私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  綾と華

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 北条との同盟が全く上手くいかないまま、北条氏康が亡くなる。
 すると当然の様に、氏政は輝虎と手を切り、岳父である信玄と手を結ぶ。

「申し訳ございませぬ」
 人質として越後にいる北条三郎は、深く頭を下げた。
「この様な事になり・・・・どのようにお詫びすれば」
 顔を上げ憂いを帯びた黒い目で、じっと輝虎を見つめる。
「三郎・・・・・」
 輝虎は目を細めて問う。
「これからどうする?」
 はっ?と三郎は戸惑っている。

 どうするも何も無い。
 上杉と北条が手を切った以上人質である三郎は、小田原に戻されるか、越後で処刑されるか二つに一つである。
 そしてそれを決めるのは、自分では無く輝虎だと思ってるのだろう。

「お主のことじゃ」
 静かに輝虎は告げる。
「お主のことは、お主が決めい」
 輝虎の言葉に三郎は目を見開く。
「小田原に帰るも良し、越後に残るも良し、好きにせい」
「は・・・・はぁ」
 驚いて三郎は言葉も出ないらしい。
 ただ・・・・・・と輝虎は呟く。
「わしは残って貰いたい」
 えっ?と三郎は声を上げる。
「お主が小田原に戻ると、華や姉上が悲しむからな・・・・・・」

 三郎は輝虎の姪の華姫と結婚し、輝虎の養子となっている。


 初めこの養子の件を切り出すと、姉の綾は嫌な顔をした。
 三郎は北条からの人質。それも初めは氏政の息子をと言うことだったのに、代わりに送られてきた庶弟。
 兄の氏政は切り捨てるつもりで寄越して来たのだろうと、周囲も話している。
 
 綾にすればそんな相手に、大事な娘を嫁がせたくない。
 まして既に息子である喜平次景勝が、輝虎の跡を継ぐ事が決まっている。
 それなのに、婿をとって養子にするなど・・・・・・・。
「出来れば、考え直してもらえませぬか?」
 綾は直接輝虎に訴えに来た。
「一度、三郎に会ってみては如何ですか?」
 はぁ、と綾は困惑する。
「会って姉上が気に入らぬなら、やめにしましょう」
 本当ですか、と綾は笑顔を見せた。
 どんな相手であろうと、嫌だと言えば良いのだから、綾とすればそれがいい。

 しかし三郎に会うと、綾は目を見開き声を失っている。
 当然だろう。これほどの美形、関東どころか日ノ本中を探してもそうはいない。
「姉上・・・・・」
 三郎が退がった後、放心している綾に輝虎は問う。
「如何です?」
「そ、そうですねぇ」
 華は好いた相手でもいるのか、只々嫌なのか、結婚したく無いらしく、どんな相手であろうと断ってくれと、母親に言っているのだろう。
 だが三郎の美しさを見て、綾は戸惑っている。
「まぁ・・・・その・・・・なんですねぇ」
「気に入りませぬか?」
「そんなことはありませぬ」
 妙に力を入れて、綾が答える。

「どうしても気に入らぬと言うならわかりました」
 姉の顔を見て輝虎は、少し悪戯心が生まれる。
「義兄上への恩義もありますし、大事な華に無理強いは出来ませぬ」
「そ、そ、そうですか・・・・」
「しかし北条とは手を結びたい」
 腕を組んでもっともらしく輝虎は告げる。
「ここはどうでしょう、姉上の婿とするのは」
 へぇ?と妙な声を綾が上げる。
「一門の中で独り身の女人は、姉上ぐらいしか・・・・」
 そんな事は無いのだが、輝虎がそう言うと、
「いえ、私は、その、あの」
 と顔を真っ赤にして綾は、髪を掻き上げ、襟を整える。
「・・・・・・・」
 ジッとその綾の見て、ニッと輝虎は笑う。
 あっ、と綾が声を上げた。ようやく揶揄われている事に気が付いたのだ。
 へ、平三どの、と言って綾は輝虎の肩をポカポカ叩く。
 ハハハッと輝虎は笑う。

 その後、華にも三郎を引き合わせたが、あっさりと承諾し、二人は夫婦になった。
 三郎は輝虎の養子になり、かつての名である景虎を与え、上杉三郎景虎となったのである。

「・・・・ここに・・・・」
 上杉景虎は、声を絞り出す。
「越後にいさせてください」
「・・・・・・・そうか、分かった」
 輝虎は静か応じる。
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