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思春期真っ最中♥
キスって、どんな味?
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「やっと…色んなことが、終わった気がする…」
私達は祭りの後、各々の部屋に戻った。彗星さんは、寝間着に着替えて、丁寧に敷いた布団の上に腕を広げて横たわっている。陶器のように真っ白で、ニキビ一つない肌。その上を、涙が流れた跡が、光の筋となって見える。
以前までは生まれることを拒んでいた楓くんは、数分前、彗星さんと一裕の目の前で、生まれ変わるから待っていてくれと言った。
私達は、小説を読んだことをきっかけに、1人の少年を探し続けてきた。その途中では、敵か味方かも分からない人外たちに出会ってきた。衝突することもあったけど、私達は皆で、楓くんを探してきた。
誰の為でもない。ただ、衝動的に、私達はこの不可思議な冒険に、夢中になっていた。
それが、間もなく終わりを告げようとしている…はず。
心の何処かで、誰かがボソリと呟いた気がした。
「まだだよ」と。
『電気消して良い?』
「うん、良いよ。そろそろ寝る時間だね」
時計の針は夜の10時を少し過ぎていた。私の右隣に、りこちゃんが、彗星さんの左隣に瀬奈ちゃんと唯華ちゃんが布団を敷いた。
「消すよ」
私が手元にあったリモコンで、消灯のボタンを押すと、部屋が薄オレンジ色の灯りを除けば暗闇になった。
「ねえねえ、瀬奈ちゃん、唯華ちゃん」
彗星さんは、自分の隣に寝ている2人に声を掛けた。
「2人はバットたちに会った?」
『うん!!吸血鬼でしょ?狼もいたよね!』
2人は、今から寝ようとしていることを完全に忘れてしまったように、布団の中で大はしゃぎしている。
『でも、皆とも明日でお別れか…生まれ変わったら、吸血鬼さんに会えるかな?』
「会えるかもよ?」
彗星さんたちがお喋りを楽しんでいる間、りこちゃんは知らぬ間に熟睡してしまって、スウスウと小さな寝息を私の隣で立てていた。
「あら…寝ちゃった」
10分も経たないうちに、瀬奈ちゃんと唯華ちゃんも眠ってしまった。私達は、高校生だからなのか、まだ眠くない。眠くなるまで、あと1時間くらいある。彗星さんは、喋り相手を失ってしまって、火の玉たちを起こさないようにそっと寝返りを打って、私の方を見た。
「ねえ…佳奈美さん」
彗星さんの声は、元通り、透き通るような美しい女性の声に戻っていた。
「瀬奈ちゃんと唯華ちゃん…私…幸せになってほしいな…」
「うん…」
私と彗星さんが、この部屋で急遽寝泊まりさせてもらうことになった日、私達からは尋ねてもいないのに、2人は各々の死因を教えてくれた。瀬奈ちゃんは小児癌。唯華ちゃんは溺死。胸が痛くなるような過去を、あっけらかんとした表情で2人は語った。
「…私は、生きたい」
オレンジ色の常夜灯に淡く照らされた彗星さんの瞳は、少しも揺らいでいなかった。真っすぐと、私を見つめていた。
「この子たちは、前を向いて生きていた。長く生きるにつれて、なんで生まれてきたんだろうって、衝動的に何かを恨みたくなることもある。だけど、私は生きるよ、佳奈美さん。一裕さんのためとかじゃなくて」
彗星さんの囁く声が、静かな部屋に流れた。瀬奈ちゃんたちの可愛い寝息が、彗星さんの身体の向こうから静かに聞こえた。
彗星さんが、ゴソゴソと寝返りを打って仰向けになると、寝間着の上から自分の胸を優しく揉んだ。
「何してんの」
「うん?やっぱり、この身体がしっくりくるなって」
彗星さんは、楓くんの記憶奪取・改竄能力の暴走によって、身体が一時的に男になった。それも、フロストさんやレオさんが来てくれて、白四葉細胞が記憶を元通りにしてくれたおかげで、彗星さんの身体は女に戻った。ついでに、私も吸血鬼から人間に戻れたし、バットとウルフも吸血鬼に戻れた。
