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第3章第4節 国師(ただし非常勤)
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王宮の夜は更けていく。
晩餐会は表面上は和やかに終了したが、レンにとっては地獄の耐久レース以外の何物でもなかった。
ライオネル王子による「査問」を乗り切った後も、ゼクス宰相の息がかかった貴族たちが、次から次へとレンの元へ挨拶(という名の腹の探り合い)に訪れたからだ。
レンは、その一人ひとりに適当な社交辞令と、意味深なハッタリを返しながら、内心で胃薬の残量を計算していた。
(……もう限界。帰りたい。今すぐ帰りたい。……なんで俺が、こんな魑魅魍魎の巣窟で、笑顔の仮面を張り付け続けなきゃいけないんだよ……)
レンの精神が限界を迎えかけた、その時だった。
国王ロムレス三世が、パンパンと手を叩き、会場の注目を集めた。
「……諸君、今宵は余の快気と、英雄レンの帰還を祝う、素晴らしき夜であった」
国王が、満足げに頷いた。
そして、隣に座るレンの肩に手を置いた。
「……レンよ。貴様のその類稀なる知見と度胸、大いに気に入った」
レンは嫌な予感がした。
この国王、テンションが上がるとろくなことを言い出さない。前回の「学園講師任命」が、まさにそうだった。
「……そこで、余は考えた。貴様を、この国の『国師』に任命することにした」
――は?
レンの思考が停止した。
会場が水を打ったように静まり返る。
国師。それは、国王の相談役であり、実質的に宰相に次ぐ権力を持つ、国の最高顧問の地位だ。
そんな重職を、学園講師に任命されたばかりの、しかも魔力ゼロの平民に?
「……陛下。……それは、いくら何でもご冗談が過ぎます」
ゼクス宰相が、引きつった顔で進言した。
「……レン殿は、まだ若輩者。……それに、学園での職務もあります。……いきなり国政の重責を担わせるなど、あまりにも無謀かと……」
ゼクスの額に、脂汗が滲んでいる。
当然だ。自分の権力を脅かす存在が、突然、自分のすぐ下の地位に就こうとしているのだ。
「……無謀、だと?」
国王の目が、ギラリと光った。
「……ゼクスよ。貴様は、この国の危機を救ったレンの功績を、過小評価するつもりか? ……それとも、余の判断に、異を唱えるというのか?」
国王の一喝に、ゼクスが縮み上がった。
「……い、いえ。……滅相もございません。……ですが……」
「……陛下。……お言葉ですが」
レンが、恐る恐る口を開いた。
(……いや、断らなきゃダメだって! 国師とか無理! 絶対、暗殺される未来しか見えない!)
「……私には、学園で生徒たちを導くという、重要な使命がございます。……それに、私のような若輩者が、国政に関わるなど、畏れ多いことでございます」
レンは、必死に辞退の言葉を並べた。
だが、国王は聞く耳を持たない。
「……フハハハ! 殊勝なことだ。……だが、安心せよ。……常駐しろとは言わん。……週に一度、余の相談に乗るだけでよい。……いわば、『非常勤』の国師だ」
非常勤。
その言葉に、レンは少しだけ心を動かされた。
(……非常勤なら、まあ、断る理由もないか? ……いや、待て。罠だ。これは絶対に罠だ)
レンは悩んだ。
だが、国王の目は、すでに決定事項だと言わんばかりに輝いている。
そして、周囲の貴族たちの視線は、「断れば、国王のメンツを潰すことになるぞ」と、無言の圧力をかけている。
(……詰んだ。……これ、断れないやつだ)
レンは、覚悟を決めた。
震える手をマントの下に隠し、不敵な笑みを浮かべた。
「……陛下のご期待に沿えるよう、粉骨砕身、努力いたします」
レンが頭を下げると、会場から割れんばかりの拍手が起こった。
その拍手の音は、レンにとっては、死刑宣告のファンファーレにしか聞こえなかった。
*
数日後。
レンは、学園の自室で、届いたばかりの「国師任命書」を、恨めしそうに見つめていた。
「……マジかよ。……本当に国師になっちゃったよ」
レンの胃痛は、慢性的なものになりつつあった。
だが、嘆いてばかりはいられない。
週に一度の「相談」が、どのような内容になるのか。
そして、ゼクス宰相やライオネル王子が、この人事に対してどのような手を打ってくるのか。
レンの戦いは、ここからが本番だった。
(……とりあえず、胃薬を追加で買っておこう。……あと、護身用の魔道具も、セシリアに頼んで調達してもらうか……)
レンは、ため息をつきながら、次の「戦場(王宮)」への準備を始めた。
その頃、学園の図書館では。
一人の少女が、古い文献を読み耽っていた。
アリアだ。彼女は、レンが国師に任命されたことを聞き、興奮していた。
「ククク……。師匠(マスター)が、ついに国の頂点に……。……これは、深淵の計画が、新たな段階に入ったことを意味する……。……私も、師匠の力となるべく、さらなる『闇の力』を……」
彼女の周囲には、怪しげな魔導書が山積みになっていた。
レンの知らないところで、彼の「最強伝説」は、着実に補強されつつあった。
晩餐会は表面上は和やかに終了したが、レンにとっては地獄の耐久レース以外の何物でもなかった。
ライオネル王子による「査問」を乗り切った後も、ゼクス宰相の息がかかった貴族たちが、次から次へとレンの元へ挨拶(という名の腹の探り合い)に訪れたからだ。
レンは、その一人ひとりに適当な社交辞令と、意味深なハッタリを返しながら、内心で胃薬の残量を計算していた。
(……もう限界。帰りたい。今すぐ帰りたい。……なんで俺が、こんな魑魅魍魎の巣窟で、笑顔の仮面を張り付け続けなきゃいけないんだよ……)
レンの精神が限界を迎えかけた、その時だった。
国王ロムレス三世が、パンパンと手を叩き、会場の注目を集めた。
「……諸君、今宵は余の快気と、英雄レンの帰還を祝う、素晴らしき夜であった」
国王が、満足げに頷いた。
そして、隣に座るレンの肩に手を置いた。
「……レンよ。貴様のその類稀なる知見と度胸、大いに気に入った」
レンは嫌な予感がした。
この国王、テンションが上がるとろくなことを言い出さない。前回の「学園講師任命」が、まさにそうだった。
「……そこで、余は考えた。貴様を、この国の『国師』に任命することにした」
――は?
