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  豊さ

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 領内を見て回る。
 越後、そして直江津の港は、たいそうな賑わいを見せていた。
 人々が行き交い、物が溢れている。
 なぜこれほど豊かになったかと言えば、戦さが無いからだ。

 謙信が国主になって他国に攻め込んではいるが、越後が戦さ場になることは少なくなった。
 父の為景の頃は、守護の上杉房能と戦ったり、その兄である関東管領上杉顕定に攻め込まれたりと、越後は絶えず戦さ場であった。
 それが無くなったので、国が豊かになったのである。

 もう一つ、越後を豊かにしているものがある。人である。
 謙信が大量に人狩りをして、関東から連れて来た来た者たちだ。

 物事なんでもそうだが、人狩りにも作法がある。
 謙信が率いる越後の兵が、関東各地の集落を襲う。
 土地の農民は、当主と嫡子が逃げ隠れ、次男、三男が取り残される。
 その次男、三男を越後に連れて行く。
 彼らは青苧の商いの丁稚や、荷運びの人足などをする。

 人狩りに作法があるように、丁稚、人足にも作法がある。
 数年働き、銭を出して自由の身になるのだ。
 もしその作法がなければ、彼らは逃げ出してしまう。

 自由の身になった者の大半は越後に残る。
 なぜなら故郷に戻っても、耕す田畑が無いからだ。
 越後にいれば、何かしらの仕事がある。
 それで越後が豊かになっている。

 戦さが無くなった事と、人狩りで狩られた者たちで、越後は豊かになっているのだ。
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