私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

文字の大きさ
43 / 167

  懇願

しおりを挟む
 和睦がなり、長尾武田は互いに引き上げる。

「それでは・・・・・」
 息子の定勝を連れて宇佐美定満が、景虎に挨拶に来た。
「宇駿どの・・・・・待ってくれ」
 去ろうとする定満を、景虎が呼び止める。
「話がある」
「・・・・・そうですか」
 動きを止めて、定満は座り直す。
「みな、少し退ってくれ」
 本庄実乃や山吉豊守に、そう命じた。
「・・・・・」
 実乃は黙って、一礼して退がる。

 ふぅ、と一つ息を吐き、景虎は告げる。
「此度の事で分かった」
「・・・・・・・」
「拙者には、越後の国主には、宇駿殿が必要だ」
 黙って定満は、景虎の言葉を聞く。
 

 今回の和睦の事で、景虎は心の底からそう思った。
 本庄実乃は別に無能ではない。
 だが実乃が考えつくことは、景虎でも分かる事だ。
 
 武田と自分たちが争った時、武田と手を組んでいる今川も、自分たちの敵だと、景虎も実乃も考えてしまう。
 少なくとも、味方では無い。こちらに益する事をするわけが無い。
 そう考えてしまう。

 しかし本当はそうではない。
 世の中単純に、敵味方に分かれているわけではないのだ。
 それぞれに思惑があり、その思惑で動いている。
 手を結んでいるからと言って、その相手の利益になる事をするわけもで、相手もしてくれるわけでもない。
 己の思惑のためなら、手を結んでいる相手に害を与える事もある。

 そういう駆け引きが、景虎や実乃では出来ない。

 物事を自分たちの方からしか、見ないからだ。
 
 相手の立場から、或いはもっと高い位置から物事を見る。
 そう言うことが、景虎や実乃には出来ない。

 越後一国を治めるだけなら、それでも良いだろう。
 しかし他国との駆け引きとなれば、まして武田晴信や太原雪斎などの曲者とやり合うには、実乃では力不足・・・・いや、勝負すら出来ない。

 そういう事が出来る者は、越後に一人しかいない。
 
 宇佐美駿河守定満だけなのだ。



「拙者の側に居てくだされ」
 景虎は頭を下げる。
「お頼み申す」
「・・・・・・・」
 周りに誰もいない、景虎と定満だけだ。
 しばしの沈黙の後、
「お断りいたします」
 と定満は告げる。
 にべもなくと言う言葉の、見本の様な口調で定満は断った。

「拙者のためではござらぬ」
 顔を上げて、景虎は迫る。
「越後を守る為にござる」
 ふぅん、と定満が息を吐く。
「別にそれがしは、平三どのが嫌いだから断っておるわけでは無いですよ」
「では・・・・・」
 景虎は眉を寄せる。
「何故でござる?」
 うぅぅむっ、と顔を歪め、いつもの様に顎を撫でながら、定満は少し考えている様子だ。

「・・・・・」
 景虎は黙って、しばし待つ。
「分かりました」
「お受けいただけるので?」
「いや、そうはございませぬ」
 そう言って定満は手を振る。
「越後に戻ったらおりを見て、また使いを出します」
 定満は景虎の方を見て、不敵に微笑む。
「その時に、またお話ししましょう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助

蔵屋
歴史・時代
 わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。  何故、甲斐国なのか?  それは、日本を象徴する富士山があるからだ。     さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。  そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。  なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。  それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。  読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。  

影武者の天下盗り

井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」 百姓の男が“信長”を演じ続けた。 やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。 貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。 戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。 炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。 家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。 偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。 「俺が、信長だ」 虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。 時は戦国。 貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。 そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。 その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。 歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。 (このドラマは史実を基にしたフィクションです)

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...