53 / 213
王国の真実
私達、吸血鬼と狼男と首長竜と一緒に暮らすことになりました。
しおりを挟む「考えているだけじゃ迷宮入りになる」
一裕の家に着いて、起きたばかりの一裕を蓮くんが家まで肩を支えるために車から降りている間に、峻兄ちゃんが膝に頭を乗せて寝ているりこちゃんの背中を撫でながら、ノートにウルフたちが書いた『仮説』を読みながら言った。
「計画は明日くらいに立て始めよう。一裕と彗星さんも含めて立てないと、意味がない。…まずは食べて落ち着こう。いったん、全部忘れよう」
蓮くんが車に戻ってきた。
「残りのメンバーは全員○○町の□□っていうアパートに送ってください」
峻兄ちゃんが彗星さんの運転手さんに伝えると、車はゆっくりとアパートに向けて発進した。
「あ、今、彗星から俺に交信が来た」
エメラルドの元に、明日一裕も一緒にみんなで王国に行く準備がしたいとの旨が、彗星さんから送られてきたそうだ。
「エメラルド」
一裕が車から降りてから、車が発進してもずっと一裕の家がある方向に顔を向けて策を巡らしていたサファイヤが口を開いた。
「俺も虫になれるか。自分で言うのは変かもしれないけど、目からその人の記憶を読み取れる俺の能力は王国に行ったらかなり役に立つ。俺が王国で何が出来るかは、まだ分からないけど…」
今、私たちの頭の中で、様々な仮説が複雑に絡み合っていて頭がパンクしそう。考えれば考えるほど、どれも本当のようにも嘘のようにも感じる。
「王国に行ってからじゃないと、分からないこともあると思う。だから…」
「おい、サファイヤ」
ウルフがバットの言葉を遮ってサファイヤを見た。
「お前、魚に姿を変えれたりしないか?」
「魚?」
サファイヤとバットの声が重なった。
「なれるけど…でも、なんで」
ウルフがバットを見て、ほら、と言った。バットはウルフが何を言おうとしているのか見当も付かず、何回か瞬きをした。
「俺たちが王国で殺される直前、王国の中心都市にそびえたっていたドラゴンのでっかい彫刻が急に取り壊されただろ。老朽化して危ないからって王国は声明を出していたけど…。たしか、その彫刻、海に沈められたまま放置されてるはずだ」
バットが思い出したのか、ウルフの顔を見ながら何回か頷いていた。
「そのドラゴンの彫刻が、何か関係あるのか?」
サファイヤは自分の知らない王国に想像を巡らせているようだった。
「あのドラゴンの彫刻、『真実を示し裁く像』って王国で言われてたんだ。目の部分が、本当のドラゴンの目で出来ていたんだ。もし、お前が海に沈められたその像から王国の真実を読み取ることが出来るなら良いんだけどな…」
「…やってみる」
「着いたぞ」
私たちはアパートに着いた。アパートの真上の空に一番星が柔らかく光っていた。
「今晩は食べて、いったん全部忘れろ。考え事をしていると眠れなくなって、寝不足になるとダメだからな」
峻兄ちゃんが眠っている圭吾くんを背負ってりこちゃんを前に抱えているのを見た蓮くんが、車から降りて扉を開けて待っていた。
「お前ら、夕飯は何が良い」
彗星さんの車がアパートの前からゆっくりと走り去っていったのが聞こえた。子供達を寝室に寝かせた峻兄ちゃんが寝室から出てきた。
「子供達は食べなくて良いのか?」
エメラルドが子供たちの寝顔を寝室の外から見守りながら言った。
「…無理に起こすのも可哀そうだしな」
峻兄ちゃんが台所の棚からインスタントラーメンを机の上に並べた。
「今晩はこれで良いか?…出前でも取るか?」
「いや、彗星さんの家で沢山頂いたから、お腹があまり空いてないっていうか…」
峻兄ちゃんがポットでお湯を沸かし始めた。
ポコポコ…
お湯の沸く音が夜の台所に静かに聞こえる。
「とりあえず、食って寝ろ。本番は明日からだ」
ピーッ
お湯が沸いた。峻兄ちゃんが私たちのインスタントラーメンの中に順番にお湯を注いでいく。お湯の湿った熱い湯気が私たちの顔を覆った。
「魚、入ってないよね」
サファイヤが覚悟を決めたような顔で、ラーメンの中に魚貝類が入っていないかを箸でかき混ぜながら確かめていた。
「だから、お前のだけこれなんだろうが」
峻兄ちゃんが、サファイヤのラーメンの蓋を閉じて商品名を見せた。肉うどん。サファイヤが私たちのラーメンの中を覗いた。
「エビ…」
丸まったピンク色のエビがラーメンに絡まっている。
「…俺の家族、美味しく食べてあげてね…」
