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幕開け
偶然か必然か 〜テレビの向こうの彼〜
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絵…?
「良いよ。削ろう。」
俺は迷わずそう答えた。中古品として売るつもりもないし、表紙を多少削るくらいなら大したことはない。
「髭剃りで良さそうか?」
一裕は洗面所から自分の髭剃りを持って戻ってきて、それを俺の手に渡した。
「削って…みよう」
俺は、皆が首を縦に振ったのを確認し、人名が浮かび上がっている周辺を恐る恐る髭剃りで削り始めた。
シャリ…シャリ…
鋭い刃が、真っ白な表紙を削っていく感覚が指先に伝わってくる。
「…矢?」
削っていくと、段々と矢の絵が浮かび上がってきた。
群青色の羽。矢じりの先端は、白く光っているようなデザイン。それは、夜空を掛ける流れ星を彷彿とさせる絵だった。
「アルファベットもある…」
矢の絵の下には、目を凝らせば辛うじて見ることが出来そうな、蟻ん子くらいの大きさのアルファベットも浮かび上がっている。
A R R O W
「アロー…?はっ…?!」
彗星は、はっと思いついたような表情を見せると、ソファのすぐ近くに置かれた机の上からタブレットを持ってきて、慌てながら何かの画面を開けようとしている。
「翠ちゃん?どうした?」
「まさかだけど…まさかだけど…」
一裕の呼びかけにも気付かず、彗星はそう呟きながら、ある画面を俺たちに見せた。
「これ、私が通っていた幼稚園の卒業アルバム」
そこに映されていたのは、沢山の園児の弾けるような笑顔。彗星だと思われる幼女が、ぎこち無い笑顔を見せながら写真の隅っこで小さくピースをしている。一人一人の顔のすぐ近くに、園児の名前が印字されている。
「この男の子の名前を見てほしいの」
彗星はそう言って、写真のど真ん中にいる少年を指差した。
太陽のような眩しい笑顔を浮かべた少年。小さな口から、白い歯が並んでいるのが見える。写真の中では、彗星よりも小さいちびっ子だ。
「山田…なんて読むんだ?」
その少年の笑顔の近くにも、他の園児と同じように名前が印字されていた。だけど、下の名前の読み方がさっぱり分からない。
山田 空瞬
「中国の子?」
バットの問いかけに、彗星は首を横に振って、少年の名前を静かに口にした。彗星自身が、その名前をしっかりと確認するように。
「珍しい名前だったから、私、今も覚えてるの。この子の名前…あろう、だった。私の記憶に間違いは無いはず」
彗星はそう言って、タブレットに映る少年の笑顔に視線を落とした。
「そいつに連絡取れたりする?」
蓮が彗星の横に立ってタブレットを一緒になって覗き込んだ。彗星は暫く悩んだように俯いてから、蓮の方に視線を移した。
「中学校が一緒だったから、もしかしたら同窓会とかで会えるかも…でも、いきなり、この小説の作者ですかなんて聞けない…」
カタカタ…
ソファの前に置かれた簡易式テーブルの上に置かれた洗面器が、カタカタと小さく揺れた。本の表紙を伝っていた天然水が、数滴洗面器の中に落ちた。
「地震?」
一裕は彗星の肩に腕を回しながら部屋中を見渡すように顔を動かし、佳奈美さんは自分のスマホをポケットから取り出した。
「震度2だって」
「一応テレビも付けとこうか。ポチッとな」
蓮は、テレビ台に置かれたリモコンでテレビを付けた。
『キャー!…』
テレビの画面の中央に、ある男性たちの笑顔がデカデカと映し出された。名前も知らない彼の頭の上に、さっき起こった地震に関する情報が、小さな文字で示されていた。
『本日は、最近話題のKPOPアイドルグループの皆様にお越し頂きました!』
テレビの画面の中で、妙に着飾った女性司会者が、アイドルと思われる男性たちの名前を紹介していく。韓国語なまりの拙い日本語で、彼らは自己紹介をしていく。
『ニッポンの、ミナサマ、ボクはキム・トユンです。アイシテル~!』
『キャー!!』
彼らが薄っぺらい愛の言葉を投げ掛ける度、耳をつんざくような悲鳴が起こる。
「あれ?」
テレビ画面に映るアイドルは、全部で7人。最後の一人にマイクが向けられた時、彗星は首を少しだけ傾げて、画面に映る彼の顔を観察するように凝視した。
『皆様、はじめまして。この度、KORJAとしてデビューさせて頂くことになりました』
司会者に渡されたマイクを手に持っている彼は日本人のようで、他のメンバーに比べると、圧倒的に日本語が流暢だった。まあ、彼が日本人なら当然だろうが。だが、よそ事を考えていた俺の思考回路に、突如としてある名前がテレビ画面から飛び込んできた。
『KORJAのリーダーを務めさせて頂きます、アローと申します。皆様、応援よろしくお願いいたします!』
『キャー!!』
「ア…アロー…?」
彗星は、既に画面が消えたタブレットをもう一度開けて、幼稚園のアルバムに映るアローの写真と、テレビに映るアローの顔を何度も交互に見比べた。
「…そう言えば、アロー君、高校から突然韓国に行ってしまって。特に仲良かった訳では無いし、理由も知らなかったけど…」
彗星は、テレビに映るアローに視線を向けた。アローは、薄いテレビの画面の中で、作ったような笑顔を見せながらヒラヒラと両手を振っている。
「コンタクト取るの、難しそうだな…」
