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引き裂かれた双子の宿命
夜空に2つの星が生まれた夜
しおりを挟む『父上様』
『大好き』
『失せろ』
『やれ』
『返せ!』
私は思わず目を開いてしまった。私の心臓がバクバクと激しく胸を叩く。映像は見えなかったけれど、4,5人くらいの声が一度に耳の中に流れ込んできた気がする。甘えるような声もあったし、怒鳴り声もあったし、吐き捨てるような声も全部混ざったようなものが、耳の中に流れ込んできた。
「何か、物騒なワードが…」
蓮くんが目をつぶったまま、眉をひそめてうつむいていた。
「第一王女様の声…」
エメラルドが震える圭吾くんを胸に抱き締めていた。
「返…せ…」
一裕の中に父親の人格が姿を現わし始めた。
「一裕」
諭すようなサファイヤの低い掠れた声。
「これが、王国の真実だ。皆、目を閉じて」
私たちは再び目を閉じた。
ドーン…
記憶としての映像が流れるのを待つ間、海の底から深い音が空間を揺らしていく。
ドーン…
見えない何かが、姿を現わそうとしている。
ドーン…
眠っている何かが、今、目覚めようとしている。
ズウゥーン…
私が今までに聞いた中で、一番深くて低い音が頭の中に流れた。
暗い視界に、大きな建物のような白いシルエットが浮かび始めた。輪郭線が曖昧な横に長い白の長方形が、紺色の視界にぼやけて見える。水の跳ねる音だけがする。
サファイヤが私たちを連れてきてくれた空気の空間の中は、さっきまでは、確かに春の空気みたいに暖かくて優しかったのに。冷たくて乾いた空気が全身の肌を突き刺している。
だんだんと視界が明確になってきた。白い長方形だと思っていたものは、大理石で造られた宮殿だった。深い紫色をした立派な岩で出来た巨大な門を中心に、その宮殿は左右対称に造られている。私が今見ているのは、誰目線の記憶なのだろう。ウルフたちが言っていた、真実を示し裁く像と言われていたドラゴンの彫刻目線なのだろうか。上空から宮殿を見下ろしているような視界。
宮殿は草原の中に厳かに佇んでいる。エメラルドの瞳に似た色の草原が、冷たい風に寂しく揺られている。漆黒の大理石に水晶で出来た花の装飾が施された噴水。噴水の水が、音も立てずに夜空に浮かぶいくつかの星の光を反射して僅かに揺れている。宮殿の一室だけから、黄色い光が眩しく放たれている。
誰かが宮殿の中にいるのだろうか。その他の部屋は電気が消えていて暗い。夜空の一部分になっているように見える。ただその一室だけが、黄色い満月の月みたいに明るく輝いている。
キラ…
宮殿の真上に、突如として二つの星が光った。一つは朱色の星。もう一つは金色の星。二つの星が夜空に生まれたその瞬間、宮殿の中から沢山の人の声が聞こえ始めた。赤ちゃんの泣き声がする。
『男児でございます、陛下』
『よくやった、これで王国の未来は安泰だ』
50歳くらいのおばさんの声と30歳くらいの男の人の重厚な声。何かを盛大に祝っている。もしかして、この宮殿、王城…?
『なんということだ!』
さっきの男の人の声。祝福の雰囲気が打って変わって、悲痛の雰囲気に包まれ始めた。
『双子だと?!』
若い女性の泣き声がする。誰かに許しを請うような声。それに国王と思われる男の人が罵詈雑言を浴びせている。いったい、宮殿の中で何が行われているのだろう。気になる、でも身体が全く動かなくてもどかしい。
そう思った時、気づいたら私は王城の一室のような豪華な部屋を天井から見下ろしていた。大人3人は寝れそうな広いベッドに20代くらいの若い女の人が涙を流しながら、許しを請うように30代くらいの筋肉質で身体が大きな男の人にすがりついている。その男の人は、まさに絢爛豪華な、という言葉が似合う宝石が散りばめられた軍服のようなものを身に付けている。
『お許しくださいませ、陛下!どうか二人の命だけは…』
『ならん!』
男の人が女の人の顔を勢いよく殴った。女の人がベッドに倒れ込む。鼻血が純白のベッドを赤く染めていく。女の人が力の入らない腕をガクガクと震えさせながら、必死にある方向へ伸ばしていた。
『息子よ…母を許し給え』
女の人が涙を濁流のように流して見ている先には、朱色の瞳を持った男の赤ちゃんと、金色の瞳を持った男の赤ちゃんが柔らかそうな毛布に包まれて柵のある木で出来たベッドの中で泣いている。男の人が朱色の瞳の赤ちゃんに近づいていく。
『頼んだぞ』
男の人がベッドの近くに立っていた侍従らしきおばさんに、その赤ちゃんを雑に渡した。
『朱色の瞳とは…』
男の人は冷酷に言い放った。侍従が毛布の中で泣いている赤ちゃんを連れて部屋を出ていく。
『行かないで!』
母親と思われる女の人が、鼻血を出したまま床を這って赤ちゃんを取り戻そうとした。対して、父親と思われる男はあまりに残酷だった。女の人の手を固そうな靴で踏みつけると、部屋を出ていくもう一人の息子に冷たく言い放った。
『失せろ』
あ、これ、私が初めて聞いたいくつかの言葉の中に入っていた…。
「みんな、一回目を開けてみて」
サファイヤの低くて静かな声。目の前で可愛い赤ちゃんが親の手によって葬られようとしている場面を、ただ見守ることしか出来ず動悸が激しくなってきたころ、サファイヤの声を聞いて少しだけ安心した。
周りの空気が暖かい。海の中にいるなんて、完全に忘れてしまうくらいに空気が私を優しく包んでいる。
私はゆっくりと目を開けた。みんながサファイヤの水色に光る眼を神妙な面持ちで見ている。
「僕、あの人達、知らない」
圭吾くんがエメラルドの手を固く握りながら、足元に視線を落としている。
「サファイヤ、俺たちが今見たことが、王城内部で起きていたということか?」
サファイヤがエメラルドの目をしっかりと見つめながら、しっかりと、静かに頷いた。
「俺…」
普段は冷静沈着なウルフの手がカタカタと震えている。足に力が入らないのか、膝が震えて今にも倒れてしまいそうだ。
「…ウルフ、俺の隣に座れ」
サファイヤがウルフの手を引いて、自分の隣に座らせた。ウルフは岩に腰を下ろした後も、額に油汗をかいて、苦しそうに呼吸している。
「ウルフ、何か心当たりがあるのか?」
サファイヤが隣に座ってウルフの背中を優しくさすると、ウルフは少し落ち着いたのか、呼吸が安定してきた。
「俺、あの朱色の瞳、知っている。俺とバットを守ろうとして、俺たちと一緒に処刑された、あの牢獄の監守だ…あの人も朱色の瞳だった」
それなら、あの赤ちゃんはあの時死なずに済んで、大人になったってこと…?
ウルフたちを守ろうとした人は、本当は王族だった…?
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