異世界勇者のアフターライフ

あきょう

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異世界勇者、世界を守る

勇者、察知する、あと準備する。

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 その日は平日で、俺もキタさんも仕事、信吾は勉学にいそしんでいた。鉄を叩き、グラインダーで削り、形を整える洋平さんの手伝い。職人の目になっている洋平さんを見ながら取り付け箇所を抑えたり必要な工具を渡す。

 今度板金用の札でも作ってみようか。まず高温を一点に集中する方法から探れば、などと思っていると、一つの異変に気が付いた。気が付いてしまった。

「……魔力紋?」

 通常、草木が魔力を持つことは少ない。例外こそあるが、おおよそ全ての植物は魔力をため込む機関がないからだ。

 そんな植物に、大量の魔力が通ると葉の部分に独特な模様が浮き出てくる。これを魔力紋といい、実験の跡や戦場でよくみられるものだ。最初は信吾の実験か何かかと思ったが、よくよく見ると近くの側溝や道路のヒビにある草木まで全て魔力紋がある。下手すりゃここだけじゃなく、この通り、いや町全体の可能性も……

 検証する必要がある。そして検証した結果が俺の予想通りだとすると、下手すりゃ町の、いや国の危機に繋がる可能性もある。早急に手を打たねば。




「やっぱりか……」

「どうしたのシモン君、何か調べ物?」

 仕事の休憩時間を使ってSNSを見つつ、『変な模様 葉』で検索してみた。結構地域と関連づけて魔力紋らしきものが見受けられる。そして俺の予想通り、広範囲で魔力紋が見られたが

 範囲がデカすぎる。仙台どころじゃねぇ、東北三県分に渡って確認されてやがる。国どころじゃねぇ、世界の危機だ。

 幸いにも魔力紋が現れて日が浅い。準備をするだけの時間はある。

「すみません洋平さん、これから指定する札を百枚ずつ、いや刷れるだけ刷ってほしいんです」

「……なにか、大変なことが起こりそうなんだね。分かった」

 何も聞かずに二つ返事で了承する洋平さん。本当にいい人。あとは





「……というわけなので、しばらく仕事の方に顔を出すことが出来なくなりそうです」

 この家の長であるよしえさんに、今回の件についての詳細と、報告をした。

「なるほど、確かにそいつは世界の危機だ。アタシもなにか手を貸せればいいんだがね、コネの大半は生憎別件で手いっぱいだ。シモンさん、アンタ一人で勝算があるのかい?」

「限りなく薄い勝ち筋ですが、相打ちくらいには持ち込めるでしょう」

 本当のところ、俺一人だけで勝てる相手ではない。なんせ元の世界では一国の戦士が総出でかかって何とか仕留める化け物だ。今回の規模なら勇者一行も加わって何とかって感じだ。ハナから犠牲者無しなんて考えることもない、厄災といって差し支えないバケモンだ。

「……ま、やるだけやってきな。アンタの戻る場所だけは取っとくよ」

「その言葉が、今はありがたいです」

 帰る場所があることは、とても安心できるからな。






「さて、会うのは二度目だな、お嬢さん」

「え?へっ!?待ってくださいあなたあの時の黒ローブですか!?ちょっと仮面取ってみてくださいよ」

 蛇子に会おうと駅の周辺を見ていたら、丁度俺が助けた遠山がいたのを見つけた。蛇子に言うのが一番手っ取り早いとは思うが、如何せん時間が惜しい。いつまでも敵は待ってくれないだろうからな。

「仮面を取るのは却下だ。それよりもアンタらに言っておきたいことがある。俺の世界でも国を滅ぼすほどの超強力な魔物の兆候が見られた。俺はこいつが目覚める前に打ち取る予定ではあるが、もし俺がやられたら終わりだからな。アンタらにはバックアップに入ってもらいたい」

「それなら、国に任せてくださいよ。その化け物なら、私たちが何とでもしますとも」

 自信があるなぁ、頼もしい限りだ。

「いや、アイツに限ってはだめだ。アンタらお得意の超長距離攻撃だと簡単に対処される」

 だからこそ、長距離、近距離両方の攻撃で気をそらしつつ、本命を叩き込まなければいけない。

「すまんが時間がない、後は頼んだぜ」

「あっ、ちょっと!!」






 さて、話すべき人には話した。武装の用意もした。新しいハンマーも手に入れた。後はやってやるだけだ。

 信吾とキタさんには、言わないでおくことにした。絶対なんやかんやあってついていくって言うに決まっている。

 次は仕込みだ。どこに何が出てきているかくらい、経験則でわかる。奴の生態は自身の魔力を縄張りにする場所へ張り巡らし、餌の数を確認する。その後鳥籠のように触手を張り、じっくりと養分とする。

 この段階で知れてよかった。向こうの世界じゃ情報の収集をしているだけで手遅れになることも大いにあるからな。情報社会万歳。

 円状になったこの縄張りの中心点に、必ず奴はいる。この山の、山頂か。隠れる場所がないだけまだましといったところだろうが、なにぶん雪降りしきる中で行軍するのはあまりにも阿呆すぎる。きっちり着込める時間があってよかった。

 全く持って、なんで俺ばっかりこんな目に。いや向こうでも変わらなかった気がするがよ。

 などと自分の運命について考えていると、不意に雪がやんだ。立ち入り禁止になっていたからか人気ひとけは全くなかったが、それゆえにどうしても目立つ青々とした数百メートル級の大木。やっぱりこいつか呪面大木じゅめんたいぼく。その隠匿性、防御力の高さ、攻撃の多彩さに知性の高さ、どれをとっても危険性は最難度。




 どこまで通用するか。やってみるしかないか。
 
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