蓮は、テレビに映るアローの作り笑顔を見ながら、溜息をついた。
「良いよ。削ろう。」
俺は迷わずそう答えた。中古品として売るつもりもないし、表紙を多少削るくらいなら大したことはない。
「髭剃りで良さそうか?」
一裕は洗面所から自分の髭剃りを持って戻ってきて、それを俺の手に渡した。
「削って…みよう」
俺は、皆が首を縦に振ったのを確認し、人名が浮かび上がっている周辺を恐る恐る髭剃りで削り始めた。
シャリ…シャリ…
鋭い刃が、真っ白な表紙を削っていく感覚が指先に伝わってくる。
「…矢?」
削っていくと、段々と矢の絵が浮かび上がってきた。
群青色の羽。矢じりの先端は、白く光っているようなデザイン。それは、夜空を掛ける流れ星を彷彿とさせる絵だった。
「アルファベットもある…」
矢の絵の下には、目を凝らせば辛うじて見ることが出来そうな、蟻ん子くらいの大きさのアルファベットも浮かび上がっている。
A R R O W
「アロー…?はっ…?!」
彗星は、はっと思いついたような表情を見せると、ソファのすぐ近くに置かれた机の上からタブレットを持ってきて、慌てながら何かの画面を開けようとしている。
「翠ちゃん?どうした?」
「まさかだけど…まさかだけど…」
一裕の呼びかけにも気付かず、彗星はそう呟きながら、ある画面を俺たちに見せた。
「これ、私が通っていた幼稚園の卒業アルバム」
そこに映されていたのは、沢山の園児の弾けるような笑顔。彗星だと思われる幼女が、ぎこち無い笑顔を見せながら写真の隅っこで小さくピースをしている。一人一人の顔のすぐ近くに、園児の名前が印字されている。
「この男の子の名前を見てほしいの」
彗星はそう言って、写真のど真ん中にいる少年を指差した。
太陽のような眩しい笑顔を浮かべた少年。小さな口から、白い歯が並んでいるのが見える。写真の中では、彗星よりも小さいちびっ子だ。
「山田…なんて読むんだ?」
その少年の笑顔の近くにも、他の園児と同じように名前が印字されていた。だけど、下の名前の読み方がさっぱり分からない。
山田 空瞬
「中国の子?」
バットの問いかけに、彗星は首を横に振って、少年の名前を静かに口にした。彗星自身が、その名前をしっかりと確認するように。
「珍しい名前だったから、私、今も覚えてるの。この子の名前…あろう、だった。私の記憶に間違いは無いはず」
彗星はそう言って、タブレットに映る少年の笑顔に視線を落とした。
「そいつに連絡取れたりする?」
蓮が彗星の横に立ってタブレットを一緒になって覗き込んだ。彗星は暫く悩んだように俯いてから、蓮の方に視線を移した。
「中学校が一緒だったから、もしかしたら同窓会とかで会えるかも…でも、いきなり、この小説の作者ですかなんて聞けない…」
カタカタ…
ソファの前に置かれた簡易式テーブルの上に置かれた洗面器が、カタカタと小さく揺れた。本の表紙を伝っていた天然水が、数滴洗面器の中に落ちた。
「地震?」
一裕は彗星の肩に腕を回しながら部屋中を見渡すように顔を動かし、佳奈美さんは自分のスマホをポケットから取り出した。
「震度2だって」
「一応テレビも付けとこうか。ポチッとな」
蓮は、テレビ台に置かれたリモコンでテレビを付けた。
『キャー!…』
テレビの画面の中央に、ある男性たちの笑顔がデカデカと映し出された。名前も知らない彼の頭の上に、さっき起こった地震に関する情報が、小さな文字で示されていた。
『本日は、最近話題のKPOPアイドルグループの皆様にお越し頂きました!』
テレビの画面の中で、妙に着飾った女性司会者が、アイドルと思われる男性たちの名前を紹介していく。韓国語なまりの拙い日本語で、彼らは自己紹介をしていく。
『ニッポンの、ミナサマ、ボクはキム・トユンです。アイシテル~!』
『キャー!!』
彼らが薄っぺらい愛の言葉を投げ掛ける度、耳をつんざくような悲鳴が起こる。
「あれ?」
テレビ画面に映るアイドルは、全部で7人。最後の一人にマイクが向けられた時、彗星は首を少しだけ傾げて、画面に映る彼の顔を観察するように凝視した。
『皆様、はじめまして。この度、KORJAとしてデビューさせて頂くことになりました』
司会者に渡されたマイクを手に持っている彼は日本人のようで、他のメンバーに比べると、圧倒的に日本語が流暢だった。まあ、彼が日本人なら当然だろうが。だが、よそ事を考えていた俺の思考回路に、突如としてある名前がテレビ画面から飛び込んできた。
『KORJAのリーダーを務めさせて頂きます、アローと申します。皆様、応援よろしくお願いいたします!』
『キャー!!』
「ア…アロー…?」
彗星は、既に画面が消えたタブレットをもう一度開けて、幼稚園のアルバムに映るアローの写真と、テレビに映るアローの顔を何度も交互に見比べた。
「…そう言えば、アロー君、高校から突然韓国に行ってしまって。特に仲良かった訳では無いし、理由も知らなかったけど…」
彗星は、テレビに映るアローに視線を向けた。アローは、薄いテレビの画面の中で、作ったような笑顔を見せながらヒラヒラと両手を振っている。
「コンタクト取るの、難しそうだな…」
蓮は、テレビに映るアローの作り笑顔を見ながら、溜息をついた。
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