【1月3日完結!】冥刻の子守唄――許されないことをした俺は――

ラムネ

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第六章 狂愛の少年

ずっと伝えたかった

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「世央!」
蛍が世央との面会を許されたのは、世央の諸々の検査が終わった後のことだった。
「あぁ、元気っすよ。この通り」
まだ太陽の光が差し込んで明るい病室のベットの上に、世央は胡座をかいて蛍が来るのを待っていた。
「意識不明から急に元気になった男子高校生がおるっていうので、俺、有名人になってんねん今。」
ピンクに染まる頬。ニカッと少年みたいに笑う世央の笑顔。
「世央のお父さんとお母さんは?」
蛍は本当は真っ先に世央を抱き締めたかったけれど、今更恥ずかしくなってきて少し目を逸らしながら話し掛けた。
「あぁ、多分もうすぐ来るかな。仕事先から来るから、30分くらいちゃう?知らんけど」
「そっか…」
ぎこち無い沈黙が流れていく。蛍は世央の顔を真っ直ぐ見ることが出来なくて、窓から見える景色が綺麗だとか、世央の顔を見なくて済む話題ばかりを敢えてしていた。それも段々とネタが尽きてきた頃、世央が静かに口を開いた。

「俺さ、蛍にずっと伝えたかったことがある」
世央はそう言うと手招きし、蛍に自分の隣に座るように促した。蛍は患者のベットに座って良いものかと躊躇したが、世央に引き摺られる形で無理矢理座らせられた。世央は、ベットの周りを囲うピンク色のカーテンをシャッと閉めた。

小学生の頃とは違う、世央の香り。小学生の頃は、ミントみたいな、レモンみたいな涼し気な香りだった。でも今は、ワインみたいな大人の甘苦い香りがする。
「……好き」
「え?」
自分の心の声が溢れてしまったのかと、蛍は隣に座っている世央の顔を伺った。世央は、真っ赤に頬を染めて、蛍の手を強く握っている。
「お前のことが好きっつってんだよ、蛍」
「え…は…?へ…?」
人間は、叶わないと思っていた夢が叶った時には、喜ぶよりも困惑するもので、蛍も例外ではなかった。たった今、自分の目の前で置きたことを頭の中で整理しようとすると、小学生時代の世央との土臭い記憶が蘇ってくる。何だかわけがわからなくなっているうちに、気が付けば蛍はベットに腰掛けたままポスンと仰向けに倒れた。
「蛍、実は聞こえてたんだ。お前がお見舞いに来てくれた時、俺のことを昔から好きでいてくれたってこと」
蛍の隣に腰掛けていた世央が、意地悪そうな笑みを浮かべて蛍の顔を覗き込んだ。
「へぁっ?!」
自分の告白を聞かれ、自分の情けない嗚咽も聞かれ、好きな人の顔が至近距離に近付いてくることに、不思議な鳥みたいな声が出てしまい、蛍は顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。
「蛍、見せろよ」
「やだよ」
「いいから」
両目を特に隠す蛍の姿がいじらしくて、世央は蛍の上に覆い被さるような姿勢を取り、蛍の手を退けた。世央は蛍を誂ってやるつもりだったが、蛍の顔を見て、スッと笑顔が消えていった。代わりに、後悔したような表情を浮かべた。
「なんで泣いてんの…?」
蛍は、声も出さずに涙を流していた。苦しそうに泣くわけでもなく、嬉しそうに泣くわけでもなく、呼吸と一緒に自然と涙が零れ落ちていく。
「ヘヘッ…分かんねぇ。でも…嬉しくって…」
「嬉しいのになンっ?!」

蛍が強く世央を抱き締めた。両腕でしっかりと、世央の背中を抱き締めていた。世央の心臓の音と、蛍の心臓の音が1つになっていく。
「世央。お前の言う通りだよ。ずっと……大好きで大好きで、仕方なかった」
「蛍…なんや。早う言ってくれたらええのに」
世央を抱き締める蛍の力が少し弱くなって、世央は蛍の顔を見つめた。蛍もまた世央を見つめていた。空気が甘い。眠くなるような室温。熱くなっていく頬。激しくなっていく鼓動。蛍が世央に手を伸ばすと、世央は顔を蛍の顔に近付けた。世央は蛍の手に自身の指を絡めた。お互いの体温が直に伝わる。お互いの熱い息が掛かるのが擽ったい。心臓の鼓動が喧しくて心地良い。