レンの思考が停止した。
会場が水を打ったように静まり返る。
国師。それは、国王の相談役であり、実質的に宰相に次ぐ権力を持つ、国の最高顧問の地位だ。
そんな重職を、学園講師に任命されたばかりの、しかも魔力ゼロの平民に?
「……陛下。……それは、いくら何でもご冗談が過ぎます」
ゼクス宰相が、引きつった顔で進言した。
「……レン殿は、まだ若輩者。……それに、学園での職務もあります。……いきなり国政の重責を担わせるなど、あまりにも無謀かと……」
ゼクスの額に、脂汗が滲んでいる。
当然だ。自分の権力を脅かす存在が、突然、自分のすぐ下の地位に就こうとしているのだ。
「……無謀、だと?」
国王の目が、ギラリと光った。
「……ゼクスよ。貴様は、この国の危機を救ったレンの功績を、過小評価するつもりか? ……それとも、余の判断に、異を唱えるというのか?」
国王の一喝に、ゼクスが縮み上がった。
「……い、いえ。……滅相もございません。……ですが……」
「……陛下。……お言葉ですが」
レンが、恐る恐る口を開いた。
(……いや、断らなきゃダメだって! 国師とか無理! 絶対、暗殺される未来しか見えない!)
「……私には、学園で生徒たちを導くという、重要な使命がございます。……それに、私のような若輩者が、国政に関わるなど、畏れ多いことでございます」
レンは、必死に辞退の言葉を並べた。
だが、国王は聞く耳を持たない。
「……フハハハ! 殊勝なことだ。……だが、安心せよ。……常駐しろとは言わん。……週に一度、余の相談に乗るだけでよい。……いわば、『非常勤』の国師だ」
非常勤。
その言葉に、レンは少しだけ心を動かされた。
(……非常勤なら、まあ、断る理由もないか? ……いや、待て。罠だ。これは絶対に罠だ)
レンは悩んだ。
だが、国王の目は、すでに決定事項だと言わんばかりに輝いている。
そして、周囲の貴族たちの視線は、「断れば、国王のメンツを潰すことになるぞ」と、無言の圧力をかけている。
(……詰んだ。……これ、断れないやつだ)
レンは、覚悟を決めた。
震える手をマントの下に隠し、不敵な笑みを浮かべた。
「……陛下のご期待に沿えるよう、粉骨砕身、努力いたします」
レンが頭を下げると、会場から割れんばかりの拍手が起こった。
その拍手の音は、レンにとっては、死刑宣告のファンファーレにしか聞こえなかった。
*
数日後。
レンは、学園の自室で、届いたばかりの「国師任命書」を、恨めしそうに見つめていた。
「……マジかよ。……本当に国師になっちゃったよ」
レンの胃痛は、慢性的なものになりつつあった。
だが、嘆いてばかりはいられない。
週に一度の「相談」が、どのような内容になるのか。
そして、ゼクス宰相やライオネル王子が、この人事に対してどのような手を打ってくるのか。
レンの戦いは、ここからが本番だった。
(……とりあえず、胃薬を追加で買っておこう。……あと、護身用の魔道具も、セシリアに頼んで調達してもらうか……)
レンは、ため息をつきながら、次の「戦場(王宮)」への準備を始めた。
その頃、学園の図書館では。
一人の少女が、古い文献を読み耽っていた。
アリアだ。彼女は、レンが国師に任命されたことを聞き、興奮していた。
「ククク……。師匠(マスター)が、ついに国の頂点に……。……これは、深淵の計画が、新たな段階に入ったことを意味する……。……私も、師匠の力となるべく、さらなる『闇の力』を……」
彼女の周囲には、怪しげな魔導書が山積みになっていた。
レンの知らないところで、彼の「最強伝説」は、着実に補強されつつあった。
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