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海の息
気分転換に海に行くぞ〜!!
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二人が楽しそうにそうめんを次から次へと流す。そうめんがどんどん下に溜まっていく。
「おいおい、食べなきゃ」
バットとウルフが下に溜まっているそうめんを子どもたちの麺つゆの中に入れていく。バットたちは人間として暮らしてきたから、そうめんを当然知っていたらしいけど、エメラルドはそうでもなかった。
「なんか、柔らかい糸みたいな感じ…」
峻兄ちゃんがそうめんを飲み込みながら、テレビをつけた。子供たちの喧嘩の原因となったと思われる番組が、まだ放送されていた。
小さな色とりどりの魚たちがサンゴの間をチロチロと泳ぐ姿。
ウミガメが優雅に泳ぐ姿。
甲羅の上で日の光がゆらゆらと踊っている姿。
エイが堂々と腕を広げるように小魚の群れの中を通っていく姿。
満天の星空の下、大きなクジラが海の中から勢いよく飛び跳ねる姿。
クジラの飛ばした海水の粒が、星に照らされて宝石の粒のように輝く姿。
本当だ、彗星さんの言っていた通りだ。
海って、すごく綺麗だ。
「ダイビングっていうのがあってな」
峻兄ちゃんはもう食べ終わってお椀を水でゆすいでいた。
「少しの間なら、人間だって海の中を泳げるんだ」
圭吾くんがそうめんを口に含んだまま、目を丸くして峻兄ちゃんを見た。
「そんなことしたら、死んじゃうんじゃないの?」
峻兄ちゃんが水道の水を止めて、冷蔵庫から取り出した天然水を一口飲んだ。
「道具を用意すればだけどな」
峻兄ちゃんが台所の窓を開けた。窓の向こうは田んぼだらけ。人の姿は、たまに来る散歩中の人以外ない。
「海に行くぞー!」
峻兄ちゃんが大きな声で窓から叫んだ。
「今から?でも」
峻兄ちゃんがせき込みながら窓を閉めた。
「急で悪いな。でも、お前ら全員、思いつめたような表情してる。たまには休憩しろ」
峻兄ちゃんが財布とスマホをリュックサックに入れて玄関に向かう。そうめんを不器用に食べていたエメラルドがやっと食べ終えて、シンクに麺つゆの残ったお椀を入れながらテレビに目線をやっている。
「海…か。俺も見たことないな」
蓮くんがテレビを消した。
「百聞は一見に如かずだ、エメラルド。行こう」
バットとウルフは、今度は人間姿のまま玄関の外で待っていた。二人に急かされてエメラルドは狼に姿を変えて、二人の元に走っていった。
「おい、エメラルド。やめておけ。怖がられる」
ウルフの忠告にエメラルドはしぶしぶ人間姿に戻った。
海水浴場は、彗星さんのいるショッピングモールをさらに五駅くらい離れたところにある。蓮くんは家から中学時代の水着を持ってこれた。でも、私はママとパパに校外宿泊学習に行くってごまかしちゃったから家には帰れないし、峻兄ちゃんが女性用水着を持っている訳がなかった。
「つまりは、蓮と俺以外、水着がないってことだろ」
峻兄ちゃんが電車に揺られながら財布の中のお金を確認している。
「全然心配ない」
峻兄ちゃんは財布をカバンの中にしまった。
「アルバイト代を全部財布に詰め込んできたからな。凝ったデザインのでなければ海水浴場で販売されてる」
りこちゃんと圭吾くんは電車の窓から通り過ぎていく景色を窓にへばりついて眺めている。エメラルドは二人以上にはしゃいでいる。席に座ってはいるものの、目は外の景色にくぎ付けだ。
「おいっ」
エメラルドの隣にいたバットが、自分の被っていた帽子をエメラルドに被せた。
「狼の耳を出すんじゃねえ」
ウルフが他の乗客に聞こえないようにエメラルドの人間の耳のすぐ近くでものすごく静かに叫んだ。
あ。
一裕のこと、完全に忘れてた。
「蓮くん、一裕はどうした?」
蓮くんは子供たちの様子を見ながら、電車に乗る前に買ったレモンの清涼飲料水を私の隣に座って飲んでいた。
「俺が家に水着を取りに戻ったころには家にいなくて、びっくりしてあいつに電話をかけたら、ちゃんと返事した。それにあいつ、久しぶりに家に両親が仕事から帰ってくるみたいで嬉しそうにしてた。だから、大丈夫だと思う…」
蓮くんの喉ぼとけがわずかに動いた。
