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刺殺
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本堂に行くと、使者は既にいた。
おそらく河田長親が、そう政虎が命じるだろうと読んで、先に控えさせていたのだろう。
「お味方大勝利、おめでとうございます」
使者は先ずそう言ったが、
「そんな事は良い、義兄上の件、どういうことだ?」
と政虎が問う。
はい、実は・・・・と使者が話を始める。
使者は直江兼豊という男だ。
色が白く小太りで、政景の上田長尾家に代々支える譜代の家老だ。
政景も見知っている。
「下平修理が、越前さまを・・・・・」
暗い顔で震えながら、兼豊は告げる。
二、三日寝ていないのだろう。目は真っ赤に腫れている。
「下平修理が?どういうことだ?」
政虎が更に問うと、はい、と言って兼豊は話を続ける。
「以前から、下平修理と上野中務どのは所領争いをしております」
うむ、と政虎は頷く。勿論、承知だ。
下平修理亮吉長と上野中務大輔家成は、長く所領争いを続けている。
吉長と家成はそれぞれ、大熊朝秀、本庄実乃を味方にして、訴えを起こした。
そして政虎の側近であった実乃の力により、家成が勝った。
負けた朝秀はその後、謀叛に走り、討伐されると、武田を頼って甲斐に逃げている。
吉長は朝秀の謀叛には加担せず、その後も越後に留まり、政虎に仕え続けた。
ただ政虎は吉長を重用はしなかった。
一つには土地争いに負けて、政虎に不満があるだろうからという事。
もう一つは、主君が多くの領地を認めれば、家臣はそれだけ多く働かなければならないからだ。
吉長と家成の争いで、家成の言い分を認め領地を増やした以上、その代わりに家成は、戦さの時に多くの兵を出さねばならない。
それが侍の決まりだ。
今回の戦さも、家成は出陣しているが、吉長が越後で留守番である。
「それで下平修理は、越前まさに上野中務どのとの所領争いの、助力を頼んできたのです」
なるほど、と政虎は頷く。
所領争いは一代では終わらない。何代も何十年何百年も続く話だ。
当事者同士もそうだが、裁定者も代わっていく。
その時の当主が下した裁定が、次の代の当主で変わると言うのは、よくある話だ。
それを考えれば、吉長が政景に近づいたのは当然だ。
政虎には子がいない。
もし万一の事があれば、跡を継ぐには義兄であり一門衆筆頭の政景である。
その事を政虎は明言していない。すれば政景が断固拒否して、出家しかねないからだ。
だが家中の者は皆、そうだろうと承知している。
その政景に吉長は近づき、なんとか後ろ盾になって貰おうとしたのだろう。
「しかし越前さまは断られまして・・・・・」
兼豊の言葉に、義兄上の性格ならそうだろうと、政虎は頷く。
吉長にすれば、政虎にもしもの事が遭って、政景が跡を継いだら、その時はお願いしますと言ったのだろう。
しかし政景にすれば、政虎にもしもの事があるなど口にすべきでもないし、まして亡くなっても自分は跡を継ぐ気はないと思っているはずだ。
「それでもしつこく修理は訪ねて来て・・・・」
「うむ」
「困った越前さまは、宇佐美駿河どの知恵を借りに・・・」
「うむ・・・・うん?」
全く予期していなかった名前を耳にして、政虎は思わず声を上げる。
「今、なんと申した?」
「・・・・・ですから宇佐美駿河どのに、お知恵を借りに・・・・」
「なぜ宇駿の名が出てくる?」
「・・・・いえ、ですから・・・・」
興奮して大きな声を上げる政虎に、兼豊は慌てる。
「お知恵を借りに・・・・・」
「ああ、あ、そ、そうか・・・・・」
ようやく兼豊の言葉の意味を理解して、政虎は落ち着く。
冷静に考えてみれば、納得は出来る。
直江景綱が居れば相談しただろうが、今回の戦さに連れて来た。
他にも多くの者を連れて来ている。
そうなれば越後一の知恵者と言われた宇佐美定満ぐらいしか、相談できる相手もいなかったのだろう。
更に言えばかつて政虎が出家騒動を起こした時も、定満に相談している。
政景が定満の元に行くのは、当然と言えば当然だ。
「それで駿河どのが、それならば修理を琵琶島に連れて来てくだされと・・・・・」
「それで・・・・・?」
「駿河どのが説き伏せておりますと、修理が逆上して・・・・」
「義兄上に、斬りかかったのか?」
はい、と兼豊が頷く。
「それに庇った駿河どのも・・・」
「えっ?」
政虎は戸惑う。
「今、なんと申した」
「ですから、越前さまを庇って駿河どのも斬られてしまいました」
「うっ、うっ」
激しく動揺し、すぐに言葉が出ない。
「宇駿はどうなった?」
「傷が深く、その日のうちに・・・・」
「死んだのか」
あの宇佐美定満が・・・・・。
目を見開いて、政虎は驚く。
全く意味が分からない。全く理解出来ない。
「どういう事だ?」
「ですから・・・・」
兼豊は説明を繰り返す。
しかし政虎の耳には入ってこない。
何度聴いても、理解出来ないのだ。
「・・・・・・・・」
「殿」
直江景綱に呼ばれて、政虎はハッとする。
話を終えて、兼豊がジッと見つめていた。
「分かった、退がってよい」
ハハッ、と答えて、兼豊が本堂を出ていく。
おそらく河田長親が、そう政虎が命じるだろうと読んで、先に控えさせていたのだろう。
「お味方大勝利、おめでとうございます」
使者は先ずそう言ったが、
「そんな事は良い、義兄上の件、どういうことだ?」
と政虎が問う。
はい、実は・・・・と使者が話を始める。
使者は直江兼豊という男だ。
色が白く小太りで、政景の上田長尾家に代々支える譜代の家老だ。
政景も見知っている。
「下平修理が、越前さまを・・・・・」
暗い顔で震えながら、兼豊は告げる。
二、三日寝ていないのだろう。目は真っ赤に腫れている。
「下平修理が?どういうことだ?」
政虎が更に問うと、はい、と言って兼豊は話を続ける。
「以前から、下平修理と上野中務どのは所領争いをしております」
うむ、と政虎は頷く。勿論、承知だ。
下平修理亮吉長と上野中務大輔家成は、長く所領争いを続けている。
吉長と家成はそれぞれ、大熊朝秀、本庄実乃を味方にして、訴えを起こした。
そして政虎の側近であった実乃の力により、家成が勝った。
負けた朝秀はその後、謀叛に走り、討伐されると、武田を頼って甲斐に逃げている。
吉長は朝秀の謀叛には加担せず、その後も越後に留まり、政虎に仕え続けた。
ただ政虎は吉長を重用はしなかった。
一つには土地争いに負けて、政虎に不満があるだろうからという事。
もう一つは、主君が多くの領地を認めれば、家臣はそれだけ多く働かなければならないからだ。
吉長と家成の争いで、家成の言い分を認め領地を増やした以上、その代わりに家成は、戦さの時に多くの兵を出さねばならない。
それが侍の決まりだ。
今回の戦さも、家成は出陣しているが、吉長が越後で留守番である。
「それで下平修理は、越前まさに上野中務どのとの所領争いの、助力を頼んできたのです」
なるほど、と政虎は頷く。
所領争いは一代では終わらない。何代も何十年何百年も続く話だ。
当事者同士もそうだが、裁定者も代わっていく。
その時の当主が下した裁定が、次の代の当主で変わると言うのは、よくある話だ。
それを考えれば、吉長が政景に近づいたのは当然だ。
政虎には子がいない。
もし万一の事があれば、跡を継ぐには義兄であり一門衆筆頭の政景である。
その事を政虎は明言していない。すれば政景が断固拒否して、出家しかねないからだ。
だが家中の者は皆、そうだろうと承知している。
その政景に吉長は近づき、なんとか後ろ盾になって貰おうとしたのだろう。
「しかし越前さまは断られまして・・・・・」
兼豊の言葉に、義兄上の性格ならそうだろうと、政虎は頷く。
吉長にすれば、政虎にもしもの事が遭って、政景が跡を継いだら、その時はお願いしますと言ったのだろう。
しかし政景にすれば、政虎にもしもの事があるなど口にすべきでもないし、まして亡くなっても自分は跡を継ぐ気はないと思っているはずだ。
「それでもしつこく修理は訪ねて来て・・・・」
「うむ」
「困った越前さまは、宇佐美駿河どの知恵を借りに・・・」
「うむ・・・・うん?」
全く予期していなかった名前を耳にして、政虎は思わず声を上げる。
「今、なんと申した?」
「・・・・・ですから宇佐美駿河どのに、お知恵を借りに・・・・」
「なぜ宇駿の名が出てくる?」
「・・・・いえ、ですから・・・・」
興奮して大きな声を上げる政虎に、兼豊は慌てる。
「お知恵を借りに・・・・・」
「ああ、あ、そ、そうか・・・・・」
ようやく兼豊の言葉の意味を理解して、政虎は落ち着く。
冷静に考えてみれば、納得は出来る。
直江景綱が居れば相談しただろうが、今回の戦さに連れて来た。
他にも多くの者を連れて来ている。
そうなれば越後一の知恵者と言われた宇佐美定満ぐらいしか、相談できる相手もいなかったのだろう。
更に言えばかつて政虎が出家騒動を起こした時も、定満に相談している。
政景が定満の元に行くのは、当然と言えば当然だ。
「それで駿河どのが、それならば修理を琵琶島に連れて来てくだされと・・・・・」
「それで・・・・・?」
「駿河どのが説き伏せておりますと、修理が逆上して・・・・」
「義兄上に、斬りかかったのか?」
はい、と兼豊が頷く。
「それに庇った駿河どのも・・・」
「えっ?」
政虎は戸惑う。
「今、なんと申した」
「ですから、越前さまを庇って駿河どのも斬られてしまいました」
「うっ、うっ」
激しく動揺し、すぐに言葉が出ない。
「宇駿はどうなった?」
「傷が深く、その日のうちに・・・・」
「死んだのか」
あの宇佐美定満が・・・・・。
目を見開いて、政虎は驚く。
全く意味が分からない。全く理解出来ない。
「どういう事だ?」
「ですから・・・・」
兼豊は説明を繰り返す。
しかし政虎の耳には入ってこない。
何度聴いても、理解出来ないのだ。
「・・・・・・・・」
「殿」
直江景綱に呼ばれて、政虎はハッとする。
話を終えて、兼豊がジッと見つめていた。
「分かった、退がってよい」
ハハッ、と答えて、兼豊が本堂を出ていく。
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