32 / 91
第3章第10節 武神のトラウマ
しおりを挟む
カイザーが魔剣を構え、レンにじりじりと詰め寄る。
レンの背後では、ドラゴンが「まだ遊んでくれないの?」とばかりに、不満げに唸り声を上げている。
(……前門の虎、後門の狼。いや、前門のゴリラ、後門の怪獣だ。……完全に詰んだ)
レンの脳はパニック状態だが、体は長年の訓練(前世のテレビ出演)のおかげで、勝手に「賢者のポーズ」を取っていた。腕を組み、不敵な笑みを浮かべ、相手を見下ろす。
「……フン。口先だけの男かと思ったが……度胸だけはあるようだな」
カイザーが、レンの態度を見て、わずかに警戒心を強めた。
(……よし。まだハッタリは効いてる。……ここからどうやって逆転する? ……物理じゃ勝てない。魔法も使えない。……残る武器は、一つしかない)
レンは、覚悟を決めた。
彼は、カイザーの目をじっと見つめ、観察(スキャン)を開始した。
(……筋肉の緊張、呼吸の乱れ、視線の動き。……戦闘狂に見えて、意外と慎重だな。……ん? 待てよ。……あいつ、さっきから妙な動きをしてるな)
レンの観察眼が、ある違和感を捉えた。
カイザーは、魔剣を構えているが、その切っ先が微妙に震えている。そして、彼の視線が、時折、自分の左肩付近に向けられている。
(……左肩? ……何かあるのか?)
レンは、さらに深く観察する。
カイザーの左肩の鎧。そこには、微細な、しかし深い傷跡が刻まれていた。そして、その傷跡を庇うように、彼の左半身の動きが、わずかにぎこちない。
(……なるほど。古傷か。……それも、ただの傷じゃない。……トラウマになるレベルの、深い傷だ)
レンの脳裏に、ある仮説が浮かび上がった。
彼は、ゆっくりと口を開いた。
「……カイザー将軍。……貴方は、強い。……だが、その強さの裏には、深い『恐怖』が隠されている」
「……何だと?」
カイザーの眉がピクリと動いた。
「……貴方の左肩。……その傷は、誰につけられたものです?」
レンの言葉に、カイザーの動きが止まった。
図星だ。
「……貴様、なぜそれを……」
「……見えるのですよ。……貴方の『心』の傷が」
レンは、畳み掛ける。
「……その傷は、貴方がまだ若かりし頃……自分より遥かに強い存在に、完膚なきまでに叩きのめされた時のものでしょう? ……その時の恐怖が、今も貴方を縛り付けている」
これは、完全なコールドリーディングだ。
百戦錬磨の武人ほど、過去に大きな敗北を経験している可能性が高い。そして、そのトラウマが、無意識の行動(傷を庇う動き)に現れる。レンは、それを指摘しただけだ。
だが、カイザーにとっては、それは「誰にも言っていない秘密」を見透かされた衝撃となる。
「……き、貴様……! ……黙れッ!」
カイザーが吼えた。だが、その声には、先ほどまでの威圧感はなく、焦りと動揺が混じっていた。
「……図星ですか。……貴方は、その恐怖を隠すために、常に強さを誇示し、戦いに明け暮れてきた。……だが、それは虚勢に過ぎない」
レンは、一歩踏み出した。
「……貴方は、本当は臆病者だ。……またあの時のように、負けることを恐れている」
「……ち、違うッ! 俺は……俺は最強だッ!」
カイザーが魔剣を振り上げた。だが、その動きは精彩を欠き、隙だらけだった。
(……今だ!)
レンは、最後の賭けに出た。
彼は、懐から超音波笛を取り出し、思い切り吹き鳴らした。
――キィィィィィン!!
人間には聞こえない高周波が、平原に響き渡る。
それは、レンの背後にいたドラゴンにとって、「ご主人様からの『最大級の攻撃命令』」を意味した。
「……グォォォォォォッ!!」
ドラゴンの本能が、爆発した。
巨大な口が開き、喉の奥で、紅蓮の炎が渦を巻く。
(……よし! 今度こそ出る! ……さっきのは「甘噛み」だったってことか!?)
レンが戦慄した瞬間。
ドラゴンの口から、太陽のような灼熱のブレスが放たれた。
――ドォォォォォォンッ!!
ブレスは、レンの頭上を通過し、カイザーの背後にある小山を直撃した。
山が、瞬時に蒸発した。
地形が変わるほどの、圧倒的な破壊力。
「……なッ……!?」
カイザーが、その光景に絶句した。
彼が恐れていた「過去の敗北の記憶」。それが、目の前のドラゴンのブレスと重なったのだ。
(……あ、あれは……あの時の……!)
