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第3章第9節 忠犬(ドラゴン)の挨拶
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「……『お手』」
レンの言葉が、緊張に包まれた平原に響いた。
カイザー将軍が魔剣を構え、固唾を呑んで身構える中、古龍(エンシェント・ドラゴン)は――。
「……ク~ン……」
甘えるような、しかし地響きのような低い声を漏らし、巨大な尻尾をブンブンと振り始めた。
その風圧だけで、後方の王国軍のテントが数張、吹き飛んでいく。
(……やめて。お願いだから尻尾振らないで。……被害甚大だから。……あと、顔を近づけないで。……鼻息が熱風なんだよ。……火傷するって!)
レンの内面は悲鳴を上げている。
このドラゴン、あの学園祭での一件以来、レンを完全に「ご主人様」と認識して懐いてしまったのだ。
普段は学園の裏山(専用エリアとして隔離した)に「ステイ」させているが、レンが笛で呼べば、嬉々として飛んでくる。
今回も、「ご主人様が呼んでる! 遊んでくれるの!?」というテンションで爆走してきた結果が、先ほどの(周囲には襲撃に見えた)派手な登場だったのだ。
「……な、なんだ? あのドラゴン……尻尾を振っているのか?」
「……まるで、巨大な犬のようだ……」
「……賢者様は、古龍を完全に『飼い慣らして』いるというのか……!?」
兵士たちが、畏怖と驚愕の声を上げる。
カイザー将軍も、予想外の光景に眉をひそめた。
「……フン。……まさか、古龍を愛玩動物のように扱うとはな。……とんだ食わせ物だ」
(……違うんだよ。……俺が扱ってるんじゃない。……こいつが勝手に懐いてるだけなんだよ……!)
レンは必死にポーカーフェイスを維持しながら、ドラゴンの鼻先にそっと手を触れた(触れるフリをした)。
「……よしよし。……いい子だ」
レンが褒めると、ドラゴンは嬉しそうに更に激しく尻尾を振り、巨大な頭をレンに擦り付けてこようとする。
(……来るな! スリスリするな! ……お前の鱗、岩より硬いんだぞ! ……俺がすり下ろされるわ!)
レンは、ドラゴンの甘え行動を、巧みに「攻撃の合図」に見せかける必要があった。
「……さて、カイザー将軍。……彼は、貴方と『遊びたい』ようです」
レンは、不敵な笑みを浮かべてカイザーを見据えた。
「……手始めに、挨拶代わりの一撃を。……さあ、『お手』!」
レンが命じると、ドラゴンは「待ってました!」とばかりに、巨大な右前足を振り上げた。
それは、城壁をも容易く粉砕する、質量の暴力。
だが、ドラゴンにとっては、ご主人様への親愛の情を示す、ただの「お手」なのだ。
「……フン。……来るか!」
カイザーが吼え、魔剣を振り上げた。全身の筋肉が膨張し、赤黒い闘気が立ち昇る。
ドォォォォォンッ!!
ドラゴンの「お手」と、カイザーの魔剣が衝突した。
凄まじい衝撃波が平原を薙ぎ払い、両軍の兵士たちが木の葉のように吹き飛ばされる。土煙が舞い上がり、視界が遮られる。
(……うわぁぁぁ! すげぇ音! ……どうなった!? ……カイザー、潰れたか!?)
レンが、期待と恐怖で土煙を見つめる。
やがて、煙が晴れ――。
そこには、ドラゴンの巨大な掌を、魔剣一本で受け止めている、カイザーの姿があった。
「……グヌゥゥゥッ……! ……流石は古龍……! ……だがッ!」
カイザーが叫び、さらに闘気を爆発させた。
魔剣が赤熱し、ドラゴンの硬い鱗に食い込んでいく。
「……ギャウッ!?」
ドラゴンが、驚いて手を引っ込めた。痛かったらしい。
カイザーは、ニヤリと笑い、魔剣を肩に担いだ。
「……フン。……挨拶にしては、少し軽かったな。賢者よ」
カイザーは、無傷だった。
ドラゴンの「お手(物理)」を、真っ向から防ぎきったのだ。
(……は? ……嘘だろ? ……今のを防いだ? ……人間技じゃないだろ!?)
レンの思考が停止した。
最大の切り札であるドラゴンの物理攻撃が、通じなかった。
これ以上の手札は、レンにはない。ブレスを吐かせようにも、そんな命令(甘え技)は教えていないのだ。
「……さて。……次はこちらの番だな」
カイザーが、ゆっくりとレンに向かって歩き出した。
その殺気は、先ほどとは比べ物にならないほど膨れ上がっていた。
「……貴様の『ペット』の遊びには付き合った。……今度は、貴様自身が俺を楽しませてくれるのだろうな?」
カイザーが魔剣を構える。
レンは、完全に詰んでいた。
(……終わった。……今度こそ、本当に終わった。……ドラゴンも役に立たない。……ハッタリも通じない。……俺、これからどうすればいいの?)