海水浴場は沢山の親子連れとカップルで溢れていた。サーフボードばかりを売っている店や、マリンクラフトの店、アイスやシェイクを売っている店が、太陽の光に反射して真っ白に光る浜辺に目立って見えた。
「あそこで買うぞ」
峻兄ちゃんが私が見ていた方向とは正反対の方にザクザクと砂浜に両足を沈めながら歩いていく。
「りこ、アイス食べる」
りこちゃんが私の真後ろでアイスの看板を指さしている。
「後で買ってやる」
峻兄ちゃんは、お店の中に入っていった。バットとウルフは太陽の光から逃げるように、蓮くんに借りた一枚の大きなバスタオルで全身を覆って、肩を寄せ合いながら窮屈そうに峻兄ちゃんの後を追っていく。圭吾くんは裸足のまま、湿った砂浜にしゃがみ込んで寄り返す波と戦いながら歩いていくヤドカリを見つめていた。
「子供だけで海に近寄るな」
知らないおじさんに怒鳴られると、圭吾くんは驚いて峻兄ちゃんのいる店に走っていった。りこちゃんがそれについていく。エメラルドのグリーンの瞳が海の青色に似合っている。黒髪に少しだけ銀色の混ざった頭髪。宝石を中に宿したような瞳。エメラルドは美人なお姉さま方数人に囲まれてナンパされていたが、軽くあしらって店の方に向かって歩いて行った。
店の中には色々な水着が売られていた。蓮くんは暇そうにお店の中の自販機の飲み物を一つ一つ眺めていた。ウルフとバットも含めて、海に来たことがないメンバーが夢中で水着を選んでいる。圭吾くんは少し顔を赤くしながらビキニ姿のマネキンの方を見ていた。
「合計1万5000円になります」
峻兄ちゃんが男子陣を男子トイレに連れていく。
「佳奈美、お前はりこと一緒に女子トイレで着替えてこい」
男子陣が続々とトイレの中に入っていった。
「お着替えしよか」
私はりこちゃんの手を引いて、二人でトイレの個室に入った。少し窮屈だったけれど、昔、ママと同じことをしたのを思い出して楽しかった。私たちが着替え終わって店を出ると、峻兄ちゃんと蓮くんが先に待っていた。赤茶色の水着は案外峻兄ちゃんに似合っていたし、蓮くんはシンプルな真っ黒のスクール水着を履いていたけど、格好よく見えた。
「お、来た来た」
残りの男子が着替え終わって出てきた。紫の星雲の写真を直接印刷した水着を履いたバット。真っ黒な背景に、筆で殴り書いたような「DEAD」という真っ赤な文字がグレーの髑髏に重なったようなデザインを選んだウルフ。蛍光色の緑の生地に銀色の太いストライプが一本走ったデザインを履いたエメラルドと圭吾くん。あれ…?圭吾くんの身体が、男の子になってる?
「蓮お兄さん、佳奈美お姉さん、見て!」
圭吾くんがはじけそうな笑顔で走り寄ってきた。蓮くんの前で立ち止まると、圭吾くんは自分の上半身を両手で指さして見せた。
「エメラルドさんに男にしてもらった」
蓮くんがエメラルドを見る。エメラルドは蓮くんにウインクをして見せた。
「こっち来ーい」
峻兄ちゃんがりこちゃんを肩車して波打ち際に向かって歩き出した。りこちゃんの選んだ星柄のスカートタイプの水着が、峻兄ちゃんのうなじのあたりをヒラヒラとしていた。バットとウルフは、店で買ったらしい大きな日傘を相合傘して日陰を探して歩き出した。圭吾くんがエメラルドの手を引いて、峻兄ちゃんの後を走り出した。
「佳奈美。似合ってる」
蓮くんも圭吾くんたちの後を走ってついていく。蓮くんが走った時の風で、水色のワンピースタイプの水着の裾がフワッと捲れた。
海水浴場だからそんなに深くないけれど、りこちゃんは峻兄ちゃんが腰をしっかりと持っていてあげないと危なっかしいくらいに小さい。
「あ」
峻兄ちゃんに腰を支えられたりこちゃんが何かを指さした。
「圭吾くん、見て、おさかなー」
エメラルドと一緒にどれだけ息を止めていられるかを競っていた圭吾くんが、顔の水を両手で拭いながらりこちゃんの指さす先を見た。エメラルドはまだ潜っていた。圭吾くんとりこちゃんの前を、オレンジのピンクが混ざったような一匹の小さなまるい魚がフヨフヨと泳いでいる。圭吾くんがその魚をすくうように手を丸めた。圭吾くんの手の中で魚が窮屈そうに行ったり来たりしていた。
「おい、俺のこと無視すんなよ」
