ステータスなしの元人気メンタリスト、異世界の最強ドラゴンをお手だけで服従させる~目を見ただけで思考が読めるので、魔法使いが詠唱してくれません

マーマー

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第3章第10節 武神のトラウマ

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 カイザーが魔剣を構え、レンにじりじりと詰め寄る。
 レンの背後では、ドラゴンが「まだ遊んでくれないの?」とばかりに、不満げに唸り声を上げている。

 (……前門の虎、後門の狼。いや、前門のゴリラ、後門の怪獣だ。……完全に詰んだ)

 レンの脳はパニック状態だが、体は長年の訓練(前世のテレビ出演)のおかげで、勝手に「賢者のポーズ」を取っていた。腕を組み、不敵な笑みを浮かべ、相手を見下ろす。

「……フン。口先だけの男かと思ったが……度胸だけはあるようだな」

 カイザーが、レンの態度を見て、わずかに警戒心を強めた。

 (……よし。まだハッタリは効いてる。……ここからどうやって逆転する? ……物理じゃ勝てない。魔法も使えない。……残る武器は、一つしかない)

 レンは、覚悟を決めた。
 彼は、カイザーの目をじっと見つめ、観察(スキャン)を開始した。

 (……筋肉の緊張、呼吸の乱れ、視線の動き。……戦闘狂に見えて、意外と慎重だな。……ん? 待てよ。……あいつ、さっきから妙な動きをしてるな)

 レンの観察眼が、ある違和感を捉えた。
 カイザーは、魔剣を構えているが、その切っ先が微妙に震えている。そして、彼の視線が、時折、自分の左肩付近に向けられている。

 (……左肩? ……何かあるのか?)

 レンは、さらに深く観察する。
 カイザーの左肩の鎧。そこには、微細な、しかし深い傷跡が刻まれていた。そして、その傷跡を庇うように、彼の左半身の動きが、わずかにぎこちない。

 (……なるほど。古傷か。……それも、ただの傷じゃない。……トラウマになるレベルの、深い傷だ)

 レンの脳裏に、ある仮説が浮かび上がった。
 彼は、ゆっくりと口を開いた。

「……カイザー将軍。……貴方は、強い。……だが、その強さの裏には、深い『恐怖』が隠されている」
「……何だと?」

 カイザーの眉がピクリと動いた。

「……貴方の左肩。……その傷は、誰につけられたものです?」

 レンの言葉に、カイザーの動きが止まった。
 図星だ。

「……貴様、なぜそれを……」
「……見えるのですよ。……貴方の『心』の傷が」

 レンは、畳み掛ける。

「……その傷は、貴方がまだ若かりし頃……自分より遥かに強い存在に、完膚なきまでに叩きのめされた時のものでしょう? ……その時の恐怖が、今も貴方を縛り付けている」

 これは、完全なコールドリーディングだ。
 百戦錬磨の武人ほど、過去に大きな敗北を経験している可能性が高い。そして、そのトラウマが、無意識の行動(傷を庇う動き)に現れる。レンは、それを指摘しただけだ。

 だが、カイザーにとっては、それは「誰にも言っていない秘密」を見透かされた衝撃となる。

「……き、貴様……! ……黙れッ!」

 カイザーが吼えた。だが、その声には、先ほどまでの威圧感はなく、焦りと動揺が混じっていた。

「……図星ですか。……貴方は、その恐怖を隠すために、常に強さを誇示し、戦いに明け暮れてきた。……だが、それは虚勢に過ぎない」

 レンは、一歩踏み出した。

「……貴方は、本当は臆病者だ。……またあの時のように、負けることを恐れている」
「……ち、違うッ! 俺は……俺は最強だッ!」

 カイザーが魔剣を振り上げた。だが、その動きは精彩を欠き、隙だらけだった。

 (……今だ!)

 レンは、最後の賭けに出た。
 彼は、懐から超音波笛を取り出し、思い切り吹き鳴らした。

 ――キィィィィィン!!

 人間には聞こえない高周波が、平原に響き渡る。
 それは、レンの背後にいたドラゴンにとって、「ご主人様からの『最大級の攻撃命令』」を意味した。

「……グォォォォォォッ!!」

 ドラゴンの本能が、爆発した。
 巨大な口が開き、喉の奥で、紅蓮の炎が渦を巻く。

 (……よし! 今度こそ出る! ……さっきのは「甘噛み」だったってことか!?)

 レンが戦慄した瞬間。
 ドラゴンの口から、太陽のような灼熱のブレスが放たれた。

 ――ドォォォォォォンッ!!

 ブレスは、レンの頭上を通過し、カイザーの背後にある小山を直撃した。
 山が、瞬時に蒸発した。
 地形が変わるほどの、圧倒的な破壊力。

「……なッ……!?」

 カイザーが、その光景に絶句した。
 彼が恐れていた「過去の敗北の記憶」。それが、目の前のドラゴンのブレスと重なったのだ。

 (……あ、あれは……あの時の……!)

 カイザーの脳裏に、かつて自分を倒した「真の怪物」の姿がフラッシュバックする。
 彼の戦意が、音を立てて崩れ去った。

 レンは、その隙を見逃さなかった。
 彼は、崩れ落ちそうになるカイザーに近づき、その耳元で囁いた。

「……賢明な判断ですね、将軍。……彼は、まだ本気を出していませんよ?」

 これは、最後のダメ押しのハッタリだ。
 (……本気だよ! 今の、間違いなく全力ブレスだったよ! ……これ以上出したら、俺まで蒸発するわ!)

 だが、カイザーには、その言葉が真実に聞こえた。
 彼は、ガクリと膝をつき、魔剣を取り落とした。

「……俺の……負けだ……」

 武神の敗北宣言。
 その瞬間、平原に、王国軍の歓声が爆発した。

 レンは、安堵のため息をついた。
 (……勝った。……マジで勝っちゃったよ。……ハッタリと、ドラゴンのご機嫌だけで、帝国の武神に……)

 レンの足が、ガクガクと震え始めた。
 だが、彼は倒れるわけにはいかない。
 彼は「最強の賢者」。この勝利も、全て計算通りだったかのように振る舞わなければならないのだ。

 レンは、震える足を必死に隠しながら、悠然と(見えるように)兵士たちの方へ振り返った。
 その背中に、ドラゴンの熱い鼻息がかかった。

 (……やめて。……だから、顔を近づけるなって……!)

 レンの受難は、まだ終わりそうになかった。
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