3 / 27
異世界勇者、世界に立つ
勇者、世界を知る、あと早上家に挨拶する。
しおりを挟む
「さて、俺は色々教えたぜ?次は俺の番だ。そうだなぁ、まずはこの世界のことについて話してもらおうか」
あの後防御札やら雲札やらを、説明しながら書きあげて量産し、ポケットに押し込めた。ありがてぇありがてぇ。
「そうですねぇ、なんでしょう、こう、現代日本?いやでもその言い方じゃあ伝わらないですよね……社会の教科書見ます?」
信吾は四冊程度の本を手渡してきた。それぞれ社会、世界史、日本史と書いてあり、なるほど確かに世界のことはわかりそうだが、いや、まぁ、これでもいいんだけどさ。口頭よりはよっぽどいいんだけどさ、もっとこう、情緒とかさ。
「あ、分かりやすいな、この本。本当に分かりやすいわ。挿絵もやけにリアルだし、あー、なるほどな、うん、わかった。ありがとうな信吾」
「もう読み終わったんですか?今渡したのに?」
「伊達に年食ってないっつーの。こういうのはな、要点とそれに連なる文章を読み解きゃすぐなんだよ。とりあえず信吾が触っているそれがパソコンって言って、自動計算器みたいなもんだってのも理解した」
何万桁って数字の計算を一瞬で出せるんだろ?すげぇじゃん。俺もできるけど。
「……ふっふっふ、甘いですよシモンさん。このパソコン、何も演算機能だけじゃあないんです。ご覧下さいよ人類の英知を」
そういった信吾がパソコンを動かすと、いややばいな。画面にいきなり映像が写っていろんな情報が動きながら出てきやがる。
「こりゃあまた、ずいぶんとぶっ飛んだ技術だな……」
これだけ見れば、俺たちの世界よりはるかに進んだ文明を持っていることが理解できる。なんだこの世界。魔王を倒してから久しく枯れていた知識欲がムズムズしてきた。
「な、なぁ、この機器ってさ。他にどんなものを見ることが出来るんだ?」
「なんでも見ることが出来ますよ。文字通りね」
その言葉に、痺れる。家に一つの大図書館があるようなもんじゃねぇか!
「か、貸してくれ!一日、いや半日でいい!」
「嫌ですよそんなには。それに検索するくらいならこっちでもできます」
そういう信吾の手には、薄い板のようなものが握られていた。
「そ、それは?」
「スマートフォンです。さっき言った検索のほかに、遠くの人と連絡したり、ゲームができます」
そういいながら俺に投げて渡してくる信吾。やめろよ人類の英知だぞお前!
「え、えーと。どうするんだ?」
「ここをタップして、この画面が出たらここに知りたいことをこうやって」
うわー!触ると画面が連動して動く!そして文字も読めるのほんと感謝するわ!なんでか全くさっぱりわからないけど!
