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壮大な迷子探し
人外と人間が交錯した夜〜私達、虫にされてしまいました?!〜
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「俺だよー」
カマキリが死に物狂いで鎌を振る。
「あれ、佳奈美さん。可愛くなってる」
見上げると、とんでもなく大きなバットとウルフが穴の中の私たちをのぞき込んでいた。圭吾くんとりこちゃんも巨人に見える。
「テントウムシになっちゃったね、佳奈美さん」
…え?
「また人間に戻れるから」
大きなエメラルドが私たちの前に座った。山の神みたい。
「よっこらしょっと」
バットたちが入ってきた。二匹の丸まったダンゴムシと一緒に。
圭吾くんとりこちゃん?
「驚かせたらごめん、でも小さい方が便利だから」
大きな狼とワシ、コウモリと、小さなカマキリ、テントウムシ、ダンゴムシたちが一つの穴の中に一緒にいた。
「うーん…」
りこちゃんが目を覚ました。
「不思議な匂い…きゃああああ!」
りこちゃんが金切り声を上げた。
「お姉さん、お兄さん、どこー」
ダンゴムシがウロチョロしてる。可愛い。
「りこちゃん、大丈夫?」
蓮くんがダンゴムシのりこちゃんに近づく。
「虫、虫、いやあああ!」
ダンゴムシがカマキリから逃げる。
「りこちゃんも虫だよ!」
蓮くんが追いかける。りこちゃんがエメラルドの肉球と地面の隙間に隠れた。
「なあ、さすがに、ダンゴムシ目線で見たらカマキリって虫が苦手な奴じゃなくても怖いだろ」
巨大なワシの彫刻のようなバットがエメラルドをなじる。
「だってえ」
バットたちの声に気付いてダンゴムシが上の方を見ようとした。目の光った巨大な狼、コウモリ、ワシがりこちゃんをのぞき込む。ダンゴムシの身体でどうやって上を向いたのか知らないけれど、りこちゃんはまた逃げ惑い始めた。
「…は?」
あ、圭吾くんも起きた。もう一匹のダンゴムシが一連の騒動を見守っていた。ウルフが疲れた声でエメラルドに頼んだ。
「人間に戻ろう」
エメラルドが穴から出て、あたりに人間の気配がしないことを確認すると、私たちを穴の外に連れていく。それにしても、しんどすぎる。土から穴の外までが富士山、いや、エベレストのよう。
「俺、もう、死ぬ」
私の後ろを足がガクガクと折れそうになりながら登ってくる。ダンゴムシたちはすでにエメラルドが穴の外に連れ出していた。死にそうになりながらなんとか穴の外に出た。カマキリが私の後ろで死んだように倒れている。
パチ
エメラルドが瞬きすると、私たちはみんな人間の身体に戻っていた。穴を見ると、とてもちっぽけに見えた。たかがこれだけを上るのにあれだけの体力を消耗したなんて。蓮くんが虚無の表情で穴を見ていた。
「お兄さん、お姉さん」
りこちゃんも元の姿に戻っていた。
「怖い夢見た」
りこちゃんが私の首の周りに腕を巻くようにして抱きついてきた。
「僕も変な夢を見た、みんな虫になってて。バットさんとウルフさんが大きくて、知らない巨大な狼もいた」
「夢が夢じゃなかったら?」
人間姿のエメラルドが圭吾くんの背中を指でつつく。りこちゃんは私に抱きついたままエメラルドを見ている。エメラルドがりこちゃんに笑顔を見せると、戸惑った表情の圭吾くんの前で狼に変わって見せた。
「初めまして。俺、エメラルド。ウルフが俺の名付け親」
圭吾くんの瞳に、月に照らされたエメラルドの姿が反射する。
「…カッコイイ…!」
なんか、エメラルド、圭吾くんの中二病スイッチを押してしまった気がする。
圭吾くんが、憧れの俳優に握手してもらったときのように目を輝かせながらエメラルドに見惚れている。
「佳奈美さん、蓮」
エメラルドが私たちに近づいてくる。
「一回さ、俺の力なしで小さくなれるか、試してみて」
私は人間に戻っていたウルフにりこちゃんを預けた。ウルフがりこちゃんの両目を手で覆った。
「どうすればなれるの?」
エメラルドの緑の瞳が夜の雑木林の中、一点の星のように光っている。
「簡単さ、小さくなあれって。それだけ」
蓮くんの気配がしない。振り向くとカマキリがいる。私もやってみよう。
ギュン。
世界が巨大になる。海が近くに見える。
「それ、水たまりだからね」
巨大なバットが私たちを見下ろしていた。
「どうすれば大きくなれるの?」
果てしなく高い所にいるエメラルドに私は叫んだ。
「今度は、大きくなあれって」
シュン
世界がなんか窮屈に感じた。
「その能力、この先役に立つと思う」
ウルフがりこちゃんの両目から手を離しながら言った。
「人間の姿だと不便なことが多すぎるからな」
「さて」
エメラルドは人間の姿だったけれど、目は緑色に光っていた。アニメのキャラクターがそのまま出てきたよう。
「彗星に頼まれたことなんだけど…」
私たちは円になって座った。蓮くんの膝の上にりこちゃんが座ってて、圭吾くんはエメラルドの横に引っ付くようにして座っている。エメラルドが私たち一人一人の顔を確認するようにぐるりと顔を回した。しばらく考え込むように右手を顎に添えると、突如として叫んだ。
「もともとこの世界の人間じゃない人!」
「はい!」
バットがピンと手を伸ばして挙手していた。ウルフは太ももに腕を乗せたまま手だけを立てていた。りこちゃんと圭吾くんもおずおずと手を上げた。
「比率が偏ってるな」
七人いる中で、この世界に元々いたのは蓮くんと私の二人だけ。彗星さんも含めると、四対一になってしまう。
「人間ってさ」
エメラルドが満月を見上げている。
「俺らのこと全然理解しないまま、勝手に怖がってる。だけど、逆もきっとそう。俺…地球の女はみんな…」
そこまで言うと、エメラルドは私の方を見て、小さくごめんと謝った。
「俺、地球の女はみんな、ブッサイクだって思ってました。すみません」
…殴っていい?
「でもでもでも」
エメラルドが私の目の前で両手をひらひらとさせる。
「佳奈美さんに出会った瞬間に、目の中が宇宙みたいで綺麗だなって思ったんだ」
エメラルドの瞳が本当の宝石のように輝いている。
「だから、俺たちも人間のこと、分かっていない」
エメラルドが仰向けになって倒れる。
「彗星の息子の楓って奴さ、お前らにだけ心を開いたんだろ?なんで、真っ先に母親である彗星のところに行かなかったんだろうな。お前ら人間が手掛かりなんだけど…俺らに理解を示してくれる人間っていないもんかねえ?」
エメラルドが口を尖らせてふうッと息を吐いた。
「…私の兄なら多分…大丈夫だと思います…」
エメラルドが期待の眼差しで私を見る。
「会える?」
私はスマホを取り出した。バッテリーの残量があと数パーセント。お願い。出て…。
『おう』
峻兄ちゃんの声を聴いたことがない三人がスマホから一生懸命峻兄ちゃんの声を聞き取ろうとしていた。
「峻兄ちゃんのアパートに今から行きたい」
『おう…』
実は峻兄ちゃんは先日からアパートに住み始めた。私の秘密を親から隠すために。前に峻兄ちゃんからメールが送られていた。
『危ないから迎えに行く。待ってろ。どこにいる』
「蓮くんの家の近くの雑木林の中」
『はあ?』
「早く来て、スマホの充電したい」
峻兄ちゃんが何か言いかけたけど、私はブチッと電話を切った。
峻兄ちゃんは手ぶらでやってきた。
「迷い込んで帰れなくなったんか」
りこちゃんが峻兄ちゃんの太ももにまとわりつく。
「よっ」
峻兄ちゃんが蓮くんと圭吾くんに気付く。蓮くんは軽く頭を下げた。
「おい、野生動物がおる…」
峻兄ちゃんが雑木林の奥にバットたちが息を潜めていることに気付いた。
「いや、兄ちゃん、あれは…」
奥からバットとウルフ、エメラルドが姿を現す。動物の姿。鋭い眼光。峻兄ちゃんはエメラルドに気付くと、私たちの前に両手を広げて立った。
「人間の姿で待ってたほうが良かったかな」
三人がポンと人間の姿になる。峻兄ちゃんの広げられた腕がカタカタと震えている。