蛍と世央の唇が重なり合う―――その直前。


「世央!!」
ガラリと勢い良く病室の扉が開いた。仕事を早退して駆け付けた両親だった。
「んなはぁい?!」
幸い、カーテンを閉めてあったおかげで、2人は親には見せられないような体勢を取っていたことがバレずに済んだ。蛍は慌ててベットから起き上がり、世央はベットの上に腰を下ろした。その直後にカーテンが開いて、世央の両親が荷物を床に投げ捨てて世央を抱き締めた。意識不明の我が子が元気になったと連絡を受けた親の反応としては至って正常ではあるが、蛍は完全に蚊帳の外にされてしまい、居心地悪そうに世央にチラリと視線を向けた。母親からは抱き着かれ、父親からは髪を撫で回され、苦笑いをしていた世央と目が合った。
「親父、母さん。俺が…メモ帳に落書きしてたことなんだけど…」
世央は気不味そうな表情になり、静かに語り出した。そして蛍に視線を向け、手招きした。
「蛍、こっち来て」
「え……俺?」
世央の両親は、いないと思っていた蛍がいた事に驚き、無視したような行動を取ってしまったことを必死に詫びた。蛍も、世央の両親に隠れて危うく世央と一線を超えかけた疚しさから、必死にペコペコと頭を下げた。世央はその様子を、黙って見ていた。今から自分が伝える言葉を最終確認しているような面持ちだった。
「母さん、親父。まずは心配させてごめん。俺はもう、自殺してみようなんて思わないから」
世央はスクッとベットから立ち上がると、両親と世央に向かって深々と頭を下げた。世央の両親は、生きていてくれさえいれば良いのだと、目を赤くして世央に頭を上げるように何度も促した。それでも世央は頑なに頭を下げ続けた。
「ずっと黙ってました。ごめんなさい。俺……男が好きなんです。蛍のことが好きです。さっき、蛍に告白しました。蛍も俺のこと、好きだって言ってくれました。お願いします。付き合わせてください」
何を言うのか、何度も考えて整理してきたのか、スラスラと水が流れていくように自分の本来の姿を打ち明けた世央の言葉を聞いて、世央の両親は蛍の方を見た。驚きと戸惑いの眼差し。世央の両親から責められているように感じて、蛍は肩を竦めた。蛍の視界の隅に、世央が今も頭を下げているのが見えた。蛍もそれに釣られるように頭を下げた。
「世央が言ったことは全部、本当です。俺からもお願いします。息子さんとの交際を、どうか許してください」
その言葉が言いたかった。だけど、段々と喉の奥が痛くなって、目の奥が熱くなって、声が震えてしまう。泣くのを我慢すればするほど、泣きたくなって蛍は最後まで言い切ることが出来ず、ただ肩を震わせた。
「泣かんで?蛍くん」
全てを黙って聴いていた世央の父親が、蛍の顔を上げさせた。蛍は、両目に溜まった涙を見られるのが恥ずかしくて、慌てて袖で涙を拭った。世央が小学校に転校してきて早々、厳格な父親だと校内で即有名になり、泣く子も黙ると言われていた世央の父親は、優しい笑顔を蛍に向けていた。それが意外で、蛍は豆鉄砲を食らった鳩のような気分だった。
「こんなアホな息子のこと好きになってくれてありがとうねぇ」
世央の母親も、ポンポンと蛍の肩を優しく叩いた。
「蛍くんみたいに賢くてイケメンな子が、もしかしたら義理の息子になるかもしれない思うたら、おばちゃん誇らしいわぁ」
最後に会ったのは小学校の卒業式で、久しぶりに会った世央の母親の目尻には、皺が少し増えていた。随分と気の早いことを言われて、赤面する蛍の背中を、世央の母親は豪快に笑い飛ばしながら叩いた。
「蛍……蛍にも謝りたい事がある」
気不味い雰囲気が段々と解けて、明るい空気が流れ始めた中、世央の苦しそうな声が聞こえた。
「俺に謝りたいこと?おい?!」
頭を下げていた世央は、突然蛍に向かって土下座をした。蛍は慌てて世央を起き上がらせようとしたとき、世央は嗚咽を漏らしながら隠していたことを蛍に明かした。
「ごめんなさい…俺…蛍のこと試した。俺が死んだら泣いてくれるかなって…少しは俺の方を振り向いてくれるかもって…」

バンッ!

蛍が世央の背中を強く叩いた音が、痛々しく響いた。世央は土下座をしたまま、小さく震えていた。蛍に嫌われるくらいなら隠し続けるべきだったか。いや、蛍に嘘を付くくらいなら嫌われるべきか。その間で葛藤していた。
「世央…お前、アホやろ」
世央の背中を叩いた蛍の右の掌は赤くなっていた。
「だけど、そんなアホな所も、大好きやで」
土下座している世央を無理矢理起き上がらせ、蛍は自分の胸に抱いて、世央だけに聞こえるようにそう囁いた。蛍の耳に、世央の震える吐息が聞こえる。世央が自分の背中を強く抱き締めているのを感じて、蛍はそれに負けないくらいに強く抱き締めた。
「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさぁい…!!」
世央は、幼児のように泣きじゃくった。自分が同性という「好きになってはいけない人」に恋焦がれていると気付いた瞬間から、流したくても流せなかった涙が溢れていく。蛍のことを「好きになってもいいのだ」と知った喜びの涙が溢れていく。罪深い自分を許してくれた、自分を愛してくれている人たちの愛に世央は咽び泣く。

世央の涙が蛍の肩に染みていく。蛍の涙も、世央の肩にポタリと垂れた。

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