エメラルドがゲラゲラ笑いながら圭吾くんの頭をつつく。圭吾くんが魚を放して、またエメラルドと競い始めた。魚はフヨフヨと海の向こうに泳いでいった。りこちゃんがキラキラとしたつぶらな目で魚の行き先を追っていた。
「おいおい、食べなきゃ」
バットとウルフが下に溜まっているそうめんを子どもたちの麺つゆの中に入れていく。バットたちは人間として暮らしてきたから、そうめんを当然知っていたらしいけど、エメラルドはそうでもなかった。
「なんか、柔らかい糸みたいな感じ…」
峻兄ちゃんがそうめんを飲み込みながら、テレビをつけた。子供たちの喧嘩の原因となったと思われる番組が、まだ放送されていた。
小さな色とりどりの魚たちがサンゴの間をチロチロと泳ぐ姿。
ウミガメが優雅に泳ぐ姿。
甲羅の上で日の光がゆらゆらと踊っている姿。
エイが堂々と腕を広げるように小魚の群れの中を通っていく姿。
満天の星空の下、大きなクジラが海の中から勢いよく飛び跳ねる姿。
クジラの飛ばした海水の粒が、星に照らされて宝石の粒のように輝く姿。
本当だ、彗星さんの言っていた通りだ。
海って、すごく綺麗だ。
「ダイビングっていうのがあってな」
峻兄ちゃんはもう食べ終わってお椀を水でゆすいでいた。
「少しの間なら、人間だって海の中を泳げるんだ」
圭吾くんがそうめんを口に含んだまま、目を丸くして峻兄ちゃんを見た。
「そんなことしたら、死んじゃうんじゃないの?」
峻兄ちゃんが水道の水を止めて、冷蔵庫から取り出した天然水を一口飲んだ。
「道具を用意すればだけどな」
峻兄ちゃんが台所の窓を開けた。窓の向こうは田んぼだらけ。人の姿は、たまに来る散歩中の人以外ない。
「海に行くぞー!」
峻兄ちゃんが大きな声で窓から叫んだ。
「今から?でも」
峻兄ちゃんがせき込みながら窓を閉めた。
「急で悪いな。でも、お前ら全員、思いつめたような表情してる。たまには休憩しろ」
峻兄ちゃんが財布とスマホをリュックサックに入れて玄関に向かう。そうめんを不器用に食べていたエメラルドがやっと食べ終えて、シンクに麺つゆの残ったお椀を入れながらテレビに目線をやっている。
「海…か。俺も見たことないな」
蓮くんがテレビを消した。
「百聞は一見に如かずだ、エメラルド。行こう」
バットとウルフは、今度は人間姿のまま玄関の外で待っていた。二人に急かされてエメラルドは狼に姿を変えて、二人の元に走っていった。
「おい、エメラルド。やめておけ。怖がられる」
ウルフの忠告にエメラルドはしぶしぶ人間姿に戻った。
海水浴場は、彗星さんのいるショッピングモールをさらに五駅くらい離れたところにある。蓮くんは家から中学時代の水着を持ってこれた。でも、私はママとパパに校外宿泊学習に行くってごまかしちゃったから家には帰れないし、峻兄ちゃんが女性用水着を持っている訳がなかった。
「つまりは、蓮と俺以外、水着がないってことだろ」
峻兄ちゃんが電車に揺られながら財布の中のお金を確認している。
「全然心配ない」
峻兄ちゃんは財布をカバンの中にしまった。
「アルバイト代を全部財布に詰め込んできたからな。凝ったデザインのでなければ海水浴場で販売されてる」
りこちゃんと圭吾くんは電車の窓から通り過ぎていく景色を窓にへばりついて眺めている。エメラルドは二人以上にはしゃいでいる。席に座ってはいるものの、目は外の景色にくぎ付けだ。
「おいっ」
エメラルドの隣にいたバットが、自分の被っていた帽子をエメラルドに被せた。
「狼の耳を出すんじゃねえ」
ウルフが他の乗客に聞こえないようにエメラルドの人間の耳のすぐ近くでものすごく静かに叫んだ。
あ。
一裕のこと、完全に忘れてた。
「蓮くん、一裕はどうした?」
蓮くんは子供たちの様子を見ながら、電車に乗る前に買ったレモンの清涼飲料水を私の隣に座って飲んでいた。
「俺が家に水着を取りに戻ったころには家にいなくて、びっくりしてあいつに電話をかけたら、ちゃんと返事した。それにあいつ、久しぶりに家に両親が仕事から帰ってくるみたいで嬉しそうにしてた。だから、大丈夫だと思う…」
蓮くんの喉ぼとけがわずかに動いた。
海水浴場は沢山の親子連れとカップルで溢れていた。サーフボードばかりを売っている店や、マリンクラフトの店、アイスやシェイクを売っている店が、太陽の光に反射して真っ白に光る浜辺に目立って見えた。
「あそこで買うぞ」
