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異世界勇者、世界を守る
勇者、善戦する、あと油断する
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呪面大木の性質上、俺が単体で仕留められるのは第一段階と第二段階だ。完全な第三段階になった時点で生きて勝つことが出来なくなり、第四段階に入ると完全に負けて多くの犠牲者が出る。
第一段階は苗木のような見た目をしていて、魔力を用いて餌となる人間や動物の把握をする。そこから休眠期間に入り、急成長を遂げる。これが二段階目、ここから目を覚まし、辺りの動物を根こそぎ喰い始める第三段階、喰ったものの魔力をもとに一気に縄張りの人間を食い始める第四段階と続く。
今目の前にいるのは状態から見て第二段階目といったところか。休眠段階真っ最中、動かないなら都合がいい。
この状態の呪面大木には遠距離からの砲撃、魔法攻撃の一切が効かない。魔力の膜が呪面大木を守っており、段階的に威力を落とされるからだ。だからこそ極至近距離の雷撃札が有用なんだな。二連で貰っていけ。
まともに攻撃を食らった呪面大木は、奇声を上げながら目を覚ます。二連も雷撃札を食らったんだから、穴の一つや二つ開いていてくれてもいいんだが、貫通しなかったか。どんな耐久力してんだ。
さて、今後の戦闘も考えると、魔力消費の激しい雷撃札はもう使えない。呪面大木はしっかりと俺を見据え殺気を振りまいている。もう逃げられないな。頑張ろう。
呪面大木の攻撃手段は枝や根を尖らせ急速に成長させることで槍のように使うものと、魔法攻撃だ。どれもこれも一撃必殺級のものばかり、絶対に当たることは許されない。
通常魔力感知の索敵がなければ躱すことの難しい根の攻撃は、雪のおかげで前兆が容易に把握できる。体温の低下による運動能力減少も、身体強化魔法に掛かればどうってことはない。
あとは奴の使う魔法攻撃に神経をとがらせる。人の使う初級魔法と同じ構築でも、魔力量が数百倍なら威力も数百倍に跳ね上がる。
同じ最難度でも歯車蜥蜴のような「本体よりも、本体の作り出す現状による被害が著しい」ものではなく、呪面大木のそれは「存在そのものの脅威が異様に高い」ことに起因している。豊富な魔力量、魔法運用、本体そのものの攻撃力の高さ、魔法耐性、全てにおいて国家を揺るがしかねないほどの力を有している。
「っはぁ!キツイ!」
何度かの攻撃の後、後ろに下がりながら悪態をつく。はっきり言って、この呪面大木は異常だ。今まで戦ってきた奴の比ではない。見た目は第二段階のくせに、もう既に第三段階から第四段階相当の攻撃密度、俺一人が受けきれるほどの攻撃密度をとっくに超えている。
戦っている場所の相性がここまで良くなければ序盤も序盤で死んでいただろう。泣き言を思考の隅へ追いやり、呪面大木の魔法をかいくぐり、至近距離に進み、衝撃札で雷撃札の作った穴を押し広げる。新作の火炎札は今のままでは使えない。生木は燃えにくいからな、ある程度細かくしなければ。
あまり至近距離で戦い続けると超至近から一斉攻撃を食らうからな、適宜離れて攻撃を誘発させる。
よし、今のところはこっちが優位だ、順調に側面が抉れてきている。早いとここのデカブツを切り倒して特大の焚火にしてやらないとな。
呪面大木の魔法を交わしながら前に進む。全くなんでったって木が炎の魔法使ってんだ。
「っと、おぉぉぉ!!?」
クソっ!炎のせいで雪崩がっ
だいぶ流されたが、まだ移動手段は失っていない。浮遊札と同時に衝撃札を展開、時間差で三枚。
呪面大木の魔力の壁による減速と加速を繰り返しながら、呪面大木の攻撃を紙一重ですり抜けていく。これで、切り倒す!
速度を載せて、発動させた切札をハンマーごと振り抜いた。ギギギ、と音を立てて倒れる呪面大木。まだ油断はできない、こいつの本体は根ではなく葉の部分、断面目掛けて火炎札を発動させ、跡形もなく焼き付くす!雷撃札以上の燃費の悪さだがその分威力は凶悪で、これほどまでに成長した呪面大木ですら、跡形もなく消し飛ばすことに成功した。
よし、よし!やったぞ俺!なんだやれるじゃないか!案外孤高の勇者としてや、れ……?
背中から腹にかけて衝撃、腹を見ると、槍のような触腕が貫いていて、ああ、クソ、油断した。耐久力の時点で不審に思うべきだった、魔力紋の範囲に対して見た目がいつも見ているものと同じであった時点で気が付くべきだった。
「あれで、枝の一本だっていうのかよ……」
地面の下からせり出してくる超巨大な呪面大木、頭の一部分がかけてはいるものの、本体は健在だった。本当に誤算だ。もう既に俺の手に負えるモンじゃなかった、こんな大きさの、クソっ、いてぇ、癒札、ダメだ魔力が持たん。せめて少しでも、俺が消耗させ
気が付いたら、俺の体は宙に舞っていた。前兆もクソもない、地面全体が吹き飛ぶかのように触腕が俺を襲い、まるで巨大なハンマーで打ち上げられたような衝撃が突き抜けて行った。とっさの身体強化魔法で身を守るが、焼け石に水か。骨が何本折れたか分からんが、生きているだけで奇跡だな。
ややあって、地面に落ちる。雪の上であったのが幸いだった。これ以上体を痛めることはない。
あー、死にたくない。マジで死にたくない。今から逃げれば何とか生き残れはするだろう、だけど、ここで俺が立ち上がらなくてどうする。信吾、キタさん、早上家のみんな、あと蛇子とか、遠山とか、それだけじゃあない、数百万の、下手したら数千万、数億の人間を勝手に背負って俺は来てんだ。勝手に始めたとしても、勝手に投げだすのは絶対にダメだ。
感覚のなくなった右腕に力を籠める。痛みもないのに血の噴き出るこの感じ、久々の感覚だな、最近死にかけることがなくて忘れてたぜ。
「っだぁぁぁぁぁ!!」
気合一発、立ち上がる。目もかすむ、足もふらつく、気が遠くなる、だからどうした。俺は知恵の勇者、考えろ、考えろ、アイツを倒す最善の
「だーかーらー、頼れって言ってんだよ馬鹿シモン!」
「そうですよ!全くなんで全部自分でしょい込もうとしているんですかね!」
後ろから、声が聞こえた。一番聞きたい、一番聞きたくない声
第一段階は苗木のような見た目をしていて、魔力を用いて餌となる人間や動物の把握をする。そこから休眠期間に入り、急成長を遂げる。これが二段階目、ここから目を覚まし、辺りの動物を根こそぎ喰い始める第三段階、喰ったものの魔力をもとに一気に縄張りの人間を食い始める第四段階と続く。
今目の前にいるのは状態から見て第二段階目といったところか。休眠段階真っ最中、動かないなら都合がいい。
この状態の呪面大木には遠距離からの砲撃、魔法攻撃の一切が効かない。魔力の膜が呪面大木を守っており、段階的に威力を落とされるからだ。だからこそ極至近距離の雷撃札が有用なんだな。二連で貰っていけ。
まともに攻撃を食らった呪面大木は、奇声を上げながら目を覚ます。二連も雷撃札を食らったんだから、穴の一つや二つ開いていてくれてもいいんだが、貫通しなかったか。どんな耐久力してんだ。
さて、今後の戦闘も考えると、魔力消費の激しい雷撃札はもう使えない。呪面大木はしっかりと俺を見据え殺気を振りまいている。もう逃げられないな。頑張ろう。
呪面大木の攻撃手段は枝や根を尖らせ急速に成長させることで槍のように使うものと、魔法攻撃だ。どれもこれも一撃必殺級のものばかり、絶対に当たることは許されない。
通常魔力感知の索敵がなければ躱すことの難しい根の攻撃は、雪のおかげで前兆が容易に把握できる。体温の低下による運動能力減少も、身体強化魔法に掛かればどうってことはない。
あとは奴の使う魔法攻撃に神経をとがらせる。人の使う初級魔法と同じ構築でも、魔力量が数百倍なら威力も数百倍に跳ね上がる。
同じ最難度でも歯車蜥蜴のような「本体よりも、本体の作り出す現状による被害が著しい」ものではなく、呪面大木のそれは「存在そのものの脅威が異様に高い」ことに起因している。豊富な魔力量、魔法運用、本体そのものの攻撃力の高さ、魔法耐性、全てにおいて国家を揺るがしかねないほどの力を有している。
「っはぁ!キツイ!」
何度かの攻撃の後、後ろに下がりながら悪態をつく。はっきり言って、この呪面大木は異常だ。今まで戦ってきた奴の比ではない。見た目は第二段階のくせに、もう既に第三段階から第四段階相当の攻撃密度、俺一人が受けきれるほどの攻撃密度をとっくに超えている。
戦っている場所の相性がここまで良くなければ序盤も序盤で死んでいただろう。泣き言を思考の隅へ追いやり、呪面大木の魔法をかいくぐり、至近距離に進み、衝撃札で雷撃札の作った穴を押し広げる。新作の火炎札は今のままでは使えない。生木は燃えにくいからな、ある程度細かくしなければ。
あまり至近距離で戦い続けると超至近から一斉攻撃を食らうからな、適宜離れて攻撃を誘発させる。
よし、今のところはこっちが優位だ、順調に側面が抉れてきている。早いとここのデカブツを切り倒して特大の焚火にしてやらないとな。
呪面大木の魔法を交わしながら前に進む。全くなんでったって木が炎の魔法使ってんだ。
「っと、おぉぉぉ!!?」
クソっ!炎のせいで雪崩がっ
だいぶ流されたが、まだ移動手段は失っていない。浮遊札と同時に衝撃札を展開、時間差で三枚。
呪面大木の魔力の壁による減速と加速を繰り返しながら、呪面大木の攻撃を紙一重ですり抜けていく。これで、切り倒す!
速度を載せて、発動させた切札をハンマーごと振り抜いた。ギギギ、と音を立てて倒れる呪面大木。まだ油断はできない、こいつの本体は根ではなく葉の部分、断面目掛けて火炎札を発動させ、跡形もなく焼き付くす!雷撃札以上の燃費の悪さだがその分威力は凶悪で、これほどまでに成長した呪面大木ですら、跡形もなく消し飛ばすことに成功した。
よし、よし!やったぞ俺!なんだやれるじゃないか!案外孤高の勇者としてや、れ……?
背中から腹にかけて衝撃、腹を見ると、槍のような触腕が貫いていて、ああ、クソ、油断した。耐久力の時点で不審に思うべきだった、魔力紋の範囲に対して見た目がいつも見ているものと同じであった時点で気が付くべきだった。
「あれで、枝の一本だっていうのかよ……」
地面の下からせり出してくる超巨大な呪面大木、頭の一部分がかけてはいるものの、本体は健在だった。本当に誤算だ。もう既に俺の手に負えるモンじゃなかった、こんな大きさの、クソっ、いてぇ、癒札、ダメだ魔力が持たん。せめて少しでも、俺が消耗させ
気が付いたら、俺の体は宙に舞っていた。前兆もクソもない、地面全体が吹き飛ぶかのように触腕が俺を襲い、まるで巨大なハンマーで打ち上げられたような衝撃が突き抜けて行った。とっさの身体強化魔法で身を守るが、焼け石に水か。骨が何本折れたか分からんが、生きているだけで奇跡だな。
ややあって、地面に落ちる。雪の上であったのが幸いだった。これ以上体を痛めることはない。
あー、死にたくない。マジで死にたくない。今から逃げれば何とか生き残れはするだろう、だけど、ここで俺が立ち上がらなくてどうする。信吾、キタさん、早上家のみんな、あと蛇子とか、遠山とか、それだけじゃあない、数百万の、下手したら数千万、数億の人間を勝手に背負って俺は来てんだ。勝手に始めたとしても、勝手に投げだすのは絶対にダメだ。
感覚のなくなった右腕に力を籠める。痛みもないのに血の噴き出るこの感じ、久々の感覚だな、最近死にかけることがなくて忘れてたぜ。
「っだぁぁぁぁぁ!!」
気合一発、立ち上がる。目もかすむ、足もふらつく、気が遠くなる、だからどうした。俺は知恵の勇者、考えろ、考えろ、アイツを倒す最善の
「だーかーらー、頼れって言ってんだよ馬鹿シモン!」
「そうですよ!全くなんで全部自分でしょい込もうとしているんですかね!」
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