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静かなる暴走
別人格の覚醒か?
しおりを挟む『へえ~…ほう~…ふうん~?』
俺が獣神国と澄白国で見てきた、一裕と彗星の死の真相を皆に伝え終わると、桜大は俺の頭に纏わりつくように飛び回った。
『なんか、おかしくない?』
桜大は一裕の頭の上に着地した。一裕の頭頂部の髪がピンク色の光に染まる。
『楓くんは一裕のことは父親として認識してるけど、彗星のことは知らないみたいだよ』
一裕は、最後まで大事に取っておいた半熟卵を大きな口を開けて一口で食べた。
あの星では、彗星は楓を産んだ直後に息絶えた。
一裕は処刑を免れた後、岩の隙間に隠した楓を迎えに行こうとした。だけど、そこに緑の滝…獣神国への経路が現れた。一裕はそこに巻き込まれたまま。
一裕は死ぬまで永遠に、獣神国の孤独の窟にいた。
…待て。
楓は、彗星にも一裕にも会ったことがないはず。
楓は、どうして一裕のことを知っているんだ。
フロストから話を聞いたのかもしれない。
でも、蓮と佳奈美さんが言うには、楓は一裕の顔を見て父親だと認識した。
つまり、楓は…一裕を見たことがある?
でも、そんな記憶…俺は見なかったぞ…?
エメラルドの前髪が扇風機の風でフワッと上がった。
俺はリビングから、蓮のノートを持ってきて机の上に置くと、表紙から1枚ずつ順番に丁寧にめくっていった。これには、今までに俺達が解き明かしてきた謎、そしてこれから解き明かさないといけない謎が記されている。
蓮はリビングから自分の筆箱を持ってくると、その中からペンを取り出して、俺が丁度見ていたページに書き加えた。
『楓は何故一裕を知っていたのか』
パチッ
ペンの蓋が気持ちよくはまった音がした。
蓮はペンを筆箱に投げ入れると、自分が書いた1行を見つめはじめた。蓮は自分の頬を右の人差し指で押さえつけている。何故なのかはよく分からないが。
「俺も気になっていたことがあって…」
ノートのページが冷房で捲れそうになるのを佳奈美さんが、箸を持っていない方の手で抑えている。
「圭吾はさ、龍獅国でメイプル第一王女様に仕えていた。本人にもその記憶はあった」
蓮はページを抑えていた佳奈美さんの手を優しく退けると、龍獅国のことを書き記したページを開いた。
「みんな、覚えてる?圭吾は間違いなくメイプル第一王女様の変わり果てた遺骸を見たから、責任を取って自決した。なのに、本人はメイプル第一王女様が亡くなったことさえ覚えていなかった」
扇風機の風でノートの端っこがペラペラと捲れる音がする。
「りこちゃんも圭吾くんも…」
佳奈美さんは噛んでいた豚肉をゴクリと飲み込んだ。
「自分達が既に亡くなっていることに気が付いていなかったから、桜大兄ちゃんに迎えに来てもらうまで、私達と一緒にいたんだよね?」
楓が一裕を知っているのは、成長してから一度一裕に会ったことがあるからだと仮定したら…何故一裕の記憶には、楓と出会った場面が無かったんだ?
圭吾には、メイプル第一王女様に仕えていた記憶はあるのに、メイプル第一王女様の死だけは記憶に無かった…。
圭吾とりこは、自分達の死さえ、覚えていなかった…。
何かが…記憶を操っている?
でもそれは…宇宙人の能力…。
俺はエメラルドの方に視線を向けた。エメラルドは麺に半熟卵の黄身を絡めて口に運んでいる途中だった。エメラルドが俺の視線に気が付いた。
「ふぁい?」
「いや…」
俺は何となく気不味くなってエメラルドから目を背けた。
時計の針は2時を指している。彗星が塾から帰ってくるまで、あと3時間。
「そういえば、エメラルド」
俺が再びエメラルドに視線を向けた時、エメラルドは昼ご飯を食べ終わって、シンクに食器を持っていく途中だった。
「お前さ、俺達だけ先に帰しただろ?アドルフとフロストの3人だけで何を話していたんだ」
エメラルドは俺達と知り合って長い。コソコソ話を好むような性格の持ち主でもないはず。エメラルドは誰よりも隠し事が嫌いなやつ。
「え?あれは、一裕が処刑から免れた後に、楓を迎えに行こうとしたはずなのにどういう経緯で獣神国に行ってしまったのかを相談するつもりだったから…」
エメラルドは今朝、俺達4人で雑木林をジョギングしていた時にも同じことを言っていた。でも、それだけだろうか。何故俺達がいたら駄目だった?俺は兎も角、サファイヤなんて誰よりも活躍出来る奴なのに。
「エメラルド、誰かに俺達を地球に帰してくれって頼まれたわけではなく?」
冷蔵庫から取り出したレモンスカッシュを一口飲むと、サファイヤがエメラルドに尋ねた。
「俺がフロストのベットの中で皆に檻の記憶を見せている時、俺は起きてたんだけど、お前もずっと起きてたよね?」
サファイヤがレモンスカッシュのペットボトルを冷蔵庫にしまった。カチャンと冷蔵庫の中で何かと何かがぶつかる音がした。
「俺が皆に檻の記憶を見せ終わった頃、フロストと一裕とウルフは完全に熟睡していたけど、エメラルドは起きてたよね?」
サファイヤはエメラルドの隣にゆっくりと腰を下ろした。
「エメラルド…正直に言って?誰を待ってたの」
エメラルドの瞳の奥が揺れた。
「いや、何も…」
「隠すな」
目を逸らそうとしたエメラルドの頭をサファイヤが掴んだ。サファイヤの鋭い水色の眼光がエメラルドの瞳を貫くようだ。エメラルドの瞳の奥が絶えず揺れ続けている。
「エメラルド…?…サファイヤ?」
蓮と佳奈美さんは、2人の只事ならぬ様子に異変を感じて戸惑い始めた。
『まあまあ』
桜大が仲介をするように、エメラルドとサファイヤの顔と顔の間に挟まった。
『言ってごらん?』
エメラルドは暫くの間、自分の目の前に浮かぶ火の玉を見つめていた。その間俺達は、息を呑んでサファイヤの様子を見守っていた。サファイヤは、エメラルドの心の奥に秘められた正体を暴かんと鋭い眼光をエメラルドに向け続けている。
「兄上とフロストさんにお会いして…」
どれだけ時間が経っただろうか。
エメラルドの瞳の揺れが収まった頃、エメラルドは口を開いた。
「目が変だと言われたんだ」
「目が?」
バットが火の玉を少し退けて、エメラルドの目を覗き込んだ。
「…お前…!狼だったよな…?!」
バットは目を見開いたままエメラルドの目を覗き込んでいる。バットがエメラルドの目を覗き込んだまま、俺に手招きをした。
「目がどうしたんだ」
俺はバットの隣に立ってエメラルドの目を見た。
これ…!
「ウルフ、バット?」
エメラルドの目を見たまま硬直している俺達の様子を見て、蓮もエメラルドの目を見に俺の隣にやって来た。
白目の部分が、金色とも緑ともオレンジとも言えぬ不思議な色。それを縦に切るように、真っ黒な線が1本細く走っている。
俺はバットと一緒に、龍獅国で龍隊にいた。軍旗には、龍王様と獅子王様の綺羅びやかな刺繍が施されていた。
俺は何度も何度も、その刺繍を目にした。
間違いない…。
でも、いったい…なぜ…?!
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