私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  名酒 柳

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 では、と言って、神余親綱が手を叩く。
 河田岩鶴丸ともう一人の少年が、膳を運んできた。
「ささっ殿、先ずは一献」
 少年らを退がらせ、親綱が近づき酌をする。
 うむ、と頷き、景虎は酌を受ける。
 クッと呑む。上方の澄んだ酒だ。
 うまい、と景虎は思わず呟く。
 
 景虎はこの、柳と呼ばれる上方の酒に目がない。
 濁り酒ではなく透明な酒で、芳醇な香りする。
 口当たりもよく、幾らでも呑めた。
 かなり高価な物だが、親綱に命じ、越後に届けさせている。

「旨そうじゃな、鮎か」
 膳に乗るのは、鮎に筍、まさに旬の物だ。
 一口、鮎を食う。旨い。
 景虎は酒を呑む時、肴は要らない。塩だけで酒を呑む。
 金津新兵衛義旧がまだ元気だった頃、身体に悪いとよく怒られていた。
 しかしやめられない。

 酒に肴は要らないが、流石に京に上がり高価なものを出されているのだ。
 旨い、旨いと食べてしまう。

「ところで・・・・・」
 酔いが回り、景虎は上機嫌になる。
「時に隼人佑」
「はい」
 ニコニコと微笑み、景虎は言う。
「さきの岩鶴丸とか申す者、なかなか賢げな子じゃな」
「ええ、はい」
 酌をしながら、親綱が頷く。
「大徳寺の宗九さまの紹介で、雇い入れました」
 そうか、と景虎は応える。
 大徳寺の徹岫宗九には、景虎も以前上洛した時会っている。
 良い意味でも悪い意味でも大寺院の高僧で、貫禄と風格を持ち、そして程よく堕落している、清濁併せ持つ人物だ。

「機転が利き、よく働いてくれます」
「そうか、そうか」
 それで・・・・・と言って、クッと景虎は酒を呑む。
「わしに譲ってくれ」
 えっ・・・・・と言って、親綱が止まる。
「じゃから、わしに譲れを申しておるのじゃ」
「そ、それは・・・・・」
 親綱は困惑している。
「見どころがあるので、越後に連れて帰りたい」
 よいか?景虎が問うと、いや、その・・・・・と親綱は口籠る。
「その・・・・なかなか機転が利いて、働き者で・・・・・」
「分かっておる」
 景虎は少し不快になる。
「いえ、その・・・・役に立つ子でして・・・・・」
「だから越後に連れていくと言っておるのじゃ」
 歯切れの悪い親綱に、景虎は少しずつ苛立つ。
「あの・・・・・殿」
「なんじゃ?」
「その・・・・・・」
「さっさと申せ」
 親綱が酌をする。景虎が一気に飲み干す。
「衆道の相手でしたら、最も見目麗しいのを用意いたしますが・・・・・」
 がはっ、と景虎が酒を吐き出す。
「と、殿?」
「お、お前・・・・」
 ゴホゴホと咳き込む景虎に、親綱は近づこうとする。それを景虎は手で払う。
「今、何と申した?」
「いえ・・・・その・・・」
「衆道の相手だと」
「え、あ・・・・」
「この大馬鹿者が」
 景虎は大声で怒鳴る。


 
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