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異世界勇者、世界に立つ
勇者、知らない大地に立つ。あと現地民のやさしさに触れる。
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むかぁしむかし、あるところに――
シモン・ヴァッシュという青年がおったそうな――
仲間と共に世界を旅し――
様々な苦難を乗り越え――
気が付けば魔王すらも討伐し――
知恵の勇者として名を馳せたそうな――
そんな彼が――
宮城県は仙台市の若林区に――
降り立った――
「どこここーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
え?どこ?え?なにここ、え?今魔王討伐記念式典パーティ、え?
乾杯して、あれ?夢?どっちが?こっち?でもここしらないし、頬つねっても痛いし、幻覚作用のある薬草も嚙んでないし、まさか玉座の間のど真ん中に転送罠があるわけないし、あれ?
…よぉし、落ち着け俺。周りを見て状況確認だ。右が田園風景、左も田園風景、後ろは……海?か?それで前に馬鹿みたいにデカい建物。見たことないくらいでけぇ。あんなのがあったら各国で話題にならないはずもない、ってことはこれ別の世界ってことも考えられるか?もしくは神の国とか?
ってちょっと待て武器がない!!札もない!!ついでに言えば金もない!最悪だ!ほんと最悪だ!!誰だよ礼服着用必須って言ってたやつ!拳だけで異世界探索とかシャレになってないって!いや待てよ?確か靴底に……あった!5枚!衝撃札と、雷撃札と、浮遊札、癒札に、切札かぁ、ないよりマシだがって感じだ。今後は金も入れることにしよう。
※シモンイメージ
……とりあえず、あっちが街っぽいからな。歩くか。遠いったって目視で見えてるんだ、何もない砂漠をクソみたいな文句垂れて歩く奴らがいないだけマシだろ。マシか?マシじゃないかも。
右も左も田園な道を歩きながら、時たますれ違う馬無し馬車について考える。あれなんだよ。人乗ってるし。つまりはあれか、魔力か、それに準ずる力を貯めて、徐々に使って動いてんのか。何で動いてんだ?魔力っぽくないよな。札にしたら何万枚必要なんだろ、考えたくないな……
などとうだうだ考えているうちに、人の住むエリアに入ってきたようだ。服装も見たことないな、こんなに統一性ないものか?縫製も凄いしっかりしてるな。城下町にしては王城(暫定)からは遠すぎる。まぁ貴族街とかかもしれんか、という事は海沿いに発展した国家なのか?
しかし魔法を使っている様子が全く見られないのはすごいな。てかどうすんだ日常生活。貴族の街にしたってもっとこう魔法は使うもんだろ、飛行魔法とか、花に水やるってだけでも水魔法使ったり、身体強化で楽するもんだろ。マジで魔力使ってないのか?
てか俺が引くほど目立ってる。ハレの日の服だからなぁ、ひそひそされちゃうよなそりゃ……更に分かったことが一つ、言語がわかる。確実に知らない言葉のはずなのに唇すら読める。こうなってくるともはや恐怖だな。そんな恐怖よりも、早急に解決しなければいけない課題が俺の中で顔を出す。
腹が、減った。いやマジで。魔王討伐前から魔王討伐記念式典パーティまで五日間。マジで一食も食ってなかったから本気で腹減ってる。絶対パーティは帰還後すぐじゃなくてよかっただろマジで。飲まず食わずは慣れているが、目の前にごちそうを並べられて乾杯のタイミングで全部消え失せたのが本当に堪えている。
俺が勇者とかいう伯爵相当の称号を貰っていなかったらその辺の店からちょろまかすとかも考えるんだが、残念なことにこの大層かつ不釣り合いな称号を持っているものが、仮にも別の国で粗相をしたらとんでもない国際問題になる。最悪だ。爵位と同等の称号なんて同盟国とか今まで立ち寄った国くらいしか効果ないってのに、捕まったらそれこそ「クリッド国の『知恵の勇者』シモン・ヴァッシュが他国で窃盗を働きお縄に着いた!」とか言われるんだ。あんまりじゃないか。
もうなりふり構っていられない気がするぞ、これくらいの規模の街なら警備兵の詰め所くらいあるだろ。そこに行って助けを求めるのも考えなければならん。諸々の手続きや帰国を待つまでの扱いを考えると恐ろしいことこの上ないが……背に腹は代えられん。と、とにかく場所を、聞くか。
「あー、ごめんな、ちょっと聞きたいことあるんだがいいか?」
「え?あ、ぼくですか?」
近くにいたやたらかわいい子に話しかける。声もしぐさもかわいいな、本人にその意思があれば国が傾くぞこの顔は。黒のズボンに黒の詰襟、なるほど軍の関係者なのかもしれないな、この国は優秀な人材を選べて、いやそれどころじゃない。
「この辺に警備兵とか、それに準ずる、ああ、ちょっと待ってくれ」
喋っている最中に空腹でめまいがしてきた。頭を押さえ、その場に座り込む。
「えっ!?大丈夫ですか!?」
「いや対して問題ないさ、ちょっと五日何も食ってないってだけで」
「た、大変じゃないですか!?ちょ、ちょっと待ってくださいね?すぐ戻りますんで!」
わたわたと走り去っていく彼女を見やりながら、失敗したかと天を仰ぐ。が、そんなこと思っているうちに彼女が戻ってきた。手には透明な袋に入った何かと紙の箱をいくつか持っている。俺の話を真に受けたのは、すごいお人よしなのか、はたまた俺がマジで食ってない顔してたか、あるいはその両方か。
「すみません、手持ちが今少なかったので、とりあえずパンをいくつかと、あとお茶をパックで買ってきました」
俺に笑顔で手渡されたそれを開ける。なるほど完全に密閉し―――
気が付いたら、完食してた。え?あれ?うわ口の中旨っ。ソース味だ旨っ。
お茶だと差し出された箱、確かに重みと水の音がする。中身がこぼれないようあけてみると、紅茶が出てきた。冷えた紅茶がのどに染み渡る安心感。
ひとしきり飲み、人心地ついてから思う、結構高いんじゃないのか?こういうの。中に何か凄い旨いのが入っているパン、冷えた混じりけのない紅茶。一つ一つの質がえらい高い。
そういうものが買える地位ってことなのか?彼自身いいとこの出のお嬢様とかなのか?少しずつ頭が回り始めてきた俺に、お人好しな美少女が話しかける。
「なんとかなったみたいでよかったです。えっと、お名前聞いていませんでしたね」
「ああ、シモンだ。シモン・ヴァッシュ。クリッド国の極小単位戦術家ってのをやっててな、最近魔王を倒したのが一番わかりやすいか?」
「魔王を倒した」、この話を出したのは一つの仮説を検証するためだ。魔王の討伐により、世界中の魔物の弱体化、並びに各国のあちこちにできていた負の淀みの解消等々、いろんな事象が確認された。その全てが「魔王の仕業」として語られていたもので、事実俺たちが凱旋したときにはすでに国一つが瞬時に魔王討伐を悟ったと言っている。一つでも魔物のことや、それに関するいろいろな事象を知っていれば、つまり俺の世界の人間であれば少なからず反応があるはずだ。
「えっ……と、何かのゲームとか、アニメとかの話ですかね?」
それがこの反応、当たってほしくないが、当たりだ。この世界は、俺の世界じゃない。
「……すまん、なんでもない。ほんと今手持ちがなくて何も返せないけど、どこかで必ず返す。すごく助かった。本当にありがとうな」
食事のお礼と謝罪を行い、立ち上がる。これ以上、こんな可憐なお嬢さんと話していても、俺が変な人という印象しか与えない上にめちゃくちゃな負担を与えてしまうだろう。そうなる前に退散しなければな。とりあえずは職探しと元の世界へ帰る算段を立てなければ。
「あ、あの!」
俺が先行きの立たない未来に一抹の不安を覚え始めたころ、後ろからお嬢さんに声を掛けられた。
「……行く当てとかないのなら、ぼくの家行きますか?おばあちゃんの許可取らないといけないですけど、数日ぐらいなら全然大丈夫だと、思います」
「それは……」
こちらとしてはとてもありがたい申し出なのだが、いいのか?うら若き乙女が10以上年の離れた男を連れ込むのはどう考えても不健全としか言えないぞ?
「そのかわり、あなたが異世界から来たっていう証拠を見せてください」
……一瞬で、俺の心がアラートを出し始めた。危ないのでは?このお嬢さん。いくら俺の言動がおかしいからと言って、俺が数分前に仮定した推論をバッチリ当てて来た。最悪元凶ってこともある。
「あ!えっと、そんなに警戒しないでください。最近のご時世的に、そういう人がいてもおかしくないかなぁって思っただけなので」
どんなご時世だと突っ込みたくなるが、何やら訳ありなのかもしれない。それに証拠といっても……身体強化魔法でいいだろうか。
「そうだな……例えばこの石、普通に投げたらどれくらいの飛距離になる?」
道端に落ちていた、人差し指と中指でつまめるほどの石を拾い上げる。
「そうですねぇ、大体、うーん、あの奥にある街路樹に届けばいいほうじゃないですかね?」
少し先の木を指さす美少女。なるほどなるほど、確かに身体強化魔法無しで投げるならあそこかもう少し先程度だな。
「それが、身体強化魔法を使うとっ」
全身に身体強化魔法を巡らせ、一息に石を投げる。石は空高く飛んでいき、やがて見えなくなった。
「こんな感じでどうだ?」
わなわなと震える美少女に声をかける
「……ただの石が、超長距離兵器に~っっ!」
すごく喜んでくれた。どんな喜び方だ。もっとおしとやかにというか、とんだおてんば娘だな。
「ほ、他にはどういった魔法があるんですか?手から炎とか、雷を撃つとか、それとも瞬時にフルアーマーを展開して変身したりとか!!」
「お、落ち着けお嬢さん、道すがら教えるから、ていうか、これで合格?」
興奮する美少女を落ち着かせる。なんだ瞬時にフルアーマー展開って。そういうことしなきゃいけない事情とかあるの?
「もちろん大合格です!あ、あとよく誤解されがちなんですけど、ぼく男です。早上信吾っていいます。よろしくおねがいしますね!」
※信吾イメージ
「そっ……かぁ、うん。そっか、わかった。了解。飲み込んだ。よろしく」
……マジか、いやマジか。この世界驚くこと多すぎじゃないか?その顔で男性は相当無理があると思うんだが、いや、うん。深く考えるのやめた。脳みそがぶっ壊れる。知恵の勇者とかいう称号貰っといてなんだけど、時には瞳を閉ざすのも重要だから。
シモン・ヴァッシュという青年がおったそうな――
仲間と共に世界を旅し――
様々な苦難を乗り越え――
気が付けば魔王すらも討伐し――
知恵の勇者として名を馳せたそうな――
そんな彼が――
宮城県は仙台市の若林区に――
降り立った――
「どこここーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
え?どこ?え?なにここ、え?今魔王討伐記念式典パーティ、え?
乾杯して、あれ?夢?どっちが?こっち?でもここしらないし、頬つねっても痛いし、幻覚作用のある薬草も嚙んでないし、まさか玉座の間のど真ん中に転送罠があるわけないし、あれ?
…よぉし、落ち着け俺。周りを見て状況確認だ。右が田園風景、左も田園風景、後ろは……海?か?それで前に馬鹿みたいにデカい建物。見たことないくらいでけぇ。あんなのがあったら各国で話題にならないはずもない、ってことはこれ別の世界ってことも考えられるか?もしくは神の国とか?
ってちょっと待て武器がない!!札もない!!ついでに言えば金もない!最悪だ!ほんと最悪だ!!誰だよ礼服着用必須って言ってたやつ!拳だけで異世界探索とかシャレになってないって!いや待てよ?確か靴底に……あった!5枚!衝撃札と、雷撃札と、浮遊札、癒札に、切札かぁ、ないよりマシだがって感じだ。今後は金も入れることにしよう。
※シモンイメージ
……とりあえず、あっちが街っぽいからな。歩くか。遠いったって目視で見えてるんだ、何もない砂漠をクソみたいな文句垂れて歩く奴らがいないだけマシだろ。マシか?マシじゃないかも。
右も左も田園な道を歩きながら、時たますれ違う馬無し馬車について考える。あれなんだよ。人乗ってるし。つまりはあれか、魔力か、それに準ずる力を貯めて、徐々に使って動いてんのか。何で動いてんだ?魔力っぽくないよな。札にしたら何万枚必要なんだろ、考えたくないな……
などとうだうだ考えているうちに、人の住むエリアに入ってきたようだ。服装も見たことないな、こんなに統一性ないものか?縫製も凄いしっかりしてるな。城下町にしては王城(暫定)からは遠すぎる。まぁ貴族街とかかもしれんか、という事は海沿いに発展した国家なのか?
しかし魔法を使っている様子が全く見られないのはすごいな。てかどうすんだ日常生活。貴族の街にしたってもっとこう魔法は使うもんだろ、飛行魔法とか、花に水やるってだけでも水魔法使ったり、身体強化で楽するもんだろ。マジで魔力使ってないのか?
てか俺が引くほど目立ってる。ハレの日の服だからなぁ、ひそひそされちゃうよなそりゃ……更に分かったことが一つ、言語がわかる。確実に知らない言葉のはずなのに唇すら読める。こうなってくるともはや恐怖だな。そんな恐怖よりも、早急に解決しなければいけない課題が俺の中で顔を出す。
腹が、減った。いやマジで。魔王討伐前から魔王討伐記念式典パーティまで五日間。マジで一食も食ってなかったから本気で腹減ってる。絶対パーティは帰還後すぐじゃなくてよかっただろマジで。飲まず食わずは慣れているが、目の前にごちそうを並べられて乾杯のタイミングで全部消え失せたのが本当に堪えている。
俺が勇者とかいう伯爵相当の称号を貰っていなかったらその辺の店からちょろまかすとかも考えるんだが、残念なことにこの大層かつ不釣り合いな称号を持っているものが、仮にも別の国で粗相をしたらとんでもない国際問題になる。最悪だ。爵位と同等の称号なんて同盟国とか今まで立ち寄った国くらいしか効果ないってのに、捕まったらそれこそ「クリッド国の『知恵の勇者』シモン・ヴァッシュが他国で窃盗を働きお縄に着いた!」とか言われるんだ。あんまりじゃないか。
もうなりふり構っていられない気がするぞ、これくらいの規模の街なら警備兵の詰め所くらいあるだろ。そこに行って助けを求めるのも考えなければならん。諸々の手続きや帰国を待つまでの扱いを考えると恐ろしいことこの上ないが……背に腹は代えられん。と、とにかく場所を、聞くか。
「あー、ごめんな、ちょっと聞きたいことあるんだがいいか?」
「え?あ、ぼくですか?」
近くにいたやたらかわいい子に話しかける。声もしぐさもかわいいな、本人にその意思があれば国が傾くぞこの顔は。黒のズボンに黒の詰襟、なるほど軍の関係者なのかもしれないな、この国は優秀な人材を選べて、いやそれどころじゃない。
「この辺に警備兵とか、それに準ずる、ああ、ちょっと待ってくれ」
喋っている最中に空腹でめまいがしてきた。頭を押さえ、その場に座り込む。
「えっ!?大丈夫ですか!?」
「いや対して問題ないさ、ちょっと五日何も食ってないってだけで」
「た、大変じゃないですか!?ちょ、ちょっと待ってくださいね?すぐ戻りますんで!」
わたわたと走り去っていく彼女を見やりながら、失敗したかと天を仰ぐ。が、そんなこと思っているうちに彼女が戻ってきた。手には透明な袋に入った何かと紙の箱をいくつか持っている。俺の話を真に受けたのは、すごいお人よしなのか、はたまた俺がマジで食ってない顔してたか、あるいはその両方か。
「すみません、手持ちが今少なかったので、とりあえずパンをいくつかと、あとお茶をパックで買ってきました」
俺に笑顔で手渡されたそれを開ける。なるほど完全に密閉し―――
気が付いたら、完食してた。え?あれ?うわ口の中旨っ。ソース味だ旨っ。
お茶だと差し出された箱、確かに重みと水の音がする。中身がこぼれないようあけてみると、紅茶が出てきた。冷えた紅茶がのどに染み渡る安心感。
ひとしきり飲み、人心地ついてから思う、結構高いんじゃないのか?こういうの。中に何か凄い旨いのが入っているパン、冷えた混じりけのない紅茶。一つ一つの質がえらい高い。
そういうものが買える地位ってことなのか?彼自身いいとこの出のお嬢様とかなのか?少しずつ頭が回り始めてきた俺に、お人好しな美少女が話しかける。
「なんとかなったみたいでよかったです。えっと、お名前聞いていませんでしたね」
「ああ、シモンだ。シモン・ヴァッシュ。クリッド国の極小単位戦術家ってのをやっててな、最近魔王を倒したのが一番わかりやすいか?」
「魔王を倒した」、この話を出したのは一つの仮説を検証するためだ。魔王の討伐により、世界中の魔物の弱体化、並びに各国のあちこちにできていた負の淀みの解消等々、いろんな事象が確認された。その全てが「魔王の仕業」として語られていたもので、事実俺たちが凱旋したときにはすでに国一つが瞬時に魔王討伐を悟ったと言っている。一つでも魔物のことや、それに関するいろいろな事象を知っていれば、つまり俺の世界の人間であれば少なからず反応があるはずだ。
「えっ……と、何かのゲームとか、アニメとかの話ですかね?」
それがこの反応、当たってほしくないが、当たりだ。この世界は、俺の世界じゃない。
「……すまん、なんでもない。ほんと今手持ちがなくて何も返せないけど、どこかで必ず返す。すごく助かった。本当にありがとうな」
食事のお礼と謝罪を行い、立ち上がる。これ以上、こんな可憐なお嬢さんと話していても、俺が変な人という印象しか与えない上にめちゃくちゃな負担を与えてしまうだろう。そうなる前に退散しなければな。とりあえずは職探しと元の世界へ帰る算段を立てなければ。
「あ、あの!」
俺が先行きの立たない未来に一抹の不安を覚え始めたころ、後ろからお嬢さんに声を掛けられた。
「……行く当てとかないのなら、ぼくの家行きますか?おばあちゃんの許可取らないといけないですけど、数日ぐらいなら全然大丈夫だと、思います」
「それは……」
こちらとしてはとてもありがたい申し出なのだが、いいのか?うら若き乙女が10以上年の離れた男を連れ込むのはどう考えても不健全としか言えないぞ?
「そのかわり、あなたが異世界から来たっていう証拠を見せてください」
……一瞬で、俺の心がアラートを出し始めた。危ないのでは?このお嬢さん。いくら俺の言動がおかしいからと言って、俺が数分前に仮定した推論をバッチリ当てて来た。最悪元凶ってこともある。
「あ!えっと、そんなに警戒しないでください。最近のご時世的に、そういう人がいてもおかしくないかなぁって思っただけなので」
どんなご時世だと突っ込みたくなるが、何やら訳ありなのかもしれない。それに証拠といっても……身体強化魔法でいいだろうか。
「そうだな……例えばこの石、普通に投げたらどれくらいの飛距離になる?」
道端に落ちていた、人差し指と中指でつまめるほどの石を拾い上げる。
「そうですねぇ、大体、うーん、あの奥にある街路樹に届けばいいほうじゃないですかね?」
少し先の木を指さす美少女。なるほどなるほど、確かに身体強化魔法無しで投げるならあそこかもう少し先程度だな。
「それが、身体強化魔法を使うとっ」
全身に身体強化魔法を巡らせ、一息に石を投げる。石は空高く飛んでいき、やがて見えなくなった。
「こんな感じでどうだ?」
わなわなと震える美少女に声をかける
「……ただの石が、超長距離兵器に~っっ!」
すごく喜んでくれた。どんな喜び方だ。もっとおしとやかにというか、とんだおてんば娘だな。
「ほ、他にはどういった魔法があるんですか?手から炎とか、雷を撃つとか、それとも瞬時にフルアーマーを展開して変身したりとか!!」
「お、落ち着けお嬢さん、道すがら教えるから、ていうか、これで合格?」
興奮する美少女を落ち着かせる。なんだ瞬時にフルアーマー展開って。そういうことしなきゃいけない事情とかあるの?
「もちろん大合格です!あ、あとよく誤解されがちなんですけど、ぼく男です。早上信吾っていいます。よろしくおねがいしますね!」
※信吾イメージ
「そっ……かぁ、うん。そっか、わかった。了解。飲み込んだ。よろしく」
……マジか、いやマジか。この世界驚くこと多すぎじゃないか?その顔で男性は相当無理があると思うんだが、いや、うん。深く考えるのやめた。脳みそがぶっ壊れる。知恵の勇者とかいう称号貰っといてなんだけど、時には瞳を閉ざすのも重要だから。
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