ステータスなしの元人気メンタリスト、異世界の最強ドラゴンをお手だけで服従させる~目を見ただけで思考が読めるので、魔法使いが詠唱してくれません

マーマー

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第3章第5節 学園長室の密談

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 ロムレス王立学園、学園長室。
 重厚な樫の木の扉が閉ざされ、外部からの音を完全に遮断している。
 部屋の中央にある応接セットには、二人の男が向かい合って座っていた。

 一人は、この部屋の主であるアルフレッド・フォン・ベルンシュタイン学園長。
 白髪をオールバックになでつけ、理知的な眼鏡の奥で、冷徹な瞳が光っている。王国随一の魔導師であり、教育者としても名高い人物だ。

 もう一人は、レン・クロウリー。
 先日、国王から「国師」という、とんでもない重職を押し付けられたばかりの、渦中の男だ。

「……それで? 学園長。私を呼び出した用件というのは?」

 レンは、最高級の茶葉で淹れられた紅茶に口をつけながら、平静を装って尋ねた。
 (……呼び出しってなんだよ。怖いよ。もしかして、国師になったことで調子に乗るなよ、みたいな釘を刺されるのか?)
 レンの内面はビビりまくりだが、表面上は「国師」としての風格を漂わせている。足を組み、背もたれに深く寄りかかるその姿は、百戦錬磨の賢者そのものだ。

 アルフレッド学園長は、眼鏡の位置を指で直しながら、ゆっくりと口を開いた。

「……クロウリー先生。いえ、今は『国師殿』とお呼びすべきでしょうか」
「……よしてください。学園内では、一介の講師に過ぎません」

 レンは謙遜してみせたが、アルフレッドの目は笑っていなかった。彼はおもむろに、テーブルの上に一枚の書類を置いた。
 それは、レンが担当している「廃棄物処理場(ダストボックス)」こと、問題児クラスの最新の成績表だった。

「……驚くべき結果です。貴方が着任して以来、彼らの素行は劇的に改善し、魔法の実技試験の平均点も、学年トップクラスにまで上昇している」

 (……え? マジで? 俺、適当に「自信を持て」とか「リラックスしろ」とか言ってただけなんだけど……)
 レンは内心で驚愕した。
 どうやら、彼の適当なアドバイス(バーナム効果やピグマリオン効果の応用)が、生徒たちの潜在能力を勝手に引き出してしまったらしい。

「……彼らは皆、口を揃えて言います。『レン先生の指導は、魂に響く』『先生の言葉を聞くと、魔力が溢れてくる』と」

 アルフレッドの目が、鋭く細められた。彼の視線が、レンの全身を舐めるように観察する。

「……クロウリー先生。私は長年、多くの魔導師を見てきましたが……貴方のようなタイプは初めてです」

 アルフレッドは、探るような口調で続けた。

「……貴方からは、魔力の波動が一切感じられない。……通常の感知魔法では、貴方は『魔力ゼロの一般人』としか認識されないでしょう」

 レンの心臓が跳ねた。
 バレたか!?
 レンが冷や汗をかきかけた、その時。

「……ですが、それが『偽装』であることは明白です」

 ――は?

 レンは耳を疑った。

「……ドラゴンを言葉だけで従え、カイザーを退け、そして生徒たちの潜在能力をこれほどまでに引き出す。……これらが、魔力を使わずに行えるはずがない」

 アルフレッドは、確信に満ちた声で断言した。

「……貴方は、既存の魔法体系とは異なる、全く新しい、あるいは失われた古代の『力』を使っているのでしょう? ……その力を隠蔽するために、あえて魔力をゼロに見せかけている。……違いますか?」

 (……えええええ!? そっち!? いや、違います! 本当にゼロなんです! ただのハッタリなんです!)
 レンの内面はツッコミの嵐だが、顔は引きつったまま固まっている。
 だが、その沈黙が、アルフレッドには「肯定」と受け取られたようだ。

「……フフフ、やはりそうでしたか。……さすがは、国王陛下が『本物』と認めた男。……その深淵なる力、底が知れませんね」

 アルフレッドは、畏敬の念すら込めてレンを見つめた。
 (……やばい。この学園長、完全にアリアと同じタイプだ。……勝手に深読みして、勝手に評価を上げやがる……)

 その時。
 コンコン、と扉がノックされた。

「……失礼します。学園長」

 入ってきたのは、セシリアだった。彼女はレンの護衛として、常に彼の近くに控えている。

「……レン様。次の授業の時間です」
「……ああ、そうか。もうそんな時間か」

 レンは、救われた思いで立ち上がった。これ以上、この勘違い男と二人きりでいるのは危険すぎる。

「……申し訳ありません、学園長。話の途中でしたが、生徒たちが待っておりますので」
「……ええ。構いませんよ。……お引き留めして申し訳ありませんでした、国師殿」

 アルフレッドは、最敬礼でレンを見送った。

「……貴方のその『力』が、この学園に、そしてこの国に、どのような影響をもたらすのか。……一人の研究者として、じっくりと観察させてもらいますよ」

 (……観察すんな! ほっといてくれよ!)
 レンは背筋に冷たいものを感じながら、逃げるように学園長室を後にした。

 廊下に出ると、セシリアが心配そうに尋ねてきた。

「……レン様。学園長は、レン様に何か……? もしや、不敬な発言でも?」
「……いや、何でもない。ただの教育論だよ」

 レンは、努めて明るく振る舞った。

(……教育論どころか、完全に「深読み大会」だったけどな。……はぁ。王宮だけじゃなく、学園のトップまでこんな調子かよ……)

 レンの胃痛は、一向に治まる気配がなかった。
 彼の「魔力ゼロ」という秘密は、周囲の勝手な深読みによって、皮肉にも鉄壁の守りとなっていたのである。
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