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第1章:出会いの青
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しおりを挟む「せっかくだから、拾ってくれたリンゴ食べて行かない?」
「えっ、いや、せっかく買ったものなのに、申し訳ないです。」
「いいのよ!優しい颯真くんに出逢えた記念と、そのお礼よ。」
「や、その……」
穏やかながらも、女性らしい静かな強引さを含んだその声色に、颯真は困惑する。母や姉で幾度か経験したその眼差しに、やがて颯真は白旗をあげた。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……荷物、中まで運びます。」
「ふふ、ありがとうね」
◇
「それじゃあ、いつもは娘さんと2人で?」
颯真は、噛み砕いたリンゴを入れてもらったお茶で流し込むと、台所に立つ佳代の背中に話しかける。
家に上げてもらった直後、手際よく買ってきたものを片付け、丁寧に切った青リンゴを皿に盛り付けお茶を用意した佳代は、そそくさと台所で別の料理を始めてしまった。
その間、もちろん颯真は、何か手伝いを…と打診したものの、「いいから座って」「私の話し相手になって頂戴」と佳代に押し切られて、ダイニングテーブルから佳代の背中と会話をすることになったのだった。
いつの間にか、暖かい出汁の匂いが部屋中に立ち込めている。その暖かな雰囲気と佳代の軽やかな身の上話に、颯真はいつの間にか絆されて、気づけば自宅のように肩の力を抜いていた。
「そうよー。どうにも昔から、奔放で不憫な娘でねぇ。ついこの間、大荷物を抱えて出ていくもんだから、いい年して家出でもするのかと思ったのよ
……そしたら、あの子、なんて言ったと思う?」
「ええっと…なんだろう。自分探しの旅、とか?」
「惜しいわね」
佳代は、颯真の若々しい回答にくつくつと笑いながら質問の答えを続ける。
「新しいボーイフレンドと海外旅行、ですって!」
その回答を聞いて、颯真は違和感を覚える。確か、佳代さんは70代後半のはずで、その娘さんと言ったらそこそこ大人な女性のはずでは…?
「失礼ですけど、娘さんって一体おいくつなんですか?」
「あはは、そうなるわよねえ。もう40は既に越えているはずよ。」
「それは…なんというか、本当に奔放ですね」
「そうねえ、次の恋はうまくいくといいけど…」
佳代は、朗らかに笑いながらも、その言葉の節に心配と寂しさを滲ませている。
ふと、うちにも似たような人間がいたな…と恋に奔放な姉の顔が颯真の頭をよぎる。姉が今のまま大人になったらこんな感じなのかと想像して、思わず苦い顔になる。
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