『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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幕開け

紙の奥には…隠された秘密が。

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それは、全身が薄い水色のデカいぬいぐるみだった。デカいツム◯ムみたいな見た目。のっぺりとした円柱形の胴体。ピロピロとした尻尾が遠慮がちに付いている。顔は、何だかシロイルカに似ていて、彗星に抱かれながら俺たちに円らな瞳で笑顔を見せている。

何処かの店で、似たような抱き枕を見たことある気がする。

あ、あれだ。

隅暮らしのリザードっていうキャラクターだ。見覚えがある気がしたのは、俺が働くコンビニで最近そのキャラクターの景品が抽選で当たる商品を売り始めたからだ。

「ま~た持ってきて~」

一裕は彗星の腕からそのぬいぐるみを取り上げると、それを自分の背中の後ろに隠した。少し突かせてもらうと、思いのほか柔らかくて、水色の身体は俺の指を包み込んだ。

「可愛いのに、こんなことするの。どう思う?」

彗星は不貞腐れたように唇を尖らせて、俺とバットの顔を交互に見た。

まあ、恐らく。

彗星がぬいぐるみに夢中になってしまって、一裕が嫉妬しているといったところだろう。

「だってー、こいつ翠ちゃんに毎日ハグされてるし、チューしてもらえるし、よしよししてもらってるもん」

一裕はぬいぐるみを前に抱えてそれを抱きしめながら、駄々っ子のように足をバタつかせて彗星にキスを強請る。

俺、何度も何度も何度も何度も一裕と彗星のハグとキスを見てきた気がするんだが…。

まだ物足りないってこと?


「開けてー」

玄関の方から、蓮の声がくぐもって聞こえた。彗星が扉を開けに行って暫くすると、足音が部屋に近づいてきた。

「お前らもう来てたんだ」

蓮と佳奈美さんが、エコバッグを2つくらいずつ持って部屋に入ってきた。

「ありがとね。食材わざわざ」
「ううん」

一裕が2人からエコバッグを預かって、中から取り出した食材を冷蔵庫の中に閉まっていく。佳奈美さんが一裕の隣に並んで手伝おうとしたが、蓮が2人の間に割り込んだ。


「へあぁ…やれやれ」

俺とバットが座っているソファの真ん前に、一人の狼男が姿を現した。緑色と銀色の体毛に覆われた大きな背中。数年前に比べて、随分と筋肉質になったエメラルドだった。右手には一匹の魚が、ヒレをビチビチと激しく動かして藻掻いている。エメラルドが右手を離すと、魚はビタンとフローリングの上に落ちて間もなくポンと人間の姿になった。

「エメラルド。サファイヤ」

俺が2人の後ろ姿に声を掛けると、2人は同時に俺とバットの方を振り向いた。

「おお…!!」

エメラルドは両目を丸くして、俺の横に腰をどっこらしょっと下ろして、俺の顔を覗き込んだ。

「彗星から聞いたぜ。日下部透の正体が分かったかもってな」

随分と長い講座を受けてきたのだろう。目の下に隈が出来ている。いきなり英才教育を寝る暇もなくされたら仕方のない事かもしれない。それでも、エメラルドの両目は好奇心と興奮で明るく輝いて見える。

「例の小説って何処にある?」

サファイヤは、俺の足元に置かれたリュックサックにちらちらと視線を何度も送っている。

「こっち来て」

サファイヤとエメラルドが部屋にやってきた頃、ちょうど一裕はトイレに、蓮は親から電話が来たと言って玄関にいていなかった。

「エメラルドとサファイヤが来てくれたよ!」

佳奈美さんと彗星は、俺たちの向かいにあるソファに腰を下ろして、水色のぬいぐるみを胸に抱きかかえながら各々の彼氏を呼んだ。

「ごめんごめん。お待たせ」

一裕と蓮が数分してから、部屋に戻ってきた。

「皆に見せたいのは、これ」

俺はリュックの中から、天然水が入ったペットボトルと小説の取り出した。表紙は既にカラカラに乾いて、浮かび上がって滲んでいた文字も跡形もなく消えていた。でも俺は知っている。濡らせばまた、文字が現れることを。皆が、小説とペットボトルを持つ俺の両手を覗き込む。

「洗面器借りても良い?」

俺は彗星に、風呂場からバケツなり何なり貸してくれるように頼んだ。上質なフカフカのソファを濡らすわけにはいかない。

「はい」
「どうも」

彗星はソファの前に、折畳式の小さな机を立てて、その上に空の洗面器を乗せた。淡いピンク色の無地のデザイン…かと思いきや、洗面器の底にはキスマークがさり気なく施されている。

これはこれは、また…。

俺は洗面器の中に小説の表紙が見えるようにして入れた。そして、ペットボトルの蓋を開け、中の水を表紙の上にチョロチョロと注いだ。その瞬間、誰もが息を呑んだのを感じた。いったい誰が好き好んで、本の表紙に天然水を注ごうか。でも、それが謎を解き明かす鍵なのだ。

「あ…ホントだ」

俺が表紙に水を少し掛けただけで、例の人名が浮かび上がった。

「この人が…日下部透ってこと?」

佳奈美さんは、表紙に浮かび上がった4文字をじっくりと観察するように眺めた。

孔 舎 衙 徹

4つの文字は、真っ白な表紙の上に静かに浮かび上がる。

「実は俺、ウルフがLINEに連絡をくれた後に、この人名を調べてみたんだ。どうやらプロの作家ではないみたい」

蓮はポケットからスマホを取り出し、ある画面のスクショを、俺たちに順番に見せた。

『全国小中高生創作コンテスト 〇〇書店賞受賞 孔舎衙徹(仮名:本人希望)』

蓮のスマホには、ある書店のHPが表示されていた。

「どうやらこの小説は、素人の学生が書いた小説らしい。このコンテストで選ばれると、書籍化されるんだって」

一裕が蓮のスマホを覗き込み、ボソッとため息混じりに呟いた。

「でも、仮名なんだよなあ…」

一裕の言う通り、本名でないということは、名前だけを頼りに正体を突き止めることは出来ない。それに、作者が仮名を希望した点が、妙に胸の奥に引っ掛かる。それは、自分の正体を隠すという行為。

サファイヤは暫く、スマホを覗き込む蓮と一裕のつむじ辺りを見ていたが、自分の手元に置かれた、濡れた表紙に視線を落とした。

「ん?」

サファイヤの目が、水色に光った。サファイヤは洗面器から小説を取り出し、表紙にキスしそうなくらいに顔を近付けて、水色の目を大きく開け表紙を凝視し始めた。

「これ……誰か、ヤスリ持ってない?」

サファイヤは顔を表紙から離すと、俺たちの顔を順番に見ていった。

「なんで?」
「…多分。何かの絵が隠されてる。表紙を削ったら見えるかも」
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