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第3章第17節 教皇の真意
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レン一行を乗せた馬車は、ついに聖教国イスの首都「アルカディア」に到着した。
街の中央には、巨大な白亜の大聖堂がそびえ立ち、その威容は、見る者を圧倒した。
「……レン様。……あれが、神の住まう場所、聖アルカディア大聖堂ですわ」
エリナが、誇らしげに言った。
レンは、その巨大な建造物を見上げながら、生唾を飲み込んだ。
(……でかい。……そして、空気が重い。……胃がキリキリする)
大聖堂の周囲には、何百人もの聖職者や騎士たちが並び、レンたちの到着を待っていた。その物々しい雰囲気に、レンは、自分が「賓客」ではなく「囚人」として連れてこられたのだと、改めて実感した。
馬車が大聖堂の正門前で停止し、レンたちが降り立つと、一人の老人が進み出てきた。
「……ようこそおいでくださいました。賢者レン・クロウリー殿。……私は、枢機卿のグレゴリオと申します」
グレゴリオは、深々と頭を下げた。その顔には、柔和な笑みが浮かんでいたが、レンの観察眼は、その奥にある冷徹な計算を見逃さなかった。
「……丁寧なご挨拶、痛み入ります。……枢機卿」
レンは、賢者の仮面を被り、優雅に一礼した。
「……教皇猊下がお待ちです。……どうぞ、こちらへ」
グレゴリオに案内され、レンたちは大聖堂の中へと進んだ。
内部は、ステンドグラスから差し込む光で満たされ、荘厳なパイプオルガンの音色が響き渡っていた。
「……素晴らしいですね。……神の奇跡を感じます」
レンが、またしても心にもないお世辞を言うと、グレゴリオが満足げに頷いた。
「……左様でございましょう。……この大聖堂は、神の力によって築かれたのです」
(……いや、石造りだろ。……人力で建てたに決まってるじゃん)
レンは内心でツッコミを入れながら、グレゴリオの後についていく。
やがて、一行は、大聖堂の最奥部にある「教皇の間」に到着した。
重厚な扉が開くと、そこには、巨大な玉座に座る、一人の老人の姿があった。
白髪、白髭、そして、白一色の法衣。その姿は、まさに「神の代弁者」と呼ぶに相応しい威厳に満ちていた。
「……よく来た。……賢者レン・クロウリーよ」
教皇の声は、深く、重く、そして、レンの魂を揺さぶるような響きを持っていた。
「……お初にお目にかかります。教皇猊下」
レンは、その場に跪き、最大の敬意を表した。
(……やばい。……威圧感が半端ない。……カイザーやエリナとは、また違った種類の、底知れない「何か」を感じる)
教皇は、レンをじっと見つめた。その瞳は、全てを見透かすかのように、深く、静かだった。
「……賢者よ。……余が、なぜそなたをここに呼んだか、わかるか?」
「……いえ、皆目見当もつきません。……私のような若輩者に、何のご用でしょうか?」
レンは、しらばっくれた。
「……フン。……とぼけるな。……そなたは、帝国の武神を退け、古龍を従えるほどの力を持っている。……その力を、我が国のために使ってほしいのだ」
教皇は、単刀直入に言った。
「……我が国は今、大きな危機に直面している。……東方の『魔族領』の動きが活発化し、我が国の領土を脅かしているのだ」
「……魔族、ですか?」
「……ああ。……奴らは、神を否定し、混沌を愛する、邪悪な存在だ。……奴らを殲滅するためには、そなたのような『規格外の力』が必要なのだ」
(……は? ……魔族殲滅? ……聞いてないよ、そんな話。……俺、ただのメンタリストなんですけど?)