「是非ともお話ししたいことがうんとありましてね」
エメラルドの緑色の光が峻兄ちゃんに注がれる。
「お宅にお邪魔していいですか」
「お名前を伺っても…」
「バット」「ウルフ」「エメラルド」
三人が戦隊ヒーローのようなポーズを組んで順番に名乗る。
「良いですよ、親御さんは…」
「あ、今はそんなのどうでもいいんで」
「連れて行ってくれますね」
峻兄ちゃんが連れて行くというよりは、峻兄ちゃんが連れていかれような形でアパートに着いた。峻兄ちゃんがアパートの鍵を開ける。
キイーッ…
引っ越したばかりの峻兄ちゃんの部屋は存外片付いていた。
「新しいお家ー」
りこちゃんが先に靴を脱いでアパートの中にトコトコと入っていった。
「佳奈美、ほれ」
リビングの電気を点けると峻兄ちゃんが充電器を貸してくれた。峻兄ちゃんが台所の低い机にみんなを座らせて、冷蔵庫の中を開けた。
「レバーあります?」
冷蔵庫には天然水とコンビニ弁当以外何も入っていないことが、台所の外の廊下で充電器をコンセントに指しているときに見えた。バットにもそれは分かるはず…。
「レバー…?買ってきて焼きましょうか」
「生でお願いします」
バットの無茶な要求に峻兄ちゃんは完全に頭を抱えてしまった。
「佳奈美のお兄さん、俺らのこと、なんやと思ってます?」
バットが冷蔵庫の扉を閉めに立ち上がった。
「野生動物が人間になったもの…?」
「惜しい」
バットたち三人は峻兄ちゃんの前に立った。
「見ててください」
峻兄ちゃんを目の前に、バットは瞳の色が紫色になって、口から鋭い犬歯が飛び出す。ウルフは真っ赤な瞳に片目だけ真っ黒な線が走って、口を大きく開けて見せた。犬歯が白く光っている。エメラルドは銀色の体毛に包まれた人型の狼になって、緑色の瞳でまっすぐに峻兄ちゃんを見る。
「吸血鬼…と…狼男…?」
「正解!」
バットが右の人差し指を立てた。
「あなたなら、俺らのことを受け入れてくれると信じています」
エメラルドの声はいつになく切実だった。
『カッコイイ…』
圭吾くんのため息交じりの声。振り向くと、峻兄ちゃんが無理やり着せたパジャマ姿のまま、寝室から出て三人の異種人間に見惚れていた。
峻兄ちゃんは数回深呼吸をした。
「俺は何をすればいいんです」
峻兄ちゃんが洗面所から赤いタオルを持ってきた。
「これで我慢してください」
そう言って峻兄ちゃんはバットとウルフの前に置いた。いや、いくらなんでも…。
「ご意見を伺いたいのです」
人間に戻ったエメラルドが峻兄ちゃんの正面に正座をした。
「俺は宇宙から来まして。彗星っていう、御宅の娘さんの友達の友達の彼女でもともと宇宙人だった俺の友人に頼まれまして、いずれその女性とお宅の娘さんの友達の友達の間に出来る子供が迷子になっているから、探しているんですけど」
「エメラルド、お前説明が下手すぎる。迷子を捜す手伝いをしてほしいんです。詳しいことは後程お伝えします」
ウルフがエメラルドの言葉を遮って、簡単に説明した。
「宇宙…子供…迷子…?」
峻兄ちゃんの頭の上に沢山のはてなマークが浮かんでいる。
「要は、人間の視点も必要ってことだ」
バットが補足した。峻兄ちゃんの渡した赤いタオルをガジガジと噛んでいる。
「俺、トマトジュース何本か買ってこようかな」
アパートの向かいに見えるコンビニに蓮くんが走って買いに行った。
「圭吾、お前は早く寝ろ」
エメラルドに目を輝かせていた圭吾くんを峻兄ちゃんが無理やり寝室に押し込んだ。
「佳奈美」
圭吾くんを寝室に押し込んで寝室の扉を片手で押さえている。扉の向こうで圭吾くんが開けようともがいていたが、数分すると諦めて眠ったのか、扉の向こうが静かになった。
「迷子の子のこと。詳しく聞かせろ」
カマキリが死に物狂いで鎌を振る。
「あれ、佳奈美さん。可愛くなってる」
見上げると、とんでもなく大きなバットとウルフが穴の中の私たちをのぞき込んでいた。圭吾くんとりこちゃんも巨人に見える。
「テントウムシになっちゃったね、佳奈美さん」
…え?
