42 / 48
第42話「最終日と帰還」
しおりを挟む
三日目となった修学旅行は、昨日と同様それぞれのグループに分かれて、京の町を自主研修することになっており、冬馬は球技大会の時のチームメイトと一緒に瓦町を観光していた。
(……やばい、めっちゃ眠い)
昨夜は寝ようといくら努力しても、眠気が来たのは純の鼾が聞こえてから随分と時間が経った後だった。
……それも恐らく、というか絶対自分が起こしたあの行動のせいだ。
(俺って、あれが素なのだろうか)
いくら二人きりの密閉空間とはいえ、泣いている花園の肩を抱きしめるだなんて、いつもの冬馬からしてみれば考えられない行為だ。しかもそのせいで、一番楽しみにしていたサンセットクルーズの記憶が一切ない。
観覧車から降りた後もずっと悶々としていたが、まさかずっとその状態が続くだなんて思ってもいなかった。しかもサンセットクルーズで花園とすれ違った時の気まずそうな顔は忘れられない。
「みんな! 見てみてあれ、めっちゃ美味しそうじゃない?」
純が心を弾ませて指差した先には、風雅さが溢れる抹茶専門店が佇んでいた。
今は一旦昨日の観覧車での出来事は忘れよう。もう修学旅行は残り僅かなので、心が満足するまで楽しむことが何よりの先決だ。
「おい……また食うのかよ……」
現在の時刻は三時を過ぎた辺りで、今思えば午前中から行動を始めているが「抹茶」系統の食べ物しか口に入れていないような気がする。
だがやはり抹茶は京の町の特産品というだけあって、自分たちの住む町とは味も風味も何から何まで別物と思えるほどに格別だった。冬馬は今日まで抹茶を美味しいと思った事はなかったが、今日の一番最初に食べた「抹茶ヨーグルトパフェ」が喉元を通り過ぎるごとに胃の中が喜ぶほど美味で、他の京の抹茶のお菓子を食べるごとに気づいたら好きになっていた。
「まぁ、せっかくだから抹茶のお菓子食べつくすか」
「……それもアリだね!」
結局その日は抹茶巡りツアーで終了し、翌日の東京観光やら夢の国などを楽しんでいるうちに、ふと溜め息をついた時には、冬馬が乗車している飛行機が地元の国際空港の滑走路を走っていた。
(……もう終わっちゃったな)
本心で言うならば行きたいと思っていなかった修学旅行。高い金額も絡むので、母には「別に俺は行かなくても良いから」と言っていたのだが、「一生の思い出作り」と押し切られて参加してみて、心底修学旅行に参加してよかったと思う。
飛行機から降車すると、別の都とは一風変わった懐かしい匂いが鼻孔を掠めて、「ああ、帰ってきたんだな」と一層考えさせられた。
「冬馬、それじゃまた学校でね!」
「うん、じゃあね純」
バゲージクレームから一足早くキャリーケースが出てきた純は、冬馬に手を振って帰宅を待っている母の元へ行ってしまった。
それからぽつり、ぽつりと周囲の生徒が各々の荷物を回転台から受け取ると、次第に人の影が消えていってしまった。
(これ、荷物来ないんじゃないか……?)
その疑問が浮かびあがってきた頃に、目の前のターンテーブルから冬馬の荷物が顔をだし、無事に冬馬の手の中へと戻ってきた。
改めて辺りを確認してみると、運悪く荷物が遅く出てきた冬馬は最後の順番の方で、その場に残っていたのは自分と……。
「あ……あの、水城」
自分の名前を呼ぶ懐かしい声に驚いて息を呑む。
周りを見渡した瞬間に視線が合ったのは、自分と同じくキャリーケースが遅く出てきた花園だった。
もうとっくに帰宅をしたのかと思っていたが、まさか最後まで残っているだなんて想像だにしなかった。
「……楽しかったね。お疲れ様」
若干疲労を滲ませた表情の花園がはにかみながら手を振る。
結局あの観覧車以来、修学旅行中に話す事は無かったが、それでもあの数分間は今でも心に焼き付いている。
自分の心に真っ直ぐになれたこと、花園が涙を流して謝罪してくれたこと。母が言っていたように、まさに一生の思い出になるだろう。
「あの時、観覧車に連れて行ってくれてありがとうな。俺も楽しかった。それじゃ、花園もお疲れ様」
キャリーケースを手に取った花園に軽く手を振り、扉を開けて母と妹たちが待っているフロントへと向かう。
「お兄ちゃん、おかえり……」
「兄ちゃん、お土産買ってきた?」
「ああ、勿論。ただいま」
美月と美陽、母にはそれぞれ柄は違うがお揃いのキーホルダーと、別で薄い餅の生地に包まれて中に生チョコが詰まっているお菓子、京の少し値段が高めな玄米茶を買ってきた。
手土産を見せると三人とも喜んでくれて、その笑顔が眩しくて修学旅行の最中には無かった別の心地よさが胸に染みた。