レンの胃痛が、限界を超えた。
帝国との戦争を回避したと思ったら、今度は魔族との戦争に巻き込まれる。レンの「平穏なスローライフ」は、完全に遠のいてしまった。
「……教皇猊下。……お言葉ですが、私はただの学者です。……戦いは専門外でして……」
「……謙遜するな。……余は知っているぞ。……そなたが、帝国の武神を言葉だけで屈服させたことを。……その『話術』と『観察眼』こそが、魔族に対抗するための最大の武器となるのだ」
教皇は、レンの反論を許さなかった。
「……レンよ。……そなたに拒否権はない。……もし、協力を拒むなら……」
教皇の目が、すっと細められた。
「……そなたを『異端者』として認定し、この場で処刑する」
――詰んだ。
レンの頭の中で、終了のゴングが鳴り響いた。
協力しても地獄、拒否しても地獄。究極の二択だ。
「……わかりました。……協力させていただきます」
レンは、絞り出すように答えた。
顔では「フッ、面白い」と笑ってみせたが、内心では(助けて! 誰か助けて! 俺、勇者とかじゃないから! ただの一般人だから!)と絶叫していた。
こうして、レンは、新たな、そして最大の危機に直面することになった。
魔族との戦争。
それは、言葉が通じない人外相手の、命がけの「心理戦」の幕開けだった。
レンは、教皇の間を出ると、廊下の壁に手をつき、深くため息をついた。
(……もう、疲れた。……田舎に帰りたい)
彼の胃痛は、限界を超え、新たなステージ(胃穿孔)へと突入しようとしていた。
【第3章完】
街の中央には、巨大な白亜の大聖堂がそびえ立ち、その威容は、見る者を圧倒した。
「……レン様。……あれが、神の住まう場所、聖アルカディア大聖堂ですわ」
エリナが、誇らしげに言った。
レンは、その巨大な建造物を見上げながら、生唾を飲み込んだ。
(……でかい。……そして、空気が重い。……胃がキリキリする)
大聖堂の周囲には、何百人もの聖職者や騎士たちが並び、レンたちの到着を待っていた。その物々しい雰囲気に、レンは、自分が「賓客」ではなく「囚人」として連れてこられたのだと、改めて実感した。
馬車が大聖堂の正門前で停止し、レンたちが降り立つと、一人の老人が進み出てきた。
「……ようこそおいでくださいました。賢者レン・クロウリー殿。……私は、枢機卿のグレゴリオと申します」
グレゴリオは、深々と頭を下げた。その顔には、柔和な笑みが浮かんでいたが、レンの観察眼は、その奥にある冷徹な計算を見逃さなかった。
「……丁寧なご挨拶、痛み入ります。……枢機卿」
レンは、賢者の仮面を被り、優雅に一礼した。
「……教皇猊下がお待ちです。……どうぞ、こちらへ」
グレゴリオに案内され、レンたちは大聖堂の中へと進んだ。
内部は、ステンドグラスから差し込む光で満たされ、荘厳なパイプオルガンの音色が響き渡っていた。
「……素晴らしいですね。……神の奇跡を感じます」
レンが、またしても心にもないお世辞を言うと、グレゴリオが満足げに頷いた。
「……左様でございましょう。……この大聖堂は、神の力によって築かれたのです」
(……いや、石造りだろ。……人力で建てたに決まってるじゃん)
レンは内心でツッコミを入れながら、グレゴリオの後についていく。
やがて、一行は、大聖堂の最奥部にある「教皇の間」に到着した。
重厚な扉が開くと、そこには、巨大な玉座に座る、一人の老人の姿があった。
白髪、白髭、そして、白一色の法衣。その姿は、まさに「神の代弁者」と呼ぶに相応しい威厳に満ちていた。
「……よく来た。……賢者レン・クロウリーよ」
教皇の声は、深く、重く、そして、レンの魂を揺さぶるような響きを持っていた。
「……お初にお目にかかります。教皇猊下」
レンは、その場に跪き、最大の敬意を表した。
(……やばい。……威圧感が半端ない。……カイザーやエリナとは、また違った種類の、底知れない「何か」を感じる)
教皇は、レンをじっと見つめた。その瞳は、全てを見透かすかのように、深く、静かだった。
「……賢者よ。……余が、なぜそなたをここに呼んだか、わかるか?」
「……いえ、皆目見当もつきません。……私のような若輩者に、何のご用でしょうか?」
レンは、しらばっくれた。
「……フン。……とぼけるな。……そなたは、帝国の武神を退け、古龍を従えるほどの力を持っている。……その力を、我が国のために使ってほしいのだ」
教皇は、単刀直入に言った。
「……我が国は今、大きな危機に直面している。……東方の『魔族領』の動きが活発化し、我が国の領土を脅かしているのだ」
「……魔族、ですか?」
「……ああ。……奴らは、神を否定し、混沌を愛する、邪悪な存在だ。……奴らを殲滅するためには、そなたのような『規格外の力』が必要なのだ」
(……は? ……魔族殲滅? ……聞いてないよ、そんな話。……俺、ただのメンタリストなんですけど?)
レンの胃痛が、限界を超えた。
帝国との戦争を回避したと思ったら、今度は魔族との戦争に巻き込まれる。レンの「平穏なスローライフ」は、完全に遠のいてしまった。
「……教皇猊下。……お言葉ですが、私はただの学者です。……戦いは専門外でして……」
「……謙遜するな。……余は知っているぞ。……そなたが、帝国の武神を言葉だけで屈服させたことを。……その『話術』と『観察眼』こそが、魔族に対抗するための最大の武器となるのだ」
教皇は、レンの反論を許さなかった。
「……レンよ。……そなたに拒否権はない。……もし、協力を拒むなら……」
教皇の目が、すっと細められた。
「……そなたを『異端者』として認定し、この場で処刑する」
――詰んだ。
レンの頭の中で、終了のゴングが鳴り響いた。
協力しても地獄、拒否しても地獄。究極の二択だ。
「……わかりました。……協力させていただきます」
レンは、絞り出すように答えた。
顔では「フッ、面白い」と笑ってみせたが、内心では(助けて! 誰か助けて! 俺、勇者とかじゃないから! ただの一般人だから!)と絶叫していた。
こうして、レンは、新たな、そして最大の危機に直面することになった。
魔族との戦争。
それは、言葉が通じない人外相手の、命がけの「心理戦」の幕開けだった。
レンは、教皇の間を出ると、廊下の壁に手をつき、深くため息をついた。
(……もう、疲れた。……田舎に帰りたい)
彼の胃痛は、限界を超え、新たなステージ(胃穿孔)へと突入しようとしていた。
【第3章完】
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