帰ってきた。
「お母さん、校外宿泊学習があるの忘れてた。明日から2週間行ってくるね」
私は見え透いた嘘をついた。どうしてもっと早く言わないのと怒られたが、嘘だとは幸いバレなかった。
翌朝、私は蓮くん宅へ向かった。
「佳奈美」
峻兄ちゃんが私を呼び留める。
「何かあったらすぐ俺に連絡せい」
「うん」
私たちが翠さんに会うまで、あと1週間。
カシャン
私は自転車にまたがった。
とうとう翠さんと会う日が来た。圭吾くんは朝からそわそわして落ち着かない。りこちゃんは、そんな圭吾くんを見てそわそわし始める。かくいう私たちも緊張している。蓮くんは朝から何度も貧乏ゆすりをしている。私も手汗が止まらない。
ピーンポーン
一裕がインターホンを鳴らした。
「行こうよ!」
一裕のハイテンションが異様に目立つ。私たち四人は玄関へ向かった。
「うしっ、行くか」
蓮くんはそう言って玄関のドアを開けた。
翠さんとは二駅離れたところにあるショッピングモールで会うことになっている。ゲームセンターや美味しいレストランが大量にあるので、主婦よりも学生の方が多い場所。
「はっ、翠ちゃーん」
気づけばもうショッピングモールにいた。緊張で電車に乗った記憶が全部吹き飛んでしまった。
「会いたかったー」
目の前で一裕が翠さんに抱きついてイチャイチャし始める。
「俺ら、いったい何見せられてんだ」
私の横でりこちゃんと手をつないだ蓮くんがボソッと言った。圭吾くんは私の後ろから翠さんの姿を伺っている。
「あら?」
翠さんが私たちがいることに気付く。流れるような艶やかな黒髪が照明に照らされる。
「お友達かしら?」
翠さんは、とても、とても、私とは似ても似つかないお嬢さんだった。圭吾くんが私の後ろにサッと隠れた。
「あなたたちは…」
翠さんの妖艶な声が女の私の耳をも刺激する。
「俺らは、あんたに今抱きついている奴の友達」
翠さんが後ろから自分を抱きついている一裕にチラッと目を向けた。
「ああ」
翠さんが一裕の腕を、細くて綺麗な、透き通るような腕で優しく外した。
「お話は伺っておりますの。お会いできて嬉しいですわ」
翠さんが人形のように整った顔を圭吾くんとりこちゃんにも向けた。
「あら、可愛らしいこと」
「俺らが平民で翠さんがお姫様みたいだな」
「なんと?」
「いや、その。お綺麗だなって」
「そのお言葉、ありがたく受け取らせて頂きます」
なんか、翠さんがドレスを着ていて蓮くんが粗末な平民服を着ているような錯覚を起こした。
「さあ、皆さん、ランチでも頂くとしましょう」
一裕が軽い足取りでショッピングモール内のレストラン街がある方に歩き出した。
「そういえばお前ら、何が食べたいの」
「お嬢様に庶民が食べるようなものを無理やり食べさせるわけにはいかんだろ」
「あら、ランチはこちらでご用意いたしておりますのよ。お父様がこちらの社長を務めておりますの。」
翠さんが連れて行ってくれたのは、私達庶民が寄り付くことさえ許されない、なぜ庶民の集い場にあるのか分からない和食の高級料亭だった。
「翠さん」
蓮くんが料亭の入り口の手前で口元を引きつらせている。
「俺ら、めっちゃ庶民的な格好してるから、ここには相応しくないんじゃあ」
一体、誰が高級料亭にシャツと短パンで入りたがろうか。
「あら、何か勘違いなさっておられますのね」
翠さんが料亭に入っていく。料亭の中にいる人たちが、一斉に翠さんに頭を下げる。
「私は外装だけで判断は致しませんわ。いくら外側が豪華でも、内側がお化け屋敷なら」
翠さんはそこまで言うと、あたりに私たち以外の人間がいないことを確認するように頭を動かした。艶やかな髪がたなびく。そして一裕の顔を見て、一瞬普通の少女のような笑顔を見せると
「たまったもんじゃねえ」
と言った。蓮くんが口をあんぐりさせている。
「一裕さんの真似をしたくなりましたの」
そう言って一裕の頬を柔らかな手で触れると、一裕はゲへへとスケベに笑った。
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