カイザーの脳裏に、かつて自分を倒した「真の怪物」の姿がフラッシュバックする。
彼の戦意が、音を立てて崩れ去った。
レンは、その隙を見逃さなかった。
彼は、崩れ落ちそうになるカイザーに近づき、その耳元で囁いた。
「……賢明な判断ですね、将軍。……彼は、まだ本気を出していませんよ?」
これは、最後のダメ押しのハッタリだ。
(……本気だよ! 今の、間違いなく全力ブレスだったよ! ……これ以上出したら、俺まで蒸発するわ!)
だが、カイザーには、その言葉が真実に聞こえた。
彼は、ガクリと膝をつき、魔剣を取り落とした。
「……俺の……負けだ……」
武神の敗北宣言。
その瞬間、平原に、王国軍の歓声が爆発した。
レンは、安堵のため息をついた。
(……勝った。……マジで勝っちゃったよ。……ハッタリと、ドラゴンのご機嫌だけで、帝国の武神に……)
レンの足が、ガクガクと震え始めた。
だが、彼は倒れるわけにはいかない。
彼は「最強の賢者」。この勝利も、全て計算通りだったかのように振る舞わなければならないのだ。
レンは、震える足を必死に隠しながら、悠然と(見えるように)兵士たちの方へ振り返った。
その背中に、ドラゴンの熱い鼻息がかかった。
(……やめて。……だから、顔を近づけるなって……!)
レンの受難は、まだ終わりそうになかった。
レンの背後では、ドラゴンが「まだ遊んでくれないの?」とばかりに、不満げに唸り声を上げている。
(……前門の虎、後門の狼。いや、前門のゴリラ、後門の怪獣だ。……完全に詰んだ)
レンの脳はパニック状態だが、体は長年の訓練(前世のテレビ出演)のおかげで、勝手に「賢者のポーズ」を取っていた。腕を組み、不敵な笑みを浮かべ、相手を見下ろす。
「……フン。口先だけの男かと思ったが……度胸だけはあるようだな」
カイザーが、レンの態度を見て、わずかに警戒心を強めた。
(……よし。まだハッタリは効いてる。……ここからどうやって逆転する? ……物理じゃ勝てない。魔法も使えない。……残る武器は、一つしかない)
レンは、覚悟を決めた。
彼は、カイザーの目をじっと見つめ、観察(スキャン)を開始した。
(……筋肉の緊張、呼吸の乱れ、視線の動き。……戦闘狂に見えて、意外と慎重だな。……ん? 待てよ。……あいつ、さっきから妙な動きをしてるな)
レンの観察眼が、ある違和感を捉えた。
カイザーは、魔剣を構えているが、その切っ先が微妙に震えている。そして、彼の視線が、時折、自分の左肩付近に向けられている。
(……左肩? ……何かあるのか?)
レンは、さらに深く観察する。
カイザーの左肩の鎧。そこには、微細な、しかし深い傷跡が刻まれていた。そして、その傷跡を庇うように、彼の左半身の動きが、わずかにぎこちない。
(……なるほど。古傷か。……それも、ただの傷じゃない。……トラウマになるレベルの、深い傷だ)
レンの脳裏に、ある仮説が浮かび上がった。
彼は、ゆっくりと口を開いた。
「……カイザー将軍。……貴方は、強い。……だが、その強さの裏には、深い『恐怖』が隠されている」
「……何だと?」
カイザーの眉がピクリと動いた。
「……貴方の左肩。……その傷は、誰につけられたものです?」
レンの言葉に、カイザーの動きが止まった。
図星だ。
「……貴様、なぜそれを……」
「……見えるのですよ。……貴方の『心』の傷が」
レンは、畳み掛ける。
「……その傷は、貴方がまだ若かりし頃……自分より遥かに強い存在に、完膚なきまでに叩きのめされた時のものでしょう? ……その時の恐怖が、今も貴方を縛り付けている」
これは、完全なコールドリーディングだ。
百戦錬磨の武人ほど、過去に大きな敗北を経験している可能性が高い。そして、そのトラウマが、無意識の行動(傷を庇う動き)に現れる。レンは、それを指摘しただけだ。
だが、カイザーにとっては、それは「誰にも言っていない秘密」を見透かされた衝撃となる。
「……き、貴様……! ……黙れッ!」
カイザーが吼えた。だが、その声には、先ほどまでの威圧感はなく、焦りと動揺が混じっていた。
「……図星ですか。……貴方は、その恐怖を隠すために、常に強さを誇示し、戦いに明け暮れてきた。……だが、それは虚勢に過ぎない」
レンは、一歩踏み出した。
「……貴方は、本当は臆病者だ。……またあの時のように、負けることを恐れている」
「……ち、違うッ! 俺は……俺は最強だッ!」
カイザーが魔剣を振り上げた。だが、その動きは精彩を欠き、隙だらけだった。
(……今だ!)
