異世界勇者のアフターライフ

あきょう

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異世界勇者、世界を見る

勇者、装備を確かめる。あと国に呼ばれる。

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 信吾に色々作ってもらってから一週間と少し。各自仕事に学業に精を出し、なんなら鎧の仕様書に一通り目を通している中、ついにその機会は訪れた。

「こんな真昼間から動けるのなんて、俺くらいのもんだろうな」

 火曜日の午前十一時。昼前にテレビで放映された映像。ここから数百キロ程度の港町。人間の往来こそ少ないものの、出てきた魔物は高難度。攻撃する魔法こそ行使しないものの、魔力が存分に練りこまれた装甲と、巨体で突進、蹂躙するその様。誰が呼んだか『岩石巨竜がんせききょりゅう』。こんなのが街中に入るとなったら一大事だ。

 俺は一応信吾とキタさんに魔物出現と行ってくるの連絡を済ませ、顔の部分だけいつものマスクを被り、身体強化魔法を使って走る。信吾曰く『スーツを着て飛べばマッハ7の速度で空を飛べます!』とのことだったが、まだ実証実験もしていない上にマッハがどれくらいの速度か全く想像つかなかったため今回は遠慮しておく。

 走り続けること30分。ついに岩石巨竜のもとへたどり着いた。こっちを認識するより前に腕時計に魔力を流すと、瞬時に鎧が俺を包んだ。ははぁなるほど、これはいい。鎧が俺の動きを補助しているな。これならばと剣柄を握りしめ、魔力を流して刀剣を出現させる。切札を発動後に腰を落とし、右手に力を入れて関節めがけて振り抜く。

 身体強化魔法を持った人間の剣は、基本的に力任せの剛剣となる。もちろん俺も例に漏れないが、こういった防御一辺倒の敵に対して俺の魔力量じゃあどうにもならないことがよく見られる。魔力だけでできた『切札』は、そういった力任せの一撃を支える鍵ではあるものの、単体使用に関してはそれほど向いていない。

 なぜなら岩石巨竜のように魔力が封入されている鎧には、全くの無力であるからだ。これは単純に魔力の性質が「魔力単体同士がぶつかる場合、密度の濃いものに薄いものは吸収されてしまう」というものがあるからで、そういった意味でも俺は刀剣が欲しかったのだ。なんてったって魔力がなくとも敵が切れる。打ち据えることも悪くはないのだが、どうしても自分になじんだ戦い方に頼りがちになってしまう。

 閑話休題、剛の剣で切札を振る場合、その芯となる素材が必要なのだ。降りぬかれた刀身は一瞬の間を置いて粉々に砕け散るが、その代わりと言わんばかりに岩石巨竜の右前足を根元から切断する。まさか自分が鱗ごと両断されることは想定していなかったであろう岩石巨竜が、苦痛の咆哮を上げる。すげぇなこの鎧、防音機能すらついているのか。最高だな。

 粉々になった刀身を射出し、新たに刀身を生成する。これはとてもいいものだ、前みたいにガラクタみたいな剣を買っては他面々に白い眼をされなくてもよくなった。俺の世界でも売っててくれりゃあよかったのに。

 今度の刀剣は魔力量を大目に作る。首ごと一気に切るには通常の刀身じゃあ足りないからな。岩石巨竜も死の圧を感じたのか、激しく体を動かして抵抗するが、そこはタリスガンで足止めする。衝撃札を複数枚発射。体の動きを制限し、こっちに頭を下げさせる。間合いに入った瞬間、首を思いっきりすっ飛ばした。

 想像以上、といったところだろうか。鎧に魔力を付与して身体能力を上げる、という発想自体はあった。しかし結局のところ、身体能力の向上については微々たるものであったので長らく敬遠されていた分野であった。しかし蓋を開けてみればこれだ。これだけの強化の数々、多少の欠点に目を瞑ってでも真剣に考える必要があるぞ。

「おい、知恵の勇者。ちょっと面貸せ」

 真剣に異世界での布教を考え始めた折に、聞いた声が後ろから聞こえた。

「どうした蛇子。あんまり長居はできないぞ」

「簡単に話す。オメェが着ているような鎧を俺らの組織でも完成させた。テメェの知見も聞きたい」

 ……なるほど?そうか、俺が作ったもんだと考えてんのか蛇子たちの組織は。ここで俺じゃないというのは簡単だが、早上家の面々を危険にさらすのもおかしな話。俺も鎧について説明はできる。ここで逃げるのも簡単だが、仮にも国の組織が率先して作った鎧。興味がないと言えばうそになる。

「…俺の正体は明かさないし、不審に思ったら逃げる。これくらいの無茶は通させてもらうぞ」

「やけに物分かりがいいな。よし、それでいい。それじゃあ一緒に来てもらおうか」

 そういう蛇子に誘われるまま、車の中に入り、コレから行く場所へ思いを馳せるのであった。……思いを馳せるは違うか?
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