いつか、家族で旅行に行ってみたい。冬馬の帰還を待ってくれていた家族を見ていると、何故だかそんな感情が込み上げてきた。
(……やばい、めっちゃ眠い)
昨夜は寝ようといくら努力しても、眠気が来たのは純の鼾が聞こえてから随分と時間が経った後だった。
……それも恐らく、というか絶対自分が起こしたあの行動のせいだ。
(俺って、あれが素なのだろうか)
いくら二人きりの密閉空間とはいえ、泣いている花園の肩を抱きしめるだなんて、いつもの冬馬からしてみれば考えられない行為だ。しかもそのせいで、一番楽しみにしていたサンセットクルーズの記憶が一切ない。
観覧車から降りた後もずっと悶々としていたが、まさかずっとその状態が続くだなんて思ってもいなかった。しかもサンセットクルーズで花園とすれ違った時の気まずそうな顔は忘れられない。
「みんな! 見てみてあれ、めっちゃ美味しそうじゃない?」
純が心を弾ませて指差した先には、風雅さが溢れる抹茶専門店が佇んでいた。
今は一旦昨日の観覧車での出来事は忘れよう。もう修学旅行は残り僅かなので、心が満足するまで楽しむことが何よりの先決だ。
「おい……また食うのかよ……」
現在の時刻は三時を過ぎた辺りで、今思えば午前中から行動を始めているが「抹茶」系統の食べ物しか口に入れていないような気がする。
だがやはり抹茶は京の町の特産品というだけあって、自分たちの住む町とは味も風味も何から何まで別物と思えるほどに格別だった。冬馬は今日まで抹茶を美味しいと思った事はなかったが、今日の一番最初に食べた「抹茶ヨーグルトパフェ」が喉元を通り過ぎるごとに胃の中が喜ぶほど美味で、他の京の抹茶のお菓子を食べるごとに気づいたら好きになっていた。
「まぁ、せっかくだから抹茶のお菓子食べつくすか」
「……それもアリだね!」
結局その日は抹茶巡りツアーで終了し、翌日の東京観光やら夢の国などを楽しんでいるうちに、ふと溜め息をついた時には、冬馬が乗車している飛行機が地元の国際空港の滑走路を走っていた。
(……もう終わっちゃったな)
本心で言うならば行きたいと思っていなかった修学旅行。高い金額も絡むので、母には「別に俺は行かなくても良いから」と言っていたのだが、「一生の思い出作り」と押し切られて参加してみて、心底修学旅行に参加してよかったと思う。
飛行機から降車すると、別の都とは一風変わった懐かしい匂いが鼻孔を掠めて、「ああ、帰ってきたんだな」と一層考えさせられた。
「冬馬、それじゃまた学校でね!」
「うん、じゃあね純」
バゲージクレームから一足早くキャリーケースが出てきた純は、冬馬に手を振って帰宅を待っている母の元へ行ってしまった。
それからぽつり、ぽつりと周囲の生徒が各々の荷物を回転台から受け取ると、次第に人の影が消えていってしまった。
(これ、荷物来ないんじゃないか……?)
その疑問が浮かびあがってきた頃に、目の前のターンテーブルから冬馬の荷物が顔をだし、無事に冬馬の手の中へと戻ってきた。
改めて辺りを確認してみると、運悪く荷物が遅く出てきた冬馬は最後の順番の方で、その場に残っていたのは自分と……。
「あ……あの、水城」
自分の名前を呼ぶ懐かしい声に驚いて息を呑む。
周りを見渡した瞬間に視線が合ったのは、自分と同じくキャリーケースが遅く出てきた花園だった。
もうとっくに帰宅をしたのかと思っていたが、まさか最後まで残っているだなんて想像だにしなかった。
「……楽しかったね。お疲れ様」
若干疲労を滲ませた表情の花園がはにかみながら手を振る。
結局あの観覧車以来、修学旅行中に話す事は無かったが、それでもあの数分間は今でも心に焼き付いている。
自分の心に真っ直ぐになれたこと、花園が涙を流して謝罪してくれたこと。母が言っていたように、まさに一生の思い出になるだろう。
「あの時、観覧車に連れて行ってくれてありがとうな。俺も楽しかった。それじゃ、花園もお疲れ様」
キャリーケースを手に取った花園に軽く手を振り、扉を開けて母と妹たちが待っているフロントへと向かう。
「お兄ちゃん、おかえり……」
「兄ちゃん、お土産買ってきた?」
「ああ、勿論。ただいま」
美月と美陽、母にはそれぞれ柄は違うがお揃いのキーホルダーと、別で薄い餅の生地に包まれて中に生チョコが詰まっているお菓子、京の少し値段が高めな玄米茶を買ってきた。
手土産を見せると三人とも喜んでくれて、その笑顔が眩しくて修学旅行の最中には無かった別の心地よさが胸に染みた。
いつか、家族で旅行に行ってみたい。冬馬の帰還を待ってくれていた家族を見ていると、何故だかそんな感情が込み上げてきた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる