70 / 213
引き裂かれた双子の宿命
桜の花弁の記憶〜消えていった子供たち〜
しおりを挟むコポコポ…
小さな空気の泡が太陽の光を目指して昇っていく。これは、何かしらの理由で海の底に沈められてからの、今まさに私たちの近くで身体を粉砕された状態で海の底に沈んでいる、真実を示し裁く龍像の記憶だ。
「だいぶ長く記憶を見せちゃったから、ここで今日のところは中断しよう」
随分と長い夢を見ていたような気分。目を開けると、サファイヤは蓮くんが整理していたノートを閉じて右手に持っていた。
そういえば、一裕は?
自分にまつわる壮絶な過去を目の当たりにしたら、自分の娘に関わる不穏な記憶を目にしたら…
「一裕はね、途中で寝たよ」
サファイヤの視線の先には、彗星さんの胸の中で眠っている一裕の姿があった。死んでいるかと勘違いするくらい熟睡している。圭吾くんは、少年の姿でエメラルドに抱かれてスヤスヤと眠っている。エメラルドは圭吾くんの背中を、ウルフは圭吾くんの頭を撫でてあげている。
「ウルフ、現実は今何時だ」
「…午後7時半。そろそろ帰ろう」
サファイヤは持っていたノートを蓮くんに預けると、私たち一人一人の顔を確認するようにゆっくりと顔を回すと、指を鳴らす準備をした。
「…まあ、気になることは大量にあると思うけど、いったん現実に帰ろう。夜ご飯を食べ終えて、りこちゃんと圭吾くんが寝てから、峻兄さんとバットも含めて王国で見た真実の記憶を初めから整理していこう」
コポコポ…
ドーン…
コポコポ…
ドーン…
海の心臓の音みたい。海そのものが、一つの生命体のよう。
パチン
サファイヤが指を鳴らした。
ああ、何だか眠りに落ちる寸前のような快感に包まれる。身体が宙に浮くような感覚。
人間だって、カッコつけて指を鳴らすことくらい、あるんだけどな…何かしらの偶然で異世界に行けちゃったりしてな…。
そんなことを考えているうちに、突然全身が重たくなった。重力が私を地球の中心へと引っ張っている。床が冷たくて硬い。
帰ってきた、アパートに。
「あー、お腹が空いたなー」
ウルフが棒読みで寝室の鍵を開けて扉を開けた瞬間、りこちゃんが台所から走ってきてウルフにピョンと抱きついた。
「沢山寝てたね!夜ご飯、パスタだって」
あ、パスタ。口の中が唾液でいっぱいになる。峻兄ちゃんがパスタ用のお皿を持って、寝室に顔を覗かせた。
「…よう寝たな。冷める前に食え」
彗星さんは、両親が心配するといけないからと言って、運転手さんをアパートに呼ぶと一裕も乗せて帰っていった。
空は黒くなって、三日月が遠慮がちに雲の後ろに隠れている。老朽化して倒れそうになっている街灯が点滅しているのが、窓の外に見える。
「沢山寝たのに、疲れてるの?」
パスタのソースを口の周りに付けたりこちゃんが蓮くんに尋ねると、蓮くんがギクッとしたように、フォークを持っている手を揺らした。
「なんかねー、すごい夢を見ちゃって」
ウルフは大量のトマトが入った真っ赤なパスタを器用な手つきでくるくるとフォークに巻き付けると、大きな口の中に入れた。
「佳奈美」
峻兄ちゃんがりこちゃんの苦手なキノコを自分のお皿に入れてあげている。
「少し相談したいことがあってな…」
「ちょうど良いじゃん」
バットがトマトジュースを飲んでいる。今思うと、やっぱり吸血鬼たちの食事って真っ赤っかだな。
「俺も混ぜてよ。夢の話、気になるもん」
圭吾くんがりこちゃんと一緒に早食い競争をしているのを、エメラルドが喉に詰まらせるといけないからと言って止めさせた。
午後十一時。
圭吾くんとりこちゃんは、既に布団の中で夢の中。
カチ
峻兄ちゃんは台所とリビングの間にある引き戸を、音を立てないようにそっと閉めると、リビングの電気を点けた。
「じゃあ、王国の真実の記憶を皆で一つずつ整理していこうと思う」
サファイヤのささやき声がリビングに、とても静かに響き渡る。
「これ、見て」
蓮くんがノートをリビングの机の真ん中に開けた。
真実は少しずつ、目覚め始めている。
峻兄ちゃんとバットが優先的にノートの内容を見ることが出来るように、蓮くんが二人の前にノートを置いた。峻兄ちゃんとバットの視線は、像の記憶から読み取れた『事実』に集中的に注がれている。
「ふーん、俺たちを守ったあの男、クランシーって名前だったんだ。それで、龍獅国王リオンドールの双子の弟。瞳の色のせいで、初めは兄弟間に確執が生じていたけど、リオンドールの姿勢にクランシーは兄貴、そして王族として受け入れたと」
「クランシーはアンバーっていう女性との間に子供をなしたけど、戦争に行っている間にアンバーが出産直後に亡くなって、クランシーは子供も亡くなったと思い込んだ。だけど、赤ちゃんは無事で伝令に拾われた後、リオンドールの娘として、メイプル第一王女として育っていく。誰も、王女がクランシーの実子だということには気づいていない」
「はあー、なるほどな。圭吾は第一王女の親友ってこういうことだったんだな」
「おい」
二人が交互にノートの内容を声に出して整理していると、峻兄ちゃんがノートのある所を指さした。
『圭吾は桜大の弟だったが、流産してしまって王国に生まれた』
峻兄ちゃんはその行を指さしている。
やっぱり…。
「峻兄ちゃん、桜大兄ちゃんて、あの交通事故で亡くなった…」
峻兄ちゃんの指先が小刻みに震えている。峻兄ちゃんはそれを抑え込むように、数回大きな深呼吸をした。
「実は、相談したいことがある…。圭吾とりこは、本当の兄弟だったかもしれない。りこは…桜大の妹かもしれないんだ…」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