「ねえ、佳奈美さん」
「うん?」
「なんで蓮を好きになったの?」
薄暗がりに浮かぶ彗星さんの口元には、ウキウキとした笑みが浮かんでいる。蓮くんの顔が浮かぶ。蓮くんのことを考えると、胸の奥がキュンと、本当に心臓を射抜かれる感じがして、不可抗力でニヤけてしまう。
「…そういう彗星さんは、なんで一裕を好きになったの?地球人とか、宇宙人とか、そういうのは置いといて、一裕の何処が好き?」
「全部」
私は、彗星さんの照れる顔を期待していたのに、彗星さんは自信たっぷりにそう即答した。
「声も好きだしー、顔も好きだしー、性格も好きだしー、全部好き。大大大大大大好き」
聞いているこっちが恥ずかしくなってくるくらい、彗星さんは一裕への愛を語った。
「凄いなぁ、彗星さん。私もそうやって、蓮くんに言えたら良いのにな」
彗星さんは、人前でも憚らず、今と同じように一裕への愛を惜しみなく伝える。一裕が彗星さんにぞっこんになってしまうのも分かる。
私は蓮くんが好き。彗星さんが一裕を好きなのと同じくらい、いや、きっと、それ以上に私は蓮くんが好き。だけど。
「恥ずかしくて…言えない」
蓮くん…今、何してるかな。
私は、薄暗い天井に、蓮くんの顔を思い浮かべた。だけど、なんか、エッチな気分になってきちゃって、やめた。
「言ったら良いのに。大喜びするよ」
「うん…わかってる…あ」
私は昨晩、少しだけ照れ臭くて嬉しい夢を見た。それは、私と蓮くんが今よりも少しだけ成長してて、夜景が綺麗な展望台のベンチに座って、キスしてる夢。
「彗星さんって、一裕とキスしたことあるんだっけ?」
「キッ…?!」
彗星さんは、目を大きく開いて、口をパクパクとさせた。そして、照れ臭そうに「舌は入れてない」と答えた。
私は、昨晩の夢の中で私を抱き締めてくれた蓮くんの感触を思い出した。温かいを通り越して熱っぽくて、うっとりして、甘くて、少し苦くて。
「彗星さん、私、蓮くんのことを考えると、胸の奥が変になる。なんか、キュンって、苦しくなる」
私の言葉を聞くと、彗星さんは、いたずらっ子な笑みを口元に浮かべて、ニヤリと笑った。
「本人にそうやって言えば良いのに~イヒヒッ」
「無理だってば~フフッ」
「あ~あ」
彗星さんが、目を瞑って天井を仰いだ。瞼の奥に、一裕の顔を描いているのか、とても幸せそうな表情。白い頬が、少しピンク色になってる。
「早くパパとママになりたいなぁ…」
「いや…!!それは、ちょっと」
「分かってるって」
ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ
私の腕時計が、静かに喧しい私たちのお喋りを中断した。夜中の零時になったら、アラームが鳴るように設定してある。
「おやすみ」
彗星さんはそう言って、顔を掛け布団で覆い、私に背中を向けて眠り始めた。
「おやすみなさい」
私はそのままの姿勢で目を瞑った。
暗い世界に、蓮くんの笑顔を思い浮かべる。良い具合に筋肉が付いた、褐色の上半身。サファイヤと出会った海水浴場で見て以来だ。
いつか…いつか…いつか…。
私は寝間着の隙間に手を突っ込んで、自分の胸に触れた。産毛のサワサワとした感触が指先に伝わる。私の手の温度が、胸に伝わる。目を瞑って、それが蓮くんのものだったら、と想像してみる。
いや…落ち着け…落ち着け…落ち着け…。
想像の中の蓮くんは、どんなホストよりもカッコイイ笑顔で、甘い言葉を私に投げ掛け、私を優しく抱き締めてくる。
だめ…私は高校生。蓮くんも高校生。私は高校生。蓮くんも高校生。私は高校生。蓮くんも高校生。
そうやって呪文みたいに何度も唱えるほど、私が勝手に思い描く蓮くんの姿が鮮やかになっていく。
私は、自分の左手の手の平に「蓮くん」と書いて、それにそっと口付けをした。蓮くんの顔を思い浮かべながら。
私がキスしたのは、自分の手の平だったのに…これがプラシーボ効果って言うのかな…?
蜂蜜よりも、チョコよりも、甘くて溶ける恋の味がした。
「やっと…色んなことが、終わった気がする…」
私達は祭りの後、各々の部屋に戻った。彗星さんは、寝間着に着替えて、丁寧に敷いた布団の上に腕を広げて横たわっている。陶器のように真っ白で、ニキビ一つない肌。その上を、涙が流れた跡が、光の筋となって見える。
以前までは生まれることを拒んでいた楓くんは、数分前、彗星さんと一裕の目の前で、生まれ変わるから待っていてくれと言った。
私達は、小説を読んだことをきっかけに、1人の少年を探し続けてきた。その途中では、敵か味方かも分からない人外たちに出会ってきた。衝突することもあったけど、私達は皆で、楓くんを探してきた。
誰の為でもない。ただ、衝動的に、私達はこの不可思議な冒険に、夢中になっていた。
それが、間もなく終わりを告げようとしている…はず。
心の何処かで、誰かがボソリと呟いた気がした。
「まだだよ」と。
『電気消して良い?』
「うん、良いよ。そろそろ寝る時間だね」
時計の針は夜の10時を少し過ぎていた。私の右隣に、りこちゃんが、彗星さんの左隣に瀬奈ちゃんと唯華ちゃんが布団を敷いた。
「消すよ」
私が手元にあったリモコンで、消灯のボタンを押すと、部屋が薄オレンジ色の灯りを除けば暗闇になった。
「ねえねえ、瀬奈ちゃん、唯華ちゃん」
彗星さんは、自分の隣に寝ている2人に声を掛けた。
「2人はバットたちに会った?」
『うん!!吸血鬼でしょ?狼もいたよね!』
2人は、今から寝ようとしていることを完全に忘れてしまったように、布団の中で大はしゃぎしている。
『でも、皆とも明日でお別れか…生まれ変わったら、吸血鬼さんに会えるかな?』
「会えるかもよ?」
彗星さんたちがお喋りを楽しんでいる間、りこちゃんは知らぬ間に熟睡してしまって、スウスウと小さな寝息を私の隣で立てていた。
「あら…寝ちゃった」
10分も経たないうちに、瀬奈ちゃんと唯華ちゃんも眠ってしまった。私達は、高校生だからなのか、まだ眠くない。眠くなるまで、あと1時間くらいある。彗星さんは、喋り相手を失ってしまって、火の玉たちを起こさないようにそっと寝返りを打って、私の方を見た。
「ねえ…佳奈美さん」
彗星さんの声は、元通り、透き通るような美しい女性の声に戻っていた。
「瀬奈ちゃんと唯華ちゃん…私…幸せになってほしいな…」
「うん…」
私と彗星さんが、この部屋で急遽寝泊まりさせてもらうことになった日、私達からは尋ねてもいないのに、2人は各々の死因を教えてくれた。瀬奈ちゃんは小児癌。唯華ちゃんは溺死。胸が痛くなるような過去を、あっけらかんとした表情で2人は語った。
「…私は、生きたい」
オレンジ色の常夜灯に淡く照らされた彗星さんの瞳は、少しも揺らいでいなかった。真っすぐと、私を見つめていた。
「この子たちは、前を向いて生きていた。長く生きるにつれて、なんで生まれてきたんだろうって、衝動的に何かを恨みたくなることもある。だけど、私は生きるよ、佳奈美さん。一裕さんのためとかじゃなくて」
彗星さんの囁く声が、静かな部屋に流れた。瀬奈ちゃんたちの可愛い寝息が、彗星さんの身体の向こうから静かに聞こえた。
彗星さんが、ゴソゴソと寝返りを打って仰向けになると、寝間着の上から自分の胸を優しく揉んだ。
「何してんの」
「うん?やっぱり、この身体がしっくりくるなって」
彗星さんは、楓くんの記憶奪取・改竄能力の暴走によって、身体が一時的に男になった。それも、フロストさんやレオさんが来てくれて、白四葉細胞が記憶を元通りにしてくれたおかげで、彗星さんの身体は女に戻った。ついでに、私も吸血鬼から人間に戻れたし、バットとウルフも吸血鬼に戻れた。
「ねえ、佳奈美さん」
「うん?」
「なんで蓮を好きになったの?」
薄暗がりに浮かぶ彗星さんの口元には、ウキウキとした笑みが浮かんでいる。蓮くんの顔が浮かぶ。蓮くんのことを考えると、胸の奥がキュンと、本当に心臓を射抜かれる感じがして、不可抗力でニヤけてしまう。
「…そういう彗星さんは、なんで一裕を好きになったの?地球人とか、宇宙人とか、そういうのは置いといて、一裕の何処が好き?」
「全部」
私は、彗星さんの照れる顔を期待していたのに、彗星さんは自信たっぷりにそう即答した。
「声も好きだしー、顔も好きだしー、性格も好きだしー、全部好き。大大大大大大好き」
聞いているこっちが恥ずかしくなってくるくらい、彗星さんは一裕への愛を語った。
「凄いなぁ、彗星さん。私もそうやって、蓮くんに言えたら良いのにな」
彗星さんは、人前でも憚らず、今と同じように一裕への愛を惜しみなく伝える。一裕が彗星さんにぞっこんになってしまうのも分かる。
私は蓮くんが好き。彗星さんが一裕を好きなのと同じくらい、いや、きっと、それ以上に私は蓮くんが好き。だけど。
「恥ずかしくて…言えない」
蓮くん…今、何してるかな。
私は、薄暗い天井に、蓮くんの顔を思い浮かべた。だけど、なんか、エッチな気分になってきちゃって、やめた。
「言ったら良いのに。大喜びするよ」
「うん…わかってる…あ」
私は昨晩、少しだけ照れ臭くて嬉しい夢を見た。それは、私と蓮くんが今よりも少しだけ成長してて、夜景が綺麗な展望台のベンチに座って、キスしてる夢。
「彗星さんって、一裕とキスしたことあるんだっけ?」
「キッ…?!」
彗星さんは、目を大きく開いて、口をパクパクとさせた。そして、照れ臭そうに「舌は入れてない」と答えた。
私は、昨晩の夢の中で私を抱き締めてくれた蓮くんの感触を思い出した。温かいを通り越して熱っぽくて、うっとりして、甘くて、少し苦くて。
「彗星さん、私、蓮くんのことを考えると、胸の奥が変になる。なんか、キュンって、苦しくなる」
私の言葉を聞くと、彗星さんは、いたずらっ子な笑みを口元に浮かべて、ニヤリと笑った。
「本人にそうやって言えば良いのに~イヒヒッ」
「無理だってば~フフッ」
「あ~あ」
彗星さんが、目を瞑って天井を仰いだ。瞼の奥に、一裕の顔を描いているのか、とても幸せそうな表情。白い頬が、少しピンク色になってる。
「早くパパとママになりたいなぁ…」
「いや…!!それは、ちょっと」
「分かってるって」
ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ
私の腕時計が、静かに喧しい私たちのお喋りを中断した。夜中の零時になったら、アラームが鳴るように設定してある。
「おやすみ」
彗星さんはそう言って、顔を掛け布団で覆い、私に背中を向けて眠り始めた。
「おやすみなさい」
私はそのままの姿勢で目を瞑った。
暗い世界に、蓮くんの笑顔を思い浮かべる。良い具合に筋肉が付いた、褐色の上半身。サファイヤと出会った海水浴場で見て以来だ。
いつか…いつか…いつか…。
私は寝間着の隙間に手を突っ込んで、自分の胸に触れた。産毛のサワサワとした感触が指先に伝わる。私の手の温度が、胸に伝わる。目を瞑って、それが蓮くんのものだったら、と想像してみる。
いや…落ち着け…落ち着け…落ち着け…。
想像の中の蓮くんは、どんなホストよりもカッコイイ笑顔で、甘い言葉を私に投げ掛け、私を優しく抱き締めてくる。
だめ…私は高校生。蓮くんも高校生。私は高校生。蓮くんも高校生。私は高校生。蓮くんも高校生。
そうやって呪文みたいに何度も唱えるほど、私が勝手に思い描く蓮くんの姿が鮮やかになっていく。
私は、自分の左手の手の平に「蓮くん」と書いて、それにそっと口付けをした。蓮くんの顔を思い浮かべながら。
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