こうして俺は、色んなことを検索し、覚え、メモし、推察して仮説を出し、そこから更に検索を進め、そして思った。
「この国、異様に人間の管理が行き届いてないか?」
出生届に死亡届、保険証にマイナンバーにクレジットカードに学生証等等、色んな肩書きが必要なのは驚いた。
「その方が福祉の通りもいいですからね」
何でもないように信吾が言う。確かに、確かにその通りなんだが、俺みたいな不法侵入者にとってはすごく都合が悪い。仕事をするにも病院に行くにも、身分証の提示が必要。なんなら怪しいってだけで警備兵の、ああ警察、警察に不定期で確認される始末。この手の国は賄賂ってわけにもいかないだろうし、どうしたものか……
「何か困っているようですけど、どうしました?」
「いや、これからについて考えて暗くなってただけだ。心配してくれてありがとな」
心配させまいと笑顔を作る。いや、こういう気遣いも上手くなったもんだよ実際。最初の頃とかめちゃくちゃこういう嘘バレまくってたからね。
「そういえば、信吾はなにしてたんだ?俺がずっと色々見てる間、何かカチカチやってたみたいだが」
「趣味と実益を兼ねた作業です。見ますか?」
そういう信吾に促されてパソコンのモニターを見ると、部屋中に飾られた全身甲冑の戦士によく似たやつが、見たことのない怪物相手に大立ち回りをしている映像だった。
「信吾の世界にも、こういった魔物や狩人っているんだな。まぁハマるのも納得だ」
これだけ強くてこんだけ派手に動けるんなら、そりゃ好きになっちゃうよなぁ。俺には全く似合わないが。
「これ、全部僕の作った映像ですよ」
「え??」
驚く俺に、作業画面を見せてくれた。一か所をどうにか動かすと、なるほど戦っている男の腕の位置がわかって、なるほど細かい作業でどうにでも動かせるのか。すっかり騙された。
「最近はパソコンでこういうこともできちゃうんですよねぇ。まぁあんまり評判は良くないんですけど」
「こんなに現実に即した動きしているのに、評判が悪い?そいつらの目が悪いんじゃないのか?」
「ほんと、そういってくれるとすごくありがたいです。でも、そこじゃあないんですよね。批判の箇所」
そういった信吾がパソコンを操作すると、一つの動画が流れ出した。
「これがここ数か月、連続してこの世界を襲っている化け物。僕がシモンさんを異世界から来たんじゃないかって思った原因です」
信吾が見せてくれた動画に移っていたもの。それは
「……魔物じゃねぇか」
徒党蜥蜴に巨毒蜂、俺の世界にもいたやつだ。無差別に人を襲う凶悪な化け物の総称。一般人には到底太刀打ちできず、狩人が徒党を組んで退治するもの。こいつらを一組で討伐できるようになると、その組が名前付きになるくらいの栄誉だったりする。
それほどまでに危険なやつらだ。それがこっちの世界でも猛威を振るう場面が延々と流れてくる。
「やっぱり知っていましたか。日本では指定超害獣なんてお役所的な名前で呼ばれています」
……なるほど、だから俺の「が!ぼくとしてはそんなことはどうでもいい!」風向きが変わったな。
「こいつらのせいでぼくの愛する特撮が不謹慎の一言で自粛に追い込まれてしまった!これは由々しき事態なんですよ!ぼくの作った作品も不謹慎って言われてもう迷惑も迷惑なんですよ!見たやつらにぼく何もしてないっての!どんな批判を食らったとしてもぼくは折れない、折れないですからね!」
怖っ、信吾相当溜まってたんだな、鬱憤。すごいな創作魂。
「……まぁ、そんなわけであいつらを倒せる力が欲しいからシモンさんを招き入れたというのが半分、ぼくもかっこいいヒーローみたいに技を使ってみたいっていうのが半分、いや6割、7割?って感じです」
半分じゃあないな。技を使いたい比率。うん、でもまぁ倒せるまではいかないまでも、アイツらがいるとわかった今、自衛の力は持っていてほしい気持ちのほうが強くなった。
「よし、魔法を教えよう」
「本当ですか!?札じゃなくて!?」
「本当だ。札は使い勝手が悪すぎるからあんまりお勧めしない。そして信吾、お前は遠距離魔法にしとけ。とんでもない奴ら以外なら、遠距離魔法で完封できる」
実際、身体強化魔法だけって組よりも、遠距離魔法だけで構成された組のほうが圧倒的に多い。理由は単純に「近接範囲内でも魔物相手なら魔法で対抗できる」からだ。雷撃や火炎撃であれば手軽に相手を迎撃できるうえ、そうして距離を取ったところで大技、なんてのが魔法使いの定石手段だ。身体強化魔法が輝くのは人間や魔人、魔法耐性のある一部の魔物だけだ。遠距離魔法って、身体強化魔法のかかった人間に攻撃が通りずらいんだよな。
「う、うーん、結構身体強化魔法からの高速戦闘とか、すごくやってみたかったんですけどねぇ」
「空飛べるぞ、遠距離魔法は」
「遠距離魔法にします」
さっき信吾の作っていた映像や、周りにある全身甲冑の戦士の格好からして、飛んでるもんな。
案外空を飛ぶ事自体は難しくない、実際街中で飛行魔法を使う人間は結構多くいる。問題は高いとこを飛んでる時に空飛ぶ魔物に見つかったら大変な目に遭うって点と、人と組んでる時に空飛ぶと連携がとりにくくて大変って点だな。
「じゃあ早速「信吾ー!ごはーん!」あ、はーい!ご飯ですって、食べに行きましょうシモンさん!」
一瞬にして学びの顔から飯の顔になった信吾。すごいい子だよなぁ。俺もいっしょに食べていいものかと考えながら、一緒に階段を下った。
一階に降りると、さっき見た信吾のお父さんと、お婆さんと、あとはお母さんとお爺さんかな?総勢五人の早上一家に囲まれつつ、ご相伴に預かった。
「さっきも言った通り、この家で暫く面倒見ることになったシモンくんだよ。自分の家と思ってゆっくりしていきな」
先ほど会ったお婆さんに促され、全員の顔を見る。にへらっと笑っているお父さんと、いつものことかと思っていそうな顔のお母さんに、なんでお爺さんはそんなニコニコしてるの?いいことあった?
「さっきは自己紹介しなくて悪かったね。私は早上よしえ。旦那の茂に息子の洋平と、洋平の嫁の美子さん。もう知ってると思うけど、孫の信吾だ。よろしく頼むよ」
どうやらこの家の実権を握っているのは祖母であるよしえさんのようだ。全員シャンと背を伸ばして話を聞いてる。なんだか俺も、この人と話すとすごく背筋が伸びる気持ちになるな。さて、俺の自己紹介の手番か。
「ええと、ご紹介に預かりました、シモン・ヴァッシュと申します、ええと、よろしくお願いします」
なにぶん喋って不自然じゃない言葉を選ばないと一発で家を追い出されることもあり得るので、最終的にコミュニケーション能力に難がありそうな返答になってしまった。
「はいよろしく!私が信吾のママの美子です!よろしくね!」
元気よく差し出された手を握る。太陽みたいな人だなぁという印象だ。
「ちょっと前にあったね、僕は陽介。信吾のパパだよ。そこでやっている早上板金工業の社長もやってます。よろしくね」
へへへ、と笑いながらこちらに握手を求めてくるお父さん、この手の人間には何度もあってきているからわかる。これお婆さんもだけどなんか隠しているというか、裏あるよな。握手には応じる。
「おらほは茂だ。なにまぁた信吾の友達泊まってくんか。あいあい、よろしくー」
ずっとにこにこしているお爺さんの話口からして、結構家に泊まっていく外部の人間は結構多いみたいだ。などと家族について色々考えているとき、よしえさんが口を開いた。
「シモンくん、アンタ訳ありなんだろう?信吾が言ってたみたいだが、飛び込みでうちの工場に来るなんて気骨があるじゃあないか。そうさね、明日明後日はうちの工場も休みだ。信吾と一緒に街中で遊んでくるといい。それから仕事はゆっくり教えてあげるよ」
……怖いよこの人。何が目的なんだよ。俺そんなに良くされるようなことしたか?それともこれがこの家の平常運転なのか?
