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第3章第6節 聖教国からの使者
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学園の廊下を歩きながら、レンはため息をついた。
(……国師か。本当にどうすんだよ、これ。……給料はいいけど、命の危険が割に合わなすぎる)
レンの内面は、依然としてネガティブモード全開だ。
だが、彼の「不敵な賢者」の仮面は、今日も完璧に張り付いている。すれ違う生徒たちが、畏敬の念を込めて挨拶をしてくる。
「レン先生! おはようございます!」
「国師様、今日も素敵です!」
(……やめて。そんなキラキラした目で見ないで。俺はただの魔力ゼロの一般人なんだよ……)
レンは内心で泣き言を漏らしつつ、優雅に手を振り返す。
その時。
レンの前方に、一人の女子生徒が立ち塞がった。
純白の修道服に身を包み、長い金髪をハーフアップにした美しい少女だ。その瞳は、澄んだ青空のように青く、そして、どこか狂気じみた光を宿している。
「……貴方が、レン・クロウリー様ですね?」
少女の声は、鈴を転がすように美しかった。だが、その声音には、隠しきれない敵意が滲んでいた。
レンは足を止め、観察(スキャン)を開始する。
(……制服じゃない。聖教国イスの修道服だ。……この国に留学生なんていたっけ? いや、違う。胸元の刺繍。……あれは、イスの最高権力者『教皇』の直属部隊の紋章だ。……つまり、こいつはただの生徒じゃない。聖教国からの使者だ)
レンの背筋に冷たいものが走る。
聖教国イス。魔法を神の奇跡と崇める狂信国家。彼らは、魔力を持たない人間を「神に見放された者」として差別し、魔道具や科学を「異端の技術」として忌み嫌っている。
そして、レンは「魔力ゼロ」でありながら、「言葉だけでドラゴンを従えた」男だ。彼らにとって、レンは「神の奇跡を冒涜する最大の異端者」に他ならない。
「……いかにも、私がレン・クロウリーですが。……貴女は?」
レンは警戒心を隠し、穏やかに微笑んだ。
「……私はエリナ。聖教国イスから参りました」
少女――エリナが、一歩前に進み出た。
「……レン様。貴方に、お伺いしたいことがあります」
エリナの目が、レンを射抜く。
「……貴方は、神を信じますか?」
唐突な質問。
これは、宗教的な尋問だ。もしここで「信じない」と答えれば、即座に「異端者」の烙印を押され、聖教国を敵に回すことになる。
だが、嘘をついて「信じる」と言えば、彼らの教義(魔法至上主義)に反するレンの存在そのものが矛盾することになる。
(……うわぁ。いきなり究極の二択。……どう答えても地獄じゃん)
レンの脳がフル回転する。
エリナは、レンの返答を待たず、次の行動に出た。
彼女は、レンの目をじっと見つめ、妖艶な笑みを浮かべた。
「……答えてください。レン様。……私の目を見て」
その瞬間。
レンの周囲の空気が変わった。
甘い、花の香りのようなものが漂い、思考がぼんやりとしてくる。
(……なんだ? この感覚。……頭が、ふわふわする……)
レンは、自分の意志とは無関係に、エリナの瞳に吸い寄せられそうになった。
その瞳が、金色に輝き始める。
(……これは……魔法? 精神干渉系の? ……まさか、『魅了(チャーム)』か!?)
レンは気づいた。
エリナは、「聖女」と呼ばれるほどの高位の魔法使いであり、その得意とする魔法が、この「魅了」なのだ。
彼女は、この魔法で、数々の権力者を意のままに操ってきたに違いない。
だが。
レンには、魔法が効かない。
彼の魔力は完全にゼロであり、魔法的な干渉を受け付けない「アンチマジック・ボディ(ただの一般人)」なのだ。
数秒後。
エリナの表情が、焦りに変わった。
「……な、なぜ? ……なぜ効かないのです?」
エリナが狼狽える。
彼女の「魅了」は、相手が魔力を持っているほど効果が高い。魔力を持たない一般人にもある程度の効果はあるが、レンのように完全に無効化されるなど、前代未聞だ。
「……何のことでしょうか? エリナ様」
レンは、平然とした顔で首を傾げた。
彼は、自分が魔法を無効化したことにすら気づいていないフリをした。
「……私は、貴女の美しい瞳に見惚れていただけですよ」
レンは、ニッコリと笑った。
エリナの顔が、真っ赤になった。
自分の必殺技が通用しなかったショックと、レンの思わせぶりな言葉に、彼女のプライドと乙女心が同時に揺さぶられたのだ。
「……っ! ……貴方という人は……!」
エリナは、悔しそうに唇を噛み、踵を返して走り去っていった。
レンは、その後ろ姿を見送りながら、深い溜息をついた。
(……危なかった。マジで危なかった。……もし魔法が効いてたら、俺、今頃どうなってた?)
レンの胃痛は、今日も絶好調だった。
だが、彼は知らなかった。
この一件で、エリナの中で、レンに対する感情が「敵意」から、もっと厄介なもの――「執着」へと変化したことを。
レンの学園生活に、新たなトラブルの種が撒かれた瞬間だった。
(……国師か。本当にどうすんだよ、これ。……給料はいいけど、命の危険が割に合わなすぎる)
レンの内面は、依然としてネガティブモード全開だ。
だが、彼の「不敵な賢者」の仮面は、今日も完璧に張り付いている。すれ違う生徒たちが、畏敬の念を込めて挨拶をしてくる。
「レン先生! おはようございます!」
「国師様、今日も素敵です!」
(……やめて。そんなキラキラした目で見ないで。俺はただの魔力ゼロの一般人なんだよ……)
レンは内心で泣き言を漏らしつつ、優雅に手を振り返す。
その時。
レンの前方に、一人の女子生徒が立ち塞がった。
純白の修道服に身を包み、長い金髪をハーフアップにした美しい少女だ。その瞳は、澄んだ青空のように青く、そして、どこか狂気じみた光を宿している。
「……貴方が、レン・クロウリー様ですね?」
少女の声は、鈴を転がすように美しかった。だが、その声音には、隠しきれない敵意が滲んでいた。
レンは足を止め、観察(スキャン)を開始する。
(……制服じゃない。聖教国イスの修道服だ。……この国に留学生なんていたっけ? いや、違う。胸元の刺繍。……あれは、イスの最高権力者『教皇』の直属部隊の紋章だ。……つまり、こいつはただの生徒じゃない。聖教国からの使者だ)
レンの背筋に冷たいものが走る。
聖教国イス。魔法を神の奇跡と崇める狂信国家。彼らは、魔力を持たない人間を「神に見放された者」として差別し、魔道具や科学を「異端の技術」として忌み嫌っている。
そして、レンは「魔力ゼロ」でありながら、「言葉だけでドラゴンを従えた」男だ。彼らにとって、レンは「神の奇跡を冒涜する最大の異端者」に他ならない。
「……いかにも、私がレン・クロウリーですが。……貴女は?」
レンは警戒心を隠し、穏やかに微笑んだ。
「……私はエリナ。聖教国イスから参りました」
少女――エリナが、一歩前に進み出た。
「……レン様。貴方に、お伺いしたいことがあります」
エリナの目が、レンを射抜く。
「……貴方は、神を信じますか?」
唐突な質問。
これは、宗教的な尋問だ。もしここで「信じない」と答えれば、即座に「異端者」の烙印を押され、聖教国を敵に回すことになる。
だが、嘘をついて「信じる」と言えば、彼らの教義(魔法至上主義)に反するレンの存在そのものが矛盾することになる。
(……うわぁ。いきなり究極の二択。……どう答えても地獄じゃん)
レンの脳がフル回転する。
エリナは、レンの返答を待たず、次の行動に出た。
彼女は、レンの目をじっと見つめ、妖艶な笑みを浮かべた。
「……答えてください。レン様。……私の目を見て」
その瞬間。
レンの周囲の空気が変わった。
甘い、花の香りのようなものが漂い、思考がぼんやりとしてくる。
(……なんだ? この感覚。……頭が、ふわふわする……)
レンは、自分の意志とは無関係に、エリナの瞳に吸い寄せられそうになった。
その瞳が、金色に輝き始める。
(……これは……魔法? 精神干渉系の? ……まさか、『魅了(チャーム)』か!?)
レンは気づいた。
エリナは、「聖女」と呼ばれるほどの高位の魔法使いであり、その得意とする魔法が、この「魅了」なのだ。
彼女は、この魔法で、数々の権力者を意のままに操ってきたに違いない。
だが。
レンには、魔法が効かない。
彼の魔力は完全にゼロであり、魔法的な干渉を受け付けない「アンチマジック・ボディ(ただの一般人)」なのだ。
数秒後。
エリナの表情が、焦りに変わった。
「……な、なぜ? ……なぜ効かないのです?」
エリナが狼狽える。
彼女の「魅了」は、相手が魔力を持っているほど効果が高い。魔力を持たない一般人にもある程度の効果はあるが、レンのように完全に無効化されるなど、前代未聞だ。
「……何のことでしょうか? エリナ様」
レンは、平然とした顔で首を傾げた。
彼は、自分が魔法を無効化したことにすら気づいていないフリをした。
「……私は、貴女の美しい瞳に見惚れていただけですよ」
レンは、ニッコリと笑った。
エリナの顔が、真っ赤になった。
自分の必殺技が通用しなかったショックと、レンの思わせぶりな言葉に、彼女のプライドと乙女心が同時に揺さぶられたのだ。
「……っ! ……貴方という人は……!」
エリナは、悔しそうに唇を噛み、踵を返して走り去っていった。
レンは、その後ろ姿を見送りながら、深い溜息をついた。
(……危なかった。マジで危なかった。……もし魔法が効いてたら、俺、今頃どうなってた?)
レンの胃痛は、今日も絶好調だった。
だが、彼は知らなかった。
この一件で、エリナの中で、レンに対する感情が「敵意」から、もっと厄介なもの――「執着」へと変化したことを。
レンの学園生活に、新たなトラブルの種が撒かれた瞬間だった。
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