異世界勇者のアフターライフ

あきょう

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異世界勇者、世界に立つ

勇者、元の世界を教える。あとおばあちゃんに気に入られる。

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「パパただいまー」

「おかえ……えーと信吾、そちらのお方は?」

 俺、シモン・ヴァッシュは現在、信吾の家にお邪魔して、親御さんに挨拶しているところだ。すごいデカい家だった。後ろに工場ついてるんだ。すげー。じゃない。やっぱりこいついいとこの子なんだな。

「友達ー。もしかしたら数日止まるかもだから」

 そういうことがよくあるのか、さらりと流して家に入ろうとする信吾。

「パパちょっと心配なんだけど。友達でごり推せないよ信吾。完全に成人してるじゃないのその友達」

 やっぱり駄目らしい。そうだよなぁ。そらそうだ。俺だって止めるもん。

「えっと、ごめんねお友達の方、一応年齢聞きたいんだけど何歳だい?」

「28ですね」

「ダメだよ信吾、28はなんかもうリアルだよ。信吾だって大人になって変な大人がいるのはわかるだろう?このお友達がそうじゃないかどうかなんて、ネット上じゃわからないんだよ」

 お父さんの意見はごもっともだ。さすがにこのままじゃ無理があるだろう、ここはひとつ俺が何とか割って入って

「今日初めてそこであったんだ」

 それは余計ダメだろう

「余計ダメだよ。というか今日初めてそこであった人を家に上げるのはあまりにもダメすぎるよ」

お父さんとも意見があったな。これはさすがに無理そうだ。というか信吾はここまで明け透けにものを言って、どうやって話をつけるつもりだったんだ。

「えっとぉ、パパの仕事のお手伝いをできたらなぁって思ってぇ、そういうことができる人だからぁ」

 おっと、おっとぉ?そういう?そういう感じ?信吾って自分の可愛さを知ってるタイプの人間だった?

「そっかぁ、それなら仕方ないかなぁ?」

 お父さんもそれで懐柔されるな。抗え理性に。

「シモンさん、んーと、これってそこの棚に運べます。相当重いんですけど」

 などと信吾に指さされたのは、金属の部品が大量に入った箱か。ずいぶんとデカいな。抱えるのも難しそうだ。

「信吾ぉ、たぶんこれは無理だよ。重いも何も多分これ300キロはあるからフォークリフト使わなきゃ」

 幸いにして持ち上げるだけの取っ手はあるからそこを支点に持ち上げることができる。身体強化魔法を全身に回し、すっくと持ち上げ棚に入れる。

「わぁぁーーーー!!!!???キミ大丈夫????え?そんな音もなく持ち上げられる?嘘ぉ!?」

「ほかに仕事は?」

「すっご!すっご!ちょっと待ってね?いや待ってね?そういうびっくり人間的なことをされてもいきなり指示とかできないからね!?あー、待ってね?今日はちょっと分かんないけど、えーと」

 元の世界ではさほど珍しくない光景でめちゃくちゃ驚かれた。

「ということでパパ、家に泊めるから」

 驚き戸惑うお父さんを横目に、信吾が家の中に入っていく。ここにいてもたぶん暫く仕事の振り方について考えているだろうし、俺も信吾に続いて中に入る。











「これで当面のお仕事と拠点確保ってやつですね!」

「お、おう、ありがとな?」

 あれは本当に仕事をもらえるのだろうか俺は。というか何でこんなに手際がいいんだこのかわいい男子は。ほんとに黒幕じゃねぇだろうな。などといぶかしむ俺をよそに二階に上がり、自分の部屋へと入っていく信吾。

「えー、お恥ずかしながら僕の部屋です!」

 そういって通された部屋には甲冑を着た戦士的なものの人形や彫像が所狭しと並んでいて、その反対側の棚にはいろんな本がぎっしりと詰められていた。なんかすごいな、いろんな意味で。

「それで!魔法についてしっかり教えてもらいますよ!道中の話じゃフワッとしすぎていてわからなかったんですから!」

 椅子に座った信吾が、何かを起動する。俺としては周りの戦士のこととか、それの仕組みのほうが気になって仕方ないのだが、まぁ交換条件というか、教えるって約束はしていたからな。教えよう。



「そうだな、魔法は大きく分けると遠くの敵を攻撃する遠距離魔法と、身体能力を上げる身体強化魔法の二つに分けられる。基本的にはどっちかしかとらない。なぜなら、身体強化魔法を極めれば極めるほど遠距離魔法が使いづらくなるからだ。例外的に身体強化魔法を使いながら遠距離魔法を使うわけわかんないのがいるが、あれは本当に才能のある化け物か、どっちつかずの半端もんだから今回は除外する。

 本題に戻ろう。身体強化魔法の仕組みはこうだ、体の中にある魔力を血流に循環させることで体の支えを作り、更なる能力の向上をさせる。極めれば毛細血管や眼球、果ては脳までが常人の数倍から数十倍、人によっては数万倍までの力を出せるようになる。

 その一方で遠距離魔法は体の外に魔力を射出し、その性質を変化させることが主なものだ。例えば自分の体から炎を飛ばしたり、空を飛んだりするのもこれにあたる。すごい奴になると一人で地図を書き換えなければいけないほどの高威力を出せるんだが、それは世界に一人いるかいないかくらいだな。

 で、だ。身体強化魔法を使えば使うほど、体の中で回すことのみに特化していく。そして体の外へ出す、ってことができなくなるんだな。だから俺が炎を手のひらから出そうとすると、手が燃える。だから信吾もどっちにするかはよく考えて決めるんだぞ?」



「……え!?ぼくも使えるんですか?」

 驚く信吾に笑顔で肯定する。

「そらそうだろ。普通魔力の使い方や選択は13歳からだ。もう少し先になるかもしれんがどっちかを決めておくのはありだな」

 あれだろ、流石にその顔で10代なわけないだろ。

「ぼく14歳です」

 おっと藪蛇だった。

「そっ……かあ。じゃあ行けるな。でももう少し考えてからのほうがいいだろ、なんせ俺の世界じゃあ家の仕事次第で決める奴がほとんどだ。俺は家系に逆らって身体強化魔法にしたから死ぬほど苦労した口だし」

「苦労した、ということは、何か代わりになるものが?もしかして、さっき言ってた例外がー!?」

 何で例外で興奮するんだ信吾。

「そんなわけないだろ。俺が使ってんのはこれだ」

と、ポケットから出した札を見せる。

「こいつは魔法札。一回きりで限定的だが魔法現象を生み出せる素敵道具だ」

「おおー!……一回きり、ですか。このめちゃくちゃ書き込んである札一枚で」

 信吾が微妙な顔になるほど、札にはびっしりと文言が線対称になるように書き込まれている。

「そう。書き込むのはめちゃくちゃ面倒だし威力はしょっぱいのがほとんどだから全然普及しなかったんだよな。俺もこの存在を知ったのは家の中の古い本棚のがたつきを正すようにした本の中だったし。でもその分奇襲や意表を突くにはほんとよかったから、俺の主力にしてた」

 魔王戦の時はそりゃあ役に立った。甲冑の中びっしりと札貼って、回復に攻撃、防御に移動と全部を札でやったから。最終的に生身で特攻する羽目になったけど、終盤まで持って行けたのは札のおかげだ。

「これって、コピーしちゃったらダメなんですかね?」

「コピー……複製なぁ、できれば楽なんだが、印刷するにしてもインクを付けて判を押す時点で結構歪んでしまったり、魔法で複製するにしても複製魔法できる奴が少なくてなぁ、最終的に魔法の勇者にやってもらったけどあいつ大味な魔法はすげぇくせに繊細な魔法は精度甘くて結局使えないってことも多々あったからなぁ」

びっしりと鎧の裏に札を張れたのは魔法の勇者のおかげではあるけども、その三倍くらいの失敗作が出来上がったことは忘れてはいけない。ほんと有難うだしマジでごめんなアージュ。

「これでどうでしょう」

「えっ!?できてんじゃん!すげぇ!!」

 信吾の手にあるのは紛れもなく浮遊札。余白が相当多いが、たぶん魔力を通せば普通に使えるな。信吾もしかして魔法使えないって嘘ついてた?

「ぼくたちの世界では活版技術がすさまじい伸びを見せていましてね。これは印刷機といって結構な数普及している機械でして、書類をコピーしたりパソコン、えー、こっちの説明は後でしますね。つまりは今後大変な目に合わなくとも大丈夫ってことですね!」

 少ない語彙ですごい誇ってる信吾。でもこれがあれば凄い楽だったろうな、俺の旅。

「そ、それじゃあそこに並べている他にもいくつかコピーしてもらいたい札があってな、ちょっと待ってくれよ書くから」

 最低でも今の手持ちから5枚ずつの余裕が欲しい。あと何なら防御札も欲しい。全部がこの精度の複製が出来るというのなら是非ともお願いしたい。

「じゃあ、書いてる間にこのお札の能力説明をお願いしますよ」

 書くことに集中したいが、すごい精度の複製をここで手放すのも惜しい。一旦書く手を止めて、説明を始める。

「そうだな、じゃあ一枚だけ実例を兼ねよう。さっき複製してもらったこの札が浮遊札。三秒間対象を浮かすことができる。こんな感じでな」

 信吾に札を張り付け軽く魔力を通すと、信吾の体がふわりと宙に浮いた。

「わ!わ!すごい!浮いてる!これでぇっっ!」

 信吾は興奮しながら手をワキワキ動かして、地面に尻から落ちた。体重が軽い分俺よりは痛みも少なそうだから、大丈夫だろう。

「3秒経った瞬間落ちるから注意だな。ちなみに魔法だと数分から数時間は飛べるし落ちる時もゆっくり」

「先に行ってくださいよ!でも、これと推進力があれば瞬時に移動することで相手の意表も き放題じゃないですか!」

「確かに移動だけでいえばすごいんだがな、問題は止まるときどうやって止まるかって話になってくる。最初は防御札で無理やり止まってたけど、防御札は魔力を死ぬほど食うもんでな、最終的に緊急時以外は使わなくなった」

 移動開始から止まるまでで全魔力の5分の1を使うのは戦闘においてあまりにリスクが高すぎるんだよな。

「そんな感じで、こっちが衝撃札でこっちがいやし札。これが切札。その他にも色々あるんだが、以下割愛」

 今手元にないものを説明してもしょうがない。さっさと作ってさっさと複製してもらおう。

「慎吾、帰ったかい。おや、その人が洋平の言ってた馬鹿力の客人だね?」

 急に、ノックもせずに、信吾の部屋の中に老婆が入って来た。

「あ、おばあちゃんただいまー」

「ど、どうも、お邪魔しています」

 なるほど信吾のお婆さんだったか。姿勢を正して挨拶をすると、俺と、俺の持ってる札とを交互に見て

「アンタ、名前は」

と一言

「し、シモン・ヴァッシュです……」

「ふぅん、なるほどねぇ。気に入ったよアンタ。帰る家がないならウチで面倒見てやるよ。信吾と仲良くね」

 俺の名前を聞いたお婆さんはそういって、扉を閉めて階段を降りていった。

「凄いですねぇ!おばあちゃんに認められることなんて中々ないですよ!?」

「どれほど凄いことなのか全くわからないが、喜ぶべき、か?」

 どういうことなのか全くわかっていないが、とにかく凄いことをしたらしい。信吾が小躍りしてる。俺が石投げた時よりも相当喜んでる。そんなになことしたのか俺。






「陽平、あのシモンって子、ウチで面倒見るよ」

「母さん本当?不用心が過ぎないかなぁ」

「手近なリスクより長期的な利益さ。防犯カメラの映像も見たけど、あの箱を軽々持ち上げられるほどの凄い力があるような腕に見えなかった。その上であの子が作ってた変な札、何も関係がないわけじゃあないだろうねぇ」

「仕事はどうする?任せられる事もそんなに多くないと思うけど」

「近頃のバケモノ騒ぎと不思議な力、そのうち否が応でもあの子に仕事ができるさね。そうなるのが私の狙いでもあるがね」

「マイナスな方面でバズるのは嫌だなぁー」
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