「また人間に戻れるから」
大きなエメラルドが私たちの前に座った。山の神みたい。
「よっこらしょっと」
バットたちが入ってきた。二匹の丸まったダンゴムシと一緒に。
圭吾くんとりこちゃん?
「驚かせたらごめん、でも小さい方が便利だから」
大きな狼とワシ、コウモリと、小さなカマキリ、テントウムシ、ダンゴムシたちが一つの穴の中に一緒にいた。
「うーん…」
りこちゃんが目を覚ました。
「不思議な匂い…きゃああああ!」
りこちゃんが金切り声を上げた。
「お姉さん、お兄さん、どこー」
ダンゴムシがウロチョロしてる。可愛い。
「りこちゃん、大丈夫?」
蓮くんがダンゴムシのりこちゃんに近づく。
「虫、虫、いやあああ!」
ダンゴムシがカマキリから逃げる。
「りこちゃんも虫だよ!」
蓮くんが追いかける。りこちゃんがエメラルドの肉球と地面の隙間に隠れた。
「なあ、さすがに、ダンゴムシ目線で見たらカマキリって虫が苦手な奴じゃなくても怖いだろ」
巨大なワシの彫刻のようなバットがエメラルドをなじる。
「だってえ」
バットたちの声に気付いてダンゴムシが上の方を見ようとした。目の光った巨大な狼、コウモリ、ワシがりこちゃんをのぞき込む。ダンゴムシの身体でどうやって上を向いたのか知らないけれど、りこちゃんはまた逃げ惑い始めた。
「…は?」
あ、圭吾くんも起きた。もう一匹のダンゴムシが一連の騒動を見守っていた。ウルフが疲れた声でエメラルドに頼んだ。
「人間に戻ろう」
エメラルドが穴から出て、あたりに人間の気配がしないことを確認すると、私たちを穴の外に連れていく。それにしても、しんどすぎる。土から穴の外までが富士山、いや、エベレストのよう。
「俺、もう、死ぬ」
私の後ろを足がガクガクと折れそうになりながら登ってくる。ダンゴムシたちはすでにエメラルドが穴の外に連れ出していた。死にそうになりながらなんとか穴の外に出た。カマキリが私の後ろで死んだように倒れている。
パチ
エメラルドが瞬きすると、私たちはみんな人間の身体に戻っていた。穴を見ると、とてもちっぽけに見えた。たかがこれだけを上るのにあれだけの体力を消耗したなんて。蓮くんが虚無の表情で穴を見ていた。
「お兄さん、お姉さん」
りこちゃんも元の姿に戻っていた。
「怖い夢見た」
りこちゃんが私の首の周りに腕を巻くようにして抱きついてきた。
「僕も変な夢を見た、みんな虫になってて。バットさんとウルフさんが大きくて、知らない巨大な狼もいた」
「夢が夢じゃなかったら?」
人間姿のエメラルドが圭吾くんの背中を指でつつく。りこちゃんは私に抱きついたままエメラルドを見ている。エメラルドがりこちゃんに笑顔を見せると、戸惑った表情の圭吾くんの前で狼に変わって見せた。
「初めまして。俺、エメラルド。ウルフが俺の名付け親」
圭吾くんの瞳に、月に照らされたエメラルドの姿が反射する。
「…カッコイイ…!」
なんか、エメラルド、圭吾くんの中二病スイッチを押してしまった気がする。
圭吾くんが、憧れの俳優に握手してもらったときのように目を輝かせながらエメラルドに見惚れている。
「佳奈美さん、蓮」
エメラルドが私たちに近づいてくる。
「一回さ、俺の力なしで小さくなれるか、試してみて」
私は人間に戻っていたウルフにりこちゃんを預けた。ウルフがりこちゃんの両目を手で覆った。
「どうすればなれるの?」
エメラルドの緑の瞳が夜の雑木林の中、一点の星のように光っている。
「簡単さ、小さくなあれって。それだけ」
蓮くんの気配がしない。振り向くとカマキリがいる。私もやってみよう。
ギュン。
世界が巨大になる。海が近くに見える。
「それ、水たまりだからね」
巨大なバットが私たちを見下ろしていた。
「どうすれば大きくなれるの?」
果てしなく高い所にいるエメラルドに私は叫んだ。
「今度は、大きくなあれって」
シュン
世界がなんか窮屈に感じた。
「その能力、この先役に立つと思う」
ウルフがりこちゃんの両目から手を離しながら言った。
「人間の姿だと不便なことが多すぎるからな」
「さて」
エメラルドは人間の姿だったけれど、目は緑色に光っていた。アニメのキャラクターがそのまま出てきたよう。
「彗星に頼まれたことなんだけど…」
私たちは円になって座った。蓮くんの膝の上にりこちゃんが座ってて、圭吾くんはエメラルドの横に引っ付くようにして座っている。エメラルドが私たち一人一人の顔を確認するようにぐるりと顔を回した。しばらく考え込むように右手を顎に添えると、突如として叫んだ。
「もともとこの世界の人間じゃない人!」
「はい!」
バットがピンと手を伸ばして挙手していた。ウルフは太ももに腕を乗せたまま手だけを立てていた。りこちゃんと圭吾くんもおずおずと手を上げた。
「比率が偏ってるな」
七人いる中で、この世界に元々いたのは蓮くんと私の二人だけ。彗星さんも含めると、四対一になってしまう。
「人間ってさ」
エメラルドが満月を見上げている。
「俺らのこと全然理解しないまま、勝手に怖がってる。だけど、逆もきっとそう。俺…地球の女はみんな…」
そこまで言うと、エメラルドは私の方を見て、小さくごめんと謝った。
「俺、地球の女はみんな、ブッサイクだって思ってました。すみません」
…殴っていい?
「でもでもでも」
エメラルドが私の目の前で両手をひらひらとさせる。
「佳奈美さんに出会った瞬間に、目の中が宇宙みたいで綺麗だなって思ったんだ」
エメラルドの瞳が本当の宝石のように輝いている。
「だから、俺たちも人間のこと、分かっていない」
エメラルドが仰向けになって倒れる。
「彗星の息子の楓って奴さ、お前らにだけ心を開いたんだろ?なんで、真っ先に母親である彗星のところに行かなかったんだろうな。お前ら人間が手掛かりなんだけど…俺らに理解を示してくれる人間っていないもんかねえ?」
エメラルドが口を尖らせてふうッと息を吐いた。
「…私の兄なら多分…大丈夫だと思います…」
エメラルドが期待の眼差しで私を見る。
「会える?」
私はスマホを取り出した。バッテリーの残量があと数パーセント。お願い。出て…。
『おう』
峻兄ちゃんの声を聴いたことがない三人がスマホから一生懸命峻兄ちゃんの声を聞き取ろうとしていた。
「峻兄ちゃんのアパートに今から行きたい」
『おう…』
実は峻兄ちゃんは先日からアパートに住み始めた。私の秘密を親から隠すために。前に峻兄ちゃんからメールが送られていた。
『危ないから迎えに行く。待ってろ。どこにいる』
「蓮くんの家の近くの雑木林の中」
『はあ?』
「早く来て、スマホの充電したい」
峻兄ちゃんが何か言いかけたけど、私はブチッと電話を切った。
峻兄ちゃんは手ぶらでやってきた。
「迷い込んで帰れなくなったんか」
りこちゃんが峻兄ちゃんの太ももにまとわりつく。
「よっ」
峻兄ちゃんが蓮くんと圭吾くんに気付く。蓮くんは軽く頭を下げた。
「おい、野生動物がおる…」
峻兄ちゃんが雑木林の奥にバットたちが息を潜めていることに気付いた。
「いや、兄ちゃん、あれは…」
奥からバットとウルフ、エメラルドが姿を現す。動物の姿。鋭い眼光。峻兄ちゃんはエメラルドに気付くと、私たちの前に両手を広げて立った。
「人間の姿で待ってたほうが良かったかな」
三人がポンと人間の姿になる。峻兄ちゃんの広げられた腕がカタカタと震えている。
「是非ともお話ししたいことがうんとありましてね」
エメラルドの緑色の光が峻兄ちゃんに注がれる。
「お宅にお邪魔していいですか」
「お名前を伺っても…」
「バット」「ウルフ」「エメラルド」
三人が戦隊ヒーローのようなポーズを組んで順番に名乗る。
「良いですよ、親御さんは…」
「あ、今はそんなのどうでもいいんで」
「連れて行ってくれますね」
峻兄ちゃんが連れて行くというよりは、峻兄ちゃんが連れていかれような形でアパートに着いた。峻兄ちゃんがアパートの鍵を開ける。
キイーッ…
引っ越したばかりの峻兄ちゃんの部屋は存外片付いていた。
「新しいお家ー」
りこちゃんが先に靴を脱いでアパートの中にトコトコと入っていった。
「佳奈美、ほれ」
リビングの電気を点けると峻兄ちゃんが充電器を貸してくれた。峻兄ちゃんが台所の低い机にみんなを座らせて、冷蔵庫の中を開けた。
「レバーあります?」
冷蔵庫には天然水とコンビニ弁当以外何も入っていないことが、台所の外の廊下で充電器をコンセントに指しているときに見えた。バットにもそれは分かるはず…。
「レバー…?買ってきて焼きましょうか」
「生でお願いします」
バットの無茶な要求に峻兄ちゃんは完全に頭を抱えてしまった。
「佳奈美のお兄さん、俺らのこと、なんやと思ってます?」
バットが冷蔵庫の扉を閉めに立ち上がった。
「野生動物が人間になったもの…?」
「惜しい」
バットたち三人は峻兄ちゃんの前に立った。
「見ててください」
峻兄ちゃんを目の前に、バットは瞳の色が紫色になって、口から鋭い犬歯が飛び出す。ウルフは真っ赤な瞳に片目だけ真っ黒な線が走って、口を大きく開けて見せた。犬歯が白く光っている。エメラルドは銀色の体毛に包まれた人型の狼になって、緑色の瞳でまっすぐに峻兄ちゃんを見る。
「吸血鬼…と…狼男…?」
「正解!」
バットが右の人差し指を立てた。
「あなたなら、俺らのことを受け入れてくれると信じています」
エメラルドの声はいつになく切実だった。
『カッコイイ…』
圭吾くんのため息交じりの声。振り向くと、峻兄ちゃんが無理やり着せたパジャマ姿のまま、寝室から出て三人の異種人間に見惚れていた。
峻兄ちゃんは数回深呼吸をした。
「俺は何をすればいいんです」
峻兄ちゃんが洗面所から赤いタオルを持ってきた。
「これで我慢してください」
そう言って峻兄ちゃんはバットとウルフの前に置いた。いや、いくらなんでも…。
「ご意見を伺いたいのです」
人間に戻ったエメラルドが峻兄ちゃんの正面に正座をした。
「俺は宇宙から来まして。彗星っていう、御宅の娘さんの友達の友達の彼女でもともと宇宙人だった俺の友人に頼まれまして、いずれその女性とお宅の娘さんの友達の友達の間に出来る子供が迷子になっているから、探しているんですけど」
「エメラルド、お前説明が下手すぎる。迷子を捜す手伝いをしてほしいんです。詳しいことは後程お伝えします」
ウルフがエメラルドの言葉を遮って、簡単に説明した。
「宇宙…子供…迷子…?」
峻兄ちゃんの頭の上に沢山のはてなマークが浮かんでいる。
「要は、人間の視点も必要ってことだ」
バットが補足した。峻兄ちゃんの渡した赤いタオルをガジガジと噛んでいる。
「俺、トマトジュース何本か買ってこようかな」
アパートの向かいに見えるコンビニに蓮くんが走って買いに行った。
「圭吾、お前は早く寝ろ」
エメラルドに目を輝かせていた圭吾くんを峻兄ちゃんが無理やり寝室に押し込んだ。
「佳奈美」
圭吾くんを寝室に押し込んで寝室の扉を片手で押さえている。扉の向こうで圭吾くんが開けようともがいていたが、数分すると諦めて眠ったのか、扉の向こうが静かになった。
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