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第14話「耳打ちとゴールネット」
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ーー間もなく桜田町です。
ちょうど4曲くらい聞き終わった時、イヤホン越しに到着のアナウンスが聞こえた。
イヤホンを外して横を見ると、花園は冬馬の肩に寄りかかって気持ち良さそうに寝ていた。
長いまつげにすらっとした顔……仄かに香るシャンプーの匂い。まあ、最後のは置いておいて、こう改めて見ると凄く可愛らしくて人形みたいだった。
「ん……着いた?」
冬馬の肩から離れた花園が、眠そうに目をこすりながら言った。
「もう少しで着くよ、俺は降りるけど寝過ごさないようにね」
「うん……眠い」
それからまた少しして、冬馬が降りる桜田町の駅のホームに着いた。
この電車は寒さ防止のためか、自分がボタンを押さないとドアが開かないので慌てて席を立ってドアへと向かった。
「じゃあね水城」
「うん、じゃあね」
座って手を振る花園に冬馬も手を振って、電車から降りる。雪が降る時期はは降りた瞬間に極寒の風が襲ってくるのだが、今は夏なのでその心配はない。
冬馬は発車する電車を見送った後、すぐに家へと……帰ろうとしたが、しばらくの間駅のホームから動けずにいた。
さっきまで花園の頭が寄りかかっていた肩を見つめる。
(……心臓が……止まりそうだ)
冬馬とは正反対の遠い存在だと思っていた人物が、距離を飛び越して自分の肩に密着していた。
人気者の花園にとっては気にしないことでも、そもそも女子に免疫のない冬馬にとっては、近くに女子がいるだけでも緊張するのに、あの状況はとても心臓に悪かった。
(……これが普通のスキンシップなのだろうか?)
わからない。でも嫌だったという気持ちではない。冬馬は疑問でいっぱいになった頭で、やっとホームを背にして歩き始めた。
「えー、本日は天気に恵まれ……」
毎年恒例の校長先生の長い挨拶が催される。開会式は体育館で行われるため、終わり次第各自の競技へと向かうことになる。
冬馬は花園と話した時の予言が当たり、Bチームでサッカーに出場することになっているので、開会式が終わったらグラウンドに行かなければならない。
「……冬馬、一緒に頑張ろうね」
こそっと耳打ちをしてきた純も、冬馬と同じBチームのメンバーとなった。純は「ガタイがいいのと頼れる存在だ」というこじつけでゴールキーパーを担当することになっていた。
かくして冬馬はフォワードとなった。経緯は皆それぞれ好きなポジションについてしまったため、余ったのがフォワードだったからだ。
「今日は頑張らなくちゃいけない日なんだよね」
「なんかあったの?」
純が熱心になるといえば二次元のことか食べ物のことなので、スポーツのことでやる気になるなんて滅多にない。というか聞いたことかない。
「球技大会が終わったら教えるよ、冬馬には話しておかないといけないことがあるんだ」
「なんだよいきなり……まあ、頑張ろうな」
純の話には興味があるが、冬馬も花園に「球技大会本気でやってね」と応援されているので頑張らなくてはいけない。
「えーこれで、開会式を終わります。生徒の皆さんは自分の競技へと向かってください」
全校生徒が礼をした後、一斉に散り散りとなって移動を始める。
「冬馬、一緒に行こ」
「いいよ」と返事をして、冬馬は純と一緒にグラウンドへと向かった。
途中でふわふわと髪にカールをかけた女の子が視界に入ったが、楽しそうに望月たちと喋っていて、相変わらず学校では遠い存在だなと認識した。
ビブスを着てポジションにつく。相手は抽選の結果、二年生の別のクラスのBチームで、見る限りサッカー部員はいなそうだ。
冬馬と同じように安堵したのか、試合開始前まで縮こまってたチームメイトたちの表情も晴れ晴れしていた。
幸いにも、冬馬のチームにはサッカーが苦手な人はいるが、すこぶるサッカーができないというメンバーはいない。
これなら死ぬ気でボールを追いかけなくても、下手なことをしない限り一回戦負けはなさそうだ。
「では一回戦始めます!」
サッカーボールを持った審判役のサッカー部員が、センターサークルの中央にボールを置くと、首に下げていたホイッスルを右手に持った。
(……絶対勝つぞ)
「みんなー! 後ろはいいからどんどん攻めてけよー!」
キーパーの純が大声を上げた瞬間、甲高いホイッスルの音色が宙を舞った。
ホイッスルが鳴って五分も経過すると、すぐに冬馬のチームたちのペースとなり、2ー0と優勢を占めていた。
そのうちの一点は、味方からのセンタリングにボレーで合わせた冬馬の得点だ。
久しぶりに本気を出してスポーツをしたので、普段めんどくさがって体育の授業を受けている冬馬を見ているチームメイトたちは、「どうしたの冬馬こんなにスポーツできたっけ」と口を合わせていた。
別に今まで隠してきたわけではないが、やるならとことんやってやる。
「冬馬! 決めろ!」
「任せろ!」そう心の中で叫んだ冬馬は、味方からの絶好なスルーパスに抜け出して、力強く振り絞った右足でボールの中心を蹴り飛ばした。
鋭く一直線に飛んで行ったシュートは、キーパーの左上へと向かって飛んで行き、そのまま勢い良くゴールネットを突き刺した。
ちょうど4曲くらい聞き終わった時、イヤホン越しに到着のアナウンスが聞こえた。
イヤホンを外して横を見ると、花園は冬馬の肩に寄りかかって気持ち良さそうに寝ていた。
長いまつげにすらっとした顔……仄かに香るシャンプーの匂い。まあ、最後のは置いておいて、こう改めて見ると凄く可愛らしくて人形みたいだった。
「ん……着いた?」
冬馬の肩から離れた花園が、眠そうに目をこすりながら言った。
「もう少しで着くよ、俺は降りるけど寝過ごさないようにね」
「うん……眠い」
それからまた少しして、冬馬が降りる桜田町の駅のホームに着いた。
この電車は寒さ防止のためか、自分がボタンを押さないとドアが開かないので慌てて席を立ってドアへと向かった。
「じゃあね水城」
「うん、じゃあね」
座って手を振る花園に冬馬も手を振って、電車から降りる。雪が降る時期はは降りた瞬間に極寒の風が襲ってくるのだが、今は夏なのでその心配はない。
冬馬は発車する電車を見送った後、すぐに家へと……帰ろうとしたが、しばらくの間駅のホームから動けずにいた。
さっきまで花園の頭が寄りかかっていた肩を見つめる。
(……心臓が……止まりそうだ)
冬馬とは正反対の遠い存在だと思っていた人物が、距離を飛び越して自分の肩に密着していた。
人気者の花園にとっては気にしないことでも、そもそも女子に免疫のない冬馬にとっては、近くに女子がいるだけでも緊張するのに、あの状況はとても心臓に悪かった。
(……これが普通のスキンシップなのだろうか?)
わからない。でも嫌だったという気持ちではない。冬馬は疑問でいっぱいになった頭で、やっとホームを背にして歩き始めた。
「えー、本日は天気に恵まれ……」
毎年恒例の校長先生の長い挨拶が催される。開会式は体育館で行われるため、終わり次第各自の競技へと向かうことになる。
冬馬は花園と話した時の予言が当たり、Bチームでサッカーに出場することになっているので、開会式が終わったらグラウンドに行かなければならない。
「……冬馬、一緒に頑張ろうね」
こそっと耳打ちをしてきた純も、冬馬と同じBチームのメンバーとなった。純は「ガタイがいいのと頼れる存在だ」というこじつけでゴールキーパーを担当することになっていた。
かくして冬馬はフォワードとなった。経緯は皆それぞれ好きなポジションについてしまったため、余ったのがフォワードだったからだ。
「今日は頑張らなくちゃいけない日なんだよね」
「なんかあったの?」
純が熱心になるといえば二次元のことか食べ物のことなので、スポーツのことでやる気になるなんて滅多にない。というか聞いたことかない。
「球技大会が終わったら教えるよ、冬馬には話しておかないといけないことがあるんだ」
「なんだよいきなり……まあ、頑張ろうな」
純の話には興味があるが、冬馬も花園に「球技大会本気でやってね」と応援されているので頑張らなくてはいけない。
「えーこれで、開会式を終わります。生徒の皆さんは自分の競技へと向かってください」
全校生徒が礼をした後、一斉に散り散りとなって移動を始める。
「冬馬、一緒に行こ」
「いいよ」と返事をして、冬馬は純と一緒にグラウンドへと向かった。
途中でふわふわと髪にカールをかけた女の子が視界に入ったが、楽しそうに望月たちと喋っていて、相変わらず学校では遠い存在だなと認識した。
ビブスを着てポジションにつく。相手は抽選の結果、二年生の別のクラスのBチームで、見る限りサッカー部員はいなそうだ。
冬馬と同じように安堵したのか、試合開始前まで縮こまってたチームメイトたちの表情も晴れ晴れしていた。
幸いにも、冬馬のチームにはサッカーが苦手な人はいるが、すこぶるサッカーができないというメンバーはいない。
これなら死ぬ気でボールを追いかけなくても、下手なことをしない限り一回戦負けはなさそうだ。
「では一回戦始めます!」
サッカーボールを持った審判役のサッカー部員が、センターサークルの中央にボールを置くと、首に下げていたホイッスルを右手に持った。
(……絶対勝つぞ)
「みんなー! 後ろはいいからどんどん攻めてけよー!」
キーパーの純が大声を上げた瞬間、甲高いホイッスルの音色が宙を舞った。
ホイッスルが鳴って五分も経過すると、すぐに冬馬のチームたちのペースとなり、2ー0と優勢を占めていた。
そのうちの一点は、味方からのセンタリングにボレーで合わせた冬馬の得点だ。
久しぶりに本気を出してスポーツをしたので、普段めんどくさがって体育の授業を受けている冬馬を見ているチームメイトたちは、「どうしたの冬馬こんなにスポーツできたっけ」と口を合わせていた。
別に今まで隠してきたわけではないが、やるならとことんやってやる。
「冬馬! 決めろ!」
「任せろ!」そう心の中で叫んだ冬馬は、味方からの絶好なスルーパスに抜け出して、力強く振り絞った右足でボールの中心を蹴り飛ばした。
鋭く一直線に飛んで行ったシュートは、キーパーの左上へと向かって飛んで行き、そのまま勢い良くゴールネットを突き刺した。
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