ステータスなしの元人気メンタリスト、異世界の最強ドラゴンをお手だけで服従させる~目を見ただけで思考が読めるので、魔法使いが詠唱してくれません

マーマー

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第4章第14節 深淵の巫女と二人の信者

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 離宮の自室(軟禁部屋)に戻り、エリナの過剰なスキンシップの嵐から一時的に解放されたレンは、泥のようにベッドに倒れ込んだ。
 精神的な疲労が肉体的な疲労を上回り、指一本動かすのも億劫だった。

 「……レン様、大丈夫ですか?」
 セシリアが心配そうに声をかけてきた。彼女はレンのベッドの傍らに立ち、まるで忠実な番犬のように周囲を警戒している。
 「……ああ、なんとか生きてるよ。……精神力(メンタル)がゴリゴリ削られたけどな」
 レンは力なく答えた。

 その時、部屋の隅で、アリアが一人でブツブツと呟いているのが聞こえた。

 「……ククク。……やはり、そうか。……全ては繋がっているのだ……」
 アリアは、エリナが用意した銀の首輪を愛おしそうに撫でながら、恍惚とした表情を浮かべていた。彼女の瞳孔は開ききっており、完全に自分の世界に入り込んでいる。

 「……おい、アリア。……何一人で盛り上がってるんだ?」
 レンが訝しげに尋ねた。アリアのこの状態は、大抵ろくでもない妄想が暴走している時のサインだ。

 アリアは、ゆっくりとレンの方を向いた。その目は、狂気と崇拝が入り混じった、異様な輝きを放っていた。
 「……盟友(マスター)よ。……私は、理解したぞ。……この首輪の意味を」

 「……首輪の意味? ……ただの装飾品だろ?」
 レンは適当に答えた。実際、エリナは「アリアさんにも、何か可愛いものを」と言って、この首輪をつけただけだ。魔力封じの機能はない、単なる銀細工だ。

 「……否! ……断じて否である!」
 アリアが、大げさな身振りで否定した。
 「……これは、単なる装飾品などではない。……これは、『深淵の契約』の証なのだ!」

 (……はい、出た。……いつもの中二病解釈)
 レンは心の中でため息をついた。

 アリアは、さらに熱弁を振るい始めた。
 「……昨日の法廷で、聖女エリナは、私の『魔封じの首輪』を破壊した。……あれは、私の魔力を解放するためではない。……私の『深淵の力』を、自らの支配下に置くための儀式だったのだ!」

 「……は? ……何を言って……」
 レンが口を挟もうとしたが、アリアは止まらない。

 「……そして、今日、聖女は私に、この新たな首輪を与えた。……これは、魔力を封じるものではなく、私の『魂』を縛るためのもの。……すなわち、私は聖女の『所有物(使い魔)』となったのだ!」
 アリアは、なぜか嬉しそうに胸を張った。

 (……いや、それ、全然嬉しくないだろ。……完全に奴隷契約じゃん。……なんでそんなに誇らしげなんだよ)
 レンは、アリアの思考回路が全く理解できなかった。

 だが、アリアの妄想は、さらに斜め上の方向へと暴走していく。

 「……そして、その聖女エリナを、裏で操っているのが、我が盟友(マスター)! ……つまり、この首輪は、聖女を経由して、私が盟友(マスター)の『深淵の眷属』となったことの、絶対的な証明なのだ!」

 アリアは、感動に打ち震えながら、首輪に頬ずりをした。
 「……ああ、素晴らしい! ……これぞ、私が求めていた『深淵への到達』! ……私はついに、盟友(マスター)の真の力の一部となったのだ!」

 (……ダメだ、こいつ。……完全に手遅れだ)
 レンは、頭を抱えた。アリアの中では、レンは「聖女すらも操る、深遠なる闇の支配者」という設定が、完全に確定してしまったようだ。

 「……アリア殿。……それは、少し考えすぎではないか?」
 さすがのセシリアも、アリアの妄想にはついていけない様子で、困惑した表情を浮かべている。

 「……フン。……凡人には理解できまい。……この深遠なる『因果の連鎖(チェーン・オブ・カオス)』が」
 アリアは、セシリアを見下すように鼻で笑った。

 「……ですが、もしそれが事実だとすれば……」
 セシリアが、真剣な表情でレンに向き直った。
 「……レン様は、聖女エリナを利用し、教会内部に『深淵の勢力』を築こうとしている……ということになりますが?」

 (……おい、セシリアまで変な方向に納得するなよ! ……俺はそんな大それたこと、これっぽっちも考えてないから!)
 レンは、必死に否定しようとした。

 「……い、いや、それは違う。……俺はただ、エリナの暴走を止めるために……」
 「……なるほど。……聖女の力を利用し、腐敗した教会を内側から浄化する……。……それが、レン様の真の目的なのですね!」
 セシリアが、勝手に納得して、目を輝かせた。

 「……さすがはレン様! ……その深謀遠慮、感服いたしました!」
 セシリアが、その場に跪き、深く頭を下げた。
 「……このセシリア、レン様の『深淵の計画』のためなら、この命、喜んで捧げます!」

 (……違う! ……全然違う! ……俺の目的は、ただ平穏無事に家に帰ることだけだって!)
 レンの内なる叫びは、誰にも届かない。

 部屋の中は、アリアの狂気的な崇拝と、セシリアの盲目的な忠誠が入り混じり、異様な空気に包まれていた。
 レンは、その中心で、二人の「信者」の熱視線を浴びながら、ただ胃痛に耐えるしかなかった。

 「……ククク。……面白くなってきたな」
 アリアが、ニヤリと笑った。
 「……これで、役者は揃った。……さあ、盟友(マスター)よ。……次なる『深淵の指令(オーダー)』を!」

 アリアとセシリアが、期待に満ちた目でレンを見つめる。
 レンは、引きつった笑顔を浮かべ、ただ曖昧に頷くことしかできなかった。

 (……誰か、助けてくれ。……この勘違いの連鎖(チェーン・オブ・アンジャッシュ)を、誰か止めてくれ……)

 レンの心の叫びは、離宮の厚い壁に阻まれ、外の世界には届かない。
 彼は、二人の厄介な「信者」と、さらに厄介な「聖女」に囲まれ、出口のない迷宮を彷徨い続けるのだった。
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