レンの人生最大のピンチが、幕を開けた。
レンの言葉が、緊張に包まれた平原に響いた。
カイザー将軍が魔剣を構え、固唾を呑んで身構える中、古龍(エンシェント・ドラゴン)は――。
「……ク~ン……」
甘えるような、しかし地響きのような低い声を漏らし、巨大な尻尾をブンブンと振り始めた。
その風圧だけで、後方の王国軍のテントが数張、吹き飛んでいく。
(……やめて。お願いだから尻尾振らないで。……被害甚大だから。……あと、顔を近づけないで。……鼻息が熱風なんだよ。……火傷するって!)
レンの内面は悲鳴を上げている。
このドラゴン、あの学園祭での一件以来、レンを完全に「ご主人様」と認識して懐いてしまったのだ。
普段は学園の裏山(専用エリアとして隔離した)に「ステイ」させているが、レンが笛で呼べば、嬉々として飛んでくる。
今回も、「ご主人様が呼んでる! 遊んでくれるの!?」というテンションで爆走してきた結果が、先ほどの(周囲には襲撃に見えた)派手な登場だったのだ。
「……な、なんだ? あのドラゴン……尻尾を振っているのか?」
「……まるで、巨大な犬のようだ……」
「……賢者様は、古龍を完全に『飼い慣らして』いるというのか……!?」
兵士たちが、畏怖と驚愕の声を上げる。
カイザー将軍も、予想外の光景に眉をひそめた。
「……フン。……まさか、古龍を愛玩動物のように扱うとはな。……とんだ食わせ物だ」
(……違うんだよ。……俺が扱ってるんじゃない。……こいつが勝手に懐いてるだけなんだよ……!)
レンは必死にポーカーフェイスを維持しながら、ドラゴンの鼻先にそっと手を触れた(触れるフリをした)。
「……よしよし。……いい子だ」
レンが褒めると、ドラゴンは嬉しそうに更に激しく尻尾を振り、巨大な頭をレンに擦り付けてこようとする。
(……来るな! スリスリするな! ……お前の鱗、岩より硬いんだぞ! ……俺がすり下ろされるわ!)
レンは、ドラゴンの甘え行動を、巧みに「攻撃の合図」に見せかける必要があった。
「……さて、カイザー将軍。……彼は、貴方と『遊びたい』ようです」
レンは、不敵な笑みを浮かべてカイザーを見据えた。
「……手始めに、挨拶代わりの一撃を。……さあ、『お手』!」
レンが命じると、ドラゴンは「待ってました!」とばかりに、巨大な右前足を振り上げた。
それは、城壁をも容易く粉砕する、質量の暴力。
だが、ドラゴンにとっては、ご主人様への親愛の情を示す、ただの「お手」なのだ。
「……フン。……来るか!」
カイザーが吼え、魔剣を振り上げた。全身の筋肉が膨張し、赤黒い闘気が立ち昇る。
ドォォォォォンッ!!
ドラゴンの「お手」と、カイザーの魔剣が衝突した。
凄まじい衝撃波が平原を薙ぎ払い、両軍の兵士たちが木の葉のように吹き飛ばされる。土煙が舞い上がり、視界が遮られる。
(……うわぁぁぁ! すげぇ音! ……どうなった!? ……カイザー、潰れたか!?)
レンが、期待と恐怖で土煙を見つめる。
やがて、煙が晴れ――。
そこには、ドラゴンの巨大な掌を、魔剣一本で受け止めている、カイザーの姿があった。
「……グヌゥゥゥッ……! ……流石は古龍……! ……だがッ!」
カイザーが叫び、さらに闘気を爆発させた。
魔剣が赤熱し、ドラゴンの硬い鱗に食い込んでいく。
「……ギャウッ!?」
ドラゴンが、驚いて手を引っ込めた。痛かったらしい。
カイザーは、ニヤリと笑い、魔剣を肩に担いだ。
「……フン。……挨拶にしては、少し軽かったな。賢者よ」
カイザーは、無傷だった。
ドラゴンの「お手(物理)」を、真っ向から防ぎきったのだ。
(……は? ……嘘だろ? ……今のを防いだ? ……人間技じゃないだろ!?)
レンの思考が停止した。
最大の切り札であるドラゴンの物理攻撃が、通じなかった。
これ以上の手札は、レンにはない。ブレスを吐かせようにも、そんな命令(甘え技)は教えていないのだ。
「……さて。……次はこちらの番だな」
カイザーが、ゆっくりとレンに向かって歩き出した。
その殺気は、先ほどとは比べ物にならないほど膨れ上がっていた。
「……貴様の『ペット』の遊びには付き合った。……今度は、貴様自身が俺を楽しませてくれるのだろうな?」
カイザーが魔剣を構える。
レンは、完全に詰んでいた。
(……終わった。……今度こそ、本当に終わった。……ドラゴンも役に立たない。……ハッタリも通じない。……俺、これからどうすればいいの?)
レンの人生最大のピンチが、幕を開けた。
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