優しさってことにしよう。警戒は怠らず、まずはご飯を食べうまいわ。すごい美味い。この鳥の揚げ物うまいわ。ザクザクの衣と肉汁が滅茶苦茶合う。というか揚げ物なのに脂っこさがないの凄すぎないか?これだったら本当にいくらでも食える。何もつけずに食ってこんなにうまいの本当に反則だろ。
「唐揚げがそんなに気に行ったの?まだまだお代わりもあるんで、たくさん食べてね!」
美子さんに促されて、めちゃくちゃ食った。酒も飲んだ、葡萄酒もビールも凄い美味かった。酒精に耐性のある体でよしえさんになんかすごい俺の国のことについて聞かれたけどその都度はぐらかした。やっぱ腹の内探ってるよなぁこの人。さっき日本の歴史見ててよかった。
「いやぁ、ごちそうさまでした。美子さんの料理凄いおいしかったです!では、俺はこの辺で寝ますんで、ありがとうございました」
「今日は信吾の部屋に寝な。生憎他の部屋がまだ片付いていないからね。信吾は先に風呂に入っちゃいなさい」
よしえさんに促されて信吾の部屋に行くと、洋平さんが布団を敷いてくれていた。
「その服だと動きづらいだろ?僕の服を貸してあげるから、明日はそれで我慢してね。それと、これは少ないけど就職の前祝ってことで」
洋平さんから薄い紙の袋を手渡される。外には五萬円と書かれていて、結構な金額であることも、これを見ず知らずの人間にポンっと渡すことは絶対に間違っていることも理解できていた。
「ど、どうしてこんなによくしてくれるんですか?」
「うーん、なんて言ったらいいか……僕は嘘つくのが苦手だから言っちゃうけど、母さんは君の特別な力を狙っている。正確にいうと力を使う技術か。だから、そうだね。息子の僕がこんなこと言っちゃあれかもだけど、このお金を使って明日逃げてしまっても構わないよ。君の意思に反するとこだったら、僕は協力したくないからね」
逃げるにしては少ない金額でごめん。と謝る洋平さんを見て、信吾のお人好しはこの人から来たんだなぁ、なんてことを思った。そしてそんな人達のもとから去るのは忍びないとも
「此処まで良くしていただいたお礼もせずに逃げるなんてしませんよ。俺の力なんてたかが知れていますけど、お役に立てるのなら使ってください」
この世界に来て、最初に出会ったのがこの家族ってことも何かの縁だ。知恵の勇者の力、魔法のない世界でどこまで役に立つかわからんが、この家族の為に存分に振るってやろうじゃないか。
そんな決意を心に決めて、今日のところは寝ることにした。布団か、中々良い文化だ。
あの後防御札やら雲札やらを、説明しながら書きあげて量産し、ポケットに押し込めた。ありがてぇありがてぇ。
「そうですねぇ、なんでしょう、こう、現代日本?いやでもその言い方じゃあ伝わらないですよね……社会の教科書見ます?」
信吾は四冊程度の本を手渡してきた。それぞれ社会、世界史、日本史と書いてあり、なるほど確かに世界のことはわかりそうだが、いや、まぁ、これでもいいんだけどさ。口頭よりはよっぽどいいんだけどさ、もっとこう、情緒とかさ。
「あ、分かりやすいな、この本。本当に分かりやすいわ。挿絵もやけにリアルだし、あー、なるほどな、うん、わかった。ありがとうな信吾」
「もう読み終わったんですか?今渡したのに?」
「伊達に年食ってないっつーの。こういうのはな、要点とそれに連なる文章を読み解きゃすぐなんだよ。とりあえず信吾が触っているそれがパソコンって言って、自動計算器みたいなもんだってのも理解した」
何万桁って数字の計算を一瞬で出せるんだろ?すげぇじゃん。俺もできるけど。
「……ふっふっふ、甘いですよシモンさん。このパソコン、何も演算機能だけじゃあないんです。ご覧下さいよ人類の英知を」
そういった信吾がパソコンを動かすと、いややばいな。画面にいきなり映像が写っていろんな情報が動きながら出てきやがる。
「こりゃあまた、ずいぶんとぶっ飛んだ技術だな……」
これだけ見れば、俺たちの世界よりはるかに進んだ文明を持っていることが理解できる。なんだこの世界。魔王を倒してから久しく枯れていた知識欲がムズムズしてきた。
「な、なぁ、この機器ってさ。他にどんなものを見ることが出来るんだ?」
「なんでも見ることが出来ますよ。文字通りね」
その言葉に、痺れる。家に一つの大図書館があるようなもんじゃねぇか!
