私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

文字の大きさ
138 / 167

  上手くいく同盟

しおりを挟む
 北条との同盟は上手くいっていないが、上手くいっている相手もいる。
 それも二人だ。

 かつて宇佐美定満が、なぜ信玄は越後を奪おうとしているのか、その理由を教えてくれた。
 それは越後を手に入れ北の海に出て、同じ武田の一族である若狭の武田家と、奥羽の南部家と結ぶというものである。
 考えたのは信玄でなく、今川の軍師太原雪斎であったらしいが、その策を聞いたとき輝虎は、なんと壮大な事を考える者がおるのだと、言葉を失った。

 同いようなことが出来ないか?

 そう思っていると、相手の方からやって来た。

 北の出羽国、土崎湊を支配している安東愛季が、通商を結びたいと使者を送って来たのである。

 船乗りたちの間に、三津七湊という言葉がある。日ノ本にある大きな港の事だ。
 土崎湊は直江津と並び、その一つに数えられている。
 雄物川の河口に位置し、蝦夷との交易も盛んなのだ。
 
 その土崎を取り仕切る安東愛季が、輝虎と手を結びたいと言って来たのだ。
 勿論輝虎に、嫌は無い。

 訪れた安東家の使者、南部季賢の話を聞くに、愛季はクーベラの才があるらしい。
 単純に商いに通じているというより、国を富ますには、商いが重要だと分かっている国主の様だ。

 輝虎が同盟を了承すると、季賢は上方に向かった。それからさして経たないうちに、その上方から神余親綱の使いがやって来る。
 足利公方義昭を奉じて上洛した織田信長が、手を組みたいと言って来ているというのだ。
 季賢が上洛したのも、上洛した義昭と信長に鷹を献上するためだ。 

 尾張の織田信長とは、義昭の兄、義輝の求めに応じて輝虎が上洛したとき、通商を求められた。その時からの関係である。
 しかし正式に手を結んだ訳では無く、あくまで輝虎の家臣として青苧の商いを仕切っている親綱と、村井貞勝なる信長の家臣との間のものだ。
 勿論、輝虎も信長も許可している事だが、それ以上の関係ではない。
 輝虎も季賢同様、鷹を献上しているが、あくまで義昭にである。
 それが向こうから、手を組みたいと言って来たのだ。

 分かった、と輝虎は信長の申し出を了承する。

 青苧を売るには、上方を抑えている者と手を組むしかない。
 そういう意味で、信長とは手を結ばざるを得ない。
 しかしその動きを見るに、信長もクーベラの才がある。
 商いというものが分かっているようだ。

 信長がこのまま上方を抑え続けることが出来るとは思わないが、それでも悪くない形になって来た。
 北条との同盟は上手くいかないが、このままこの両者と結び、銭を蓄え浪人衆の強くしていこう。
 とりあえずの輝虎の大計は、そんなところだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...