峻兄ちゃんが私が見ていた方向とは正反対の方にザクザクと砂浜に両足を沈めながら歩いていく。
「りこ、アイス食べる」
りこちゃんが私の真後ろでアイスの看板を指さしている。
「後で買ってやる」
峻兄ちゃんは、お店の中に入っていった。バットとウルフは太陽の光から逃げるように、蓮くんに借りた一枚の大きなバスタオルで全身を覆って、肩を寄せ合いながら窮屈そうに峻兄ちゃんの後を追っていく。圭吾くんは裸足のまま、湿った砂浜にしゃがみ込んで寄り返す波と戦いながら歩いていくヤドカリを見つめていた。
「子供だけで海に近寄るな」
知らないおじさんに怒鳴られると、圭吾くんは驚いて峻兄ちゃんのいる店に走っていった。りこちゃんがそれについていく。エメラルドのグリーンの瞳が海の青色に似合っている。黒髪に少しだけ銀色の混ざった頭髪。宝石を中に宿したような瞳。エメラルドは美人なお姉さま方数人に囲まれてナンパされていたが、軽くあしらって店の方に向かって歩いて行った。
店の中には色々な水着が売られていた。蓮くんは暇そうにお店の中の自販機の飲み物を一つ一つ眺めていた。ウルフとバットも含めて、海に来たことがないメンバーが夢中で水着を選んでいる。圭吾くんは少し顔を赤くしながらビキニ姿のマネキンの方を見ていた。
「合計1万5000円になります」
峻兄ちゃんが男子陣を男子トイレに連れていく。
「佳奈美、お前はりこと一緒に女子トイレで着替えてこい」
男子陣が続々とトイレの中に入っていった。
「お着替えしよか」
私はりこちゃんの手を引いて、二人でトイレの個室に入った。少し窮屈だったけれど、昔、ママと同じことをしたのを思い出して楽しかった。私たちが着替え終わって店を出ると、峻兄ちゃんと蓮くんが先に待っていた。赤茶色の水着は案外峻兄ちゃんに似合っていたし、蓮くんはシンプルな真っ黒のスクール水着を履いていたけど、格好よく見えた。
「お、来た来た」
残りの男子が着替え終わって出てきた。紫の星雲の写真を直接印刷した水着を履いたバット。真っ黒な背景に、筆で殴り書いたような「DEAD」という真っ赤な文字がグレーの髑髏に重なったようなデザインを選んだウルフ。蛍光色の緑の生地に銀色の太いストライプが一本走ったデザインを履いたエメラルドと圭吾くん。あれ…?圭吾くんの身体が、男の子になってる?
「蓮お兄さん、佳奈美お姉さん、見て!」
圭吾くんがはじけそうな笑顔で走り寄ってきた。蓮くんの前で立ち止まると、圭吾くんは自分の上半身を両手で指さして見せた。
「エメラルドさんに男にしてもらった」
蓮くんがエメラルドを見る。エメラルドは蓮くんにウインクをして見せた。
「こっち来ーい」
峻兄ちゃんがりこちゃんを肩車して波打ち際に向かって歩き出した。りこちゃんの選んだ星柄のスカートタイプの水着が、峻兄ちゃんのうなじのあたりをヒラヒラとしていた。バットとウルフは、店で買ったらしい大きな日傘を相合傘して日陰を探して歩き出した。圭吾くんがエメラルドの手を引いて、峻兄ちゃんの後を走り出した。
「佳奈美。似合ってる」
蓮くんも圭吾くんたちの後を走ってついていく。蓮くんが走った時の風で、水色のワンピースタイプの水着の裾がフワッと捲れた。
海水浴場だからそんなに深くないけれど、りこちゃんは峻兄ちゃんが腰をしっかりと持っていてあげないと危なっかしいくらいに小さい。
「あ」
峻兄ちゃんに腰を支えられたりこちゃんが何かを指さした。
「圭吾くん、見て、おさかなー」
エメラルドと一緒にどれだけ息を止めていられるかを競っていた圭吾くんが、顔の水を両手で拭いながらりこちゃんの指さす先を見た。エメラルドはまだ潜っていた。圭吾くんとりこちゃんの前を、オレンジのピンクが混ざったような一匹の小さなまるい魚がフヨフヨと泳いでいる。圭吾くんがその魚をすくうように手を丸めた。圭吾くんの手の中で魚が窮屈そうに行ったり来たりしていた。
「おい、俺のこと無視すんなよ」
エメラルドがゲラゲラ笑いながら圭吾くんの頭をつつく。圭吾くんが魚を放して、またエメラルドと競い始めた。魚はフヨフヨと海の向こうに泳いでいった。りこちゃんがキラキラとしたつぶらな目で魚の行き先を追っていた。
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