『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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引き裂かれた双子の宿命

神に導き〜兄の懺悔と弟の無垢〜

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私はゆっくりと目を開けた。

コポコポ…

ドーン…

「記憶の内容を整理しよう」
蓮くんがシャーペンを握った。
「みんな、何か考えたことは無い?」
サファイヤが皆に意見を伺っている間に、蓮くんが先に夢でのことをノートに書き連ねていた。

『事実④リオンドール皇子はクランシーの存在を獅子王様から聞いて受け入れようとした⇔国王はクランシーを認めない』

『事実⑤朱色は王国では滅ぼしの象徴=クランシーが王族から排除された理由』

シャーペンの芯がノートの上を滑らかに滑っていく。
「俺さ、気になることがある」

ウルフはもう、うなだれていなかった。目は真っすぐ、正面を向いている。クランシーの過去を見る覚悟を決めたようだ。

「どうして獅子王様はリオンドール皇子の夢で、クランシーの存在を仄めかしたんだろう。自分が死ぬきっかけになった朱色の瞳を持つ人間を、俺なら殺したいとまでは思わなくても、受け入れる勇気はない。クランシーを捨てたあの国王、最低な奴だけど、かつて立派な君主の命を奪った色に対して恐怖心を抱いてしまう気持ちは分かるんだ」

蓮くんはウルフが話している間、バットが前に書いてくれた【確かめること】リストに、ウルフが気になっていることを書き加えた。

「今のところ、リオンドール皇子とクランシーで記憶を共有しているような描写は無いな」
エメラルドがノートを目で照らしている。

「そろそろ次の記憶を見せようと思う。急がないと、りこちゃんが怪しみ始める。疲れたから寝るって言っても、丸一日眠っていたらさすがに違和感を抱き始めるだろ。たぶん、現実では今頃ちょうどお昼ごろだ。出来れば夕飯までには一度、現実に帰ろうと思う。夕飯の美味しそうな匂いで目が覚めたって誤魔化せるようにな」
私たちはサファイヤに指示されて、再び目を閉じた。


ズウゥーン…


『弟よ』

『お前が俺の兄?』

『そなたの瞳は美しい』

『近寄るな!』

『愛したい』

全く同じ声が立て続けに、支離滅裂なことを頭の中で叫んだ。






『龍王様』

リオンドール皇子が私を見上げている。

いや、そうか、記憶は像目線だから、リオンドール皇子は像に向かって話しかけているんだ。

国王と揉めた後だろうか。リオンドール皇子が少し疲れて見える。

『昨夜、獅子王様からお告げを頂きました。私に、朱色の瞳を持つ弟がいると』

リオンドール皇子の金色の瞳から、彼がどれだけ真剣にクランシーを受け入れようとしているかが手に取るように分かる。リオンドール皇子が、像の足元に口づけをした。

『龍王様、どうか、獅子王様のお命を奪った色を愛する私をお許しください』

そう言ってリオンドール皇子は、宮殿の中に何事もなかったかのように入っていった。しばらくすると、見覚えのある毛布で顔を隠した人物が、辺りを注意深く警戒しながら出てきた。顔は暗くてよく見えなかったが、金色のものが奥の方で光っている。

リオンドール皇子だ。

どこから手に入れたのか、リオンドール皇子はボロボロの庶民服を身にまとっていたが、動作の一挙手一投足が上品で高貴な身分であることが隠しきれていない。リオンドール皇子は衛兵の目をかいくぐって、城下町らしきところへ歩いていった。おそらく、クランシーに会いに。


『おーい、クランシー。運ぶのを手伝ってくれんか』

『任しておきな、おっちゃん』

知らないおじさん声と、リオンドール皇子と全く同じの声がしたかと思うと、私は民宿のような質素だけどなかなかにセンスの良い小さな建物を見下ろしていた。

『今回のお客様、荷物を大量に持ってきやがった』

クランシーが60歳くらいのおじいさんと一緒に、大量の荷物を宿に運んでいる。朱色の瞳には、自分が排除された存在であることを知らず、純粋に今の庶民の生活を楽しんでいるようだ。

