『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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愛の罪

檻に秘められし記憶

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出産後に亡くなった方の彗星は、地球にいる彗星とは違って澄白国人のまま一生を終えた。

地球人になった彗星の場合、宇宙人としての能力は保ちつつも、いずれ地球人として亡くなった後、彗星が一裕を愛したとしても彗星がそれまでに改竄したり奪ってきたりした記憶は元に戻らずにそのままということか。

要は、地球人として亡くなるか、澄白国人として亡くなるかだ。

そして、彗星が記憶改竄・奪取能力を失ったのは、交わった際に一裕の…あれが彗星の身体の中に入ったから。

「彗星は、妊娠してから出産するまでの間、王族や澄白国民の記憶を改竄して、自分の妊娠や一裕のことも隠してきたはず。でも、彗星が亡くなって、その効果が亡くなった。それで、一裕のことがバレた。彗星が人間姿になったことも王族に知られて、その事実を隠蔽した。そうじゃないかな?」

今まで黙ってエメラルド達の様子を見守っていたサファイヤが口を開いた。脚を広げて腕を組んでいる。

「…これで謎は1つ解けただろう。この後は、どうして一裕が処刑されたはずなのに生き延びて獣神国にいたのか、誰が一裕の身代わりになったのかに話題を変えよう。俺達が気付いてしまったのは、王国にとって都合の悪い事実。口封じで殺されるといけないから、彗星王女様のことはここで留めておこう」

フロストが、誰も自分達の話を聞いていなかったかを確認するように、窓の外にチラッと何度か視線を送った。

「そろそろ…檻に戻りませんか。記憶を読み取りに」

恐らく今は真夜中。人々の賑わいは最早聞こえない。国全体が寝静まっている。


今夜、記憶が読み解かれる。


隠蔽された事実を、俺達は暴く。


俺たちは再び檻を訪れた。空は依然として真っ白で、真昼のように明るいが、宇宙全体が寝静まってしまったように思えるくらいに静かだった。

真っ白に明るい真夜中なのだ、今は。

檻を囲むようにして立っている大小様々な家々から、澄白国人の寝息が聞こえるような気までしてくる。辺りに人の気配は全くしない。真っ白な街の中心に、血に錆びた鉄の檻が寂しく佇んでいる。

俺たちの先頭を歩いていたフロストを通り過ぎて、サファイヤは少し背伸びをして檻の柵を掴んだ。檻に眠っている記憶を呼び起こすように、サファイヤは何度か柵を手で軽く叩くと、ゆっくりと瞼を閉じた。

俺たちはいったい、どれだけの間、サファイヤの横顔を眺めていただろうか。星も月も何もない真っ白な夜空が俺たちを包んでいた。真っ白な世界に、2つの水色の光が現れた。サファイヤが記憶を読み取って、目を開けたのだ。

「記憶、読み取れた。これで分かった。どうして一裕が生き延びたのかも。誰が一裕の身代わりになったのかも。どうしてその人が一裕の身代わりに自ら名乗って出たのかも」

サファイヤは台からピョンと飛び降りると、サファイヤの様子をじっと見守っていたフロストに近づいた。

「記憶、ここで見せますか?それとも、フロストさんの家に戻ってからにします?」

フロストは一度、自分の家がある方角に振り返った。しばらくそうして、フロストはサファイヤにクルリと向き直った。

「記憶はどうすれば見れるんだい?」
「両目を閉じてもらいます。俺が読み取った記憶を映像で見せます」

サファイヤがそういうと、フロストは自宅に戻ろうと俺たちに促した。フロストによれば、今は夜中の1時なのだそう。記憶を見ようとして目を瞑っているうちに街のど真ん中で眠る訳にはいかなかったからだ。自宅には余っている寝室が一つあるのだそうで、俺たちはそこで一晩を明かさせてもらうことにした。自宅で記憶を見れば、そのまま眠ってしまっても問題ない。


「こんなに広いベッドで寝ても良いんですか、フロストさん」

俺たちはフロストの自宅に戻って寝室に行ったのだが、そこには寝室の床を覆いつくすほどの広いベッドが置かれていた。手で触ってみると柔らかいし、上質の素材を使っていることが素人の俺でも分かる。

「ああ…いや、これは」

フロストが、暗い夜に慣れている俺たちのために、わざわざ目隠しを持ってきてくれた。フロストは目隠しを俺たちに順番に配りながら、照れ臭そうにベッドの縁の辺りを眺めた。

「留学生時代にアドルフと知り合ったって言っただろ。俺が留学期間を終えて澄白国に帰ることになった日に、アドルフが俺にくれたんだ」

なるほど、生粋の王族からのプレゼントなら、このデカさも上質さも納得だ。

「…すみません、ラルフ様。心を傷つけてしまいましたか?」

フロストはエメラルドが、獣神国では地下牢に長年閉じ込められていたことを知っているのだろうか。エメラルドの過去も顧みずに、上質なベッドを用意してしまったことを後悔しているようだ。ただ、アドルフの弟を粗末なベッドに寝かせるわけにもいくまい。
「いえいえ」
エメラルドは地下牢のことを全く気にかけず、柔らかい布団を掛けると目を閉じて、サファイヤに記憶を見せるように促した。俺と一裕は目隠しを付けて、枕に頭をそっと乗せた。頭が宙に浮いているかと思うほどに、枕は柔らかかった。

「じゃあ、記憶を見せるね。ついでにお休み」

「お休みなさーい」
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