そう言ってサファイヤはラーメンの中の牛肉を時間をかけてよく噛んだ後、ゴクリと音を立てて飲み込んだ。
太陽の光が白く台所に差し込んでいる。太陽の光が当たっている所だけ、茶色い床が白く反射していて、素足で踏むと少し熱い。私以外はまだ寝ている。
ジジッ ジジッ
寝息が本当にかすかに寝室から届く台所で何か音がした。台所の網戸に蝉が一匹引っかかって、必死に羽根を動かしている。透き通った羽根が太陽の光をチラチラと反射している。
ジジッ
私が網戸を内側から軽く叩くと、蝉が青く澄み渡る空へと飛んで行った。三匹のオニヤンマが近くの用水路の上を悠々と飛び交っている。幅が1mくらいの用水路の水が透き通っていて、濃い緑色の苔が底にこびりついて生えているのがよく見える。サラサラと流れる水の音が涼しい。近くの雑木林では蝉が大合唱していて、虫取り網を持った小学生たちが透明な小さな籠を手に持ってはしゃぎながら駆けていく。
「彗星が地球に憧れた気持ちが分かる気がするな…おはよう」
次に目を覚ましたエメラルドが、うがいをしてから冷蔵庫から天然水を取り出し、氷と一緒にガラスのコップに注いでいた。
「俺たちが意識していないだけで、小さな命が確かにどこかで一生懸命生きている」
エメラルドは飲み干したコップを軽くゆすいで乾燥棚に置いた。
カチャ…
食器同士が触れる音。
「いよいよだな」
エメラルドが窓のサッシに両手をかけながら外の風景を見ている。
「俺にとって、地球は異世界だった。彗星に来てくれって頼まれた時は、正直生きた心地がしなかった。宇宙人が地球人に捕獲されて死体となって見つかるような事案が、たびたび報告されてきたから…でも、俺が見ようとしなかっただけで、こんなにも綺麗だったんだ、地球は」
「おはよう…」
圭吾くんが目をこすりながら寝室から出てきた。エメラルドがいることに気付くと、圭吾くんは寝ぐせが付いたままの頭でエメラルドさんに走り寄って飛びつくように抱きついた。エメラルドが後ろによろけて、エメラルドの背中が熱い窓に押し付けられている。
「王国に行くの、ちょっと怖いけど、僕、頑張る」
何を頑張るのかは本人にもよく分かっていないようだったが、エメラルドは圭吾くんを優しく抱きしめた。
「おう、お前ら。もう起きてたのか」
峻兄ちゃんが朝日に目を細めて台所にやってきた。峻兄ちゃんが壁の時計を見る。六時半。
「佳奈美、エメラルド。残りの奴らに、そろそろ起きろって伝えて来い。パン焼いてる」
峻兄ちゃんが食パンを数枚ずつオーブンで焼き始めた。エメラルドが先に寝室に向かっていった。
「起きろだって」
「ええ、もう?」
「眠いよ…」
「お前、昨日寝てる間に俺のこと蹴とばしただろ」
「蹴ってねーよ」
寝室がザワザワし始めた。
「焼けたぞー。パンが硬くなるから早く食べろ」
峻兄ちゃんが台所から叫んで、寝室にいた人たちがゾロゾロと台所にやってきた。テーブルの上にバターやジャム、マーガリン諸々がパンの近くに置かれている。
「りこ、この茶色いやつと赤いやつ、一緒にパンに塗ってみたい」
「ピーナッツジャムとイチゴジャムー?!やめておけ、マズなるぞ」
りこちゃんが二種類のジャムを一度に塗ろうとしているのを、ウルフとバットが何とか説得してやめさせようとしている。
「なあ、佳奈美」
蓮くんがパンにバターを塗りながら、その様子を見守っていた。
シャリ… シャリ…
少し焦げた食パンにバターが擦り付けられる音がする。
「俺たちさ、大家族みたいだな。なんか、ずっとこうやって、皆でわちゃわちゃと過ごしたいな…」
ザク…
蓮くんがパンにかぶりついた。
「あれ?サファイヤ、あいつどこに行った」
「ここだよ」
サファイヤがリビングの水槽の中からピチョンと魚の姿で飛び出した。数秒間床の上でぴちぴち跳ねると、ポンと人間になった。
「寝るのはやっぱり、水の中が落ち着くんだ。峻兄さん、勝手に金魚さんの家に上がってしまってすみませんでした」
峻兄ちゃんは食べ終えたお皿をシンクで洗っていた。
「魚なら許されるだろ。でも、人間姿のままで同じことをすると、不法侵入罪っていう罪を犯すことになるから絶対にするなよ」
峻兄ちゃんが水道を捻った。少しだけ錆びているような音がした。
これが、私たちの日常。吸血鬼とか、宇宙人とか、ネッシーとか。
そんなの、もう、どうでも良くなった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる