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真実との対峙
真実の樹池
しおりを挟む「ちょっと確かめたいんだけど」
サファイヤが俺の爪先の辺りをウロウロと徘徊する。彼は、俺の足の親指、人差し指、と順番に険しい顔をしながら見ていく。
「君には、自分の身体が人間に見えているということでOK?」
「…サファイヤさんには、どういうふうに見えてるんですか」
サファイヤは、俺の爪先から頭の天辺まで隅々を観察する。するとサファイヤは、突然クルリと身体の向きを変えて、荒れ地の遥か向こうに薄っすら見える大樹に向かって歩き出した。
「何処に行くんですか」
俺はサファイヤについていこうとしたが、俺が一歩歩けば彼を潰してしまいそうで、俺はその場に立ち止まっていた。
「後々詳しく話すけど、諸事情あって前にここに来た。確か、あっちの方向に、『真実の樹池』って呼ばれてた池があったはず」
呼ばれてた…?
「サファイヤさん、待って!」
俺がそう叫んだ時、ブワンブワンと空気が振動した。戦闘用の大きな鐘や太鼓を叩いた時のようだった。サファイヤはピタリと立ち止まり、俺に背を向けたまま話した。
「ここは龍獅国。君が前世でいた場所。ドラゴンと人間が共生していた世界だ」
そしてサファイヤはクルリと身体の向きを変え、俺の全てを見透かすような鋭い眼差しを俺に向けた。
「ウルフとバットは、前世でここにいたんだよ」
淀んだ空を覆い尽くしていた雨雲のような真っ黒な雲の切れ間から、一本の真っ白な光が差し込んだ。光はサファイヤの全身を照らしている。徐々に切れ間が広がり、光は段々と俺の爪先、両足、ふくらはぎを照らしていく。
サファイヤの真っ青な瞳。
サファイヤがいれば、深海にだって光が差し込まれるのかもしれない。
俺は特に理由もなく、そんな事を思った。
そんな俺の心を見透かしたのか、サファイヤはフッと大人びた微笑みを浮かべていた。
「行こか」
クルリと俺に背を向け、サファイヤは「真実の樹池」を目指して歩いた。
彼の小さな後ろ姿は、とても心強いものに感じた。
サファイヤの小さな後ろ姿は、遠ざかる毎にますます小さくなっていく。殺伐としたこの赤い世界を、一人の少年が堂々とした足取りで、遥か遠くにある「真実の樹池」を目指す。雨雲のような真っ黒な雲の隙間から漏れた真っ白な光は、サファイヤの跡を追う。
「時間が馬鹿みたいに掛かりそうだから、悪いけど掌の上に乗せてくれる?」
サファイヤは数百メートル先で立ち止まり、俺の方を振り向いてそう言った。彼の表情が分からないくらいに遠くにいるのに、サファイヤの声は、まるで俺のすぐ隣で話しているように聞こえた。これもまた夢のせいか。
或いはこれは…。
俺の小さな頭では理解しきれないほど、この世界が広くて、深くて、複雑で、沢山の謎が潜んでいる証なのかもしれない。
サファイヤが何十歩と歩いた距離を、俺は数歩歩いただけだった。まるで映画の中の怪獣になった気分だった。俺が一歩歩く毎に、足元を竜巻のような砂埃が舞い、地面が激しく揺れる。だが、サファイヤは俺を見て逃げ惑うことはしなかった。彼はただ、揺れる地面にしっかりと両足を付け、仁王立ちして俺を見つめていた。
「よいしょっと。お邪魔するね」
俺がしゃがんで彼に右手を差し伸べると、彼は掌の窪みに腰を下ろして寛いだ。ちょっとした人形くらいの大きさ。それなのに、俺の身体がそのまま地球の中心にめり込むのではないかと思うほど、本当は軽いはずなのに重くて、俺はただ彼の小さな後ろ姿を見ていた。
「あ、あれだ。見える?池の真ん中に大樹が立ってるの」
俺がサファイヤを落とさないように慎重に運んで、サファイヤの指示に従って歩いていくと、遥か遠くに一本の大木が寂しげに葉を揺らしているのが見えた。その根元には、透明な水の張った池が、コンパスで描いたような綺麗な円を描いていた。
「サファイヤさん。ここが龍獅国というのは分かりました。でも、俺たちの他にドラゴンも人も見当たりません」
辺りは閑散としていて、何かがいる気配すらしなかった。全ての命が息絶えた後の地球は、こうなってしまうのかと恐ろしくなった。ただ、雲間から差し込む真っ白な暖かい光が救いだった。
「あ……そう。ここは、龍獅国の王族に代々仕えてきた守護竜が眠っている墓地」
俺はサファイヤの言葉に、俺は思わず歩くのを止めてしまった。
「おっとっと」
その反動で、サファイヤは俺の掌の上ででんぐり返しをした。
俺は今、ドラゴンの遺骸の上に立っている?
畏れ多い気持ちと、不謹慎にもドラゴンの遺骸を見てみたいと好奇心に駆られる気持ちに板挟みになる。
それはそうと、サファイヤはさっきから、俺たち以外の何かが見えているように辺りを見渡す。さっき、俺が「周りに何も見えない」と言った時、彼は不自然に言葉に詰まった。
「さっきさ…何も見えないって言ったよね」
サファイヤは、俺の右手に仰向けになって寝そべっていた。その視線は、遠くに見える、「真実の樹池」に絶えず向けられていた。
「それなら尚更、早くあの池に行かないと」
サファイヤはそう言うと、ムクッと起き上がり、真剣な表情をして俺の瞳の奥を覗き込むように言った。
「最初に聞いておくけど、もしも君が前世で誰かを死に導いたとしたら、君はどうする」
ドクン…
少なくとも俺が意識している範囲では、前世の記憶などないはずだった。だけど、俺の心臓は、警察に尋問されている時の容疑者のように、今にも逃げ出そうとするかのように激しく胸の中で暴れている。
「それが…ウルフさん達の言っていた、ドラゴンの禁忌っていう…?」
「あ、いや、それとは、また違う話だと俺は推測してる」
白い光が俺の掌を照らし、サファイヤの影が俺の手首の方に伸びる。水色に光るサファイヤの瞳は、北極星のように見えた。とても静かで穏やかなのに、目が離せなくて、それが無ければ不安に押し潰されてしまいそうな存在。
「まずは君が見なきゃ。この世界を」
サファイヤはゆっくりと首を回し、遥か遠くの大木に視線を向けた。そして、俺に背中を向けたまま、彼は落ち着いた声で語った。
「君の眼次第で、世界は如何様にも変わるんだよ」
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