「か、貸してくれ!一日、いや半日でいい!」
「嫌ですよそんなには。それに検索するくらいならこっちでもできます」
そういう信吾の手には、薄い板のようなものが握られていた。
「そ、それは?」
「スマートフォンです。さっき言った検索のほかに、遠くの人と連絡したり、ゲームができます」
そういいながら俺に投げて渡してくる信吾。やめろよ人類の英知だぞお前!
「え、えーと。どうするんだ?」
「ここをタップして、この画面が出たらここに知りたいことをこうやって」
うわー!触ると画面が連動して動く!そして文字も読めるのほんと感謝するわ!なんでか全くさっぱりわからないけど!
こうして俺は、色んなことを検索し、覚え、メモし、推察して仮説を出し、そこから更に検索を進め、そして思った。
「この国、異様に人間の管理が行き届いてないか?」
出生届に死亡届、保険証にマイナンバーにクレジットカードに学生証等等、色んな肩書きが必要なのは驚いた。
「その方が福祉の通りもいいですからね」
何でもないように信吾が言う。確かに、確かにその通りなんだが、俺みたいな不法侵入者にとってはすごく都合が悪い。仕事をするにも病院に行くにも、身分証の提示が必要。なんなら怪しいってだけで警備兵の、ああ警察、警察に不定期で確認される始末。この手の国は賄賂ってわけにもいかないだろうし、どうしたものか……
「何か困っているようですけど、どうしました?」
「いや、これからについて考えて暗くなってただけだ。心配してくれてありがとな」
心配させまいと笑顔を作る。いや、こういう気遣いも上手くなったもんだよ実際。最初の頃とかめちゃくちゃこういう嘘バレまくってたからね。
「そういえば、信吾はなにしてたんだ?俺がずっと色々見てる間、何かカチカチやってたみたいだが」
「趣味と実益を兼ねた作業です。見ますか?」
そういう信吾に促されてパソコンのモニターを見ると、部屋中に飾られた全身甲冑の戦士によく似たやつが、見たことのない怪物相手に大立ち回りをしている映像だった。
「信吾の世界にも、こういった魔物や狩人っているんだな。まぁハマるのも納得だ」
これだけ強くてこんだけ派手に動けるんなら、そりゃ好きになっちゃうよなぁ。俺には全く似合わないが。
「これ、全部僕の作った映像ですよ」
「え??」
驚く俺に、作業画面を見せてくれた。一か所をどうにか動かすと、なるほど戦っている男の腕の位置がわかって、なるほど細かい作業でどうにでも動かせるのか。すっかり騙された。
「最近はパソコンでこういうこともできちゃうんですよねぇ。まぁあんまり評判は良くないんですけど」
「こんなに現実に即した動きしているのに、評判が悪い?そいつらの目が悪いんじゃないのか?」
「ほんと、そういってくれるとすごくありがたいです。でも、そこじゃあないんですよね。批判の箇所」
そういった信吾がパソコンを操作すると、一つの動画が流れ出した。
「これがここ数か月、連続してこの世界を襲っている化け物。僕がシモンさんを異世界から来たんじゃないかって思った原因です」
信吾が見せてくれた動画に移っていたもの。それは
「……魔物じゃねぇか」
徒党蜥蜴に巨毒蜂、俺の世界にもいたやつだ。無差別に人を襲う凶悪な化け物の総称。一般人には到底太刀打ちできず、狩人が徒党を組んで退治するもの。こいつらを一組で討伐できるようになると、その組が名前付きになるくらいの栄誉だったりする。
