『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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静かなる暴走

生者の世界へ 〜黄泉の国の祭〜

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午後6時から午後9時までの3時間。

今宵は、生者の世界に生まれていく新たな命の送別会。

大広間の入り口には、合宿所裏の花畑から採ってきたと思われる色とりどりの花が、大袈裟なくらいに大きな花瓶に生けられている。見たことのない花もちらほら。彼岸花とタンポポが混ざったような黄色の花。菊とバラが混ざったようなピンク色の花。バットと蓮が腰を屈めて、それらを丁寧に一つずつ観察している。

『どうぞ』

中村に促されて、俺たちは入り口の敷居を跨いだ。同時に、大広間の中から火の玉が4人テケテケと現れた。

『こっちこっち』

現れた4人は、晴馬、悠馬、圭吾、桜大だった。4人は俺たちを率いて、大広間のど真ん中を突っ切っていく。

大広間の宴会場にズラリと並べられた、高級そうな木製の低い机。濃い茶色や薄い茶色の木目が、川のせせらぎのように滑らかに机の上を流れている。

大広間の一番奥の壁に、壁一面を覆い尽くすほどの荘厳な扉がある。幾重にも鍵が掛けられている。扉の取っ手には、鎖までもが何重にも巻き付けられている。

『ここに座って』

晴馬たちは俺たちを、その扉に一番近い席に座らせ、本人たちは俺たちの真後ろにある席に着いた。何の飾りもない、古びた扉が俺たちの前に静かに立ちはだかる。色とりどりに飾られた大広間とは、何処か違う世界にあるような感じがする。

『注目』

中村の声のアナウンス。

保育園児と幼稚園児と小学生を混ぜた、元気すぎる空間が、シン…と寝静まったように静かになった。

『第18回、転生者送別祭を開催します』

中村がそう言うと、大広間の照明がパッと消され、入り口だけが白い光に明るく照らされた。暗い大広間の真ん中を、幅1m位の白い線がゆっくりと走っていく。その白い光は、扉の前まで来るとピカッと一瞬だけ明るく光り、やがて霧のようにジワジワと姿を消していった。

フッと空気が和らぐと、火の玉たちがボソボソとお喋りをし始め、照明が付けられた。荘厳な扉が、再び俺たちの前に姿を現した。

「何だったのあれ」

俺たちの頭の中には、白い光の正体が何となく分かっている気がしていたが、確かめずには居られなかった。サファイヤがクルリと身体を捻って、後ろの席に座っている火の玉たちに何やら尋ねると、身体の向きはそのままで顔だけを俺たちに向けて言った。

「生まれ変わる子供達だってさ。生まれ変わる時、基本的には前世の記憶って失われる。だから、火の玉の姿でもなければ色もないんだって」

俺は3年くらい前、海外の番組で、前世の記憶を持つ子供たちのドキュメンタリーを観たことがある。前世の記憶があるというだけで番組が幾つも作られるほど大騒ぎされる。それだけ珍しいということだ。どうして前世の記憶が失われるかは、多分企業秘密みたいな感じで俺たちには教えてくれないだろうが、何かしらの手違いがあったのだろう。

だけど、俺は知っている。

前世の記憶を持つ彼らの記憶は、決して幸せなものではないということを。

飛行機事故で、燃える飛行機が墜落していく恐怖が脳裏にこびり付いている僅か2歳の幼女。

近所の不良たちに虐められて、金属バットで何度も何度も殴られて死んだ記憶を持つ少年。

前世では武士で、雨が激しく降る寒い夜に戦死した記憶を持つ、今はアメリカに生きる少年。

きっと、忘れさせようとしても忘れさせることが出来ないまま、死者の世界は彼らの魂を生者の世界に送り出してしまったのだろう。

晴馬たちは、生まれ変わる時、前世での辛い記憶を忘れ去ることが出来るだろうか。

大広間を囲んでいる障子が、一斉にザッと開いた音がした。毛並みの美しい狐たちが、大小様々な皿に盛り付けられた料理を持って立っている。カチッと、何処かでCDがラジカセに入れられた音がすると、狐たちは音に合わせて、天女が舞うような優雅な仕草で料理を俺たちのもとに運んでくる。

『ご自由に、お好きなだけお食べ下さい』

俺たちに食事を運んでくれたのは夜桜だった。火の玉たちは、唐揚げやらハンバーグやら子供達が好きそうなメニューばかり。俺たちのは、彗星の親父さんが経営している高級料亭に負けないくらいの豪華な食事。

机の上を覆い尽くすほど置かれた料理を眺めていると、夜桜の手がニュッと横から伸びて、箸置きの横に小さな皿を静かに置いた。

コロコロ…

陶器で出来た白い皿の上を、ナッツに似た何かが遠慮がちに転がっている。

『こちらは必ずお食べ下さい。それ以外の料理については、お腹が膨れましたら残して頂いても構いません』

夜桜は、俺たち全員にそのナッツみたいなものを配り終えると、トレーを脇に抱え、ナッツを手で指し示しながら説明し始めた。

『水無月の座という果物で、生者の世界には存在しないものです。死者の世界から生者の世界に移動するには、膨大なエネルギーを要します。皆様が生者の世界に戻られた際の疲労を最大限軽減するための、サプリのようなものだとお考え下さい』

水無月の座…。

ついさっきまで、ただのナッツにしか見えていなかったが、生者の世界に無いと言われると、急に不可思議な物体に見えてくる。

「何で水無月の座っていう名前に?…お、甘い」

バットは躊躇せず、真っ先にその果実を口に放り込んだ。

『まあ、大した由来ではありませんが…』

夜桜曰く、この果実は「ザクロの逆」だという意味から名付けられたそうだ。

ザクロを逆から読むと、ロクザ。それを漢字に直してみると、六座。それだけだとつまらないので、六から6月を連想させる水無月に置き換えて、水無月の座となったそうだ。

『ザクロは、ギリシャ神話では、冥界の王が恋した女性に食べさせた果実として描かれています。冥界の王は、彼女を冥界に拉致したのですが、女性が生きていた頃の世界に戻りたいと嘆いたので、冥界の王は彼女に帰ることを許したのです。但し、ある条件を隠して。冥界の王は彼女を返す前に、腹の足しになるようにとザクロを一粒与えたのですが、それは彼女は永遠に冥界から逃れることは出来ないという運命を孕んでいました。冥界の王はそれを知っておきながら彼女にそれを隠して食べさせ、彼女が自分のもとを離れていかないようにしたのです』

夜桜の説明と一緒に、バットが果実を噛む音が聞こえてくる。俺は、親指と人差し指でその果実を恐る恐る摘んでみた。カサカサと乾燥した茶色い殻の中から、トロリとしたクリームの様なピンク色の何かが見える。殻の隙間から匂いを嗅ぐと、イチゴのような甘酸っぱい香りが俺の鼻先を突いた。

バットは、果実を既に飲み込んだ。エメラルドは訝しそうな目線を果実に向けていたが、勇気を振り絞ったように口の中に放り込んだ。一裕は特に何も考えていないという様子で、果実をチビチビと少しずつ食べている。

人差し指の爪の先にひんやりとした冷たさと僅かな重みを感じた。果実の殻の隙間から中のクリームが溢れたのだ。慌てて果実を口の中に入れ、卵の殻くらいの硬さの殻を噛み砕くと、桃のような控え目な甘さが口の中に充満した。

『今宵はお楽しみ下さいませ』

夜桜がそう言って、両手をパンッと叩くと、今度は全ての照明が消えて、大広間は暗闇に包まれた。火の玉たちがザワザワと騒いでいる。でも、何が起きているのかさっぱり分からない俺達とは違って、何かを知っているようで来るぞ、来るぞとソワソワしている。

『来た!』

誰かが甲高い声で叫ぶと、子供たちは次々と歓声を上げた。
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