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性嫌い
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景虎は妻を娶っていない。
また側室を置かず、女人を近づけない。
だから周囲の者は、女子ではなく男の子が好きなのではないか、衆道を好んでいるのではないか、そう思っている。
しかしそれは全く違う。
景虎は女人が嫌いなのではない。
性が嫌いなのだ。
男女は関係ない。性というものの、いわば生々しさが嫌いなのだ。
その事を口にすれば、子供のような事を、と笑われる。
だが景虎は大人になっても、やはり嫌いであり我慢できないのである。
だから景虎は、性を感じるものを側に置かないし、妻も娶らず側室も置かない。
それを知らない者は、親綱のように、妻を娶らないのなら衆道か、女子ではなく、男の子が好きなのだろうと思われるのだ。
しかしこれに景虎は、全く納得できない。
女子が好きでないから、男の子が好きという考えは、景虎には理解できないし、理屈に合わない気がする。
景虎からすれば、衆道に走るのは、女子では色欲が満たされず、それで男の子にも走っているのだ。
色欲が強いから、性というものが大好きだから、女子だけでは飽き足らず、男の子にも手を出しているのだ。
そう考える。
現に景虎が嫌いな甲斐の武田信玄は、美姫を何人も側室に置いて置きながら、美童の小姓も多く愛でていると聞く。
景虎にすれば、それは信玄が色欲が強いからであり、女子だけでは満足しないからである。
だが周りの者はそう考えない。
初陣の時、栃尾の城で、城主である本庄実乃は、己の娘を、後の事を言えば、山吉豊守の嫁ぐことになる娘を、夜景虎の部屋に送ってきた。
御伽させて頂きます、と娘は言ったが、景虎は顔を顰めて、要らぬ、と追い返した。
数日後、どこから探してきたのか、それなりの美童を、実乃は部屋に送ってきた。
景虎は激怒し、金津新兵衛義旧を呼び、
「二度とこんなことをさせるな」
と命じた。
義旧が退いた後、実乃や豊守が側近くに仕えているが、彼らは女人も美童も景虎に近づけない。
彼らも景虎が性というものを嫌っているというのは分かっているようだが、色欲が強いから女人だけでなく男の子も愛でるのだ、という理屈は理解していないようだ。
当然、親綱はそんなこと分かるわけがない。
「主人にそのような事を言うとは、恥を知れ」
景虎が立ち上がり大声を上げたので、部屋の外に控えていた豊守と岩鶴丸が、襖を開ける。
「殿、如何いたしました?」
「何でもない」
そう言って景虎は、豊守を退がらせる。
ドカッとその場に、景虎は座る。
「おい、小次郎」
官位ではなく、名前で親綱の事を呼ぶ。
「はい」
慌てて親綱が返事をする。
「わしは今、どこにおる?」
「え?」
親綱は首を傾げる。
「どこにおる?」
「ここに・・・・・」
「ここはどこじゃ?」
「拙者の屋敷にございます」
「そうではない」
苛つきながら景虎が言う。
「わしは今、越後ではなく京におるだろう」
そう意味かと理解したらしく、あっ、はい、と親綱は答える。
「なぜおる?」
「それは・・・・・・公方さまに呼ばれて」
「それもあるが」
キッと景虎は親綱を睨む。
「お前が話があるからと言うので、来たのであろうが」
「いや、はぁ、そうですが・・・・・」
「お前はわしの家来であろう」
「勿論にございます」
「話があるなら、お前が越後にくれば良かろう」
「いや、それは、そうなのですが・・・・・」
微妙な笑みを親綱は浮かべる。
「拙者も色々忙しく・・・・・」
「お前はわしが、暇に見えるのか?」
「そ、そのような事は決して」
景虎の冷たい声に、親綱は慌てて首を振る。
「お前が忙しいのは、承知しておる」
少し声を落ち着けて、景虎は告げる。
ハハッ、ありがとうございます、と親綱は頭を下げる。
「であるから、上方の事も、青苧の商いの事も、お前の事も分かっている者を、わしの側に置こうとしたのじゃ、それをお前は・・・・・・」
「申し訳ございませぬ」
「それを、それを、衆道だと」
「失言でございました」
畳に額を擦り付けて、親綱が詫びる。
「二度と先程のようなことは、申しませぬ」
「当たり前じゃ」
景虎が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「岩鶴丸は連れて帰る」
「はい」
「良いな」
「勿論にございます」
顔を上げ青い顔をした親綱が、震えながら答える。
まったく、と呟き、景虎が酒を呑む。
慌てて近寄り、親綱が酌をする。
ふと景虎は思った。
親綱には上方で、青苧の商いを命じている。
その相手は商人だけでなく、座に許可を与える大寺院の高僧も多いだろう。
寺は女人禁制。その為、高僧が若い僧や稚児を可愛がる風習がある。
だから高僧には衆道を好む者も多いのだろう。
或いは親綱、そういう者との交渉の場に連れて行き、相手の機嫌を取るために、岩鶴丸を雇い入れたのかも知れない。
だから景虎が岩鶴丸を欲しがった時、景虎もそうなのだと単純に思ったのだろう。
そう考えたら、親綱も大変である。
機転が利き、才覚があると単純に思ったが、或いは親綱も足利義輝と同じで、嫌なこともやりたくない事も我慢しているのだ。
ささっ、と親綱が酌をする。
ふん、と息を吐き、景虎は大好きな酒をクッと呑む。
また側室を置かず、女人を近づけない。
だから周囲の者は、女子ではなく男の子が好きなのではないか、衆道を好んでいるのではないか、そう思っている。
しかしそれは全く違う。
景虎は女人が嫌いなのではない。
性が嫌いなのだ。
男女は関係ない。性というものの、いわば生々しさが嫌いなのだ。
その事を口にすれば、子供のような事を、と笑われる。
だが景虎は大人になっても、やはり嫌いであり我慢できないのである。
だから景虎は、性を感じるものを側に置かないし、妻も娶らず側室も置かない。
それを知らない者は、親綱のように、妻を娶らないのなら衆道か、女子ではなく、男の子が好きなのだろうと思われるのだ。
しかしこれに景虎は、全く納得できない。
女子が好きでないから、男の子が好きという考えは、景虎には理解できないし、理屈に合わない気がする。
景虎からすれば、衆道に走るのは、女子では色欲が満たされず、それで男の子にも走っているのだ。
色欲が強いから、性というものが大好きだから、女子だけでは飽き足らず、男の子にも手を出しているのだ。
そう考える。
現に景虎が嫌いな甲斐の武田信玄は、美姫を何人も側室に置いて置きながら、美童の小姓も多く愛でていると聞く。
景虎にすれば、それは信玄が色欲が強いからであり、女子だけでは満足しないからである。
だが周りの者はそう考えない。
初陣の時、栃尾の城で、城主である本庄実乃は、己の娘を、後の事を言えば、山吉豊守の嫁ぐことになる娘を、夜景虎の部屋に送ってきた。
御伽させて頂きます、と娘は言ったが、景虎は顔を顰めて、要らぬ、と追い返した。
数日後、どこから探してきたのか、それなりの美童を、実乃は部屋に送ってきた。
景虎は激怒し、金津新兵衛義旧を呼び、
「二度とこんなことをさせるな」
と命じた。
義旧が退いた後、実乃や豊守が側近くに仕えているが、彼らは女人も美童も景虎に近づけない。
彼らも景虎が性というものを嫌っているというのは分かっているようだが、色欲が強いから女人だけでなく男の子も愛でるのだ、という理屈は理解していないようだ。
当然、親綱はそんなこと分かるわけがない。
「主人にそのような事を言うとは、恥を知れ」
景虎が立ち上がり大声を上げたので、部屋の外に控えていた豊守と岩鶴丸が、襖を開ける。
「殿、如何いたしました?」
「何でもない」
そう言って景虎は、豊守を退がらせる。
ドカッとその場に、景虎は座る。
「おい、小次郎」
官位ではなく、名前で親綱の事を呼ぶ。
「はい」
慌てて親綱が返事をする。
「わしは今、どこにおる?」
「え?」
親綱は首を傾げる。
「どこにおる?」
「ここに・・・・・」
「ここはどこじゃ?」
「拙者の屋敷にございます」
「そうではない」
苛つきながら景虎が言う。
「わしは今、越後ではなく京におるだろう」
そう意味かと理解したらしく、あっ、はい、と親綱は答える。
「なぜおる?」
「それは・・・・・・公方さまに呼ばれて」
「それもあるが」
キッと景虎は親綱を睨む。
「お前が話があるからと言うので、来たのであろうが」
「いや、はぁ、そうですが・・・・・」
「お前はわしの家来であろう」
「勿論にございます」
「話があるなら、お前が越後にくれば良かろう」
「いや、それは、そうなのですが・・・・・」
微妙な笑みを親綱は浮かべる。
「拙者も色々忙しく・・・・・」
「お前はわしが、暇に見えるのか?」
「そ、そのような事は決して」
景虎の冷たい声に、親綱は慌てて首を振る。
「お前が忙しいのは、承知しておる」
少し声を落ち着けて、景虎は告げる。
ハハッ、ありがとうございます、と親綱は頭を下げる。
「であるから、上方の事も、青苧の商いの事も、お前の事も分かっている者を、わしの側に置こうとしたのじゃ、それをお前は・・・・・・」
「申し訳ございませぬ」
「それを、それを、衆道だと」
「失言でございました」
畳に額を擦り付けて、親綱が詫びる。
「二度と先程のようなことは、申しませぬ」
「当たり前じゃ」
景虎が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「岩鶴丸は連れて帰る」
「はい」
「良いな」
「勿論にございます」
顔を上げ青い顔をした親綱が、震えながら答える。
まったく、と呟き、景虎が酒を呑む。
慌てて近寄り、親綱が酌をする。
ふと景虎は思った。
親綱には上方で、青苧の商いを命じている。
その相手は商人だけでなく、座に許可を与える大寺院の高僧も多いだろう。
寺は女人禁制。その為、高僧が若い僧や稚児を可愛がる風習がある。
だから高僧には衆道を好む者も多いのだろう。
或いは親綱、そういう者との交渉の場に連れて行き、相手の機嫌を取るために、岩鶴丸を雇い入れたのかも知れない。
だから景虎が岩鶴丸を欲しがった時、景虎もそうなのだと単純に思ったのだろう。
そう考えたら、親綱も大変である。
機転が利き、才覚があると単純に思ったが、或いは親綱も足利義輝と同じで、嫌なこともやりたくない事も我慢しているのだ。
ささっ、と親綱が酌をする。
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