『いててて、腰が』

『大丈夫かー?』

クランシーが宿泊客だと思われる団体と楽しそうに話している。

この人が、いずれ、憎まれ処刑されるなんて。

今、楽しそうにしゃべっている人たちに、罵詈雑言を浴びせられながら殺されるなんて…。

『あれ、クランシー、お前に双子の兄弟なんていたか?』

腰を押さえていたおじいさんが、人々で混みあっている市場の方を指さした。

『兄弟?いないけど。俺、お婆さんと二人で暮らしてきたからさ』

クランシーが市場の方に視線を向けた。おじいさんは、宮殿から城下町に続く道を指さしている。

まさか…。

『もし、ここに朱色の瞳を持つ者はいないか』

…リオンドール皇子だ。

『なんだ?どっかで見たことのある顔だな』

『お前、俺にそっくりだな!びっくりした』

『生き別れの兄弟じゃないか?』

『まさかー』

クランシーたちがリオンドール皇子を囲んで勝手にしゃべっている。リオンドール皇子がクランシーの朱色の瞳に気が付いた。

『我が…弟よ。獅子王様…お導きに感謝いたします』

『…は?』

瞳と髪の色だけが違う全く同じ顔の人間が、出会ってしまった。

『俺の兄?ふーん、お前は誰に育ててもらったんだ?俺はな、今はもう死んじゃったけどお婆さんに育ててもらったんだ。まあいいや、うちで何か食ってけよ。良いだろ、おっちゃん?』

そう言ってクランシーはリオンドール皇子の手を雑に引いて民宿の中に入っていった。

『お前、名前は何なんだよ』

クランシーはリオンドール皇子を木製の円いテーブルに座らせて、お茶らしきものを準備しながら話しかけた。

『私は…リオンドールだ』

クランシーの手がピタリと止まった。クランシーが目を丸くしてリオンドール皇子を見る。

『お前、獅子王様の名前を付けられたのか?!すっげーな』

クランシーは相手が王国の皇子であることにすら気付かず、コップをリオンドール皇子の前に置いた。コップの中の飲み物が揺れている。

『あれ?その毛布、俺も持ってるぞ』

クランシーはリオンドール皇子の頭を覆っている毛布を見ると、皇子をその部屋に待たせてどこかへ行ってしまった。

『ほら。俺がくるまれていたらしい。お婆さんが言っていたんだ』

クランシーが部屋に戻ってきて、リオンドール皇子に渡した。全く同じ毛布。二人が生まれた日の記憶で見た、あの毛布だった。

『…すまなかった!』

手渡された毛布をしばらく黙って眺めていたリオンドール皇子が突然、土下座をするようにクランシーにひれ伏した。顔が汚れることすら厭わず、床に額を付けていた。

『な、な、なんだよ。なんで謝るんだよ』

クランシーは慌てて部屋を見回して、部屋に誰もいないことを確認すると、部屋の扉に鍵をかけた。

『私はそなたの兄だ。獅子王様のお導きでそなたに出会うことが出来た』

『とーにーかく、顔上げろって!』

クランシーがひれ伏すリオンドール皇子の顎を、雑に手で上げた。リオンドール皇子の金色の瞳から涙がとめどなく流れている。

『なんで泣いてんだ』

クランシーはまだ、目の前の男が自分の兄であることに気付いていない。

クランシーはまだ、自分が王家の血を引いていることを知らない。

『そなたの瞳は美しいではないか。生命の輝きのようではないか』

戸惑った表情のクランシーを、リオンドール皇子がクランシーの目に魅入りながら頬を撫でた。

『すまないことをした…』

リオンドール皇子がクランシーを固く抱きしめた。もう、誰にも、捨てさせないという意思を感じた。涙を流す金色の瞳を、何も知らない朱色の瞳が困惑しながら見ている。


『お前、誰だ。何者だ』
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