レンは、最後の賭けに出た。
彼は、懐から超音波笛を取り出し、思い切り吹き鳴らした。
――キィィィィィン!!
人間には聞こえない高周波が、平原に響き渡る。
それは、レンの背後にいたドラゴンにとって、「ご主人様からの『最大級の攻撃命令』」を意味した。
「……グォォォォォォッ!!」
ドラゴンの本能が、爆発した。
巨大な口が開き、喉の奥で、紅蓮の炎が渦を巻く。
(……よし! 今度こそ出る! ……さっきのは「甘噛み」だったってことか!?)
レンが戦慄した瞬間。
ドラゴンの口から、太陽のような灼熱のブレスが放たれた。
――ドォォォォォォンッ!!
ブレスは、レンの頭上を通過し、カイザーの背後にある小山を直撃した。
山が、瞬時に蒸発した。
地形が変わるほどの、圧倒的な破壊力。
「……なッ……!?」
カイザーが、その光景に絶句した。
彼が恐れていた「過去の敗北の記憶」。それが、目の前のドラゴンのブレスと重なったのだ。
(……あ、あれは……あの時の……!)
カイザーの脳裏に、かつて自分を倒した「真の怪物」の姿がフラッシュバックする。
彼の戦意が、音を立てて崩れ去った。
レンは、その隙を見逃さなかった。
彼は、崩れ落ちそうになるカイザーに近づき、その耳元で囁いた。
「……賢明な判断ですね、将軍。……彼は、まだ本気を出していませんよ?」
これは、最後のダメ押しのハッタリだ。
(……本気だよ! 今の、間違いなく全力ブレスだったよ! ……これ以上出したら、俺まで蒸発するわ!)
だが、カイザーには、その言葉が真実に聞こえた。
彼は、ガクリと膝をつき、魔剣を取り落とした。
「……俺の……負けだ……」
武神の敗北宣言。
その瞬間、平原に、王国軍の歓声が爆発した。
レンは、安堵のため息をついた。
(……勝った。……マジで勝っちゃったよ。……ハッタリと、ドラゴンのご機嫌だけで、帝国の武神に……)
レンの足が、ガクガクと震え始めた。
だが、彼は倒れるわけにはいかない。
彼は「最強の賢者」。この勝利も、全て計算通りだったかのように振る舞わなければならないのだ。
レンは、震える足を必死に隠しながら、悠然と(見えるように)兵士たちの方へ振り返った。
その背中に、ドラゴンの熱い鼻息がかかった。
(……やめて。……だから、顔を近づけるなって……!)
レンの受難は、まだ終わりそうになかった。
1
あなたにおすすめの小説
クラス全員が転生して俺と彼女だけが残された件
兵藤晴佳
ファンタジー
冬休みを目前にした田舎の高校に転校してきた美少女・綾見(あやみ)沙羅(さら)は、実は異世界から転生したお姫様だった!
異世界転生アプリでクラス全員をスマホの向こうに送り込もうとするが、ただひとり、抵抗した者がいた。
平凡に、平穏に暮らしたいだけの優等生、八十島(やそしま)栄(さかえ)。
そんな栄に惚れ込んだ沙羅は、クラス全員の魂を賭けた勝負を挑んでくる。
モブを操って転生メンバーを帰還に向けて誘導してみせろというのだ。
失敗すれば、品行方正な魂の抜け殻だけが現実世界に残される。
勝負を受ける栄だったが、沙羅は他クラスの男子の注目と、女子の嫉妬の的になる。
気になる沙羅を男子の誘惑と女子の攻撃から守り抜き、クラスの仲間を連れ戻せるか、栄!
筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~
九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。
ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。
そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。
しかも精霊の力に満たされた異世界。
さて…主人公の人生はどうなることやら。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する
オカさん
ファンタジー
たった一人で敵軍を殲滅し、『死神』と恐れられた男は人生に絶望して自ら命を絶つ。
しかし目を覚ますと500年後の世界に転生していた。
前世と違う生き方を求めた彼は人の為、世の為に生きようと心を入れ替えて第二の人生を歩み始める。
家族の温かさに触れ、学園で友人を作り、世界に仇成す悪の組織に立ち向かって――――慌ただしくも、充実した日々を送っていた。
しかし逃れられたと思っていたはずの過去は長い時を経て再び彼を絶望の淵に追いやった。
だが今度こそは『己の過去』と向き合い、答えを導き出さなければならない。
後悔を糧に死神の新たな人生が幕を開ける!
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる