異世界勇者のアフターライフ

あきょう

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異世界勇者、世界に立つ

勇者、世界を知る、あと早上家に挨拶する。

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「さて、俺は色々教えたぜ?次は俺の番だ。そうだなぁ、まずはこの世界のことについて話してもらおうか」

 あの後防御札やら雲札やらを、説明しながら書きあげて量産し、ポケットに押し込めた。ありがてぇありがてぇ。

「そうですねぇ、なんでしょう、こう、現代日本?いやでもその言い方じゃあ伝わらないですよね……社会の教科書見ます?」

 信吾は四冊程度の本を手渡してきた。それぞれ社会、世界史、日本史と書いてあり、なるほど確かに世界のことはわかりそうだが、いや、まぁ、これでもいいんだけどさ。口頭よりはよっぽどいいんだけどさ、もっとこう、情緒とかさ。

「あ、分かりやすいな、この本。本当に分かりやすいわ。挿絵もやけにリアルだし、あー、なるほどな、うん、わかった。ありがとうな信吾」

「もう読み終わったんですか?今渡したのに?」

「伊達に年食ってないっつーの。こういうのはな、要点とそれに連なる文章を読み解きゃすぐなんだよ。とりあえず信吾が触っているそれがパソコンって言って、自動計算器みたいなもんだってのも理解した」

 何万桁って数字の計算を一瞬で出せるんだろ?すげぇじゃん。俺もできるけど。

「……ふっふっふ、甘いですよシモンさん。このパソコン、何も演算機能だけじゃあないんです。ご覧下さいよ人類の英知を」

 そういった信吾がパソコンを動かすと、いややばいな。画面にいきなり映像が写っていろんな情報が動きながら出てきやがる。

「こりゃあまた、ずいぶんとぶっ飛んだ技術だな……」

 これだけ見れば、俺たちの世界よりはるかに進んだ文明を持っていることが理解できる。なんだこの世界。魔王を倒してから久しく枯れていた知識欲がムズムズしてきた。

「な、なぁ、この機器ってさ。他にどんなものを見ることが出来るんだ?」

見ることが出来ますよ。文字通りね」

 その言葉に、痺れる。家に一つの大図書館があるようなもんじゃねぇか!

「か、貸してくれ!一日、いや半日でいい!」

「嫌ですよそんなには。それに検索するくらいならこっちでもできます」

 そういう信吾の手には、薄い板のようなものが握られていた。

「そ、それは?」

「スマートフォンです。さっき言った検索のほかに、遠くの人と連絡したり、ゲームができます」

 そういいながら俺に投げて渡してくる信吾。やめろよ人類の英知だぞお前!

「え、えーと。どうするんだ?」

「ここをタップして、この画面が出たらここに知りたいことをこうやって」

 うわー!触ると画面が連動して動く!そして文字も読めるのほんと感謝するわ!なんでか全くさっぱりわからないけど!


 こうして俺は、色んなことを検索し、覚え、メモし、推察して仮説を出し、そこから更に検索を進め、そして思った。

「この国、異様に人間の管理が行き届いてないか?」

 出生届に死亡届、保険証にマイナンバーにクレジットカードに学生証等等、色んな肩書きが必要なのは驚いた。

「その方が福祉の通りもいいですからね」

 何でもないように信吾が言う。確かに、確かにその通りなんだが、俺みたいな不法侵入者にとってはすごく都合が悪い。仕事をするにも病院に行くにも、身分証の提示が必要。なんなら怪しいってだけで警備兵の、ああ警察、警察に不定期で確認される始末。この手の国は賄賂ってわけにもいかないだろうし、どうしたものか……

「何か困っているようですけど、どうしました?」

「いや、これからについて考えて暗くなってただけだ。心配してくれてありがとな」

 心配させまいと笑顔を作る。いや、こういう気遣いも上手くなったもんだよ実際。最初の頃とかめちゃくちゃこういう嘘バレまくってたからね。

「そういえば、信吾はなにしてたんだ?俺がずっと色々見てる間、何かカチカチやってたみたいだが」

「趣味と実益を兼ねた作業です。見ますか?」

 そういう信吾に促されてパソコンのモニターを見ると、部屋中に飾られた全身甲冑の戦士によく似たやつが、見たことのない怪物相手に大立ち回りをしている映像だった。

「信吾の世界にも、こういった魔物や狩人っているんだな。まぁハマるのも納得だ」

 これだけ強くてこんだけ派手に動けるんなら、そりゃ好きになっちゃうよなぁ。俺には全く似合わないが。

「これ、全部僕の作った映像ですよ」

「え??」

 驚く俺に、作業画面を見せてくれた。一か所をどうにか動かすと、なるほど戦っている男の腕の位置がわかって、なるほど細かい作業でどうにでも動かせるのか。すっかり騙された。

「最近はパソコンでこういうこともできちゃうんですよねぇ。まぁあんまり評判は良くないんですけど」

「こんなに現実に即した動きしているのに、評判が悪い?そいつらの目が悪いんじゃないのか?」

「ほんと、そういってくれるとすごくありがたいです。でも、そこじゃあないんですよね。批判の箇所」

 そういった信吾がパソコンを操作すると、一つの動画が流れ出した。

「これがここ数か月、連続してこの世界を襲っている化け物。僕がシモンさんを異世界から来たんじゃないかって思った原因です」

 信吾が見せてくれた動画に移っていたもの。それは

「……魔物じゃねぇか」

 徒党蜥蜴に巨毒蜂、俺の世界にもいたやつだ。無差別に人を襲う凶悪な化け物の総称。一般人には到底太刀打ちできず、狩人が徒党を組んで退治するもの。こいつらを一組で討伐できるようになると、その組が名前付きになるくらいの栄誉だったりする。

 それほどまでに危険なやつらだ。それがこっちの世界でも猛威を振るう場面が延々と流れてくる。

「やっぱり知っていましたか。日本では指定超害獣していちょうがいじゅうなんてお役所的な名前で呼ばれています」

 ……なるほど、だから俺の「が!ぼくとしてはそんなことはどうでもいい!」風向きが変わったな。

「こいつらのせいでぼくの愛する特撮が不謹慎の一言で自粛に追い込まれてしまった!これは由々しき事態なんですよ!ぼくの作った作品も不謹慎って言われてもう迷惑も迷惑なんですよ!見たやつらにぼく何もしてないっての!どんな批判を食らったとしてもぼくは折れない、折れないですからね!」

 怖っ、信吾相当溜まってたんだな、鬱憤うっぷん。すごいな創作魂。

「……まぁ、そんなわけであいつらを倒せる力が欲しいからシモンさんを招き入れたというのが半分、ぼくもかっこいいヒーローみたいに技を使ってみたいっていうのが半分、いや6割、7割?って感じです」

 半分じゃあないな。技を使いたい比率。うん、でもまぁ倒せるまではいかないまでも、アイツらがいるとわかった今、自衛の力は持っていてほしい気持ちのほうが強くなった。

「よし、魔法を教えよう」

「本当ですか!?札じゃなくて!?」

「本当だ。札は使い勝手が悪すぎるからあんまりお勧めしない。そして信吾、お前は遠距離魔法にしとけ。とんでもない奴ら以外なら、遠距離魔法で完封できる」

 実際、身体強化魔法だけって組よりも、遠距離魔法だけで構成された組のほうが圧倒的に多い。理由は単純に「近接範囲内でも魔物相手なら魔法で対抗できる」からだ。雷撃や火炎撃であれば手軽に相手を迎撃できるうえ、そうして距離を取ったところで大技、なんてのが魔法使いの定石手段だ。身体強化魔法が輝くのは人間や魔人、魔法耐性のある一部の魔物だけだ。遠距離魔法って、身体強化魔法のかかった人間に攻撃が通りずらいんだよな。

「う、うーん、結構身体強化魔法からの高速戦闘とか、すごくやってみたかったんですけどねぇ」

「空飛べるぞ、遠距離魔法は」

「遠距離魔法にします」

 さっき信吾の作っていた映像や、周りにある全身甲冑の戦士の格好からして、飛んでるもんな。

 案外空を飛ぶ事自体は難しくない、実際街中で飛行魔法を使う人間は結構多くいる。問題は高いとこを飛んでる時に空飛ぶ魔物に見つかったら大変な目に遭うって点と、人と組んでる時に空飛ぶと連携がとりにくくて大変って点だな。

「じゃあ早速「信吾ー!ごはーん!」あ、はーい!ご飯ですって、食べに行きましょうシモンさん!」

 一瞬にして学びの顔から飯の顔になった信吾。すごいい子だよなぁ。俺もいっしょに食べていいものかと考えながら、一緒に階段を下った。










 一階に降りると、さっき見た信吾のお父さんと、お婆さんと、あとはお母さんとお爺さんかな?総勢五人の早上一家に囲まれつつ、ご相伴に預かった。

「さっきも言った通り、この家で暫く面倒見ることになったシモンくんだよ。自分の家と思ってゆっくりしていきな」

 先ほど会ったお婆さんに促され、全員の顔を見る。にへらっと笑っているお父さんと、いつものことかと思っていそうな顔のお母さんに、なんでお爺さんはそんなニコニコしてるの?いいことあった?

「さっきは自己紹介しなくて悪かったね。私は早上よしえ。旦那のしげるに息子の洋平と、洋平の嫁の美子みこさん。もう知ってると思うけど、孫の信吾だ。よろしく頼むよ」

 どうやらこの家の実権を握っているのは祖母であるよしえさんのようだ。全員シャンと背を伸ばして話を聞いてる。なんだか俺も、この人と話すとすごく背筋が伸びる気持ちになるな。さて、俺の自己紹介の手番か。

「ええと、ご紹介に預かりました、シモン・ヴァッシュと申します、ええと、よろしくお願いします」

 なにぶん喋って不自然じゃない言葉を選ばないと一発で家を追い出されることもあり得るので、最終的にコミュニケーション能力に難がありそうな返答になってしまった。

「はいよろしく!私が信吾のママの美子です!よろしくね!」

 元気よく差し出された手を握る。太陽みたいな人だなぁという印象だ。

「ちょっと前にあったね、僕は陽介。信吾のパパだよ。そこでやっている早上板金工業の社長もやってます。よろしくね」

 へへへ、と笑いながらこちらに握手を求めてくるお父さん、この手の人間には何度もあってきているからわかる。これお婆さんもだけどなんか隠しているというか、裏あるよな。握手には応じる。

「おらほは茂だ。なにまぁた信吾の友達泊まってくんか。あいあい、よろしくー」

 ずっとにこにこしているお爺さんの話口からして、結構家に泊まっていく外部の人間は結構多いみたいだ。などと家族について色々考えているとき、よしえさんが口を開いた。

「シモンくん、アンタ訳ありなんだろう?信吾が言ってたみたいだが、飛び込みでうちの工場に来るなんて気骨があるじゃあないか。そうさね、明日明後日あすあさってはうちの工場も休みだ。信吾と一緒に街中で遊んでくるといい。それから仕事はゆっくり教えてあげるよ」

 ……怖いよこの人。何が目的なんだよ。俺そんなに良くされるようなことしたか?それともこれがこの家の平常運転なのか?

 優しさってことにしよう。警戒は怠らず、まずはご飯を食べうまいわ。すごい美味い。この鳥の揚げ物うまいわ。ザクザクの衣と肉汁が滅茶苦茶合う。というか揚げ物なのに脂っこさがないの凄すぎないか?これだったら本当にいくらでも食える。何もつけずに食ってこんなにうまいの本当に反則だろ。

「唐揚げがそんなに気に行ったの?まだまだお代わりもあるんで、たくさん食べてね!」

 美子さんに促されて、めちゃくちゃ食った。酒も飲んだ、葡萄酒もビールも凄い美味かった。酒精アルコールに耐性のある体でよしえさんになんかすごい俺の国のことについて聞かれたけどその都度はぐらかした。やっぱ腹の内探ってるよなぁこの人。さっき日本の歴史見ててよかった。

「いやぁ、ごちそうさまでした。美子さんの料理凄いおいしかったです!では、俺はこの辺で寝ますんで、ありがとうございました」

「今日は信吾の部屋に寝な。生憎他の部屋がまだ片付いていないからね。信吾は先に風呂に入っちゃいなさい」

 よしえさんに促されて信吾の部屋に行くと、洋平さんが布団を敷いてくれていた。

「その服だと動きづらいだろ?僕の服を貸してあげるから、明日はそれで我慢してね。それと、これは少ないけど就職の前祝ってことで」

 洋平さんから薄い紙の袋を手渡される。外には五萬円ごまんえんと書かれていて、結構な金額であることも、これを見ず知らずの人間にポンっと渡すことは絶対に間違っていることも理解できていた。

「ど、どうしてこんなによくしてくれるんですか?」

「うーん、なんて言ったらいいか……僕は嘘つくのが苦手だから言っちゃうけど、母さんは君の特別な力を狙っている。正確にいうと力を使う技術か。だから、そうだね。息子の僕がこんなこと言っちゃあれかもだけど、このお金を使って明日逃げてしまっても構わないよ。君の意思に反するとこだったら、僕は協力したくないからね」

 逃げるにしては少ない金額でごめん。と謝る洋平さんを見て、信吾のお人好しはこの人から来たんだなぁ、なんてことを思った。そしてそんな人達のもとから去るのは忍びないとも

「此処まで良くしていただいたお礼もせずに逃げるなんてしませんよ。俺の力なんてたかが知れていますけど、お役に立てるのなら使ってください」

 この世界に来て、最初に出会ったのがこの家族ってことも何かの縁だ。知恵の勇者の力、魔法のない世界でどこまで役に立つかわからんが、この家族の為に存分に振るってやろうじゃないか。

そんな決意を心に決めて、今日のところは寝ることにした。布団か、中々良い文化だ。
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