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引き裂かれた双子の宿命
像は今も海の中で
しおりを挟む男の子が顔を上げた。
…圭吾くんだ。エメラルドに男の身体にしてもらう前の姿だ。
『圭吾よ、そなたは女の身にして剣術が強いと聞く。ぜひ娘の相手をしてやってくれ』
『は、ご拝命、しかと承りました』
第一王女が圭吾くんの手を握った。顔を上げた圭吾くんの瞳に、第一王女の姿が映っている。
『よろしくね、お友達になろう?』
圭吾くんが第一王女の前に膝を付いた。
『身に余る光栄でございます』
圭吾くん、私たちに、自分は第一王女様の親友だったって教えてくれたな。これが二人の出会いだったんだ。だけど、少し気になることがある。後で蓮くんにノートに書き加えてもらおう。どうして圭吾くんだけ、妙に私たちに近い名前をしているのかって。
リオンドールと伝令が見守る前で、圭吾くんは真剣を危なくない木の棒に持ち替えた。第一王女も同じものを持って、興味深そうな目で観察している。
『手加減はいらないわよ、圭吾』
『…そうですか、では』
私が一度瞬きをして再び目を開けた時には、第一王女は既に床に仰向けになって倒れていた。圭吾くんの木の棒の先が、第一王女の首に当てられている。
『はっはっは、頼もしい』
リオンドールは少しも怒ることなく、床に倒れた自分の娘を見て笑っている。
『メイプルよ、強くなって圭吾を倒してごらんなさい』
圭吾くんが第一王女を起き上がらせた。第一王女も、初めての感覚に興奮しているのか、輝く瞳で圭吾くんを見ている。
『圭吾、命令です。私の右腕となりなさい。私が息絶えるその瞬間まで、私を常に傍で守れ』
圭吾くんは真剣で自分の着ていた服の襟の部分を切った。圭吾くんの首が露わになる。
『命に代えてでもお守り致すことを誓います』
圭吾くんはそうして自分の左胸に手を当てると、第一王女の前にひざまずいた。これは、主君のためなら首も心臓も捧げてみせるという、一生に一度しかすることを許されず、一生責任を全うしなければならない、この王国ならではの最大に敬意を示す方法だった。
『陛下、第一王女様。昼食のご用意が整っております』
侍従がリオンドールたちを呼びに来た。
『圭吾、来なさい。今からあなたは私の右腕だ』
そう言って第一王女は、大広間へと向かうリオンドールの後ろを歩き始めた。圭吾くんはポニーテールでくくった長い髪を揺らしながら、第一王女のすぐ後ろに付いて歩いていった。
『圭吾』
『は』
記憶の中の二人は、12歳くらいになっていた。第一王女が私を、あ、違う、龍の像を見上げている。
『圭吾、この像は真実を示し裁くものだ。おぬしも知っておろう。私は今ここで、打ち明けねばならぬ。圭吾、聞きなさい』
第一王女は像の瞳と目を合わせたまま。圭吾くんが胸に手を当てて、第一王女の横にひざまずいた。
『なんなりとお申し付けくださいませ』
第一王女が深呼吸をして、再び像を見つめた。楓色の瞳。
『…私は本来このような姿をしているべきではない』
第一王女は薄いオレンジ色のドレスを、何か邪魔なものでも見るような眼差しで見ている。
『私は男だ。この身体が邪魔だ。圭吾、お前もそうであろう』
圭吾くんは頷かなかったけれど、私は圭吾くんの答えを知っている。
『…しかし、我らのような人間は王国に未だ嘗て存在しなかった。…私は、本来の自分を隠さなければなるまいの。お前もだ』
第一王女が像に背中を向けて、ひざまずく圭吾くんの手を握った。
『私と共に、秘密を抱えていく覚悟はあるか』
『はっ』
第一王女は圭吾くんを立たせると、圭吾くんを像の前に立たせた。
『圭吾。私はお前のことが知りたい』
像の瞳の中には、今度は圭吾くんの姿があった。
『私はお前の名前が不思議なのだ。圭吾、お前は何者だ』
圭吾くんの瞳は揺らいでいない。自分の真実を明かすことに、少しのためらいも感じていないのだ。
『申し上げます。わたくし、圭吾は…メイプル様と同じく精神と身体において違和を抱くものであり…迷い人でございます。…罪を受ける覚悟は出来ております』
『今までお隠ししていて申し訳ありません。私は一度、日本と言う異国の地で死亡したものにございます。その国では、人間は死後に閻魔大王によって生前の罪業を裁かれるという言い伝えがございました。しかし、私は罪を犯すには早すぎる齢で閻魔大王のもとを訪れたのです。流産でございます。それをお知りになった閻魔大王は私に寛大にも慈悲をおかけになり、再び生まれることをお許しになったのです。ただ、どういうわけか、日本ではなくこの龍獅国に生を受けた次第でございます。私が日本にいた頃、私は身も心も男児にございました。その結果、私は記憶だけを保持したまま、女としてこの国に生を受けました。圭吾という名は、日本にいた頃の兄が、私の誕生を楽しみにして付けてくれたものです』
『…兄の名前を聞いてもいいか』
『桜大にございます』
桜大って…交通事故で死んじゃった峻兄ちゃんの親友の名前じゃなかったっけ…?
…帰ったら峻兄ちゃんに確かめよ。
第一王女は、輝くようなオレンジ色の長い髪を風になびかせて、真実を伝えた圭吾くんの後ろ姿を見ている。第一王女はかんざしを頭から抜き取った。金色のライオンの装飾が付いている。ライオンの心臓部分には、ルビーらしき朱色の宝石が埋め込まれて眩しく輝いている。
龍獅国には、父親が10歳を超えた娘にかんざしを贈る風習がある。つまり、このかんざしは、リオンドールの第一王女への最大の愛情の証なのだ。心臓と同じように、第一王女がいなければ自分は生きていくことが出来ないという、王様ではなく一人の父親としての最大の愛情の証なのだ。
第一王女はそのかんざしを、自分に背中を向けて龍の像に向き合っている圭吾くんを自分の方に向かせると、圭吾くんの手に握らせて、それを自分の首元に当てさせた。これは、「お前なら私を欺かないと信じている」、そして「お前がたとえ私の命を奪おうとも許そう」という、一生に一度しかすることが出来ず一生その責任を全うせねばならない、主君が臣下に対する信頼を示す行為だ。
『私はそなたが私の親友であることを誇りに思う』
…ザザザッ
『父親は』『おいで』『贄』『第一王女様!』『返せ!』
え、なに?
突然視界が揺らいだかと思えば、不気味なノイズが聞こえた。ノイズにかき消されそうになりながらも記憶の断片である五つの言葉が辛うじて聞こえた。
砂嵐が止まない。
龍の像の記憶が、何者かによって操作されているみたいな…。
ノイズが治まって砂嵐が止むと、何も見えない暗い海の中の寂しい光景が広がった。
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