それほどまでに危険なやつらだ。それがこっちの世界でも猛威を振るう場面が延々と流れてくる。
「やっぱり知っていましたか。日本では指定超害獣なんてお役所的な名前で呼ばれています」
……なるほど、だから俺の「が!ぼくとしてはそんなことはどうでもいい!」風向きが変わったな。
「こいつらのせいでぼくの愛する特撮が不謹慎の一言で自粛に追い込まれてしまった!これは由々しき事態なんですよ!ぼくの作った作品も不謹慎って言われてもう迷惑も迷惑なんですよ!見たやつらにぼく何もしてないっての!どんな批判を食らったとしてもぼくは折れない、折れないですからね!」
怖っ、信吾相当溜まってたんだな、鬱憤。すごいな創作魂。
「……まぁ、そんなわけであいつらを倒せる力が欲しいからシモンさんを招き入れたというのが半分、ぼくもかっこいいヒーローみたいに技を使ってみたいっていうのが半分、いや6割、7割?って感じです」
半分じゃあないな。技を使いたい比率。うん、でもまぁ倒せるまではいかないまでも、アイツらがいるとわかった今、自衛の力は持っていてほしい気持ちのほうが強くなった。
「よし、魔法を教えよう」
「本当ですか!?札じゃなくて!?」
「本当だ。札は使い勝手が悪すぎるからあんまりお勧めしない。そして信吾、お前は遠距離魔法にしとけ。とんでもない奴ら以外なら、遠距離魔法で完封できる」
実際、身体強化魔法だけって組よりも、遠距離魔法だけで構成された組のほうが圧倒的に多い。理由は単純に「近接範囲内でも魔物相手なら魔法で対抗できる」からだ。雷撃や火炎撃であれば手軽に相手を迎撃できるうえ、そうして距離を取ったところで大技、なんてのが魔法使いの定石手段だ。身体強化魔法が輝くのは人間や魔人、魔法耐性のある一部の魔物だけだ。遠距離魔法って、身体強化魔法のかかった人間に攻撃が通りずらいんだよな。
「う、うーん、結構身体強化魔法からの高速戦闘とか、すごくやってみたかったんですけどねぇ」
「空飛べるぞ、遠距離魔法は」
「遠距離魔法にします」
さっき信吾の作っていた映像や、周りにある全身甲冑の戦士の格好からして、飛んでるもんな。
案外空を飛ぶ事自体は難しくない、実際街中で飛行魔法を使う人間は結構多くいる。問題は高いとこを飛んでる時に空飛ぶ魔物に見つかったら大変な目に遭うって点と、人と組んでる時に空飛ぶと連携がとりにくくて大変って点だな。
「じゃあ早速「信吾ー!ごはーん!」あ、はーい!ご飯ですって、食べに行きましょうシモンさん!」
一瞬にして学びの顔から飯の顔になった信吾。すごいい子だよなぁ。俺もいっしょに食べていいものかと考えながら、一緒に階段を下った。
一階に降りると、さっき見た信吾のお父さんと、お婆さんと、あとはお母さんとお爺さんかな?総勢五人の早上一家に囲まれつつ、ご相伴に預かった。
「さっきも言った通り、この家で暫く面倒見ることになったシモンくんだよ。自分の家と思ってゆっくりしていきな」
先ほど会ったお婆さんに促され、全員の顔を見る。にへらっと笑っているお父さんと、いつものことかと思っていそうな顔のお母さんに、なんでお爺さんはそんなニコニコしてるの?いいことあった?
「さっきは自己紹介しなくて悪かったね。私は早上よしえ。旦那の茂に息子の洋平と、洋平の嫁の美子さん。もう知ってると思うけど、孫の信吾だ。よろしく頼むよ」
どうやらこの家の実権を握っているのは祖母であるよしえさんのようだ。全員シャンと背を伸ばして話を聞いてる。なんだか俺も、この人と話すとすごく背筋が伸びる気持ちになるな。さて、俺の自己紹介の手番か。
「ええと、ご紹介に預かりました、シモン・ヴァッシュと申します、ええと、よろしくお願いします」
なにぶん喋って不自然じゃない言葉を選ばないと一発で家を追い出されることもあり得るので、最終的にコミュニケーション能力に難がありそうな返答になってしまった。
「はいよろしく!私が信吾のママの美子です!よろしくね!」
元気よく差し出された手を握る。太陽みたいな人だなぁという印象だ。
「ちょっと前にあったね、僕は陽介。信吾のパパだよ。そこでやっている早上板金工業の社長もやってます。よろしくね」
へへへ、と笑いながらこちらに握手を求めてくるお父さん、この手の人間には何度もあってきているからわかる。これお婆さんもだけどなんか隠しているというか、裏あるよな。握手には応じる。
「おらほは茂だ。なにまぁた信吾の友達泊まってくんか。あいあい、よろしくー」
ずっとにこにこしているお爺さんの話口からして、結構家に泊まっていく外部の人間は結構多いみたいだ。などと家族について色々考えているとき、よしえさんが口を開いた。
「シモンくん、アンタ訳ありなんだろう?信吾が言ってたみたいだが、飛び込みでうちの工場に来るなんて気骨があるじゃあないか。そうさね、明日明後日はうちの工場も休みだ。信吾と一緒に街中で遊んでくるといい。それから仕事はゆっくり教えてあげるよ」
……怖いよこの人。何が目的なんだよ。俺そんなに良くされるようなことしたか?それともこれがこの家の平常運転なのか?
優しさってことにしよう。警戒は怠らず、まずはご飯を食べうまいわ。すごい美味い。この鳥の揚げ物うまいわ。ザクザクの衣と肉汁が滅茶苦茶合う。というか揚げ物なのに脂っこさがないの凄すぎないか?これだったら本当にいくらでも食える。何もつけずに食ってこんなにうまいの本当に反則だろ。
「唐揚げがそんなに気に行ったの?まだまだお代わりもあるんで、たくさん食べてね!」
美子さんに促されて、めちゃくちゃ食った。酒も飲んだ、葡萄酒もビールも凄い美味かった。酒精に耐性のある体でよしえさんになんかすごい俺の国のことについて聞かれたけどその都度はぐらかした。やっぱ腹の内探ってるよなぁこの人。さっき日本の歴史見ててよかった。
「いやぁ、ごちそうさまでした。美子さんの料理凄いおいしかったです!では、俺はこの辺で寝ますんで、ありがとうございました」
「今日は信吾の部屋に寝な。生憎他の部屋がまだ片付いていないからね。信吾は先に風呂に入っちゃいなさい」
よしえさんに促されて信吾の部屋に行くと、洋平さんが布団を敷いてくれていた。
「その服だと動きづらいだろ?僕の服を貸してあげるから、明日はそれで我慢してね。それと、これは少ないけど就職の前祝ってことで」
洋平さんから薄い紙の袋を手渡される。外には五萬円と書かれていて、結構な金額であることも、これを見ず知らずの人間にポンっと渡すことは絶対に間違っていることも理解できていた。
「ど、どうしてこんなによくしてくれるんですか?」
「うーん、なんて言ったらいいか……僕は嘘つくのが苦手だから言っちゃうけど、母さんは君の特別な力を狙っている。正確にいうと力を使う技術か。だから、そうだね。息子の僕がこんなこと言っちゃあれかもだけど、このお金を使って明日逃げてしまっても構わないよ。君の意思に反するとこだったら、僕は協力したくないからね」
逃げるにしては少ない金額でごめん。と謝る洋平さんを見て、信吾のお人好しはこの人から来たんだなぁ、なんてことを思った。そしてそんな人達のもとから去るのは忍びないとも
「此処まで良くしていただいたお礼もせずに逃げるなんてしませんよ。俺の力なんてたかが知れていますけど、お役に立てるのなら使ってください」
この世界に来て、最初に出会ったのがこの家族ってことも何かの縁だ。知恵の勇者の力、魔法のない世界でどこまで役に立つかわからんが、この家族の為に存分に振るってやろうじゃないか。
そんな決意を心に決めて、今日のところは寝ることにした。布団か、中々良い文化だ。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる